(2012年9月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第199号より)

 

政治に被災地のリアリティを。アート作品、南相馬市の「政治家の家」


政治家の家1

 

福島県南相馬市原町区郊外の空き地に、一人のアーティストの作品「政治家の家」が設置された。「仮設住宅」を模したような4畳半程度の小屋の外側正面に取りつけられた巨大看板「政治家の家」が目印。

制作したのは、第4回岡本太郎記念現代芸術大賞(TARO賞)優秀賞なども受賞したアーティスト開発好明さん。福島第一原発2号機の水素爆発から丸1年後の、今年3月15日に完成した。

 

開発さんは震災後、福島県を何度も訪れている。初めて車で南相馬市へ向かう途中、全村避難した飯舘村を通った際に、ゴーストタウンの風景に強く衝撃を受けた。

「ニュースで見てはいたが、ショックだった。頭で考え、想像するだけではわからない現実があった」と開発さん。その後も除染作業を見たり、仮設住宅で暮らす人々と会った。福島で何が起きているのか。芸術に何ができるのか、深く考えた。

 

「部屋が10室もある家に住んでいた人が、今は狭いプレハブの仮設住宅で暮らす。仮設住宅は外観とは違い、中はずっと狭い。そのアンバランスさに驚いた」。

被災地の現状も仮設住宅と同じ。外から見るのと、中で見るのでは相当違う。今、一番必要なのは被災地のリアリティ、特にそれが必要なのは政治家ではないか。

そうして誕生したのが「政治家の家」だ。

 

開発さんは言う。「私は原発に対してニュートラルな立場だが、今、モノづくりやアートに何ができるのか考えた。それは新しい可能性、みんながさまざまなやり方を提起し、何かを考え始めるきっかけを生み出すことではないかと思った」

 

開発さんの思いに福島県内の友人が賛同、土地を提供し「政治家の家」が完成した。家には窓が一つ、爆発した福島第一原発の方角に向いている。

内部には大人用と子ども用の椅子が1脚ずつ、同じ向きで窓に向いて並ぶ。この家は誰でも外から見られるが、中に入れるのは政治家だけ。毎月15日に一般公開している。国会議員全員に招待状を出したが、中に入った国会議員はまだいないという。

現在、「政治家の家」は移転が検討されており、交流会は8月15日で一区切り。この日は開発さんや友人らが地元福島、都内など各地から駆けつけ、風船に願いごとを書いて空に放った。

 

(文と写真 藍原寛子)