服を用いたコミュニケーション。アートの視点から社会にインパクト



誰もが身につけている衣服に着目。
装いから一部を引き出して、編集して、創造する。
その作業から生まれる新しいコミュニケーションとは?






Profiel

現代美術家 西尾美也さん





衣服を交換したり、分解したり。誰もが共有できる「ヘンテコ」目指して



ある時は、通りすがりの人に「今着ている服を交換しませんか」と突然に声をかけ、互いの服装をチェンジする。ある時は、とある団体のスタッフに「家にあるオレンジ色をした布を持ってきてください」と呼びかけ、それぞれにその布を取り入れた服を着てもらう。すると、形はさまざまでもどこか連帯感のある「制服」の出来上がり。そんな、衣服を媒介にしたコミュニケーションを展開しているのが現代美術家の西尾美也さんだ。

「服というのは、誰もが身につけているもの。その装いのあり方を組み替えることで、新しいコミュニケーションをつくり出したいというのが僕の活動のテーマです」




服装に興味をもち始めたのは小学生の頃だった。

「バスケットをやっていて、マイケル・ジョーダン選手が大好きだったんです。その思いを表現するためにマイケル・ジョーダンのTシャツやユニフォームふうの服ばかり着ていました。そして、そんなふうに衣服で自己主張することは、自分の自信にもなっていたんです」




進学した中学校も制服ではなく私服。「ヘンテコな格好ばかりしてました(笑)」と振り返る。下駄を作って履いたり、スカートをはいたり、髪の毛もいろいろとアレンジしてみたりと、装いで人を驚かすことを毎日考えていたそうだ。しかし、高校生になる頃にはまた違う感覚に襲われた。

「ヘンテコな格好で主張し続けていると、確かにある種のコミュニケーションが生まれるのですが、『こういう服装の人はこういう人だ』と見た目でまず分類されてしまうことに気づいたんです。主張すれば主張するほどに壁をつくり、逆に閉じているような状態になってしまう。そこに矛盾を感じ始めてしまって……」




将来的にはファッションデザイナーという道も考えていたが、やりたいのは服単体のデザインではなく、服を用いたコミュニケーションだと気づき、進路を美大に変更した。

「受験する際、創作活動の資料提出が課題にあったので、衣服を題材にしたワークショップを開きました。そこでは、参加者にパーツ分解できる服を身につけてもらい、知らない人同士が言葉を交わしながらそのパーツを交換し合うんです。服はどんどん形を変えていき、たとえば襟が袖になったり単なる装飾になったりでゴチャゴチャになる。でも、誰の服も同じようにゴチャゴチャだから、〝壁〟としてのヘンテコな服ではなく、ヘンテコな服なんだけど共有できる感覚が生まれる。今やっていることも、基本的にはこのコンセプトを発展させたものばかりです」




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「(un)Uniform」 Photo: 齋藤剛




ナイロビで共同作業 持ち寄られた古着が「機関車」に







現在、活動場所をケニアのナイロビにも広げている。

「ケニアには美術館に行く習慣もないし、現代美術というものも認識されていない。人々は生きることや日々の生活に精一杯という状態なんですね。僕はコミュニケーションの創造をテーマにしているので、ここで受け入れられないのなら、欧米や日本でいくらアート活動をしても意味がないと感じます。そんな中で活動すること自体が、僕にとってのワークショップかもしれませんね」





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「Overall: Steam Locomotive」 Photo: 千葉康由




ナイロビでは市民に古着を持参してもらい、その布を立体的にパッチワークして機関車を制作。総勢約100人の市民が参加し、それぞれの生活の中から取り出された布が、ひとつの作品となった。

「仕掛けている僕自身にも本当に実現できるかどうかわからない中で、想像以上の作品ができました。過程を含めたこの体験自体が衝撃だったし、多くの人と一緒にやり遂げたという達成感がありました。必ずしも生活用品が豊富ではない中で、多くのナイロビ市民が自分の服を家から持ってきてくれたんです」




突飛な何かを投げかけたり使ったりするのではなく、すでに持っているものを引き出して編集を加え、創作する。西尾さんのプロジェクトはすべてそうだ。9月には再びナイロビへ行く。今度は2年間という長期滞在の予定だ。

「プランはまだ明確じゃなくて、現地でゆっくり過ごしながら考えるつもり。次はお祭り的なプロジェクトではなく、持続可能なかたちでアートと人々を結びつける何かに取り組んでみたい。雇用の問題、仕事のあり方なども含め、ソーシャルデザインの具体的な方法を模索しながら。援助や支援という発想とはまた違うアートという視点から、今の社会にインパクトを与えることができればいいなと考えています」

(松岡理絵)
Photo:中西真誠




にしお・よしなり
1982年、奈良県生まれ。現代美術家。「西尾工作所」代表。東京芸術大学大学院博士後期課程修了。装いとコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開。09年には西尾工作所ナイロビ支部を設け、アフリカでのアートプロジェクトに着手している。グループ展、個展開催も多数。
http://yoshinarinishio.net/