(2007年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第75号より)




野生の患者は、野生からの伝言者。選ばれて、自然の今を伝えに来る



北海道東川町に森の診療所を開く竹田津実さん。
30年間、傷ついた野生動物の保護、治療、リハビリに無償で取り組んできた。そんな竹田津さんが綴る、野生動物と巡り合う日々。






BIG ISSUE004






野生動物は無主物。その診療は犯罪行為!



野生たちの診療を始めて30年が過ぎた。バカなことである。やっとここ7〜8年は犯罪者扱いされなくなったが、それ以前はれっきとした法律違反者としてお上ににらまれていた。

野生動物は無主物。誰のものでもありませんと法は定めている。ところが「……ならば私が」とカスミ網やワナなどを仕掛けとらえて焼き鳥なんぞにされたらたまらんと、国家は数種の法をかぶせた。捕ってはなりません。当然飼うこともいけませんと明記した。

そこで道端で苦しむ野生を見て助けなくてはと思わず手を出した人……多くは子供か老人と呼ばれる人たちである……がいたらどうなるか。立派な法律違反者となったのである。

「あの先生のところへ……」と考えて走る。すると当然あの先生も犯罪者の仲間入り。

かくして心優しき子供やお年寄りは咎人となり、心ならずも受けた獣医師もその仲間入りを果す。

そのうえ……これを特に言いたい……獣医師は貧乏となる。

無主物である野生の生き物はお金を持って来ない。かわいそうだと思わず手を出した人たちには診療費、入院費の支払いの義務がない。当たり前である。もしお金を支払うとその患者はあなたのものですかと問われる。そうですとは言えない。言えば、私はれっきとした犯罪者であると自白しているようなもの。誰ひとりお金は支払わないのである。

ついでに言うと、傷つき病んで苦しんでいる生き物たちを見ても、見て見ぬふりをし、知らん顔を決め込む者たちをこの国では良しとしている。正常と言っている。なんだか気味が悪い。







BIG ISSUE003




先生、それって殺すことではないですか?



以上が、野生動物の診療所を取り巻く現状であった。

これが7〜8年前から少しずつ変わった。なぜか知らない。なにはともあれ現場を見て「限りなく犯罪に近い」と言われなくなってほっとしている。

30年前、二人の少年がやって来た。抱えたダンボールの中にはトビがいた。「飛べません。かわいそうです。治してやってください」と言った。

「家畜以外は診ませんよ」と言ってみたが、半分泣き顔になっている兄弟……二人は兄弟であった……には帰ってくれとは言えない。そこで理由探しをした。幸い(?)当のトビは検査の結果、翼の骨の一部が欠損していることがわかった。これなら十分な理由になった。

そこでレントゲン写真を見せて説明をする。すると「どうしましょう」とつぶやく。そこで技術者としていかにもまっとうな理由(安楽死)を口にした。これがまずかった。「安楽死とはなんですか」と聞くので説明するに、兄弟は少し考えて「先生、それって殺すことではないですか」ときた。

これは少し困った。獣医師は生き物を助けるためにあるもの……といった世間の常識に背を向けるわけにはいくまいと身構えて見せたが、うまい答えが登場しない。ぶつぶつ言った挙句、「まあそんなことだな」と予定外の台詞が飛び出してしまったのである。一瞬間があって「ワー」という兄弟の泣き声に、私はただただ立ちすくんだのである。

ともかく帰ってもらおうという作戦。「なんとかしよう。ともかく今日は帰りなさい」と説得する。「ナントカシマショウ」を連発。帰ってしまえばこっちのもの。「安楽死を選択しよう」と決めていたのである。

