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なぜ密猟者が現れるのか

なぜ密猟者になるか、どのような人が密猟しているかというと、まず、その土地の生活が苦しい人の全ての人が密猟者になるわけではないんですね。スラムでも真面目に働いている人はたくさんいます。真面目に働いている人のほうが多いです。

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ただ、1キロ1万5000円という値段に魅せられて密猟者になる人もいるんですね。この金額はレンジャーの一番下の階級の月収くらいなんです。1頭で13キロ位の象牙が手に入るので、一頭で年収分が稼げてしまう。地に足が付いていない人は一攫千金に魅せられて手を染めてしまうんですね。ちなみに、2013年のアジアの闇市の取引値段は1キロ30万だと言われています。


繁殖への悪影響:人間と似ているゾウの文化

アフリカゾウにこの密猟の何が一番の影響を与えるかというと、繁殖への影響ですね。アフリカゾウは35歳から40歳以上にならないとオスは繁殖に適していないんですね。体が大きいほどメスにとっては魅力的なので、20歳くらいのゾウと40歳のゾウでは、若いと、体が半分くらいの大きさなので、どう頑張ってもメスに相手にしてもらえない。でも国立公園のゾウの平均寿命はオスで18.9歳。

一番象牙が大きいのは年をとったオスです。だから、一番最初に狙われるのがオス、種としての種がなくなってしまう。そういう影響が出ます。メスの場合はメスだけで群れを作ります。全て家族で固まっているんですが、メスの群れの中でも問題なのは最初に殺されるのはリーダーの高齢のメスなんですね。おばあちゃんのゾウがいなくなると群れ自体の生存率がすごく下がってしまう。

なぜかというと、おばあちゃんは乾季でも枯れない水の場所を知っていたり、水場に辿り着くまでに人間を避ける知恵があるんですが、何年もかけて娘のゾウに教えていかないといけないのに、それができなくなってしまう。そうなると人生経験の浅い10代の若いゾウが群れを率いることになるので、群れの生存率が下がってしまうんですね。

ゾウは15年かけてサバンナでどう暮らしていくかを親が子に教えていく生き物なんですね。人間と似ているのは子供を産んだら、おばあちゃんのゾウが若いゾウに子供の育て方をガイダンスするんですが、小さいときに親を亡くすると、若いゾウが子供を死なせてしまうといった、次の世代への影響があります。


「紛争象牙」:軍資金になる象牙マネー

では、アフリカゾウ以外の影響ですと、「紛争象牙」という言葉があります。この象牙マネーから紛争の軍資金になっていることが多いんですね。これは昔から行われていて、たとえば南アフリカで軍隊の遠征をナミビア、ボツワナ、ジンバブエに出すときに、地雷で死んだゾウの象牙を持ってきて、それが「ブッシュキャッシュ」として使われていたんですね。

それが最近は、色々なアフリカの紛争や虐殺を繰り返しているグループに悪用されていることが国連の調査で分かりました。ナイジェリアで少女たちを誘拐・虐殺している「ボコ・ハラム」、スーダンの「ジャンジャビート」、コンゴの「神の抵抗軍」。彼らは子供を誘拐して、チャイルドソルジャーとして兵士になるように訓練しているんです。ケニアに影響してくるのは隣国ソマリアのイスラム過激派の「アルシャバブ」。

彼らはケニアの「ウェストゲート」というショッピングモールで67人の人を射殺したんですが、実は私の同僚もその現場にいました。私もたまたま、ここに行く約束があったんですが30分遅れてしまったので現場に行かなくて済んだんです。私の友人とその友人の友達に会いにいくはずだったのですが、友人の友達は射殺されてしまいました。

テロリストのケニアへの攻撃ですが、2007年には10件以下だったんですが2012年には100件以下にまで増えてしまいました。彼らの活動資源として、やはり象牙で得た収益というのがあるんですね。

どのような物が違法に象牙を出すのに必要かというと、国立保護区の管理施設などのコネクションがないと難しい。管理外なら必要ないですが。他にも警察、政治的なコネクションや国際的な港のコネクション、そして最終目的地の港のコネクション。

そうでなければ7トン、8トンのコンテナを違法に出すことは不可能です。アフリカで逮捕されている犯罪組織のコネクションはほとんどが中国で、ベトナムの犯罪組織も多いですね。90年代はアフリカ大陸に中国の影響はないんですが、2011年には中国が色々な道路などのインフラを整えたりだとかで、中国の進出が増えて、ポジティブな面とは裏腹に犯罪組織の浸透もあったんですね。


日本、中国で消費される象牙

2002年に押収された、ある象牙の流通ルートの調査したところ、シンガポールで見つかった7トンのうち6.2トンが加工されてない象牙だったんですね。DNA鑑定でザンビアから来たものだと分かっています。お土産屋で梱包された後にモザンビークに行って、海を渡って南アフリカに行き、シンガポール。その時はシンガポールで押収されたので辿り着かなかったんですが、このルートの最終目的地は日本だと言われています。

中国は最大の象牙消費国となっていますが、40年前には、当時の日本が象牙の消費量でトップでした。その時、日本は象牙消費量の2/3を占めていました。40年後の今、同じようなことが中国で起きています。

象牙には「違法象牙」と「合法象牙」がありますが、「合法象牙」は自然死したゾウのものや、密猟者によって殺されたけれど、象牙が残っていた場合などの象牙を指します。この象牙の取引は日本が2回、中国が1回やっていて、日本は1回目は50トン、2回目が36トンの購入取引をしています。


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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。


