(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)





ゲーム感覚、オシャレ、カッコよさ…。ミッションの素晴らしさだけではないアメリカの社会的企業



日本の若手ソーシャルベンチャーの育成に取り組む、井上英之さん(慶應義塾大学総合政策専任講師)が紹介する、アメリカの注目すべき社会的企業。





途上国の小さなビジネスに、先進国の個人が融資



Kiva2007




「あっ、すごい! すごい!」

ノートパソコンの画面を見ていた井上さんが声を上げる。

「このニューヨークのジュアンさんは、今までに貸したお金が91%も返ってきてますね。アゼルバイジャン、メキシコ、エクアドル…。お金の貸し方をみると、どうも彼女はアゼルバイジャンに思い入れがあるみたいですね」

そう言って井上さんが夢中でページをめくるのは、途上国の小さなビジネスにオンライン上で小口融資(マイクロファイナンス)する「Kiva」(サンフランシスコ)。井上さんが今、最も注目している社会的企業の一つだ。




Kivaのホームページには、お金を借りたい途上国の人たちの顔写真やローン希望額がズラリと並ぶ。これまでに目標資金の何%が集まっているかも、メーター表示で一目瞭然。お金を借りたい人のほとんどが途上国の屋台など小さなビジネスだが、ジュアンさんのようにお金を貸したい人は、この異国情緒溢れる写真を見ながら気になる人をクリックする。すると、その人の家族構成や生い立ち、さらには今どのようなビジネスをし、借りた資金で何がしたいのかなどのライフストーリーを読むことができるため、それらの情報をもとにお金を貸す人を決めていくのだ。

貸与額は最低25ドルから。「JO-URNAL(日記)」というページには、借り手がそのお金でどんなビジネスをしたのか近況報告も書かれており、それを国籍も年齢もまったくバラバラの複数の貸し手たちが画面上でコミュニティを形成し、コミュニケーションしながら見守る、という仕組みだ。




「バングラデシュの貧困者に無担保・低金利で融資するマイクロファイナンスでノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行。その手法を採用する各国の金融機関と連携し、ネット上で借りたい人と融資したい人を1対1で直接つないでいる。貸す方にすれば1回の外食分程度の額だから、いろんな人に分散投資している人も多く、融資というよりもゲーム感覚。サイトもミクシィなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のようなコミュニティ感覚で、おもしろがりながら遠い国の誰かの小さなビジネスを応援できる。先進国と途上国の貧富の格差をうまく利用した社会的企業です」と井上さん。

どこの誰に使われているのかがわからない街角の寄付募金などに比べ、目の前の困っている人を直接応援することができ、中間組織のコストに使われる心配もない「透明性」が多くの人の支持を得ている、という。




これまでに世界約4万人が途上国の約5千人に総額330万ドルを貸付け、返済期間は平均1年、滞納率10%、返済率は実に100%近くをキープしているといわれる。

同じような仕組みは、ほかにもある。「プロスパードットコム」の場合は、途上国支援ではなく、「離婚の訴訟費用がほしい」など先進国の日常的な借り手のニーズも書き込まれ、金融機関を介さずにお金を借りたい人と貸したい人を直接結んでいる。

「いずれの場合も、安い利率で預金を集め、本当に借りたい個人には高い利子をつけて貸さない従来の銀行を飛ばして、借りたい・貸したい個人をつないでしまう、という発想がある。社会や世界のために何か自分ができることで貢献したいと個人が考えた時、身体と時間を使って奉仕するボランティアは大変だけど、小額のお金なら労力がいらない。こんなお金の使い方は、自分が支援したい応援したい社会に継続的に加担することができる民主的な最も身近な投票行為なんです」と井上さんは説明する。




後編へ続く


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(2012年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第194号より)





Sekaitanshin logo2012





フランス、パリテから10余年、新閣僚の半数が女性



5月に就任したオランド大統領は、“公約”どおり、男女同数閣僚による新内閣を発足させた。

34閣僚のうち半数の17人を女性が占める。今回創設された女性権利省の大臣には、モロッコ生まれのヴァロー=ベルカセムさんが任命された。貧しい家庭で育ち、親とフランスに移住した経歴をもつという。彼女は最年少(34歳)ながら、政府報道官も兼任する。

