(2007年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第75号より ※肩書きは当時)




野生では見られない、野生動物の“凄さ”を伝えたい



2002年に約67万人だった入園者が06年には約304万人、
今や日本有数の入園者が訪れる旭山動物園。
園長の小菅正夫さんが語る、その人気の秘密と旭山動物園の哲学。






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(小菅正夫さん)




オランウータンの野性が20年のブランクを吹き飛ばしてしまった瞬間



「うわぁ!」
「すごい! すごい!」
 誰もがいっせいに空を見上げて、感嘆の声をあげる。びゅん、びゅんと、何ものかがものすごい速さで空を横切る。
「ペンギンって魚? それとも鳥だっけ?」
「鳥だよ。鳥」

 二人で仲良くやって来たカップルがそんな会話をしてるうち、ほらほらと指をさした先には、もうペンギンの姿が消えている。あまりの泳ぎっぷりに、こちらの眼も追いつかないせいだ。

「知らなかった。ペンギンってこんなに速く泳げるんだね」




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上空からはゆらゆらと日の光が差し込んでくる。この水中トンネルのなかに立っていると、自分は今、水のなかにいるのか、それとも宙に浮かんでいるのか、わからなくなってきてしまう。トンネルの足元が透明なせいもあるだろう。なにしろペンギンたちは、四方八方、水のなかを飛びまわっているのだ。

”君たち、ぼくたちがペタペタと歩いてる姿しか知らなかったんだろう?“

まるでそう言わんばかりに、1羽のペンギンがまたびゅんと、視界から姿を消していった。




「野生でも歩いているペンギンなんかを見たときにさ、ただヨチヨチ歩くだけでね、それでペンギンのすごさっていうのは感じないわけ。それが水の中に入ったとたんさ、ペンギンはああいうふうにして泳ぐために進化した鳥だというのがわかるでしょう?」

園長の小菅正夫さんはそう言って、ちょっと嬉しそうに胸を張った。

「そういうところをしっかり伝えるというのが動物園の役割で、逆にいえば野生では見られない。だけれど動物園でなら見えるという動物のすごさを伝えていくのがウチのやり方だと思ってるんですよ」




例えば、オランウータンのジャックが見せる「空中散歩」。

広島の動物園から引っ越してきたジャックは、もともと床の上で1日中ごろりとする生活を送っていたという。運動をすることもなかったので、体重はおよそ140キロあった。オスのオランウータンの平均がだいたい100キロぐらいなので、これはかなり太めといえる。

旭山動物園の「オランウータン舎」には、高さ17メートルの塔が2本立っていて、そのあいだに13メートルのロープが繋がれている。ここのオランウータンたちはエサを食べるために塔へ登っては、ロープを渡ってゆく。もし同じことを自分にやれと言われても、せいぜい塔によじ登った時点で気絶してしまうのが関の山だけれど、彼らオランウータンにとってみれば、これもなんてことはないという。ただ……

「いや正直ね、ぼくはジャックが来たとき、できないと思ってたよ。140キロだよ? 生まれて20年、高いところなんか登ったこともなくてね、床にずっと座っていてさ、あそこにいきなり登れるかといったってね」




小菅さんでさえ、最初はそんな心配をした。それでもある日、ジャックの方から行くといった。みんなの心配をよそに、ジャックが塔を登り始め、やがてロープを渡りきってしまったのだ。遺伝子に組み込まれた野性の力が、20年のブランクをも吹き飛ばしてしまう瞬間だった。




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初めての綱渡りのあとで、ピーナッツやぶどうを味わったジャック。それは彼にとってどんな味がしたのだろう?




後編へ続く


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(2012年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第190号より)





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南アフリカ、急成長するフェアトレード



南アフリカでは今、生産と消費の両面でフェアトレード市場が急成長しており、国内のフェアトレード製品売り上げ高は、09年の570万南アフリカランド(約6千万円)から10年には1840万ランド(約2億円)と、3倍以上に増加した。地元産のワインとコーヒーがその大部分を占めるが、すぐに他の製品にも広がっていくと期待されている。

NGO「環境モニターグループ(EMG)」によると、南アフリカのフェアトレードの特徴は、生産者の大部分が会社組織になっていることだという。

国際的なフェアトレード認証(FLO)を受けた団体が60あり、約1万2500人の農民が働いているが、小規模農家は3つのみで、他のアフリカ諸国とは際立った違いがある。FLO認証には、従業員が会社の株を25パーセント以上保持していることが求められる。

EMGは西ケープ州のルイボスティー農家を支援している。栽培技術に関する助言や融資手続きのサポートが功を奏し、150戸の小規模農家が有機フェアトレード市場への参入を果たした。