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90%以上が密猟で殺されている:象牙の密猟問題

ここ10年、15年でアフリカのあらゆる国で野生のゾウの絶滅が始まっています。今、アフリカゾウは何頭いるのかというと、2012年のレコードだと43万頭です。データによって47万頭だったり60万頭だったりして、なぜこんなに数字がまちまちなのかというと1970年以降にアフリカ大陸全土の母体数チェックをしたことがないんです。

でも、人間の土地が広がり、野生動物の住む土地が減っているので、ゾウたちが増えているということはほとんどゼロですね。アフリカゾウの数は47万頭以下なのか?というのを調べるプロジェクトが2014年の2月からスタートしていまして、46人のゾウの科学者が集まって、アフリカ全土でどれだけゾウが残っているのかを調べています。

ではアフリカゾウはどのくらい死んでいるのかというと、2013年で違法に殺されたゾウですと、42の生息地で2万2000頭。別の調査結果ですと4万頭。数えられていない生息地もあるので、もっと殺されているゾウがもっといるんじゃないかと思っています。

取引のトラフィックから見ると、象牙の取引のコントロールなどのモニタニングをしている団体が2013年に出した欧州象牙の合計が41.5トンです。これは2011年の時点の倍になっています。

アメリカの警察では、何かが押収された時、それは実際の違法取引の10%だということがよく言われていますが、これに単純に当てはめてみると400トンの象牙が世界中を回っていることになります。これは計算すると、5万頭のゾウが死んでいることになるんですね。

ゾウが減る原因として大きいのは、ゾウが住める土地が毎年どんどん小さくなっていることです。そして居場所をなくしたゾウが人間の土地に近付いていって、人間との衝突が始まり、ゾウが農村の畑を荒らし、違法に殺されることが頻繁に起きるんですね。

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PIKEというデータがあります。これは違法に殺された、密猟されたゾウがその年に死んだゾウの何%かを示すものなんですが、西アフリカですと人がたくさんいるので、野生動物の生息地がなく80%となっています。中央アフリカだと90%です。90%が密猟で死んでいます。東アフリカで60%、南アフリカで50%。私が働いているマサイマラですと職業柄、死亡率を政府に提出する仕事も手伝っていますが、レコードを見ると93%が密猟で殺されています。

ゾウが畑に入ると、住民が畑や家畜を守るために殺します。ゾウは賢いので仲間のゾウが人間に殺されると覚えていて、復讐でまた別のゾウが人間の家畜を襲うということもあるんです。その衝突が多くなってしまうと、密猟者のグループが入って象牙目的の密猟を始めたとき、地元住民が密猟者をレンジャーに通報することが少なくなっていくのが問題なんです。

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国立公園内ですと、すぐ追手がつくので、保護区の少し外(5km~10km)でゾウが頻繁に殺されています。ケニアの野生動物の生息地ですけど、全体の30%は国立公園の保護区に住んでいますが70%は保護区外の地元の人の土地の中に住んでいます。

何を使って殺すかというと一番簡単に殺せるのは銃ですね。5~6万の違法銃器がケニアで出回っています。保護区外で銃声が聞こえない場所では銃を使いますけど、保護区内ですと毒矢ですね。毒性植物をぐつぐつと煮て、毒草を入れて、作るんですね。

タンザニアで流行っているのはフットトラップというものですね。ゾウが踏みつけると、ゾウの血液に毒素が回って死んでしまう。毒入りカボチャやスイカ、最近ではキャベツもありますね。ジンバブエでは青酸カリを水場に巻かれて他の動物も含めて300頭死んだということがありました。


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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。2014/6/6に実施した「アフリカケニアで野生動物と生きる~滝田明日香さんを囲む市民の集い」の内容を書き起こしましたので、読者のみなさまとご共有させていただきます。アフリカで動物を保護するために奮闘する滝田さん。貴重なトークとなっておりますので、ぜひお読みください。


滝田明日香さんが語る「マサイマラ国立保護区」での仕事

滝田明日香さん:こんにちは。まず、象牙の話をする前に私がどこで何をしているかというところから説明をしたいと思います。

私は今、マサイマラという国立保護区で働いています。この保護区ですが管理施設が2つありまして500平方km(屋久島とほぼ同じ面積)を管理している「Mara Conservancy」という管理施設で働いています。密猟対策チームの一員として働いています。

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現在は、犬を使った野生動物保護の仕事もしています。

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具体的に言うと、たとえば、疫病コントロールなどが挙げられます。セレンゲッティとマサイマラで、1994年に犬型ジステンパーの突然変異型のウィルスが蔓延して、当時、保護区のライオンの30%にあたる1,000頭のライオンがウィルスに感染して死んでしまったんです。そこから、犬にワクチンを投与して肉食獣の命を守るというプロジェクトが始まりました。

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タンザニアのセレンゲッティの国立公園の延長線となるマサイマラで私のチームが年間2006年には3,200頭、2008年までに8,600頭、2009年から2014年現在までには6,000〜7,000頭の犬にワクチンを投与しています。

あとは狂犬病ですね。なぜジステンパーウィルスだけでなく狂犬病もやるかというと、地元の人もマサイの犬から感染するという被害がとても多いんです。

私たちがライオンとかヒョウの動物の名前を聞くと、サファリのすごく優雅な動物のイメージを浮かべますが、実は地元の人からすると必ずしも優雅ではなく、ときには害獣なんですね。

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たとえば、ライオンが家畜の牛を殺したり、ヒョウがヤギやヒツジの小屋に入ると、食べるのは1頭でも20頭〜30頭近く殺してしまうことがあります。肉食獣に対するダメージをどうコントロールしていくか、どうやって野生動物と人間が共存していくかなどを考えています。