大統領選挙直後に民間の世論調査会社が発表した結果では、79%のフランス人が「男女同数が望ましい」と回答し、新内閣にもおおむね好意的のよう。女性団体は、「前回の社会党政権では何も変化しなかった」と警戒しつつも、期待を寄せている。

ただ、楽観視してばかりもいられない。6月の総選挙では、女性候補者数がさほど増えなかった。フランスでは2000年の憲法改正で、選挙での政党の候補者を男女同数にする「パリテ(平等)」が成立した。しかし、最近の女性議員数は、上院で23.5%(11年)、下院で18.9%(07年)と、EU27ヵ国中18位の低さだった。今年6月の下院選で女性議員は26.7%に増えたが、同数にはほど遠い。

閣僚の男女同数で、不名誉の撤回に打って出たフランス。女性の活躍で政治や社会がどう変わるのか、楽しみだ。

(木村嘉代子)


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94人生相談




断り下手で、悩んでいます。



自分の性格のことで悩んでいます。学生の時から断り下手で、会社での飲み会の誘いや押しつけられた仕事をうまく断ることができません。結局自分の時間や容量をオーバーしてしまい、いつもいっぱいいっぱいで、もがいています。「これを断るともう次には誘ってもらえないのでは?」と思い、言いわけも考えつかず、いつもイエスと答えて引き受けてしまいます。どうすればうまく断れるようになれますか?
(26歳/会社員/男性)






こういう経験あるわあ。私もお人好しって言われるけど、あなたもかなりのお人好しやね。上司や同僚が持っている仕事を押しつけてくる? それはあなたに甘えているということやろう。きっと人が良すぎて頼みやすいねん。

でも自分が苦痛になるのであれば、ここは思い切ってキッパリと断ったほうがいいですわ。これだけ悩んでいるわけやし、このままでは自分がクタクタになった上にパンクしてしまうからな。

私はビッグイシューをやる前、仕事場で人に頼まれ事をされてもなるべく自分のできる範囲内でやっていたわ。寝る時間を削ってなんてことは、絶対にしなかったなあ。

「次に誘ってもらえなかったら」っていう駆け引きみたいな考え方もなるべくしないようにした。飲み会は「身体の調子が悪いから」とか、「胃が痛い」とか、全部、身体のせいにしてしまうのがいいねん。そうするとそれ以上とやかく言う人はまずいないから。

まあ、つき合いや立場もあるだろうから全部が全部断らずに、10の誘いや依頼があったら「3くらいを引き受けて7くらい断る」がいいんちゃうかな? 

もしそうやって断ったくらいで相手が態度を変えるようでは、上司にしたって信頼していける人かどうか怪しいもんやと思うで。その時は逆に断って正解やったと、思ったらいいって。もっと自分自身に重点をおいて判断できたら、だいぶ楽になると思うな。

まあそんなことを言っておいて、私自身はこの人生相談の回答の依頼をよう断らんのやけど。ホームレス人生相談コーナーの記念すべき第1回目にも登場したけど、これで何回目かな。いつも回答を出すのに相当悩み、頭薄くなるんちゃうか?いうくらい頭を使ってます。何事もほどほどに、やね。

(大阪/T)




(THE BIG ISSUE JAPAN 第94号より)


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(2012年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第198号より)






具体的支援策は「未定」、福島県内では学習会を開催




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(福島県内の被災者や支援団体が参加した学習会)




ようやく、国は子どもの健康診断や医療費の減免、家族と離れて暮らす子どもへの支援などを責任をもって行うことを定めた。

「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(原発事故子ども・被災者支援法)が6月21日に成立。与野党の法案一本化による超党派の議員立法と全会派賛成で、予算面で法制定を渋る政府を、国会が押し切り可決したかたちとなった。

低線量被曝のリスクを前提に、「健康被害の未然防止」の観点から健康診断や医療費の減免を盛り込んだほか、一定の放射線被曝が考えられる「支援対象地域」での居住や他地域への移動、他地域からの帰還も被災者が自らの意思で行えるよう国が責任をもって支援することも規定された。