今では、農家は茶葉の精製を自分たちで手がけ、ケープタウンにある箱詰め工場の株を66パーセント保有するまでになった。EMGの次のプロジェクトは、北ケープ州オレンジ川沿いで、天日干しレーズンのフェアトレード認証を目指す農家を支援することだという。

(Sarah Taylor/参照: Fairtrade Label South Africa、 EMG)


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何でもかんでも教えてくれる上司に疲れています。




直属の上司は僕が何も知らないと思い込んでいて、とてもうれしそうな顔をして何でもかんでも自慢げに教えてくれます。黙って聞いていますが、本当は少し疲れています。以前、僕が上司の知らないことを説明したのですが、かなり気分を害したようすで、それ以来できるだけ上司に聞くようにしています。僕は今後も知らないふりを続けるべきでしょうか?
(30代/男性)





わしは23歳のときからずっと日雇いだから。会社に勤めたことはないです。全国の建築現場に行ったよ。もともとはすぐカッとくるほうだったけどな、現場では年下でも長い人が先輩。いろんな人がおるから、聞き役にもなり、言わなあかんことは言えるようになったな。

あとは監督。言われて納得のいかないことは、1回か2回は聞いて確認するんだよ。でもそれでも違うことをいったら「こうちゃいますか?」って聞く。たいていの場合は納得してくれたな。同僚と喧嘩してやめちゃった現場もあるけど、なんで喧嘩したのか、今となっては思い出せんよ。




50代まではなんとか楽しかったけど、バブルがはじけて生活が苦しくなってな。55歳すぎたら日雇いの仕事はないよ。

ビッグイシュー始めるまでは本を拾うのを一年くらいしおったんだ。夜中から朝まで歩いて15冊~20冊拾って、1000円になるかならんかだよ。足はぼろぼろになるしな。




今は楽しいよ。働くという気持ちがつながってきてる。毎日自分の売り場に立ってだな、どうして早く売ろうかとか、明日はどうして売ったろうとか考えるんだよ。

日雇いはその日払いだし、ずっとこの現場でやっていくって意識を持ったことがなかった。今まではそれでやりっぱなしだからな。ふんどしを締めてくれる人がおらんかったからな。ハハハ。

今はビッグイシューのスタッフがいて、仕事のこととかお金のこととか一緒に考えてくれるだろ?

ぜんぜん違う。




この人も、もっと上司ともっと話してみたらどうかな。まあ、それでどうしてもだめなら、違う上司を見つけるのもひとつの方法だな。

わしは今までやりたいほうだいしてきたけど、一人で立ってゆくのは大変だよ。

わしもずっと聞いているのはおっくうでだめなほうだけどな、いろいろと言ってくれる人がいるのは心強いよ。これはほんと、そう思っとるよ。

(東京・Y)







(THE BIG ISSUE JAPAN 第92号より)




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(2012年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第190号より)





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台湾、フェアトレードキャンパス(公平貿易校園)の試み



08年、台湾大学にフェアトレードのコーヒーショップが誕生した。学内でフェアトレード運動を推進しようと考えた学生が、フェアトレード店「生態緑」に出店を依頼して実現した。台湾初のフェアトレードキャンパスである。

コーヒーの他にお茶も販売している。経営的には楽ではないが、飲食店の入れ替わりの激しい学内で4年目を迎えた。「目的は売り上げより、フェアトレードの精神を広めることです」と「生態緑」の余宛如さんは話す。

台湾で初めて国際フェアトレード認定組織FLOの会員認定を受けた「生態緑」は販売だけでなく、講演などを通じて、貧困層が搾取される社会構造を変革していく運動を行っている。だが、学生は卒業してキャンパスを去っていく。精神をどう継承していくかが今後の課題だ。

最近、輔仁大学がフェアトレードショップの開店を計画中だという。学生自身が運営することで、運動に広がりが出るのではと期待されている。

(森若裕子/参照:女性電子報、生態緑blog)


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(2012年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第190号より)





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フランス、オーガニックショップが大賑わい




大手スーパーマーケットのコーヒーやチョコレートなどの売り場では、フェアトレード製品がかなりの部分を占めるようになったフランス。でも、その浸透度は米国や英国に比べ、高いとはいえない。

IPSOS社の調査によると、2000年の時点では、9割が「フェアトレードを知らない」と回答。08年には「知っている」が約8割に上昇するが、「1ヵ月以内に買った」のは4割弱だった。スーパーで購入する人が大半で、一番人気はコーヒー。

