(2008年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第92号より)






La Calle Portada Noviembre




伝説のスラムから誕生 ストリートマガジン『La Calle』


 
首都ボゴタの一角に位置するエル・カルトゥーチョ(火薬庫の意)は、コロンビアで最も伝説的なスラム街だった。以前はスペイン風の家々が建ち並ぶ裕福な地域であったが、60年代以降、ボゴタの富裕層が市北部へと移り住み、家主たちは定期的な借家人を見つけることができなかった。

家主たちに残った最後の手段は、地元を牛耳る者たちに家を貸すことだった。彼らはこれらの家々を薬物の取り引き場とし、何千人ものホームレス状態の人々、売春婦、犯罪者がこの地域へやって来た。次第にこの地域独自のルールができ上がり、隠語が生まれた。「ガソリンなしで180で行く」というのは、薬はほしいが買う金がないことを意味する。

大統領官邸や市長官邸、最高裁判所などの主要な公共の建物は、ほんの5ブロック先にあった。この近さは、喜劇的であったが、時には悲劇的だった。02年の大統領就任式では、ゲリラが無警察状態のエル・カルトゥーチョを拠点として迫撃砲で攻撃し、居合わせた12人が死亡した。




98年から00年まで市長を務めたエンリケ・ペニャローサは、この地域を「政府の無能さと混沌の象徴」と呼び、彼と後任の市長らは、エル・カルトゥーチョを「公共に役立てるために再生させる」と宣言。03年に最後に残った住宅が取り壊されたとき、ある市会議員は「40年におよぶ恥」が終焉したと歓迎した。




そして建物は姿を消したが、それらの建物が象徴していたこの地域の社会からの隔絶は、それ以降も続いている。エル・カルトゥーチョの元住人たちは公のプログラムには見向きもせず、路上に住む。ある者は富裕層が数年前に移り住んだ市北部へ移動した。そこではレストランで残り物がもらえるからだ。

昨年11月、ボゴタでコロンビア版ビッグイシュー『La Calle』(ストリートの意)が販売を開始した。人々に声をかけ、同じ社会の一員として、お互いを避けあうようなことはやめようと呼びかけている。

そうでなければ、疎外されている住人たちは、また新しいスラム街に集まって住み続けるだろう。そして、かつてエル・カルトゥーチョがそうであったように、新しくできたスラム街も取り壊され、悪性腫瘍のように別の場所に転移することだろう。





(Henry Mance / Reprinted from The Big Issue In The North / Street News Service : www.street-papers.org)