制定に向けて活動してきた市民団体や法律家などは、「避難の権利を正面から肯定した」「低線量被曝のリスクを前提に、区域分けではなく個人に着目した立法」と評価する一方、残された課題も指摘。同法は大きな支援の枠組みを決めた「理念法」の色合いが濃いため、「支援対象地域」の範囲や、具体的な個別支援政策が条文には具体的に規定されていないという点だ。

それについては、第5条で策定を定めた基本方針や、政省令・ガイドラインなどで規定されることになったが、具体的な内容がいつ、誰により決定されるのか、被災者や支援者の声は十分に反映されるのかなどは不透明だ。



被災者の意見を集約して政策に反映させようと、7月には国際環境NGOの「FoE ジャパン」や「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」などの支援団体が「市民会議」を設立。日弁連も支援法推進のフォーラム開催を予定している。

7月24日、郡山市では被災者や支援団体などを対象にした同法の学習会が開かれ、被災者の間で議論が始められた。SAFLANの井桁大介弁護士が講師となり、法律の概要や制定過程、今後の課題について参加者が理解を深めた。井桁弁護士は「今後、数ヵ月のうちに基本方針が決まっていく可能性がある。ぜひみなさんのご意見を寄せてほしい」と呼びかけた。




(文と写真 藍原寛子)


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温かい食事と寝床、政治亡命者を受け入れるアムステルダム市民たち



オランダ・アムステルダムの難民キャンプに身を寄せていた政治亡命者たち。彼らに手を差し伸べたのは政府ではなく、オランダの市民たちだった。





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(デ・フルクト教会)






自由に生きる場所もなく、帰る場所もない



オランダ・アムステルダム、オスドロプ地区の難民キャンプには、国籍の異なる122人の人々が、身を寄せながら暮らしていた。彼らは亡命者としてオランダに入国したが、身元が明確でないことを理由に正式な滞在許可が下りず、このキャンプに昨年9月から滞在していた。

国籍は、ソマリア50人、スーダン18人、その他、ケニア、ギニア、コンゴ、マリ、シエラレオネ、エリトリアなど、さまざま。しかし、昨年11月30日、難民キャンプは警察の手によって撤去されるという結末を迎えた。


キャンプを追い出された難民たちは異議を申し立てたため、8時間ほど留置所に拘束された。その後 釈放されたが、警察と揉め合った2名が逮捕されてしまい、現在は刑務所にいるという。釈放された人々は、行く場所がないため、 それぞれが地元の支援者の個人宅に招かれ、暖かい食事と寝床を与えられて、数日間過ごした。


その後すぐに アムステルダムのボス・エン・ローマ地区にある、現在は使用されていない教会を、支援者グループがスクウォット(不法占拠)。難民たちの住みかとなった。




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(スーダンからの難民たち)




オランダでは2010年10月1日から、スクウォット禁止の法律が試行されており、スクウォットは違法行為とされているが、これから冬を迎えるオランダで住居がないのは大変だろうということで、教会の持ち主が2013年3月末までに限定し、滞在を許可するという契約書を特別に作成したのだ。

スクウォットされたアムステルダムの 「デ・フルクト教会」(De Vluchtkerk)で難民たちの食事の準備や身の回りの世話をしているのは、滞在許可書をもつ難民や、彼らを支援したいという一般の人たち、かつて教会の近所に住んでいた人々。現在のところ、炊き出しの食材もすべてボランティアによる持ち寄りで行われている。





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(教会の中の様子)





かつて難民としてオランダに入国し、現在は滞在許可書を持つというスーダン出身のヨーニス(Younis)さんに「デ・フルクト教会」を案内してもらった。ヨーニスさんは、難民たちを支援しているグループのリーダーであり、オランダ語も堪能なので、内と外を繋げ、ネットワークを作る大切な役割を担っている。

—現在の状況を教えて下さい。

ヨーニス:「ここにいる難民120人は3月末まではここに滞在できるので、そのあいだに何とか彼らに滞在許可が出るよう多方面に働きかけています。ここにいる人たちは犯罪者ではなく、亡命を必要とした助けを必要としているだけなのです。オランダの政治家が時々この教会を訪れますが、いわゆるここにきたという既成事実のポーズをとりにやってくるだけで、残念ながら難民たちを助けるための根本的な問題解決をしようとはしないのです」


—この状況に対し、オランダ政府はどういう対応をしているのですか?