ところが敵(?)もさる者。当方の魂胆を見抜く。そして言ったセリフ。「明日も来てみます」ときた。来られたらアウト。ともかくトビの命は1日伸びることになった。

次の日、兄弟はやって来た。肉片を持ってきて「ピーコ、ほれ、おいしいよ」と言いながら餌を食べさせ帰っていった。「明日も来てみます」という言葉を残して。

それが1週間も続くと私ももう技術者としての一つの作業をあきらめていた。

トビと兄弟と獣医師の妙な関係は、その後半年間も続く。結局トビの死という現実が登場するまで。

兄弟は別れを納得し、獣医師は兄弟の気持ちに寄り添うことを学ぶ。そんな技術屋が一人くらいいてもいいのかなとつぶやきながら。





BIG ISSUE002






どうして診療所に来た?今日も探す野生の企み



それから数年たった年の5月。

我が家の玄関は大騒ぎとなっていた。次々と患者がやって来た。本来であれば喜ばしいことだが、野生動物の診療所としては逆である。

お金を払わないものたちが押し寄せると、当然のことながら貧乏になり、やがて倒産の憂き目にあう。

そのときもこれは間違いなく夜逃げを考えなくては……といった繁盛ぶりとなった。

患者は小型の渡り鳥、コムクドリである。次々とやって来た。2羽、5羽、はては7羽も一つのダンボールで運ばれて来る軍団もあった。病状は中毒病、明らかに農薬の集団中毒であった。散布された農薬に苦しむ虫たちを腹いっぱい食べた鳥たちが二次被害にかかったということだろう。ともかくにも大騒動を強いて、あげく9割が死んで終わった。

おびただしい死骸を目の当たりにして、彼らがなぜ我が家の玄関の戸をたたいたのかを考えてみることにした。豊かだ豊かだといわれる北の大地が予想以上に農薬に汚染されている現実にたどり着く。

それに対するささやかではあるが多くのお百姓さんの参加する作業がこのことをきっかけに始まったのである。




以来、私は私の診療台の上に横たわる野生の患者が「どうしてここに来たのか」という理由を聞くことにしている。しつこく、詳細に。

いつの間にか、患者たちは自然の今を伝えるためにやって来たに違いないと思うようになっている。しかも選ばれて来るような気がする。草原の草のかげや森の奥深くで彼らはときどき会議を開き、今度はこの問題について誰を送り出そうかなんて企らんでいるように思えるのである。野生からの伝言者として。

馬鹿みたいな作業が続いている。そのバカみたいな作業の中に隠された野性の企みを私は今日も探そうとしている。

(文と写真 竹田津 実)




たけたづ・みのる
1937年、大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。野生動物にあこがれて63年、北海道斜里郡小清水町農業共済組合・家畜診療所に獣医師として赴任、91年退職。66年からキタキツネの生態調査をはじめ、72年より野生動物の保護、治療、リハビリに無償で取り組む。映画『キタキツネ物語』の企画・動物監督、テレビの動物番組の監督も手がける。著書には、『子ぎつねヘレンがのこしたもの』偕成社(『子ぎつねヘレン』として映画化)、写真集『えぞ王国 写真 北海道動物記』、『野生からの伝言』集英社、『タヌキのひとり』新潮社、など多数。











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(2008年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第96号より)






96人生相談


近所づきあいが密で悩んでいます



2年前に実家近くで家を買ったのですが、この地域は40年前にできた新興住宅地で、近所づきあいが密で困っています。できる限り協力してるのですが、我が家は小さい子どものいる共働き夫婦のため、とても全部はできません。周囲の方々を不快にさせないように距離をうまく取る方法はないでしょうか?

(31歳/フリーランス/女性)





難しい状況の中、奥さんはホント一生懸命、よくやってるよ。オレも田舎で似たような経験があったけど、ケンカして出てきちゃった(笑)。

オレもね一度結婚してたんだ。うちのおっかーは、「あなたは目一杯働いてください。家のことは私がやります」というタイプ。ただ心臓が弱くて、地域の清掃とか力仕事になるとできない。

そんな時は「お父さん、日曜日は出れますか?」って、オレに聞いてきた。おっかーも近所の人に心臓が弱いことを話してたから、オレも気負いなく行けたし、逆に奥さん連中に「今日はいいよ。帰んなよ」なんて言われたりしてね。

そこで奥さん、何でこの家を買ったのか考えてみてごらんなさい。家族が幸せになるためだろう?奥さん一人ですべてを背負いこんだら、家庭内だってうまくいかなくなっちゃいますよ。旦那さんやご両親にも協力してもらったらいい。

