(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)






「リグニン」をはずす、相分離系変換システム





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リグニンは樹木を、生物の生態系のなかの母体のような存在にしました。一方で、リグニンは地球上に大量に蓄積している有機資源なのに、人間がどうしても使えないものでした。その原因は、糖とリグニンはまったく性質の違うものなのに、糖とリグニンに同じ環境で同じ働きかけをして取り出そうとしてきたことにありました。そうして、うまく取り出せたセルロースだけを使い、うまく取り出せなかったリグニンは捨てるという扱いをしてきました。

1988年、舩岡正光さんは、糖とリグニン、それぞれの違いに応じた働きかけをして、まったく熱も圧力もかけず、植物資源から酸とフェノールでリグニンを取り出すという「相分離系変換システム」をつくることに成功しました。このシステムによって、糖とリグニンのからまりを自然に無理なくはずして分離することができるようになったのです。

では、どのように分離させるのでしょうか?





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最初に、植物、森林資源を集めます。とはいっても、木材などのバージン資源である必要はなく、木片や古新聞紙(シート状木材)、古い家具などがそのまま資源となります。そして、資源の表面積を増やすために、それらを粉状に砕きます。

実際の分離作業を、舩岡さんの三重大学の実験室で、見せてもらうことにしました。まず、木粉をリグニンに親しい媒体(注1)で包み、酸の水溶液に浸します。そうして、単に30分から1時間ほど攪拌しそっと置いておくだけで、がっちりと絡まったリグニンと糖が分かれ、リグニンを含む層が上に浮いてきます。

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糖のほうは水となじみやすいので、酸の水溶液に溶けてしまいます。こうしてリグニン(リグノフェノール)と糖類に分けることができるのです(注2)。そして最終的に、リグノフェノールは白い粉として私たちの目の前に現われました。




20世紀には、狂わない、腐らない、燃えないというような、環境変化に対応しないものが高機能材料といわれました。ところが、人間が化学工業で作った高機能素材は、法隆寺の柱のように千年ももつことはありません。

いったい、リグニンの環境変化への対応の秘密とは何なのでしょうか? 実は「我慢しない」ことにあるのです。モノに強い力をかけると、あるところで素材の内部にストレスがたまり自己崩壊し、折れたり壊れたりします。リグニンはそうならないように、内部にストレスを残さない設計図を持っているのです。
 
一見、矛盾するようですが、リグニンは周辺の環境変化には敏感です。例えばリグニンの入った新聞紙は日にちが経つとすぐに黄変します。これは分子レベルで環境に対応しストレスを解放している姿です。つまり素材として長期的な安定を得るために、短期的には環境変化に対応する設計なのです。「相分離系変換システム」もこの性向を生かし、少ないエネルギーで糖類とリグニンを分離できるものになっています。

人間もバイオです。バイオが他のバイオを考えるとき、人間の行動基準ではなく、自然界のしくみを尊重することが重要なポイント。樹木から取り出したリグニンは、相手を尊重する工業素材となります。

注1/木粉を包む薬品を選ぶことでリサイクル設計ができる。
注2/この分離作業は、超音波エネルギーを使うと5分ぐらいに短縮できる。




第6幕へ




イラスト:トム・ワトソン


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『ドボッケン』『弾丸レッシャー』「成長神話」から生まれた怪人



木版画という手法を使い、風刺のきいた作品を発表してきた風間サチコさんの原点は幼稚園までさかのぼる。年長組の頃から小学校を卒業するまで、風間さんはお絵描き教室に通っていた。

「教室では『海の中で息ができたら?』とか『動物としゃべれたら?』という大喜利的なお題に合わせて絵を描いたり、煮干しを1匹ずつ配られてスケッチしたりしました」

煮干しは、サイケデリックに描いたところ褒められたが、人の作品の影響を受けて描いたものだったので、後ろめたくて素直には喜べなかったそうだ。

「喘息にかこつけて3分の1しか登校しなかった」という中学時代は、はやりのアクリル画に飛びついた。定時制高校に通っていた頃は、話題のゴスロリ服を自分でつくってみた。

「ミーハーなところもある」と自身も認める風間さんは、専門学校で木版画を学ぶと、時代や流行を巧みにとらえながらも、その滑稽さをどこかでおもしろがっているような作品を制作し始めた。