肉食獣の対策としてフェンスを使用することもあるのですが、私が提案したのが「牧羊犬」でした。アナトリアシェパードという牧羊犬なんですが、ナミビアでチーターに農場の羊やヤギが襲われないように使われているという話を聞いたときに、マサイマラでもライオンやヒョウに使えないかと試してみたんです。

ただこれは、犬自体は家畜を守ることができたんですが、犬の餌代が高すぎるということで上手くいかなかったんです。ですが、一回も野生動物から攻撃を受けていなくて、1頭も家畜が死んでいない、さらにゾウも家の近くに近寄らせないという、とても良い成功例となっているので、もう一度マサイの人とこれをできたらいいなと思っています。

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次に犬を使って保護区の中で何か役に立つことができないかと考えたときに追跡犬ユニットというユニットを結成しました。

これは泥棒や密猟者が逃げた後に足跡の匂いを追跡することを教えた犬なんです。例えばアメリカのドラマの「プリズンブレイク」で刑務所から逃げた登場人物たちを犬を使って追跡するというシーンがありますが、それと同様に逃げた密猟者を捕まえることができます。

私の犬は12時間くらいのトラッキングができるので、その追跡能力を活かして、ワイヤー罠を使っている密猟者を捕まえられないか、というプロジェクトを立ち上げました。

7月から10月にヌーの大移動というのがあるんですね。この期間にヌーの肉とシマウマの肉を干肉として捕りにくる密猟者が大量に現れます。この時期は、1日300〜350個といった大量のワイヤー罠をレンジャーが回収しています。

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ブッシュミートに関しては、最近は商業化していて、たとえばナイジェリア(西アフリカ)のブッシュミートの市場だとゾウの鼻、ゾウの耳、ハイエナの頭、チンパジーなどは家畜より高めに取引されているんです。

ブッシュミートを獲る人たちを捕まえるために追跡犬ユニットを始めたんですが、これを始めてから国立保護区の外にも頻繁に呼ばれるようになったんですね。特に、5年位前から象牙の密猟の現場によく呼ばれるようになりました。

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私の職場から10km離れた森で起きたんですが、ゾウが頭から切られて持っていかれてしまいます。私の追跡犬ユニットは、こういう現場に誰よりも先に現場に入らないといけないんです。なぜなら追跡犬たちはレンジャーの足跡か密猟者の足跡か区別がつかないので、一番最初に現場に入らないと分からなくなってしまうんです。

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象牙の密猟者の問題に対して犬も導入できないかということで、一昨年に象牙と銃器の探知犬ユニットを作りました。

この子たちはライフル、自動小銃・手榴弾、ピストル、そして象牙を探知するトレーニングしてます。どのように使うかというと、例えばケニアはテロリスト攻撃が多くて、今しょっちゅう爆破事件が起きているんですけど、その爆破事件を起こしているグループが国立保護区に入ってこないようにゲートに車のスクーリニングとして使っています。

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それ以外だと、密猟の現場に呼ばれたときに、まず追跡犬をスタートさせて彼らが追跡始めて現場を去ったあとに、この探知犬ユニットが周囲を探知して証拠品を拾うために活躍しています。

通常、密猟された象牙をそのまま持っていくことはないんですね。密猟者たちはゾウを殺して、夜に穴に埋めたり、木を被せて、どこかに隠すんです。この子たちは、そういう怪しそうな場所を探知しています。

他にも、私はくくり罠にはまったゾウの治療のアシスタントであったり、罠にかかったゾウのワイヤーを外す仕事であったり、密猟孤児となったゾウの輸送などの仕事をしています。


part.2に続く




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編集部より:稲葉剛さんの公式サイトから、ビッグイシュー基金スタッフの瀬名波雅子との対談を転載させていただきました。


ビッグイシュー販売者の路上脱出を応援したい!対談:瀬名波雅子さん(ビッグイシュー基金)×稲葉剛


稲葉:今日はお越しいただき、ありがとうございます。ビッグイシュー基金の瀬名波雅子さんとの対談を始めたいと思います。実は本日対談するこの場所はですね、今朝からみんなで大掃除をやっていたのですけども、私が新しく立ち上げた新団体「つくろい東京ファンド」で開設するシェルターの一部屋になっております。

瀬名波:ねぇ、なんかすごいいいお部屋! 住む方も喜ばれるんじゃないですか?すごいキレイ。

稲葉:みんなできれいにしたんです。

瀬名波:私、初めてお邪魔したので、ちょっとあとで撮影させてください。

稲葉:まず最初に、瀬名波さんがビッグイシューに関わるきっかけとか、動機を伺えればと思います。

瀬名波:そうですね、2006年に大学を卒業し、一般企業に就職したのですが、その頃から一般企業かNPOに就職するかですごく悩んで、結局一回は企業に入ろうと思い、新卒で企業に入りました。

会社の仕事はすごく楽しかったんですけど、やっぱり何か自分の思いに近い仕事をしたいなと思っていた頃、ちょうど2011年3月に東日本大震災が起きて、私はその時ビルの12階にいたのですが、大きな揺れに驚いて「死ぬかも」と思いました。その時にすごく後悔したのが、自分がやりたいなと思った仕事を選ばなかったことだったんですね。いつまで人生が続くか分からないって考えたときに、ずっと興味のあったビッグイシューのような仕事をしたいと。 もともと海外の貧困に興味があったので・・・

稲葉:学生時代から海外の貧困に興味が?