ヨーニス:「ここにいる人たちは、身元がはっきりしないということで亡命を拒否されてしまいましたから、「帰国する」と言わない限り政府援助も申請できない状態です。ここのメンバーは政治亡命者がほとんどなので、自国に帰ると、政府に殺害されてしまう運命にあります。ここにいる人々は、自由に生きる場所もなく、帰る場所もないのです」




できるか? 生活の基盤となる時間含めた移民受け入れ




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(モハメドさん)





この教会に暮らしているスーダン出身のモハメド・アリさん(32歳) に話を聞いた。

—祖国スーダンにご家族はいらっしゃいますか?

モハメド:「父は亡くなったのですが、母はまだ健在です。私は政治亡命者なので、祖国に帰ったら殺害されてしまう……。母のことは心配ですが、帰ることはできません」

—現在の状況でオランダにいる心境をお聞かせください。

モハメド:「オランダ政府は私たちを刑務所には入れたくないし、そうかといってここで自由に生きる権利も与えられません。私たちは不法滞在者、違法な者として扱われているのです。EUの国ならどこでも自由に生きる権利があるのだと思ってここに来ましたが、まったく違っていました。この教会にいる人たちは、自分の将来を決めることが出来ないのです。私たちの将来を決めるのは、オランダ政府なのです」




欧州連合(EU)では、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロ事件以降、年々移民の規制を強化し、難民審査において入国管理を厳格化した。

難民申請者の多くはパスポートを持っていないが、正式に身元が確認できない限り、難民申請は受けつけられないという実情を目の当たりにし、モハメドはこう語る。

「この世界に国境や国籍は必要でしょうか? どこの国もオープンにして、各々が持っているものを、国をこえて共有できれば、世界は変わると信じています」




オランダの移民・難民政策は年々排他的になり、世論も厳しさを増している。オランダ内務省の人と移民政策について、話したエピソードを紹介したい。

「移民を受け入れるということは、就労や就学といった社会生活の面だけでなく、眠る場、余暇、祈る場所という、彼らの生活の基盤となる時間も含め、受け入れるということなのです。残念なことにオランダの移民政策は、その部分が完全に抜け落ちています。移民の受け入れにおいて、異なる文化や社会システムに生きる人々との相互理解というのは、現実的にとても難しいものです。ただ、現状で私たちができることは、移民の生き方をできるだけ尊重し、その違いを受け入れるということだけなのです」

「オランダではソフトドラック、安楽死、ゲイ&レズビアンの婚姻が法律上認められていますが、それは、彼らが彼ららしく生きることを尊重し、違いを受け入れようとした試みで、決して相互理解しているわけではないのです。大勢の方々が、オランダの社会システムや移民政策について、関心を持って下さり、あらゆる国から私を訪れて下さいますが、いつも私は『オランダのシステムを決してそのまま受け入れることはしないで下さい』と語ります。

彼らの人生の半分である、生活の基盤となる時間を受け入れることが、私たちはできなかった。この『オランダの失敗』を繰り返すのではなく、そこから何か学んで頂ければと切に願っているのです」

(写真と文 タケトモコ)




デ・フルクト教会(De Vluchtkerk)
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タケトモコ


美術家。アムステルダム在住。現地のストリート・マガジン『Z!』誌とともに、"HOMELESSHOME PROJECT"を企画するなど、あらゆるマイノリティ問題を軸に、衣食住をテーマにした創作活動を展開している。

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昨年1月にイギリスで発売された本が話題になっています。タイトルは『A Street Cat Named Bob』(ボブという名の野良猫)。本屋でのサイン会にはたくさんの人が列をなし、著者ジェームズさんとパートナーの猫ボブが路上に立つと人だかりができています。
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(2012年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第195号より)





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世界中に、約2100万人の強制労働従事者



6月1日付けのILO(国際労働機関)報告書で、全世界で今も2090万人が、心身の自由を奪われ強制労働に従事させられていることがわかった。

内訳ではアジア・太平洋地域が約1100万人で全体の56パーセントを占め、次にアフリカの370万人、ラテンアメリカ180万人が続く。強制労働に至った理由は、借金のかた、人身売買、ほぼ無賃金の違法な契約を結ばされたケースなど。

