前編を読む




また、これまで日本が推し進めてきた住宅政策は、政官財の鉄のトライアングルが生んだ持ち家取得を促進する政策だった。最近、政府は前代未聞の大規模な住宅ローン減税を実施し、住宅関連贈与税の非課税枠も広げた。

「しかし、住宅取得支援のために政府が用意した09年の補正予算のうち、利用されたのは現時点でわずか4割です。オイルショック以降、景気対策として持ち家支援策が何度も打ち出され、それにより住宅着工量は増加してきたけれど、今回はついに反応しなくなった。家を購入できる人が減ってきているんです」

つまり、持ち家政策は破綻したわけである。




自由と多様性は社会的につくられる



また、日本の公営住宅は絶対数が少なく、住宅困窮者に住まいを十分に供給できていない。しかも、公営住宅をめぐる議論は限られた戸数の中で誰を優先して入居させるかということに終始し、数そのものを増やすという発想では語られない。

若年単身者は公営住宅入居資格すらないというのは、先進国の中では日本ぐらい。公営住宅を増やし、なおかつ若い単身者にも入居資格を与えるということが必要ですね。また、国の家賃補助政策がないのも先進国で日本だけです。住宅政策は国土交通省が所管し、社会政策ではなく建設政策とされてきたため、援助の対象となったのは建物を建てることだけでした」





平山さんは言う。「持ち家支援ではなく、家賃補助を」と。

それが実現されれば、生活が完全に崩壊して生活保護を受給する前に、職探しがスムーズになり生活がもち直すかもしれない。当人にとってもよいことだし、社会全体としてのコストも下がる。また、家が借りやすくなることで、大都市の住宅コストの高さが障壁となって若者から「移動の自由」を奪っている事態も回避できる。

「住まいを確保するための最初の取っかかりは非常に重要で、その時期だけでなくその後の生き方やライフコースにも影響を及ぼします」

日本では会社が家賃補助を担う伝統があるため、行政が家賃補助を出さなくてもよいだろうと考える風潮がある。しかし、大企業と中小企業では家賃補助に差があり、ましてや非正規で働く人は家賃補助など望むこともできない。




さらに、05年の30~34歳男性の未婚率は47パーセントとなり、90年生まれの結婚経験女性の36パーセントは50歳までに離婚を経験すると予想されるなど、シングルの人が急増している。また02年の時点で25~34歳の非正規で働く人は2割を超えた。

「ライフコースは多様化しているのに、政府が想定しているのはたった1本の線のみ。今後は、ライフコースの複線化に対応する必要がある。機会の平等がいわれだしてから、競争の結果の不平等は受け入れろという風潮になりました。しかし、生まれる地域や親の所得でスタートラインは大きく異なり、機会の完全な平等なんてありえません。だから、ある程度の結果の平等は、社会的に保障しないといけないと思いますね」




今や、空き家は全国で756万戸、3大都市圏でも363万戸ある(08.10.1 住宅・土地統計)。

「家賃補助のように住宅困窮者に直接届く政策の方が効果がある。民間の賃貸住宅にも409万戸、2割近い空き家があります。家賃補助が出て住まいが借りやすくなれば空き家も埋まる。非常に合理的です

今の若者は、生まれた時の生活水準は世界史的に見ても最高水準にあるという。しかし、先行きが見えないために描く将来像は保守的になりがちだ。

「学校を出たら会社に入って安定したいという学生の声を聞くと、複雑な思いがします。若い人がもっと自由に夢を追える社会になるべきだし、さまざまなライフコースを試せる社会じゃないとおもしろくないですよね。自由と多様性は放っておけば生まれるものではなく、社会的につくらないといけないもの。若い時の最初の住まいが保障されれば、安心できて、いろんなことに挑戦する人が増え、もっといきいきした、居心地のよい社会になると思います。住宅は生活の基盤であると同時に、社会のあり方を変えるという重要な役割をひそかに果たすものなのです。社会的に政策の転換を考えなければならない時期にきていると思います」




(松岡理絵)
Photo:中西真誠

ひらやま・ようすけ 
1958年生まれ。神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。専門は住宅問題、都市計画。著書に『東京の果てに』(NTT出版)、『不完全都市 神戸・ニューヨーク・ベルリン』(学芸出版社)、『住宅政策のどこが問題か|〈持家社会〉の次を展望する』(光文社)、『若者たちに「住まい」を!』(共著/日本住宅会議編/岩波ブックレット)など。