瀬名波:そうですね、結構バックパックで一人旅とか・・・。 留学や国際協力のNGOとかで海外に行くことが多く、学生時代は正直日本の貧困問題にはあまり目を向けていなかったんですけど、会社に入って、湯浅さんの「反貧困」を読んだことや、あとは身近な友達がふとしたきっかけで困難な状況に陥っていくのを見ていて私も考え方が変わっていきました。日本の貧困問題に関心をもつようになり、2011年、ちょうど求人があったビッグイシューの門を叩いたということになります。この八月で丸三年になります。

稲葉:ビッグイシューには有限会社ビッグイシュー日本と認定NPO法人ビッグイシュー基金の二つがあるのですが、この動画をご覧になっている方にはよく分からない方もいらっしゃるかもしれないので、ちょっとビッグイシューの仕組みについて説明していただけますか?

瀬名波:はい。 ビッグイシューというと、ご存じの方はおそらく「雑誌販売」の仕事と認識される方が多いと思います。大きな駅などで目にされた方もいらっしゃると思います。

まず、「有限会社ビッグイシュー日本」と、「NPO法人ビッグイシュー基金」のざっくりした仕事の違いは、雑誌を制作することと、ホームレスの方たちに雑誌を販売するためのサポートをするというのが有限会社ビッグイシュー日本の仕事になります。なので、多くの方が認識されているのは、有限会社ビッグイシュー日本が行っている事業なんです。NPO法人ビッグイシュー基金の方は、ホームレスの方たちの生活、仕事など自立に向けた相談ですとか、あとは「路上脱出ガイド」という小さな冊子をもやいさん達と協力して作ったり、「若者ホームレス白書」を作ったりということをしています。

有限会社ビッグイシュー日本は雑誌を制作しているんですが、今年の4月からそれまで300円だった雑誌を350円に値上げしました。販売できる方の条件をは、ホームレス状態にある方のみに限定している雑誌です。一番はじめに販売希望の方がいらっしゃったときに、10冊雑誌を無料で差し上げて、その売上げ(3500円)を元手に次に販売する雑誌を一冊170円で仕入れてもらう。なので、雑誌1冊の定価350円の雑誌と仕入れ額170円との差額である180円がホームレスの方の収入になるという仕組みです。

NPO法人ビッグイシュー基金の方は、ホームレスの方々の、仕事を探したい、家を探したいなどという要望があったときのサポートの他に、リーマンショック前後で急増した若者ホームレス問題に取り組んでいて、「若者ホームレス白書」や「社会的不利・困難を抱える若者応援プログラム集」を発行していたり、いろんな分野の団体の方たちとつながりながら、サポート体制を探っていっています。また、住宅政策や若者政策の提案なども行っています。すごく簡単な説明なんですけど。

稲葉:あと、文化・スポーツ活動も。

瀬名波:そうです。 文化・スポーツ活動もビッグイシュー基金の活動の一つです。毎年どこかの国で行われているホームレスワールドカップですとか、最近公演も増えてきたダンス・ソケリッサですとか、英会話クラブが始まったり…。大阪の方では野球が盛り上がっていたり、販売者さんが町を案内する「歩こう会」とか…。販売者さんが主体的に楽しめる活動を応援しています。その「楽しめること」が生活を立て直すときにふんばれる力になると考えているので、販売者の方を中心とした文化・スポーツ活動の場を大事にしています。

稲葉:ビッグイシューの販売が始まったのは2003年?

瀬名波:そうですね、有限会社ができたのは2003年ですね。

稲葉:最初、大阪で始まって、その後東京でも始められたんですよね。私、よく覚えていまして。私自身は1994年から新宿を中心にホームレスの人たちの支援活動をしてきて、いろんなところでホームレス問題について講演をしていたんですけど、時々講演の参加者から、海外ではホームレスの仕事を作るストリートペーパーってありますが、そういうのが日本にもできないんですか?という質問を90年代から何回か受けていたんです。

私は「いや、それは結構難しいんじゃないですか?」って答えていたんです。というのも、以前はホームレスの人たちに対する偏見が非常に強く、ストリートペーパーを売るってことは、人前で自分がホームレスであることをさらけ出すということで、なかなかそういう一歩踏み出すような勇気は日本の社会だと持ちにくいのではないかと。自分がホームレスであると知られてしまうことになりますので・・・。あと、日本で販売したときに、どれだけの人が買ってくれるんだろうと。

非常に有意義な取り組みだとは思うけれども、日本でビッグイシューのような事業を始めるのは難しいのではないのでしょうか?という話をしていたんですよ。それが、佐野章二さんが大阪で始められて、その後東京でも始められた。「え、やるんだ!」とすごくびっくりしたのを覚えています。


瀬名波:
91年にイギリスのロンドンでビッグイシューが生まれて、世界各地でストリートペーパーの前例はすでにあったんですね。ですが、日本で始めると言った時、主に4つのむずかしさが指摘されたそうです。まず、日本は道でものを売るという文化がなかったこと、次に、若者の活字離れがすでに進んでいたこと、そしてネットで情報が無料で手に入る時代になったこと、最後に、ホームレスの人たちから物を買う人たちがいるのだろうか?という疑問。なかなか難しいものはあったと聞いているんですけれども、いろんな創意工夫とエネルギーで起業して今に至ると。昨年、ちょうど会社の方は10周年を迎えました。

稲葉:東京で販売が始まったときには、私も当初かかわっていた新宿の炊き出しの場に販売者の勧誘に行ったことが・・・(笑) あとは、販売が始まってからは講演会などでもいつもご紹介させていただいています。ビッグイシューが定着するかどうかが日本におけるホームレス問題の一つのリトマス試験紙になるんじゃないかみたいな話をよくさせてもらっていました。まぁ、でもそれが定着して10年以上続いているというのはすごいことだなと。

瀬名波:ありがとうございます。経営的にはなかなか厳しいところがあるんですけどね。

稲葉:それで、実際に売ってらっしゃる販売者さんの生活の状況、収入の状況というのはどれくらいになるんでしょうか?