旦那さんも「地域の運動会には、オレが子どもを連れて行くよ」ってことになるだろうし、そのうちに子どもが大きくなってきたら、「お母さん、玄関の掃除は私がやる」と助けてくれるんじゃないかな。


オレはね上辺だけのつきあいだったら、必要ないと思ってる。つきあいなんて、無理のない程度にすればいいよ。勇気が必要だけどさ、地域の人に「子どもに手がかかるから」「今日は仕事が忙しい」とか、できないことはきちんと理由を説明して話してごらんよ。

それでもわかってもらえないなら、地域の人が悪い。ただのイジワルじいさんとイジワルばあさんさ。家族が幸せにまとまることを考えればいいんじゃないのかな。


(東京/Aさん)







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(2007年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第75号より)






野生動物保護の鍵を握るのは、地元民・マサイの人々




アフリカの魅力に取りつかれ、
獣医になってマサイ族の牛の巡回診療をしながら、
アフリカの野生動物保護を考える、滝田明日香さん。
しなやかでたくましく美しい、「ノーンギシュ(牛の好きな女)」と呼ばれる滝田さんの生き方を紹介しよう。





1




ひたすらアフリカに住みたかった



野生動物の楽園というイメージが残るアフリカ、ケニア。うら若き女性、滝田明日香さんは現在ケニアのマサイマラに住み、獣医としてマサイ族の家畜である牛などの巡回診療をしている。だが、なぜ、日本人女性が、獣医として、しかもアフリカのケニアまで出かけ、マサイ族の家畜の診察をしているのだろうか?

”なぜ?“ ”どうして?“と、次々に問いが浮かぶ。

滝田さんは、父親の仕事の関係で6歳の頃からシンガポール、フィリピン、アメリカなどの海外で暮らす。アメリカで動物学を専攻するが、アフリカに魅せられ在学中にケニアに留学。その後、紆余曲折を経て獣医になったという異色の経歴の持ち主だ。

「小さい時に、日本の祖父から送られてくるビデオが『わくわく動物ランド』などの動物ものばかりだったのが影響して、昔から野生動物に憧れていました。特に巨大なアフリカ野生動物に憧れていました」と言う滝田さん。アメリカの大学に在学中は、動物学者になって絶滅の危機に瀕する動物を保護する活動をしたいと考えていたが、ケニアの野生動物マネージメント学校への留学で、その考えが一変する。




現地で野生動物保護などの状況を目の当たりにして、野生動物保護がただ環境保護をするかしないかという単純な論理では解決できないことを痛感した。保護区と保護区の周りのエコシステム、そしてそこに住む地域住民たち。すべてが保護策の中で取り入れられていないとどこかで摩擦が起きてしまう。自然と野生動物が種を残していく方法は、ただ一つ。「人間との共存である」との強い想いが、彼女を捉える。

その後、その想いを実現するためにアフリカに住みたい、そんな情熱が滝田さんをひたすら突っ走らせた。大学卒業後、ザンビアの国立公園に職を見つけるもののビザ問題で断念。2000年に、獣医免許を取るために25歳でナイロビ大学獣医学部に編入する。ナイロビ大学での授業は、かつて宗主国だったイギリスのスパルタ教育システムを踏襲する厳しいもので、滝田さんはここで徹底してしごかれた。


「勉強が大変でした。ずっと英語教育で理系の勉強をしていたので、語学の問題はなかったのですが、アメリカの教育制度からイギリスの影響を受けた教育制度に慣れなければいけなかったことが難しかったですね。アメリカの大学ではトップ5%に入る優等生だったのに、ナイロビ大学では赤点ギリギリでパスするのが精一杯なんですもの」




プライベートな時間もないほど猛勉強の末、卒業、05年に念願の獣医になるが、またしても厳しい現実が目の前に立ちふさがる。国立保護区の野生動物にかかわれるのは、ケニア国籍の獣医のみだったのである。だが、サバンナで仕事をしたいという彼女の思いは変わらない。悶々とする滝田さんに、「マサイの家畜診療をやってみる気はないか」という声がかかった。