25歳で開いた初の個展ではモデルハウスを描いた。

「まだ終身雇用、一億総中流というものが信じられていた1998年、その象徴でもあるモデルハウスを木版画にしたら何とも陰気な風景画になりました」

高度成長期の「成長神話」をテーマにした個展も開いた。建物の屋根など、身近なもののシルエットを右肩上がりの棒グラフになぞらえた。その延長で興味をもったのが「日本列島改造論」を唱えた田中角栄だった。「新婚旅行を兼ねて新潟の田中角榮記念館に行き、彼の著書『日本列島改造論』も読み込みました」

その結果、生まれたのが「列島改造人間」シリーズだ。氏が力を注いだ国土開発や上越新幹線を擬人化し、「ドボッケン」「弾丸レッシャー」といった怪人として描いた。


印刷用右満鉄人

『汽笛一声(満鉄人現る)』 2007/木版画/180×120cm
©2007 Sachiko Kazama Courtesy of Mujin-to Production Tokyo








戦争をテーマに『風雲13号地』 平成を振り返る『くるくる総理(コドモの国)』




くるくる総理

『くるくる総理(こどもの国)』
2010/木版画/53×38cm
© 2010 Sachiko Kazama Courtesy of Mujin-to
Production, Tokyo




やがて、「過去の見たくない史実をも自分なりに解釈して作品化したい」との思いから、テーマは「戦争」へと広がっていく。しかし、「戦争への怒りを現代にもつながるかたちで木版画にうまく落とし込めない」と悩む時期がしばらく続いた。

戦争の要素をとり入れて初めて大々的につくったのは、東京・お台場の風景を軍艦に見立てた『風雲13号地』という作品だった。

「フジテレビやテレコムセンターなどの、どこかパビリオン的な建物が戦艦大和の上にひしめき合い、幽霊船のように東京湾を漂っている。その景色の不自然さを表現しました」

そして今年は、日本生まれのアメリカ人、リンダ・ホーグランド監督が1960年の安保闘争をテーマに制作した映画『ANPO』にも出演。映画には、満州事変から太平洋戦争終結までの「十五年戦争」の始まりと終わりを描いた作品も登場した。

一つは『汽笛一声(満鉄人現る)』。1928年、中国の軍人が満州へと向かう途中、列車を爆破され、暗殺された張作霖爆殺事件をモチーフにした作品だ。

もう一つは『危うし60階(奇襲するプリズン・ス・ガモー)』。「罪」と書いた編み笠をかぶった巨人が東京・池袋のサンシャイン60を破壊する。ここにはかつて、東京裁判の戦犯が収監された巣鴨プリズンがあった。安保闘争に参加した父をもつ風間さんだが、親世代とはまた別の視点から戦争を見つめている。

風間さんはまた、戦前・戦中に開かれた博覧会の絵葉書コレクターでもある。「当時のパビリオンは軍艦やミサイルを模したものなど、外観だけで内容のわかるものが多いんです」。これを現代に置きかえて、平成の出来事を振り返る博覧会風に仕立てたのが、10月7日から11月27日まで開催されている個展『平成博2010』だ。

たとえば『くるくる総理(コドモの国)』では、見覚えのある総理大臣の似顔絵が観覧車となって、めまぐるしく回る。国会議事堂に設置されたすべり台が任期の短さを物語っている。『ふるさと創生館』では、ふるさと創生事業によってばらまかれたお金が各地にもたらしたハコモノをユーモアたっぷりに描いている。

「いさかいや戦争は、上から目線で独善的にものを言うところから始まる。だからこそ私はフィクションや冗談をまじえながら、自分なりに解釈した〝現実〟をこれからも表現していきたいと思います」
(香月真理子)




かざま・さちこ
1972年東京都生まれ。一貫して、日本の今と、今を形成した歴史を、木版画によって独自に検証。一版では表現の難しいグレーグラデーションという中間色を版画に用いることにより、善悪ではわりきれない人間の感情や、あいまいな社会の状況、そして白黒つかない過去の記憶と記録を表現。2006年岡本太郎記念現代美術大賞優秀賞受賞。現在都内2カ所で個展開催中。








(2010年11月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第155号より)


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(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)





「リグニン」の秘密、その見えない設計図を読む



地球の陸地をおおうほど繁茂するようになった樹木は、生態系を守りながら長い歴史を生きてきました。彼らにそれができた秘密は何だったのでしょうか?