瀬名波:今、ビッグイシューは1日と15日の月2度、雑誌を出しているんですけど、平均して一人大体一号につき200冊くらいの売上げですね。収入でいうと、月に6万後半から7万前後の収入ですね。大阪などはドヤの数も多く、値段もとても安いのですが、東京の場合はネットカフェでも一泊1500円とかしますので、今回の稲葉さんのシェルターのようなところがあったら本当にいいのにという希望がありました。

平均7万円っていう金額は、どういうふうに見るかだとは思うのですが、もう少し販売をがんばって、安価な住まいが確保できれば何とか自分で生活できていけなくもない金額です。住まいが安定すれば、安定した販売につながる面もあると思うのですが、東京の住まいの問題はとても深刻ですね。

稲葉:私も「もやい」でいろんな人の保証人や緊急連絡先になっていて、何人かビッグイシューの販売者のサポートもしてきたんですが、販売者さんの中には10万円以上の収入がある方もいらっしゃるじゃないですか?だから、2万とか3万の安いアパートだったら払えるという人はいらっしゃるんですが、どうしても初期費用・・・敷金、礼金、不動産手数料等が払えないというのが大きなハードルになっているんじゃないかなと感じます。

瀬名波:そうですね。あと、現住所がないということで、身分証明書が持ちづらいんですね。家に入るにしても、現住所がないことがハードルになる方も結構いらっしゃいますね。

稲葉:このたび、クラウドファンディングでお金を集めている(住まいのない人が安心して暮らせる個室シェルターを作りたい! – クラウドファンディング MotionGallery/モーションギャラリー)このシェルターは、「あわやハウス」と名付けたんですが、8部屋の個室を作って、うち2部屋につきましてはビッグイシューの方専用にしようと思っています。実は、今いるこの部屋がそうなんですが。(笑)

ビッグイシューの販売者さんであれば、月3万円くらいなら家賃として払えるのではないかと。で、いったんそこに入っていただいて、お金を貯めるなり、あるいはいったん住民票をここに置けば仕事も得やすいのではないかと思うんですね。そしてゆくゆくはアパートに入れるように支援していければと思っているのですが、手前味噌なんですけど、どうでしょうかね?


瀬名波:ビッグイシューの販売者にお部屋を貸していただけると伺った時に、ビッグイシュースタッフの間でも、「ならば、どうやってその部屋を利用しようか?」という話になったんですよね。

私たちが目指すところは、ビッグイシューの仕事や基金の活動を通して、自分でチャンスを掴んで、チャンスを活かして生きていく基盤を整えるということでやっていますので、販売者の中でもアパートの入居を現実的に考えている人に入っていただきたいなと思っているんですね。

先ほどもお話ししたように、路上生活からそのままアパートに入るのはむずかしく、すごく販売を頑張っていても、初期費用が貯まらない、現住所がなく大家さんに断られてしまう、あとは保証人が立てられないなどで、アパート入居のハードルがとても高いです。

なので、あわやハウスはアパートに入る前のステップハウスとして準備をするために使っていただきたいなと。ここに入っている間に現住所を設定したり、初期費用を貯めたりして、あとは実際に暮らしてみることによってシュミレーションができるというか、自炊してみたりとか、いろんな生活面での準備もできるかなと思っているので、私たちもすごく楽しみにしているところがあります。

屋根のある、自分の部屋と呼べるところに住む安心感が、ビッグイシューの販売やその後の就職活動をがんばれる基盤になるといいなと思っています。

稲葉:ありがとうございます。これまでも「もやい」でいろいろなプロジェクトをご一緒してきましたが、今後はこのシェルターも活用しながらホームレスの方々のサポートをしていきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。

瀬名波:ありがとうございました。


稲葉剛公式サイト » ビッグイシュー販売者の路上脱出を応援したい!対談:瀬名波雅子さん(ビッグイシュー基金)×稲葉剛より転載)

関連リンク:

稲葉剛公式サイト

つくろい東京ファンド~住まいのない人に安心して暮らせるシェルターを!




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こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。現在路上で発売中のビッグイシュー日本版248号から、読みどころをピックアップしてお届けします。


「妊娠しても頼る人がいなくて、援助交際を続ける子もいます」

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本日ご紹介するのは、「シリーズ 若者支援の現場」から10〜20代の女性を支援する「BONDプロジェクト」代表の橘ジュンさんのインタビュー。

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BONDプロジェクトはもともと、女性支援の一環としてフリーマガジンの「VOICES」を発行したことからスタートしています。

「いきなり困っていないかと聞くよりも、『VOICES』を見せて取材させてほしいと言ったほうが話してくれる子は多い。私の名刺みたいなものですね」と橘さん。加えて荒川区の路上で「生きづらさ」についての街頭アンケートを行うなど、10代・20代の女性への声がけを定期的に行ってきた。

こうした活動を通して、若い女性が抱える深刻な「生きづらさ」が浮き彫りになってきました。

「妊娠しても頼る人がいなくて援助交際をやめられず、街に立ち続ける子もいる。望まない妊娠をしたのに病院へも行けず、駆け込み出産した子に何人も会いました」

「自分のことを誰からも必要とされていない透明人間にたとえたり、消えたいと思ったり。そういう言葉から話を聞いていくと性被害にたどり着くことが多い。学校の先生や通っている病院の医者、父親や兄弟から性暴力を受けた子もいます」

「何が安心・安全かもわからず生きてきた子に『安心できる場所へ行こう』という言葉だけでは響かない。生活保護が受給できるといった情報も、選択肢を広げるために伝えることは大切ですが、彼女たちが本当に欲しているのは居場所と家族なんです」

こうした困難を抱える女性のために、BONDプロジェクトは荒川区からの委託を受け「bond Project@あらかわ相談室」を5月に開設しました。電話だけで月に100件もの相談が全国から寄せられているとのこと。

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念願だった個室シェルターの開設も実現し、BONDプロジェクトはさらに活動の幅を広げています。詳しくは本誌22〜23ページのインタビューをご覧ください!


