Genpatsu


(2013年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 224号より)





汚染水はブロック? 不都合な情報を隠せる 「秘密保全法」



「状況は完全にコントロールされている」「汚染水による影響は港湾内で完全にブロックされている」「健康問題は現在も将来も問題ない」。

オリンピック招致委員会での安倍首相の大見得に唖然としたのは筆者だけではないはずだ。放射能の海への流出を止められないでいるのが現状だ。付近の漁業は成立していない。福島の子どもたちの間に甲状腺がんが増えている。オリンピックが開催されるまでに事態が収まっているとはとても考えられない。

福島原発事故に関連するさまざまな情報が十分に公開されているとはとても言えない。汚染水に含まれている放射能の種類と量で公開されているのはほんの一部だけだ。中でも東電が海へ流したいと考えているトリチウムの量が出されていない。都合の悪いデータを隠しているとしか考えられない。汚染水の海への流出もある程度わかっていながら2年余り放置してきた

安倍首相の発言を否定して事実を公表すれば、処罰されるかもしれない事態が進行している。特定秘密保護法(秘密保全法)案が秋の臨時国会にも提出されようとしているからだ。

パブリックコメントにかかっている法案概要によれば、特定秘密として指定する事項は・防衛、・外交、・スパイ活動、・テロ活動防止などで、行政機関の長が指定する。公務員がこれらの情報を漏らした場合には懲役10年以下、国との契約で秘密情報を得た者の罰則は5年以下といずれも重罰が課せられる。原子力の場合にはすべての分野に関連してくる。

拡大解釈を禁止すると謳ってはいるが、明文化に言及しておらず効果は疑問だ。たとえば、情報公開法では商業機密や核物質防護に関係する情報は公開対象となっていないが、これを理由に、さほど機密でもない情報が非公開となる。処罰を恐れて担当者が拡大解釈することもある。

法案が成立したとすれば、情報はいっそう隠蔽され、内部告発者が保護されるどころか罰せられることになるだろう。政府や電力会社が法を盾に、都合の悪い情報を秘密にする事例がいっそう増えるだろう。さらに、情報を入手しようとする私たち一般人も罰せられる恐れがでてくる。鉛のような時代を再来させてはならない。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)