樹木の細胞は糖類とリグニンの二つからできていて、リグニンと糖類は1対2か、1対3ぐらいの比率です。そしてリグニンは樹木が立てるような強度をつくり、同時に樹木を微生物から守ってきました。

このリグニンには、どのような設計図が書き込まれているのでしょうか? さらに、小さな分子の世界へと踏み込んでみることにしましょう。





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上図はリグニンの分子構造の一例です。専門的にいうと、亀の甲(ベンゼン環/注1)をたくさん持っています。

そこにメトキシル基(—OCH3/以下、メトル君と呼びます/注2)というものがついています。けれど、不思議なことに、それがなぜついているのか、これまでまったくわかりませんでした。このメトル君は、もともとは活性であった構造を、わざと働けないように手にキャップをつけて、ブロック状態にされているのです。




では、メトル君は必要のないものなのでしょうか?

人間は、目に見える形、地上に立っている樹木の形を主役だと思ってしまいがちです。

植物は地球の生命をつくり上げた一つのシステムでした。植物によって地球の大気のバランスが保たれてきたのです。そんな歴史を持つ植物が、今も昔もリグニンを持っているのは、人間の目からは必要ないように見えても、地球上のシステムには必要だったからです。地上で立っている間はまったく働かず、用なしのメトル君なのですが、実は、樹木が倒れた後に土壌の中でキャップをはずして大変身し、仕事をします。




どのような仕事をするのでしょうか?

地上での樹木は、水に溶けた窒素、リン、カリ、マグネシウムなどの栄養分を吸い上げています。しかし、雨が降ると、水に溶ける栄養分は土壌から抜けて流れ出てしまいます。そのとき、メトル君は起き上がります。キャップをはずし活性となったメトル君は、その両手で栄養分をしっかりつかみ、水に溶けて流れないようにするのです。そして時が来ればそれを少しずつ離します。すると樹木はそれを少しずつ水と一緒に吸い上げるというわけです。

地上の樹木のために、土壌の中の栄養分をその場所にキープし、徐々に栄養物を放していく…。土壌の中で、メトル君は実にしっかりと働いているのでした。




このように、リグニンは、樹木が朽ちて腐食し、最後にCO2となって大気などに戻るまで百年から千年単位の長い期間、メトル君の活躍によって土壌の中で活動し続けるのです。

これが、樹木が生態系の中で「持続性を持つ」秘密であり、樹木の基本設計です。

このようなリグニンの働きによって、樹木は全生物の母のように、生物が生きていく生態系を整えていったのです。




注1/ベンゼン環は化学工業に必要なもの。現在は石油からしか取り出していないが、リグニンからも取り出せる。
注2/メトキシル基と呼ばれる置換基。活性な構造(OH)が、キャップ(CH3)によってブロックされた構造を持ち、不活性。




第5幕へ




イラスト:トム・ワトソン


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Genpatsu

(2012年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第184号より)




元旦に飛び込んできたニュースは、原子力安全委員会の委員24人に2010年までの5年間に8500万円の寄付金が原子力業界から送られていたというものだった。自分たちが受ける審査に手心を加えてほしいと言わんばかりの行いだ。「原発審査、曇る中立性」と見出しが突っ込んでいた。

そして当事者たちは、判断に「寄付の影響はない」と紋切型の返答を繰り返しているが、これを真に受ける者はいないだろう。実際の審査は、委員が意見を言い安全委員会の事務局が内容をまとめる。爆発事故が起こっても、原発の安全審査を行った学者・役人の誰もが責任をとっていない。

続いて、東京電力とこの関連企業が国会議員のパーティ券を多額に購入していたことも報道された。自民党議員が多いが現在の政権党である民主党議員も含まれている。議員の歳費はNGOスタッフとはけた違いだ。加えて政党への選挙費用などが私たちの税金から出ている。なのに、パーティを開催して資金を集めるという。券の購入を求める方も買う方も、どこか狂っている。