工業や農業分野のほか、性産業に被害者が多いが、220万人はILOの基準に達していない刑務所や、政府軍、反政府軍などに捕われ、働かされている人々だ。また、全体の26パーセントが18歳以下の子どもだった。

ILOが7年前に統計を始めて以来、大多数の国・地域で強制労働を禁じる何らかの法律がつくられてきた。ILOのベアテ・アンドレース氏は語る。

「ここ数年の世界不況の中でも、被害者の数が増えていないことは評価できます。今は強制労働の定義をより明確にし、人身売買のような強制労働につながる行為をきちんと処罰の対象にすべき時です」

(参照:UN news)


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(2012年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第196号より)




ついに10万人を超えた!“大飯原発再稼働”反対の首相官邸前抗議デモ




関西電力大飯原発再稼動に反対する6月29日の抗議デモの参加者はついに10万人を大きく上回った。従来のデモとは一味違う、“親しみやすい”デモの参加者にインタビュー。






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毎週金曜に集う母親や若いカップル



午後5時過ぎ、首相官邸前の道路にはすでに列がつくられはじめていた。強い西日が照りつけるなか、1歳6ヵ月の子を抱いた女性はこう話す。「デモに参加したのは今日がはじめて。ドキドキしたけど、『今、声を上げなければ』と思って」

その後ろに並んでいた男性は、「子どもが誕生した、と友人から今朝連絡があり、デモの参加を思い立ちました」と言う。

続々と集まってくる人たちは、ツイッターやフェイスブックだけでなく、会社や保育園での口コミで情報を得ていた。ベビーカーを押す女性や子ども連れの若いカップルも目立つ。従来のデモとは趣が異なり、さながら、夏の花火大会のような雰囲気だ。





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3月末に始まった、関西電力大飯原発再稼働に反対する首相官邸前抗議行動。複数の市民グループの有志でつくる「首都圏反原発連合」が呼びかけ、〝普段着で参加できるデモ〟が毎週金曜日に行われている。「怖いイメージを払拭し、デモを当たり前にしていきたい」というのが彼らの意向だ。

「再稼働を阻止」を何とか訴えたい。そう模索していた人たちがこの運動に共鳴し、賛同者は回を追うごとに増えていった。当初の参加者は300人。2回目の4月6日には1000人になり、野田首相が最終的に再稼動を決めた後の6月22日は4万5000人に膨れ上がった。

そして29日。大飯原発3号機の再起働を2日後にひかえ、国民の憤りは最高潮に達していた。午後6時、官邸周辺は人であふれ、身動きもできないほど。車道が一部開放され、「前回より多いですよ」との声が耳に入ってきた。沿道を埋め尽くす人々は、思い思いのプラカードを掲げ、「再稼働反対」「原発いらない」と叫びながら、ゆっくり歩を進める。




福島からも、女性たちがこの場に駆けつけた。

「なによりも命が大事です」「どんなに毎日毎日心配のなかで暮らしているか。福島の母親たちの声を聴いてください」「子どもたちを守りたいんです。福島の子どもを見捨てないで」




ごったがえす道路からはずれたところで、子どもを遊ばせている二人の女性に会った。立川市に住む、それぞれ4歳と1歳の子どもを持つママ友だち。

「山本太郎さんが、『10万人集めたい』とツイッターでつぶやいていたので来ました。デモに対する抵抗はありましたが、みんなやさしく声をかけてくれて……。原発や放射能の話は、保育園でもなかなか言えません。同じ気持ちの人がたくさんいるのを知り、心強くなりました」「親に、『そんなこと気にして』と言われてしまうのですが、国分寺の放射能測定所で、粉ミルクを調べてもらったんです」

会社帰りに立ち寄ったという女性二人組は、「前回来ることができなかったので、今日は友人を誘って来ました。デモに行きたい、と親に話したら、『え?』と言われましたけどね」「若い人が多いので驚きました。原発は心配です、かなり」とにこやかに答えた。

この〝親しみやすいデモ〟は、原発が日常に密着した問題であり、憤慨している生活者が大勢存在する現実を映し出す鏡だ。




この夜のデモ参加者数は、目標の10万人を大きく上回った。しかし、国民の声は無視され、大飯原発3号機は予定通り再稼働した。7月6日の抗議デモは、あいにくの雨にもかかわらず、前週と同程度の規模になった。