2





マサイマラ国立保護区 総面積1672㎢の広大なサバンナ



滝田さんに家畜診療の話を持ちかけたのは、マラコンサーバンシー(非営利組織/マサイマラ国立保護区管理施設)のH氏だった。

ケニア西部に位置するマサイマラ国立保護区は、世界でも有名な動物保護区。総面積1672㎢の広大なサバンナでは、ライオン、チーター、ヒョウ、ゾウ、サイ、ヌー、シマウマ、バッファロー、エランド、トピなどの豊かな動植物を育む生態系が保たれている。隣接するタンザニアのセレンゲティ国立公園とはひと続きの生態帯で、毎年7月から9月にセレンゲティからマサイマラに移動する60万頭のヌーの大移動を見るために観光客が押し寄せる。

滝田さんは、マサイマラのサバンナの魅力を語る。「私はとにかく、サバンナと大空が好きなんです。360度に続く地平線が広がるサバンナ。そして、大きな白い雲が浮かぶ真っ青な大空。そして、その広大な自然の中で、野生動物たちが優雅に生きている。強く、美しく、逞しく、そして、時には残酷に自然のルールに従って生きている。そのすべてが大好きです」




マサイマラ国立保護区の土地は、もともとマサイ族の家畜の放牧地である。「マサイマラ」とはマサイ語で「マサイのまだらな土地」という意味を持ち、広大なサバンナの中に点々とある茂みを見て彼らがつけた名前だ。

マサイ族はこの地で、牛、ヤギ、羊などの家畜とともに、野生動物が生息するサバンナで共存しながら暮らしてきた。現在でも保護区周辺には7000人以上のマサイの人たちが住む。一家族平均100〜500頭の家畜を飼い、彼らが飼う牛の総数(東アフリカ・ゼブー牛)は2万頭以上にもなる。

マサイの人たちは、ナイロビなどで見られる急激に押し寄せる現代社会の変化などにはあまり影響されず、「牛は神様がマサイに授けた貴重な動物」という伝統的な暮らしに誇りを持って暮らしている。牛はマサイの財産であり生活の糧だ。

家畜により多くの牧草を食べさせようとするので、彼らの広大な土地はフェンスで囲まれず、野生動物はサバンナを自由に行き来できる。「そう、このマサイの人たちがいなければ、サバンナと野生動物たちは生きのびてこられなかったのです」と滝田さんは強調する。




後編へ続く


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(2012年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第194号より)





Sekaitanshin logo2012





中国、永康市が「ただ飯食い」の職員名簿を公開




浙江省永康市政府の新聞が、公共部門に在籍する就業実態のない名目職員に関する調査結果を発表した。192人の名目職員がいることが明らかになり、自らの恥部をさらす永康市の意外な行為とずさんな人事管理が大きな関心を集めている。

名目職員の中で最も多いのは病気を理由とするもので、23年間病欠のまま給料をもらい続けている職員もいた。また賄賂で服役中なのに給料が支給されていたり、退職して亡くなった職員の給料を家族がもらっているケースまである。こうしたことが可能なのは、管理する側も納得済みで見返りなど何らかのメリットがあると見られる。

在籍のみで給料は支給しないケースもある。年金受給資格などの特権を残してやり、給料は残った職員で山分けするので双方が得をする。

「ただ飯食い」の人たちは一般納税者より豊かな暮らし向きだという。彼らの給料の源は血税である。これは永康市だけではなく全国的問題であり、マスコミと世論による監視が期待されている。

(森若裕子/参照:永康日報、中国評論新聞、荊楚網)


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Sekaitanshin logo2012




台湾、映画ヒットで高まる セデック語人気



昨年、台湾映画史上最大の興行収益を上げた『セデック・バレ』は、ベネチア映画祭、大阪アジアン映画祭など海外にも出品され、高い評価を受けている。



この映画は、日本が台湾を統治していた時代に、圧政に耐えかねたセデック族が抗日蜂起した霧社事件が題材であり、事件で日本人約140人、セデック族約700人の死者が出たと言われている。