247号では他にも、カサビアンのスペシャルインタビュー、特集「気持ちつたえる『人生レシピ』」、東田直樹さんの「自閉症の僕が生きていく風景」、ホームレス人生相談などなどのコンテンツが掲載されております。ぜひ路上にてお買い求めください!


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日本社会、日本チームが抱える課題

長谷川:ぜひ将来的に「ホームレス・ワールドカップ」を日本で開催したいと思っているのですが、一方で、ぶつかっている壁というのがいくつかあると思うんです。蛭間さんも本の中で、いくつかホームレスがサッカーをすることに対しての偏見というのが社会にはまだあるんじゃないかという話を書かれていたので、今ぶつかっている壁やこれまで出会ってきた壁について紹介いただきたいと思います。

蛭間:偏見があるのは、ある意味当然なんだと思うんですね。私自身もはじめ知らず知らずのうちにホームレスの人に対して偏見を持っていたので。そういう社会的な通念ですとか教育で形成された価値観ですから、そういう反応をするのは当たり前なのかなとは思うんです。今うちのチームが抱えている課題はいくつかあります。

まず始めは選手ですね。人数なんですけども、もう少し増えたらなと思ってます。一つの解決策として、様々なコミュニティーの方々と一緒にやるというのが、今取り組んでいる我々の具体的な活動ですね。

あとは、やはり何事を行うにもお金がかかるんです。我々の通常の活動に関しては、様々なバックアップされている方のバジェットでやらせてもらっているんですが、大きなプロジェクトとなるとその分のプロジェクトのお金がいるんですが、それに対して、例えば、日本のサッカー関係の組織ですとか、企業さんもそうなんですけども、簡単にはご協力いただけないんですよね。

正確に言うと、その組織の中のご担当者は、非常に共感をしてくれて頑張ってくれるんですけれども、組織としての決裁は難しいよね、というのが現状です。一方で、練習の場所を提供してくれるですとか、何かの物資を提供してくれる、そういったアプローチは日本企業の方々も取り組んでくださっています。

結果として差がついてしまうのは、外資系企業との差ですね。これはちょっと注意して説明しなければいけないんですが、外資系金融の方がメインにはなるんですけど、練習試合やチャリティ大会を組んでくれたり、その練習試合が彼らの、実は、業務やボランティア休暇の一環のプログラムの中に入っていたりするんですよね。そういう仕組みがそもそも組織の中にあったり、スポーツいいじゃない応援しようよという気風があったりと。


「自立」とはどういう意味なのか

長谷川:ありがとうございます。ではお1人ずつ、「今サッカーが社会にできることということ」として思うところ、米倉先生はあまりサッカーの経験があまりないとおっしゃっていますけれども、イノベーションの観点からサッカーはどういうことができるか、ということを含めて、星野さん、米倉先生、蛭間さんの順番でコメントをいただいきたいと思います。

星野:先ほど申し上げたことに加えて、いつも気になるのは、こうした取り組みの目的は「自立」だということなんですけど、その自立の意味と内容ですよね。

この社会や今までの会社に復帰する、完全に復帰するということが自立であり、目的なのだとしたら、それは多分また戻ってくるってことの繰り返しになるような気がするわけです。

僕は、自立っていうのは「既存の社会に戻る」っていうだけではなくて「社会の方を変える」、そもそも、はみ出させないような社会にしてしまうことが大切だと思うんです。そういう社会が広がっていくために、「ホームレスサッカー」が一つの小さなモデルケースになるんじゃないか、そのことに関しての可能性、期待を強く持っています。


日本企業よ、体を張っていけ

米倉:僕も思うんですけど、何か頭の中は変える必要がありますよね。これね、野武士ジャパンのユニフォーム、アディダスじゃいかんでしょ。これ絶対ミズノかアシックスでしょ、たぶん、彼らの意識がこれを本気で応援する事が、実はすごい事だという事が分かっていない。なぜこのアディダス、ナイキやプーマとが世界を席巻して、ミズノやアシックスができないのかと。技術で負けてるわけないんだから、多様性の許容度の問題だと思う。

頭の中がやっぱり日本企業はまだできてないんです。こういう一見馬鹿げたでも可能性のあるものを応援しようとか、しっちゃかめっちゃかの日本が面白いとか、そういうことが頭にない。

一人一人が元気じゃないのに、会社とか社会が元気になるわけがないじゃないかと。その可能性にみんながかけてみようと。たとえば外国の企業に野武士のスポンサーをさせるなとミズノが体を張っていくっていうのが形になってきたら、僕は日本は本当にまた強くなると思う。今はそれがね、なくなっちゃってるんですよ。

前の方で小さくなって、ホームレスを応援すると企業イメージが落ちる可能性があるとかないとか言っている。こういうものを応援しないからや企業力やブランド力が落ちているってことがわかってないんですよね。みんなで本当に頭の中を変えていく起爆剤になるから、「ダイバーシティ・カップ」「ホームレス・ワールドカップ」やりましょうよ。それから、やっぱり企業をおどかしに行かないといけないですね。


