Genpatsu

(2012年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第192号より)




5月5日に北海道にある泊原子力発電所3号機が定期検査に入り、日本中の原発がすべて止まった。多くの人たちが待ちわびていた時がきた。お祝いをした人たちも多いと聞く。枝野幸男経済産業大臣はすべての原発が「一瞬止まる」ことがあると言ったが、人々の願いは「このままずっと止まっていてほしい」である。

そんな中で、いま運転再開をめぐって熱いやり取りが続いているのが、福井県にある大飯原子力発電所の2基だ。

毎日新聞の報道によれば(5月9日付)、原子力委員会の新大綱策定会議では原発と地域の共生をテーマに議論する計画だったが、経済産業省や電気事業連合会から、「今テーマに取り上げる運転再開の地元同意は、福井県だけでなく滋賀県や京都府、大阪府などからも得るべきとの意見が、経済学者の金子勝氏や伴英幸氏(筆者)らから出てくるだろう」との意見が出されて、議論を先送りしたという。近藤駿介原子力委員会委員長はこれを否定している。報道は妙にリアルで、ありそうなことだと思う。会合は枝野大臣が地元へお願いに行く日に開かれていたからだ。こざかしいやり方に原子力への不信はいっそう深まった。

5月2日、経済産業省の前で瀬戸内寂聴さんや澤地久枝さん、鎌田慧さんらが日没までハンガーストライキに参加した。瀬戸内さんは「90年生きてきて今ほど悪い日本はない」「何を考えているのか」と再稼働の動きを一喝した。福井県に隣接する滋賀県、京都府も再開には反対だ。加えて橋下大阪市長もきわめて強い姿勢で反対の声をあげている。

一方、14日地元おおい町議会は運転再開を受け入れることを決めた。その理由は地元の経済問題だ。地域経済を原発に頼っている悲しい現実といえる。それが目を曇らせて、このまま運転に入っていけば福島原発事故を超える事故が起こるかもしれないとの認識を薄くしている。

関西電力は再開を強く望んで、あの手この手で再開の必要性を訴えているのだ。猛暑の夏がくれば、節電努力をしてもなお14・9パーセントも不足すると、報告書をまとめた。政府もこの報告書を妥当と認めた。だが数日後には、他の電力会社から融通してもらえば足りるとの試算結果も公表した。どうやら猛暑でも、節電努力と他社からの融通などで大丈夫そうだ。







伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)