台詞のほとんどはセデック語である。出演者の多くは素人で、演技だけではなく、セデック語も学ばねばならなかった。主人公の頭目モーナ・ルーダオを演じた林慶台も本業は牧師である。タイヤル族の彼が最も苦労したのは、セデック語を覚えることだったという。

台湾政府が認定している先住民族は14民族あり、セデック族は人口約7千人、先住民族の中でも少数である。セデック語の消滅が危惧されていたのだが、先住民族以外にも、映画がきっかけでセデック語を学び、セデック族の村落を訪れるというような社会現象が広がっている。

(森若裕子/参照:亜洲週刊、今日基督教報)





(2012年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第194号より)







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なぜ結婚するのかわかりません。自分への投資を優先したい。



なぜ結婚するのか、わかりません。近ごろ、親戚のおばさんやおじさんに早く結婚しろとせっつかれています。僕にとっては、最新のスキルが必要とされるウェブ業界で働いているので、今は自分自身への投資や時間が最優先。月10冊以上本を購入したり、この春から土日は学校へ通って勉強するのに忙しく、結婚して家庭を維持するためのお金や子育ての時間に費やすのが、惜しくてたまらない。自分以外にお金や時間に使うと、自分の成長が止まってしまいそうでイヤなんです。

(会社員/27歳/男性)





この男性は、モテ系で魅力的だね。親戚のおじさんやおばさんから、「こんな素敵な彼なのに、何で彼女がいないんだろう?もったいない」なんて思われているぐらいなんだから。そして向上心があって勉強家。男の自分からみても、いい男だ。

彼が言うように、一人でも満たされるという気持ちはよくわかる。彼は結婚で自分の成長が止まってしまうのがイヤだというけれど、一人でいい仕事をしてもさ、いくら勉強しても限界がある。

実は結婚こそが人を成長させる。人は自分だけの世界にいたら、そこで世界が止まってしまう。自分たちホームレスはいろんな関係を絶ち切ってこうなった。いざ何かをしようと思ったとき、関係をつくっていないから、何もできない。世間と断絶されているとひしひしと感じることがある。




そもそも彼は、人間に対する好奇心が少ないのかもしれないね。自分の考えを率直におじさんやおばさんにぶつけられないみたいだし。そんな彼にとって結婚なんて、ハードルが高すぎるのかも。

まずは、人に興味を持つこと。そして、人を好きになることじゃないかな。同じ価値観や趣味を持つ人とだったら話しやすいだろう? 

土日に通っている学校なんてもってこいの場所だ。学校ではウェブの知識を身につけるのと同時に、人間関係を学ぶということをテーマにしてみてはどうだろうか?




ここに書いてないからよくわからないけれども、多分、彼にとって一番身近にいるご両親や友達カップルが、彼の理想とは違うのだろう。でも、結婚っていうのは人の数だけある。この人なりの家族や新しい結婚のスタイル、カップルというのを築けばいいんじゃないのかな。彼はそれができる人だと自分は思うよ。


はるか昔のことだけど、自分もちょうど彼ぐらいの年には結婚していた。今にしてみれば、息子のオムツを替えたり、子育てをしたことは、自分にとって必要な時期だったと思う。だけど人生って困っちゃうね。失ってみないとそのよさがわからないなんて(笑)。

(東京・O)




(THE BIG ISSUE JAPAN 第94号より)







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3月1日発売のビッグイシュー日本版210号のご紹介です。



スペシャルインタビュー デンゼル・ワシントン


新作『フライト』で、原因不明の急降下をした旅客機を、奇跡的に着陸させたパイロットを演じたデンゼル・ワシントン。117日に及んだという撮影の秘話、これまでの歩み、9・11後のアメリカ社会を語ります。



リレーインタビュー 映画監督 園子温さん


映画『愛のむきだし』で第59回ベルリン国際映画祭カリガリ賞、国際批評家連盟賞を受賞した、園子温さん。
最近では原発事故をテーマにした『希望の国』も話題になっていますが「今度、お笑い芸人に転向したい」と新たな野望を語ります。