この怒りは鎮まるはずがない。民意が反映され、脱原発が達成されるまで。




(木村嘉代子)
Photos:横関一浩


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前編を読む




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現時点でもすでに多くの魚が資源枯渇の危機を迎えている。そのために「資源が減っているものに関しては漁獲量を制限することもやむをえないでしょうね」と鈴木さんは語る。「資源を守るということが第一義に重要。魚は増やそうと思えば増えるんです」

その具体例として挙げられたのが秋田のハタハタだ。

秋田の特産品であるハタハタは、かつて箱一杯の量であっても庶民が気軽に買うことのできる魚だった。それが一時期から枯渇してしまい、絶滅寸前まで追い込まれる。そこで地元の人々が、平成4年から3年間の禁漁期間を置くなどして努力を重ねた結果、今では復活の兆しが見えるほどにハタハタの姿が回復してきた。鈴木さんの言う「魚は増やそうと思えば増える」とはそうした実例を受けてのことだ。




しかし、それなら漁獲制限や禁漁をどんどん進めていけばいい、という単純な話でもなく、漁業を生業としている人たちにとって、それは「食い扶持を減らせ」と言われるのに等しい。

「漁師は魚がいれば獲りますよ。そうでしょう?お金が落ちてたら拾うじゃないですか。それをやめろというのは無理ですよ」




必要な、魚との新しいつきあい



だからこそ今、それぞれの分野からの協力が求められている。

資源を守るために禁漁や漁獲制限を行うのは仕方がないかもしれない。けれど、そうして困ってしまう漁業を行政は支援することができるはずだし、私たち消費者も、魚の「本当の価値」を知ることによって、その対価をきちんと支払っていくことができるはずだ。

「ほら、あれがあるでしょう。無農薬・有機栽培のオーガニック食品。そういうものだと高くてもみんな買うでしょう。こだわりについては高くても買うっていう人がけっこういるんだ。魚は健康にいい、味もいい、季節性もある。いろんな良い点があるってことをよく消費者に知ってもらって、高くなりますけども買ったほうがいいですよ、と伝えていく。それで消費者がそういうのを買えば、魚を獲る量が少なくても、漁師の生活は楽になるんだ。100で100稼いでいたものを、50で100稼げればそれでいいわけだから」

そうした魚との新しいつき合い方が必要になるこれからの時代に、築地という場所が果たせる役割も大きいのかもしれない。





金目鯛




築地の場内で一般の人が魚を購入するのは残念ながら難しいが、その代わりここには「場外市場」という隣接する市場があって、そこでは誰もが魚を買い求めることができるのだ。スーパーでばかり魚を買うようになってしまった今の時代。ここ築地には、魚屋のなつかしい匂い、その道のプロから直接品物を買うことのできる安心感、心地よさが今でも残っている。旬の魚を聞くのもいい。料理の方法を教えてもらってもいい。魚の良さを再発見するには格好の場所だ。

「そういう対面販売ね。魚屋は古来からの良い文化だったんだけど、町からはなくなってきてるからなぁ。築地にはまだそういう対面販売の良さが生きてるよ。そういう場所をもっといろんな所でつくらなきゃいけないんだ」




これから魚を買いに行こうと思っている人たちへ、最後に鈴木さんからのお願いがある。

「健康に良くって、味が多様で、種類が多い。生でよし、煮てよし、焼いてよし、蒸してよし、干してよし。魚をうまく活用すれば食生活は非常に豊かになる。それが日本の食文化でもあるっていうことですよ。それを大切にしてもらいたい。しかし魚はいつまでも自由には食べられないから、貴重なたんぱく源として大切に扱ってもらいたい。そのための値段もお支払いしていただきたい。それが日本の漁業を守り、子々孫々の世界の魚を守ってゆくことになるんです」




(土田朋水)
Photos:高松英昭




すずき・けいいち
1936年、静岡県浜松市まれ。築地魚市場株式会社社長。59年、大洋漁業(現マルハ)に入社。北洋のカニ、サケマス漁船に乗船する。その後、大都魚類を経て現職。







(2007年9月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第79号より ※肩書きは当時)


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