蛭間:そうですね。サッカーの力や可能性は、すごくあると思います。サッカーというスポーツは、世界でいちばん競技人口が多くて、途上国であればその開発のツールに使われたり、紛争解決にも貢献した事例があります。いろんな国や地域の歴史や社会の課題に対して、サッカーが実はいろんな関与をしてきたわけです。

こういったホームレスですとか様々な社会の課題、アジェンダに対してそれ解決しようとしている意思が、日本にはあるのか。その意思が我々にはありますから一生懸命頑張りたいと思いますね。

ただ、意思だけ強くて突っ走るのは、これはバカです。ですから、そこはチームアップをして、いい組み合わせ、パートナーを見つけながら共に歩むっていうことしかないんですよね。 でないと、何も変わらないまま、混乱の日本というのは少し難しい方向に行ってしまうと思うんです。で今、様々な社会の問題で変えるタイミングの最後のチャンスかもしれません。

それを変えるのは今を生きている我々日本人であって、それぞれの現場で課題解決型のアクションを起こしていくということだと思います。たまたまこのチームはサッカーという技術を使って、チームとなって社会変革を起こそうとしているんだと思います。私の結論としては、ホームレス・ワールドカップ、ダイバーシティーリーグも含めて、日本で大会を開き、それを日本社会に応援してもらえるよう働きかけていくということになるんでしょう。

長谷川:みなさんありがとうございます。それでは時間になりましたので、こちらで3人のお話は一旦終わりにしたいと思います。

会場:(拍手)




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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。


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part.5を読む


地域住民、親、子どもを巻き込んでサッカーをする

長谷川:ぜひこの後、米倉先生にもコメントをいただきたいですけれども、その一歩手前に、ダイバーシティーという話が出たので、蛭間さんから最近公園で練習したり他団体と一緒に行っている練習でのエピソードをいくつか紹介いただければと思います。

蛭間:はい。我々、四谷ひろばという昔小学校だったところで練習しているのが基本なんですが、施設利用の抽選に落ちてしまうときがあります。そんな時は近所の公園で練習したりするんですよね。

我々が練習を始めるわけですよ、10人~20人ぐらいで練習を。あっちの方に、小学生の女の子とかがですね、小さく練習しているんですね。そしたらもう「YOU来ちゃいなよ」ですね。一緒にやるんですよね、サッカーを。

ビッグイシューの事務所の近くの公園で練習をしていたら、「なんだろ、うるせーなぁ」みたいな顔をしながらも、サッカーの格好をしてきたおじさんが、こう「入れてくんねえか?」って来てですね(笑)。彼はもう2回も3回も毎回のように自然と来ているんですよね。

あとは、たまたま四谷ひろばに他の用事で来たら「よくわかんないけど、何か訳がわからないチームがいるから一緒にやっちゃおうか」とか。今そういう地域住民の方の参加が増えました。

また、今日も会場にいらっしゃっていますけれども、ビッグイシューの方だけではなくて、それぞれの社会的テーマに応じた支援されている方々がどんどん集まっているような状況です。韓国戦に行った時は若者支援をしている「育て上げネット」さんが来てくれました。

いろんな繋がりがサッカーを通じてでき始めています。きっとこれ、同じメンバーを会議室に集めてまじめな話をしようとしても最初からうまくいくものではないと思うんです。サッカーがはじめのきっかけだったから仲良くなれたのだろうと思うんですね。


色んな人がいて、色んなことをやっているのが豊かさ

長谷川:ありがとうございました。ではちょっと米倉先生にお伺いしたいのですけれども……。苦笑いされてますね。

米倉:(苦笑)だってわかんないんだもんね、サッカー。

会場:(笑)

長谷川:米倉先生、僕もサッカーの経験全くないんでわからないですよ(笑)。ただ、実際現場にいてすごく感じるのが、サッカーだったり、スポーツというもの全般が持つ、当事者への影響というのもそうですし、社会的に与える影響というものはすごくあるんじゃないかなという気がしているんです。

なので、僕らで言えば、「ダイバーシティ・カップ」や将来的には「ホームレス・ワールド・カップ」というのをぜひ日本でやりたいなと思っていて、そういうことの可能性、そういうことが実現した時に日本に与える影響について米倉先生にご意見いただければなと思うんですけれども……。

米倉:ご意見なんかいただけるわけないじゃないですか。

パネリスト:(笑)

米倉:ただ、面白いですよね。やったらいい!やったらいいじゃないですか。面白いことはやろうと。

パネリスト:(笑)

米倉:最近、僕の教え子の一人がね、ソマリランドに大学院を作ると言ってきました。全く意味がないと思うんだけど。でも面白いからやろうと。やっぱりそういうことが大事ですよ。 ホームレスがサッカーしてる場合じゃないっていう話もあるけど、ブラジルだってね、あんなに大借金抱えてサッカーをしている場合じゃないだろうと。

でもいいんですよ。色んな人がいて、色んなことをやっているというのが豊かさだし、それを許容できるのが人間なんですよね。だからいいじゃないですか、呼んでください。応援しに行こう。社会的にも面白いと思いますよ

昔、地中海クラブに行った時に、まだ若い頃にね、ヨーロッパの人たちとサッカーやったんですよ。5分やって吐きそうになったね。本当にきついスポーツです。だから皆さんがやっているってのはすごい。で何だっけ? そう、だからやろう。呼ぼうじゃない。やりましょうよ。


part.7に続く




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part.4を読む


長谷川:ありがとうございました。今日のテーマとしては「今サッカーが社会に何ができるのか」ということもぜひ考えていきたいなと思っています。

米倉先生や蛭間さんの話にもありましたが私自身、「何でホームレスがサッカーをしているんだ、他にやることがあるんじゃないか」と最初は思っていたんですね。だけど、何度か練習に参加していくなかで、自分の持っていた価値観っていうのは違ったんだなと気づいた時があったんです。そういったことについて、蛭間さんご自身の体験や、どういう意識変化があったのかということを教えてください。