特集 動く大地を生きる


動く大地の時代が始まりました。
日本列島は数十年から数百年に一度、とてつもなく大きな天災に遭遇していますが、1000年に一度の東日本大震災を機に地震の活動期に入りました。東日本大震災の余震や津波、首都圏の直下型地震、富士山の噴火、そして東海、東南海、南海の三連動地震が起こる可能性があります。
反面、活断層による地震は、平坦で肥沃な農耕のできる盆地や平野をつくってきました。また、火山は富士山のような風光明媚な風景、豊かな地下水、温泉という恵みも与えてくれます。だから、日本人はそんな地震や火山噴火など、災害の多い大地に住み続けてきました。
そこで、地震、活断層や火山の研究者、遠田晋次さん、渡辺満久さん、小山真人さんに話を聞きました。また、市民一人ひとりが楽しく参加できる防災活動を実践し提案している、渥美公秀さん、西川亮さんにインタビュー。
東日本大震災2周年。動く大地の上で、安心して暮らすための知恵を探ります。



CDレビュー 小林太郎さん


3年前、19歳でデビューを果たした小林太郎さん。メジャーデビューアルバム『tremoro』では、圧倒的な歌唱力で骨太なロックをシャウトします。誰もが認める才能、スターの道を駆け上がること必至の彼が、音楽に目覚めたきっかけ、今後の意気込みを語ります。



この他にも、「ホームレス人生相談」やオンラインでは掲載していない各種連載などもりだくさんです。詳しくはこちらのページをごらんください。

最新号は、ぜひお近くの販売者からお求めください。
販売場所検索はこちらです。

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前編を読む




有名ブランド企業が社会的企業とタッグを組む




井上0078
(井上英之さん)




アメリカでは、有名ブランド企業が社会的企業のアイディアとタッグを組むケースも多い。

その一つが、低所得あるいは非行などの問題を抱えた少年・少女に雇用機会と職業訓練を与えて、社会復帰のスキルを身につけさせる「ジュマベンチャーズ」(サンフランシスコ)だ。ジュマは、全米各地にアイスクリーム店舗を持つ有名ブランド「ベン&ジェリー」とのパートナーシップを実現して、少年・少女が販売するアイスクリーム店舗・売店を経営。また、サンフランシスコ・ジャイアンツやフットボールのフォーティー・ナイナーズの球団も連携して、球場でのアイスクリーム販売も手がける。




「ジュマでは、麻薬や売春、ホームレス状態に陥った少年少女に、働いてお金を稼ぐ居場所を与え、ビジネスのマーケットで生きる尊厳を得て、将来の自分に可能性を感じさせるんです」

また、「パイオニア・ヒューマン・サービス」では、犯罪受刑者や薬物・アルコール依存症者を対象に、ボーイング社と提携した部品組み立て工場やカフェなどを経営。工場はISO9002を認証取得するなど一般企業にも引けをとらず、補助金を一切受けない100%完全自立型NPOとして世界的モデルとなっている。




いずれも今やアメリカの社会的企業の代表格だが、実際に現地を訪れた井上さんは、その社会的ミッションに加えて、「NPOとは思えないおしゃれでカッコいいデザインに驚いた」と話す。
 
「ジュマのオフィスは、壁がすべてオレンジ色の空間。また、他の低所得者支援の社会的企業でも教育プログラムに使う部屋をクリエイティブルーム、コラボレーションルームなどと呼び、呼称一つひとつにアイディアがあり、デザインやアートの力で新しい発想を促そうとする意志が見えた。パイオニアでも、おしゃれなカフェで働く店長が言った『ビジネスらしいビジネス、NPOらしいNPOなんてカッコ悪い』との言葉が印象的で、社会的ミッションの素晴らしさだけでなく、デザインや言葉の力で人の気持ちを引き出し、共感させるビジネスクオリティの高さがあった」

そして、何より出会ってしまった社会問題に、独自の個人発想で挑む彼ら社会的企業家本人たちが魅力的だった、と井上さん。




「世界の常識をひっくり返して社会的インパクトを与える彼らはみんな何かを企んでいる顔をしている。その顔は、仕事が単なる切り売りになってしまったこの社会に、”そんな働き方をしてちゃダメですよ“と警告を発してるようにも見えるんです」

(稗田和博)




