(2012年11月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第203号より)





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(福島市飯坂町平野の仮設住宅敷地内で演奏する山木屋太鼓のチーム「山猿」(10月22日))





被災地に響く、川俣町の「山木屋太鼓」




被災地の心の響きを共感したい---。東日本大震災に伴う原発事故と放射能の影響で、2011年4月から計画的避難区域に指定された福島県川俣町山木屋地区。同地区の若者や子どもたちを中心にした「山木屋太鼓」が活動を再開、福島県内外で被災者を力づけている。




山木屋太鼓は、高齢化が進む同地区で、地元の人とのつながりを築くことで若者の流出を減らそうと01年に結成。大学生と社会人の「山猿」、高校生と社会人の「朱雀」、そして子どもたちの「鼓狐」「鼓魂」の4チームで活動してきた。しかし、原発事故に伴い、住民が各地に避難。

震災前は約40人いたメンバーも、昨年5月に太鼓を地域外に持ち出してから、最初の練習の日に集まったのはたった2人だった。

ところが、県内外に避難した地域の人や山木屋太鼓のファンから、「山木屋太鼓を聴くと元気になる。また演奏して」「イベントで演奏に来て」などの依頼が寄せられた。

そこで昨年7月以降、練習を再開。現在は仮設住宅での激励演奏や、地域の祭り、音楽祭やパレードへの参加など、力強い太鼓で被災者を元気づけている。




各チームにも震災後、新たな動きが生まれた。チーム「山猿」は山木屋地区の自然をテーマにした従来の曲に加え、震災から学んだ人と人とのつながりをテーマにした新曲「助達」、「灯」を完成させた。

子どもたちも人数が減ってしまったが、「鼓狐」「鼓魂」を合同チーム「鼓龍」に再編成し、活動を再開した。

10月22日の夕方、福島市飯坂町平野の応急仮設住宅で「山猿」の演奏が行われた。力強い太鼓の音に、避難生活を送る住民から大きな拍手がわいた。

双葉町から避難している女性は「双葉町にも地元の太鼓があり、毎年演奏を聴いていた。やっぱり太鼓の音は元気が出ますね」。




事務局の遠藤恵美さんは、「避難して練習に参加できなくなったメンバーが、イベントで演奏する時に観客として駆けつけてくれるのが何よりうれしい。今後も活動を続け、一人でも多くの人を元気づけていきたい」と話している。

震災と原発事故で中断された交流や地域文化の継承のため、今後も力強い演奏を続ける方針だ。
 (文と写真 藍原寛子)