役人は役人で「核燃直接処分コスト隠ぺい--エネ庁課長が04年指示」という報道も流れた。日本の原子力政策は原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出している世界でも数少ない国の一つだ。これに対して大多数の国は使い終わった燃料はそのまま貯蔵・処分する直接処分政策をとっている。国は試算の結果、直接処分政策の方がはるかにコストが安いとわかっていたが、知られると都合が悪いので「世の中の目に触れさせないように」と厳命したという。国会で質問された時には、直接処分のコストを試算したことがないと答弁していた。この張本人の安井正也課長(当時)はいま経産省の官房審議官をしている。この国はどうなっていくのだろう。

明るい将来を予想させる報道もあった。東京新聞(1月2日)の特集「暮らし再耕--脱原発へできること」だ。春に原発が全機停止するので、そのまま夏を乗り切ろうという話だ。一人ひとりの節電は小さいが、数が集まれば効果は高い。自然エネルギーを積極的に増やしていくための課題も解決できそうで希望がもてた。辰年の今年、自然エネルギー元年、脱原発元年にしたい。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)





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(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)




「リグニン」登場、繊維細胞の精密な設計図 



14p 屋久杉


なぜ、樹木は石油の代わりになるほどの働きができ、屋久島の屋久杉は7千年もの長い間立っていられるのでしょうか? 

ここで、植物の歴史上の重要な事実をお話しましょう。太古の昔、地球上に最初に登場した藻類やコケ類は地上を這っていました。実は植物が体内にリグニンを生み出したことで、初めて立ち上がることができたのです。




さて、ここからは目に見えない世界、顕微鏡でしか見えない世界にご案内することになります。

14p 細胞

樹木の細胞は、セルロースやセミセルロース(糖類)という物質でその骨格ができあがっています。ひも状になっているセルロースの束が、緻密な紡錘形の籠に編んだような構造をつくっています。

そして、その籠のような細胞と細胞をしっかりと接着しているのがリグニンです。幾つもの籠の形をした細胞が並んでいる3次元の空間の隙間に、リグニンが絡まって細胞を固定させているのです。これは人間の技術では作れない高度なつくりで、いくら引っ張っても絶対にはずれない構造になっています。精巧なジャングルジムに、縦横に接着剤がからまっているようにも、見えますね。

地球の重力に抗するほどの強度をつくるリグニンがあるおかげで、屋久杉のような大木も立っていられるのです。

また、樹木の重量の25〜30%はリグニンで、糖が70〜75%を占めています。糖は微生物の大好物。なのに、なぜ7千年もの間、屋久杉は微生物に食べられなかったのでしょうか? このリグニンの剛直かつ複雑な構造には、糖を食べる微生物はまったく歯がたたないからなのです。




リグニンの登場によって、地球の生態系が大きく変わりました。植物は立てるようになると、枝を伸ばし葉っぱを広げて樹木という立体的な構造をつくり、太陽の光をより受けやすくなりました。光合成をする葉っぱの表面積を増やせるように進化したのです。

やがて、植物、樹木は地球の陸地のいたるところに進出し、大繁茂する時代を迎えます。その恐竜時代(ジュラ紀、白亜紀)のシダ類などが地中に大量に堆積して化石化し、石油ができあがりました。

このように、樹木にとってリグニンは大変重要なもの。ですが、人間が柔らかな紙をつくるときには邪魔ものです。人間は、紙の製造過程でリグニンをずたずたに切断して取り除き、細胞をばらばらにして横に並べ替えます。そうしてできあがったものが紙です。

この過程で取り出されたリグニンは工業リグニンと呼ばれますが、これはもはや樹木の中にあったものとはほど遠く、細胞と細胞を接着する能力は持ちません。一方、リグニンを抜かずに、木材のかけらを力まかせに繊維状にすりつぶしシート状にしたものが、新聞紙なのです。




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イラスト:トム・ワトソン


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一人で楽しく過ごしていますが、そろそろ人生を真剣に考えたらと言われます



Q: 楽して生きたいです。出世したいとも思いません。
週末は家で一人ひきこもってピアノを弾いたり本を読んだり根暗に楽しく過ごしています。
けれど、最近、家族や周囲が結婚するなりマンションを買うなり、そろそろ人生を真剣に考えたらと心配しはじめています。
街で販売員さんを見かけ、ふいに不安に。
そこで販売員さんに質問したいのですが、今になってやっておけばよかった、と思うことってありますか?
(女性/35歳/会社員)



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(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)




長い生命力をキープする二つの循環




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石油製品に替わってすべての製品の材料になれる植物、その秘密は何でしょうか? 