いのうえ・ひでゆき

慶應義塾大学総合政策専任講師、NPO法人ETICソーシャルベンチャーセンタープロデユーサー。ビッグイシュー基金理事。02年に日本初のソーシャルベンチャー向けビジネスコンテスト「STYLE」を開催するなど社会起業家の育成に取り組む一方、資金と専門性を社会起業に提供しあう「東京ソーシャルベンチャーズ」を設立。






(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)


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(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)





ゲーム感覚、オシャレ、カッコよさ…。ミッションの素晴らしさだけではないアメリカの社会的企業



日本の若手ソーシャルベンチャーの育成に取り組む、井上英之さん(慶應義塾大学総合政策専任講師)が紹介する、アメリカの注目すべき社会的企業。





途上国の小さなビジネスに、先進国の個人が融資



Kiva2007




「あっ、すごい! すごい!」

ノートパソコンの画面を見ていた井上さんが声を上げる。

「このニューヨークのジュアンさんは、今までに貸したお金が91%も返ってきてますね。アゼルバイジャン、メキシコ、エクアドル…。お金の貸し方をみると、どうも彼女はアゼルバイジャンに思い入れがあるみたいですね」

そう言って井上さんが夢中でページをめくるのは、途上国の小さなビジネスにオンライン上で小口融資(マイクロファイナンス)する「Kiva」(サンフランシスコ)。井上さんが今、最も注目している社会的企業の一つだ。




Kivaのホームページには、お金を借りたい途上国の人たちの顔写真やローン希望額がズラリと並ぶ。これまでに目標資金の何%が集まっているかも、メーター表示で一目瞭然。お金を借りたい人のほとんどが途上国の屋台など小さなビジネスだが、ジュアンさんのようにお金を貸したい人は、この異国情緒溢れる写真を見ながら気になる人をクリックする。すると、その人の家族構成や生い立ち、さらには今どのようなビジネスをし、借りた資金で何がしたいのかなどのライフストーリーを読むことができるため、それらの情報をもとにお金を貸す人を決めていくのだ。

貸与額は最低25ドルから。「JO-URNAL(日記)」というページには、借り手がそのお金でどんなビジネスをしたのか近況報告も書かれており、それを国籍も年齢もまったくバラバラの複数の貸し手たちが画面上でコミュニティを形成し、コミュニケーションしながら見守る、という仕組みだ。




「バングラデシュの貧困者に無担保・低金利で融資するマイクロファイナンスでノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行。その手法を採用する各国の金融機関と連携し、ネット上で借りたい人と融資したい人を1対1で直接つないでいる。貸す方にすれば1回の外食分程度の額だから、いろんな人に分散投資している人も多く、融資というよりもゲーム感覚。サイトもミクシィなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のようなコミュニティ感覚で、おもしろがりながら遠い国の誰かの小さなビジネスを応援できる。先進国と途上国の貧富の格差をうまく利用した社会的企業です」と井上さん。

どこの誰に使われているのかがわからない街角の寄付募金などに比べ、目の前の困っている人を直接応援することができ、中間組織のコストに使われる心配もない「透明性」が多くの人の支持を得ている、という。




これまでに世界約4万人が途上国の約5千人に総額330万ドルを貸付け、返済期間は平均1年、滞納率10%、返済率は実に100%近くをキープしているといわれる。

同じような仕組みは、ほかにもある。「プロスパードットコム」の場合は、途上国支援ではなく、「離婚の訴訟費用がほしい」など先進国の日常的な借り手のニーズも書き込まれ、金融機関を介さずにお金を借りたい人と貸したい人を直接結んでいる。

「いずれの場合も、安い利率で預金を集め、本当に借りたい個人には高い利子をつけて貸さない従来の銀行を飛ばして、借りたい・貸したい個人をつないでしまう、という発想がある。社会や世界のために何か自分ができることで貢献したいと個人が考えた時、身体と時間を使って奉仕するボランティアは大変だけど、小額のお金なら労力がいらない。こんなお金の使い方は、自分が支援したい応援したい社会に継続的に加担することができる民主的な最も身近な投票行為なんです」と井上さんは説明する。




後編へ続く


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