そして、シリアル、お茶と続く。別の調査(09年)では、フェアトレード製品に費やすのは年間4・40ユーロ(約500円)にすぎなかった。

農業大国フランスは、グローバル化による自国産業の衰退への懸念が根強く、ここ最近、〝地産地消〟の促進に躍起だ。さらに、生産地や生産過程の見える〝賢い消費行動〟への関心も高まっている。「大量消費社会」を批判するNGOなどが、勉強会や集会を積極的に開催し、消費行動の見直しを呼びかける。

「確かな品質」を求める消費者は着実に増えた。ビオ(=オーガニック)ショップは町のいたるところにあり、いつも買い物客で大賑わいだ。

フランスのフェアトレードは、そうした流れの一つに位置づけられている。ビオ関連ビジネス成長にともない、売り上げは急速に伸び、10年前の25倍に膨れ上がったそうだ。

(木村嘉代子/参照: IPSOS)










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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。


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91人生相談




夫の単身赴任が1年過ぎて悩んでいます



夫の単身赴任も1年が過ぎ、いつ帰ってこられるかもわかりません。週末に夫が帰ってきたときの、うれしそうな子どもの姿を見ると「私たちも赴任地へ行って
一緒にいるほうがいいのかなぁ」と思うのですが、今の仕事がとても好きです。どうしたらいいのかな。アドバイスをお願いします。
(30代/女性)





ホントは娘なんて自分で育てた覚えがない俺なんかが答えられないよね。俺は営業の仕事で支店の開拓を任されていたから、ずっと単身赴任状態。それこそ1ヶ月に1度家に戻れればいいほうだったからね。

女房は「お父さんは心配しなくていいからがんばってね」って感じで何も言わないし、その代わり俺も一所懸命仕事して、お金を渡して全部まかせてた。あのころはそういう面では不自由をさせていなかったし、全部ではないけど「すべて金さえあれば解決する」とどこかで思っていたんだ。よくなかったよね。




振り返ると、娘ともっと時間を一緒に過ごせていたらという思いは絶対的にあるね。娘のほうがむしろ気をつかって、いろいろとねだったりしないんだよ。こっちはたまにしか会えないから物を買いあたえてすませてしまったりしてね。

女房は娘が中3のときに亡くなったんだけど。とにかくものすごいショックだった。子宮がんで半年くらい前から覚悟はしてくれってお医者さんからも言われてたんだけど。

亡くなる10日くらい前から仕事もせずにずっとそばにいたよ。その後も仕事で家を空けることが多かったから、同居していた母親が娘を育ててくれたんだ。




やっぱりね、いつもそばにいて話を聞いてくれる人が子どもには必要。俺の親父は運送会社を経営していて、悪いことをしたらすぐにぼこぼこにされたくらい厳しい人だったけど、でも一番の先生でもあった。遊びも仕事もぜんぶ教えてもらったしね。




でも、この人は30代でまだ若いから、お子さんもまだ小さいんだろうし、毎週末会えるなら今はそんなに悩む必要はないんじゃない?

ただ、俺は娘と話ができなかったことを今も悔やんでいるね。彼女が日ごろどんな悩みをかかえて、どんな生活をしているのか知らないから、たまに話してもしっくりこないっていうか、何か聞かれても思いつきでしか答えられなくなっちゃうんだ。

だから、その後、彼女が高校を卒業して、結婚するときも、これだけは親として言っておきたいって事があるじゃない。でも、いまさら口に出せなかったよ。




ホームレスになって1年半だけど、娘とは、2年前の正月に会ったのが最後だな。俺のこともよく聞いてくれてね。よく曲がらなかったと思うよ、ほんとに。女房のおかげだと思うんだ。

(東京/K)




(THE BIG ISSUE JAPAN 第91号より)




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(2012年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第188号より)





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ドイツ、薬物依存症の里親のもとで少女が死亡



1月にハンブルクで11歳の女の子シャンタールちゃんが亡くなった事件が社会に衝撃を与えている。

シャンタールちゃんは実の両親が薬物依存症だったことから08年、市の青少年局の判断で里親に預けられたが、この里親の夫婦2人もまた薬物依存症で、メタドンを用いた薬物依存症治療プログラムを受けていた。

しかし市青少年局はこのことを把握しておらず、シャンタールちゃんは家の中にあった致死量のメタドンを、水と間違えて飲んでしまい死亡したと見られている。

シャンタールちゃんが亡くなる前に、実の父親に対して助けを求める手紙を書いていたことも明らかになり、里親選定にあたっての市の審査やアフターケアがずさんだったことが問題視されている。

一方、実の親がいながら、養育環境に問題があることなどから里親に預けられる子どもの数は年々増えており、青少年局の後見人役1人が担当する子どもの数は通常120人以上にのぼるとされている。

