Genpatsu

(2011年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 172号より)




気温が30度を超える日が続いている。オゾン層がいっそう薄くなったのか、陽光が突き刺さるようだ。長期予報では平年並みらしいがとても信じる気になれない。メディアも電気予報を流して熱く注目している。まだ余裕があると知ると使いたくなるのが人の常。複雑だ。

東京では7月から工場などの大口の需要家には15パーセントの節電が発令されている。夏休みをずらすとか、自宅での仕事を認めるとか、さまざまな対応策が話題となっている。自宅では集中できないと、職種を越えて、にわか共同事務所まで出現したという。どこにいても仕事ができるコンピュータのなせる技だ。

節電は東京だけの話ではない。現在、19基の原発が定期検査で止まっているが、検査が終わっても運転に入れない状況だ。こんな中で、電力消費が一気に増えると大規模な停電が起きるかもしれない。節電令は売上を落とすと、経済界が原発必要キャンペーンを執拗に繰り広げている。第2のフクシマの可能性より目先の電力確保が重要だというわけだ。

原発が運転に入れないのは、自治体が福島事故後の新たな基準で検査を行うべきと強く主張しているからだ。原子力安全委員会は新たな基準づくりを始めた。安全第一と思われたが、古川康佐賀県知事から、国が原発の安全を保証してくれるのなら、と再稼働を容認する発言が飛び出してきた。経済界の意向を受けた経済産業省が突破口を作ろうとしたのだが、九州電力が仕掛けた「やらせメール」事件が発覚。社長の辞任で 運転再開は遠のいた。

からみ合った状況の行方を心配していたら、新たな安全確認法が官邸から提案された。ヨーロッパで導入されているストレステストというもので、安全の余裕度を確認する。突然の提案に大騒ぎだが、再稼働よりも安全確認を優先する流れとなって一安心。さらに、関西電力は検査終盤の大飯原発1号機の運転を止めた。

19基の再稼働なしに夏を越える見通しとなったが、供給優先か安全優先か、まだまだ予断を許さない熱い戦いが続く。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)