人間も含めて、すべての生命体(有機体)はCO2からできあがっています。この有機体が生命を持ち、個体としての姿を現わし消えるまでの長さを比べてみましょう。

草の場合は発芽して成長して枯れるまで約1年。人間の場合は生まれてから85年で、だいたい寿命が尽きます。ところで、樹木に寿命はあるのでしょうか? 屋久杉のように7千年も生きる樹木がありますね。樹木にも寿命はあるのですが、数百年も生きるうえ、地中で百年から千年単位の時間をかけて解体されていくという、人間の一生をはるかにこえる長い循環サイクルを持っています。

循環サイクルの視点から、物を燃やすことを考えてみましょう。草は仮に燃やしても、CO2に戻るまでの1年の循環サイクルをそんなに縮めることにはなりません。ところが、樹木を燃やせば、その数百年の循環サイクルを途中で断ち切って、一気にCO2に戻してしまうことになります。樹木がCO2を固体(樹木)化している時間や土壌中に滞在している時間を極端に短くしてしまい、気体で存在するCO2を増やしています。

樹木はずっと同じ場所に立ち続け、枝を茂らせ幹を太らせていきます。どのように栄養分を吸収しているのでしょうか?

彼らは、二つの循環を持っています。

樹木が生きていくのに必要な栄養分は、土壌の中のマグネシウム、リン、カリ、窒素など。水に溶けたこれらの養分は根元から吸い上げられて、生命を営む細胞の要素となります。


13p 小循環

動けない樹木は自分の立っている場所で、じっとしたままで持続的に栄養分を取れないと生きていけません。そこで、落葉樹は秋に、常緑樹は常に、土壌から吸い上げた栄養素を葉っぱに移動させ、地上に落とすのです。土壌の中で落葉は微生物によって分解され、樹木はこれを再び栄養分として吸い上げます(小循環)。

落ち葉は樹木にとって身体の一部で、栄養源となるご飯のようなもの。ごみではありません。


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もう一つは、樹木の中心部(幹)をめぐる循環(大循環)です。樹木を輪切りにしてみると、樹木の樹皮の内側に0.3㎜ほどの幅の形成層と呼ばれるところがあります。この形成層の内側と外側の両方で、新しい細胞が生み出されてきます。実はこの内側の細胞は数ヶ月で死んでしまって、樹木の幹(心材と辺材)に蓄積されていきます。こうして樹木の幹は歳月とともに太っていくのです。しかも、この幹の部分は、空気中のCO2と地下から吸い上げる水から「光合成」によってつくられたもの。炭素と水素と酸素が99%を占めています。

だから、樹木の幹を山から切り出しても、森林の土壌を持ち出したことにはなりません。しかし、山から切り出す以上、植物に依拠して地球に生きる人間は、その樹木の循環サイクルの長さに匹敵する時間、切り出した樹木を使うことをルールにしたい。それができれば、持続的な循環ループが回復できるのです。




第3幕へ




イラスト:トム・ワトソン


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Genpatsu

(2012年1月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第183号より)




原発などないほうがいいと考えている市民は多い。消費者グループや労働組合、そして宗教者のグループなど多くの団体が脱原発を決めている。これを実現する方法は二つあるといえよう。

一つめは、定期検査で止まった原発を動かさないこと。地元自治体の長が首を縦に振らなければ再稼働できない。原発の安全だけでなく住民の安心が不可欠だと政府も言っている。牧之原市議会は安全・安心のために浜岡原発の永久停止を決定した。同市は隣接する自治体なので、この決議がある限り、運転再開はできない。

もう一つは政策を変えることだ。今、この国のエネルギーのあり方が大きく変わろうとしている。原発を柱にしてつくってきた政策が、福島の原発10基が廃炉になる事態を受けて見直さざるを得ないわけだ。野田内閣総理大臣は「原子力発電への依存度をできるかぎり低減すること」を基本的方向としている。経済産業省の審議会では脱原発と原発維持、それぞれの主張が激突している。

福島原発事故に関する報道が続いている。収束宣言が出されたが、実感は、むしろこれから始まる。廃炉には40年ほどかかる遠い道のりだ。膨大な廃棄物をどう処分するかも定まっていない。原発のコストはこれまで以上に高いことも報道された。新たに示された8・9円/kWhは今の時点の最低の値で、損害賠償に関する保険も高くなるだろうし、除染費用もかさんでいけばその分が上乗せされていく。