(見市知/参照:Welt)


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(2012年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第188号より)





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中国、共産党が警告 「党員は宗教を信じてはいけない」



中国共産党中央統戦部常務副部長の朱維群氏が党の機関誌で、宗教信者となっている党員がいる実態を危惧し、「党員は宗教を信じてはいけない」と警告した。

警告の理由は三つあり、一つはマルクス・レーニン主義の指導的地位が揺らぐこと。二つ目は党員が宗教組織の指導者となって宗教団体の力が増大すると党の分裂を招くこと。三つ目は党員が宗教の代弁者となるのは必至であり、特定の宗教の優遇は平等を欠くこと。

実際、地方では寺院改修などの政府の宗教的業務に宗教団体が関与し、混乱を招いているという。

だが、一般の国民には憲法で信教の自由が認められているので、矛盾を指摘する声が党内外からあがっている。朱氏は最後に伝統的宗教の影響が強い少数民族居住地では、党員は風習などに柔軟であっても、思想上は迎合してはならないと締めくくっている。

(森若裕子/参照:求是、中国共産党新聞網、Voice of Tibet)


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前編<100万円で家を建てる!小笠原昌憲さんに聞くセルフビルド(1/2)>を読む

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もと陶芸家の渡辺さん小笠原流指南を受け大工さんに転職



そんな小笠原さんの言葉に突き動かされて、家ではないけれど、実際に工房を建ててしまった人がいるというので会ってみたくなった。

全国各地を転々とし、もともとは陶芸家を目指していたという渡辺光則さん。実家に帰るときになって「どうせなら自分の工房をつくりたい」と考えた。そこでさまざまな本を取り上げてみたものの、どうしても自分でできる気がしない。そんなとき、たまたま見つけたのが小笠原さんの本だった。




「宣伝するわけじゃないんですけどね、この本は素人に向けて、一から十まで丁寧に説明がしてあるんですよ。痒いところに手が届くようだったんです」

一番難しかったのは「やるぞ!」と一歩を踏み出すまで。やり始めてしまえば、あとはどうにかなってしまうものだった。実際にやってみなければ「何がわからないのか」さえ、わからないのだ。




「小笠原さんが勧める在来工法は屋根が先にできあがるんです。そうしていったん屋根さえできてしまえば、あとはいくらでも自分のペースでできるんですよ。それこそ土日休みしかない人もできるし、1年放っておいたっていい」

この経験で家づくりに目覚めた渡辺さんは、その後大工に転職してしまったのだから、人生何が起こるか本当にわからない。

「やんなきゃ損ですよ。単に建物が残るっていうだけじゃなくて、自分でやったという達成感がなによりの宝なんです。こんな充実感はない。お金を出したって買えないですよ。こういう自信は人生の他の面でも絶対活きてくるはずなんです」




こんなふうに家づくりが素人にもできてしまう理由の一つは、冒頭のどうして100万円に道具代が含まれていたかの話につながる。

これまではプロの大工でしかできなかった仕事が、カクノミなどの機械を使えば、素人でも簡単にできるようになったのがその秘密だ。




さらに、家づくりが女性でもできることを証明するため、小笠原さんは現在、女性限定の家づくりプロジェクトを進めている。そのなかのあるやりとりがおもしろかった。

えらい正直な女性が一人いてね。『なにが悲しくて私は自分の家を建てなくちゃいけないのよ!』って。だけどそういうふうに考えている人は、結局お金のある相手にぶらさがるしかないんだよ。一人でも家を建てられるような女の人にはたくさん男が寄ってくるんだよって言いたいのをぐっとこらえて、のどまで出かかるんだけど、いつも飲み込んじゃうんだなぁ」

もし100万円の家を建てられたら、きっといろんなものが余ってくるのだろう。お金、時間、そのための労力……。あなたはそれでまたお金を稼ぐ? 小笠原さんの答えはこうだった。

「ボランティアって言葉は好きじゃないんだけど、その余った時間でさ、みんなが助け合えるような社会になれたらいいよねぇ」

家づくりの魅力は、そんなところにもある。




(土田朋水)
photo:高松英昭
写真提供:小笠原昌憲





小笠原昌憲(おがさわら・まさのり)
1953年生まれ。神奈川県で自然食品店を営んだのち、所持金8万円とわずかな工具だけを持って千葉県へ。平飼い養鶏のかたわら、入るお金が少ないのなら出るお金も少なくすればいいと、自給暮らしのための家を建て始める。そこから得たノウハウを『100万円の家づくり』(自然食通信社)にまとめた。

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