除染費用でいえば、被曝限度を定めた現行の法令に基づいて、ようやく基準と費用負担のルールが示された。これで各自治体も除染に取り組みやすくなった。待たれていた対応だ。

除染より避難をすべきとの声もある。避難したい人は多くいることから、これへの対応も非常に重要だが、なおざりにされている。課題はまだまだ多い。

審議会の議論を経て、今年春頃にはエネルギーの選択肢が政府から提案されて「国民的議論」に入る予定だ。そうして夏頃に新しいエネルギー政策が決まる。どのようなかたちで国民的議論が行われるのか明らかでないが、インターネットを通してだけでなく、全国各地で討論会をするべきだと、審議会の中で訴えている。新しい政策は一人ひとりの参加のもとに決めていこう。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)








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(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)




P12





樹木は“CO2の固まり” 樹木に従属してこそ生きられる人間



P12 石油も元は生物

日本が輸入している石油の約5分の1は、私たちの身の回りのさまざまな製品を作るために使われています。あなたは信じますか? 石油を使わず、植物や森林資源からもそれと同じものが作れることを。石油も元は樹木などの生物でした。石油から作れる物は樹木から作れるはず。植物を深く知り、その生き方に学ぶことさえできれば、それが可能になるのです。

では、早速、お話をすすめていきましょう。

地球上のすべての物質は何もしないとバラバラになる方向に動いていきます。(注1)CO2も地球全体に拡散しています。緑の樹木は、太陽光エネルギーの力を借り、そんなCO2を集め、地中から吸い上げた水(H2O)とで、糖類(炭水化物)を作りながら、酸素をはき出します。そして、でき上がった糖類は樹木の身体になります。これが「光合成」です。


P12 注


もし、あなたが床のじゅうたんの上にコップの水をこぼして、それをもう一度コップに集めなければならないとしたらどうしますか? じゅうたんに染みこんだ水を100%回収するのは不可能です。この不可能を可能にするのと同じくらい、樹木の「光合成」は奇跡的なことをしているのです。

それは、大気という果てしない天空から、太陽エネルギーを使ってCO2を取り出して濃縮し、樹木という固体に形を変え閉じ込めるという仕事です。地球上で、このように地球外の太陽エネルギーを使える生物は、植物のほかには存在しません。

しかし、やがて樹木にも朽ちる時が訪れます。樹木は土壌の中で微生物によって徐々に解体され、水とCO2になり、再び大気中へCO2として放たれ散っていきます。この解体にかかる時間は数百年から数千年ほど。CO2は今日も、大気、樹木、土壌の中を長い年月をかけてゆっくりと巡る旅を続けています。

しかもCO2の旅は必ず一方通行です。

真っ赤なトマトと腐ったトマトがあるとしたら、腐ったトマトは絶対に真っ赤なトマトに戻りません。腐ったトマトは解体されてCO2になり、もう1度「光合成」によって真っ赤なトマトになって戻ってきます。地球上の生態系のシステムは全部この方向に流れ、持続的な循環ループ(注2)をつくっています。

CO2の循環の旅のバランスが崩れ、地球をおおう大気中に存在するCO2の量が急増して、循環ループがゆがんでいる状態が、温暖化したといわれる今の地球の姿です。

一見、宇宙の中で独立しているかのように見える地球ですが、太陽という電源がなければ植物による光合成は不可能になり、たちまち地球のモーターは停止。宇宙と地球の接点には森林があって、人間はそれに従属してこそ生きていける存在なのです。




注1/エントロピーと呼ばれる。物理学のエントロピーは「乱雑さ」とも訳され、物質やエネルギーの局在(偏り)の度合いをあらわす。
注2/CO2があるバランスを持って持続的に樹木と大気の間を循環する輪のこと。持続的な循環に対して、今のリサイクルは持続的な循環のループとは逆向きで、真の循環とはいえない。例えばバージンパルプに使い古しの紙を混ぜこんで紙を漉くのは、腐ったトマトと真っ赤なトマトでサラダを作るようなもの。




第2幕へ




イラスト:トム・ワトソン


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