一度ボールを蹴ったら、仲間になった

蛭間:はい。今でも忘れません。初めて練習に行った時の四谷のグランド、当時は選手の方が5、6人は来ていましたかね。まずはじめ挨拶をする時点で、これは無意識で、ちょっと距離を置いてしまうわけですよ。だってホームレスの方と今まで会ったことないんですから。やっぱり変なイメージというか、ありました。これ正直なところです、本当に。

でも、私はサッカー小僧ですから一緒にサッカーやり始めると、関係ないんですよ。サッカーをしている仲間という感覚だけなんですね。

当時、自分の仕事なんかで色々と悩んでる時期で、あの練習で救われた部分もありました。ワイワイ、ガヤガヤ、いわゆるワイガヤなんですけど、やっていく中で、本当に感動して泣きそうになったんです、練習中に。

みんな得点を入れるとハイタッチとかを自然としちゃうんです。社会人になって、大声で笑ったり、ハイタッチする機会なんてないじゃないですか。まして職場で。そういう場があって、ふと振り返ってみると、今日の練習のはじめの時、距離感を感じていた自分を思い出して。距離なんてなくて、サッカーをしている仲間なんだな、という変化がありました。

同時にそのとき強く思ったのは、「ホームレス」というある種の集団名詞でその人たちを理解していたんですけれども、当たり前ですけど、一人一人に名前があって、一人一人に人生があるんです。ちゃんと名前を持った1人の方だということに、かつ、その方とサッカーをしているんだっていうことに気づいたんですよね。そこからは、サッカーをしにこのチームに来よう、みんなとサッカーがしたいと自分の意識が大きく変わりましたね。


なぜ日本チームは弱いのか

長谷川:ありがとうござます。先程スライドにありましたけれども、日本は世界ダントツの最下位なんですね。それはいくつか要因があると思うんですけれども、海外のチームというのはホームレスの人ないし社会的弱者の人がスポーツをするということを前向きにとらえ始めていて、就労支援とかも大事だけれども、スポーツや文化ももやっぱり大事ということで国や自治体として後押ししていたりするんですよね。

実際にメキシコチームとかは2万人の中から8名を選抜する国内大会を開催している。そういうふうに選んで来ていますので高いかで出会うのはある意味「選ばれし者」たちなわけですよ。

今回も実際にサッカーワールドカップでメキシコチームが活躍していますが、やっぱり代表チームが活躍するだけじゃなくて、すそ野が広くサッカーが根づいているかどうかというのがその国のスポーツ力や底地からには大事になってくるんだと思います。

日本がワールドカップで活躍していくといった時には、ホームレスの人もそうだし、社会的弱者、例えば鬱病の人とか、養護施設出身の人とか、そういう人がフットサルとか、サッカーとか、そういうものを楽しめることがすごく大事になってくるのではないでしょうか。

そういった観点から、私たちの方では、ホームレスの方だけじゃなくて社会的弱者の人たちがスポーツを楽しむようなフットサル大会「ダイバーシティーカップ」というのを考えているんですが、星野さんに社会的弱者の人がスポーツすることや文化をすることが社会として根付くことの可能性や意味についてご意見いただけると嬉しいです。


サッカーを通して知らない現場を見る

星野:今、僕が日本で不足しているなと感じるのは、現場にみんな行かないんですよね。社会人にとっては自分の働いてるところが日常生活の現場であり、それぞれの現場があるんだけれど、他の人の現場には行かない。

なので、他の人の現場については、聞きかじったような知識で決め付けて判断して、思い込みを事実ととり違えてしまっている。、だから双方が理解もできないし、認め合うことができないような状態になっていて。

だから、現場にまず出向くっていうことが必要だと思うんですけども、その入口としてサッカーっていうのは本当にいいと思うんですよね。どんな人でも来ることはできるし、どんな立場の人でも、始まっちゃえば夢中になって、大体みんな大人のくせに子供っぽくなっちゃうんですよね、喧嘩したりしてね(笑)

そういう「余計なもの」を落としてしまう力が、サッカーにすごくあると思うんですよね。先日、ブラジルでワールドカップを見てきたときに、デモが起こっていました。そういうものの感触というのを現場で見てきたんですけど、僕がそのとき感じたのは、彼らにとってサッカーはかけがえのないものなんですね。

だからサッカーが、他の人が金を儲ける算段になってしまったりすると怒るんです。例えば、マラカナンスタジアムの民営化という問題があって、そのマラカナンの文化をつくってきた人たちにとって、スタジアムが民営化されて企業の意向だけでその使用が決まっちゃうということは、自分たちのサッカーが奪われるっていうことになるんですよね。サポーターに何の相談もなく、何でそんなことが勝手に決まるんだと。そういう独断専行と経済的に企業にばかり金が行ってしまうということの両方に対して、怒っているんですよね。

それだけサッカーというものが自分たちのものとして、自分が「生存の感覚」を持てる場として重要なんです。日本の場合にも、サッカーがそういう重要なものになっているという度合いが徐々に強くはなってきているとは思うんですが、まだ、やる人も見る人も特定の層の人たちに限られているので、もっともっと多様な人が来て、もっともっと多様な人がやれるようなものになれば、サッカーが文化になり得るなと思うんですよね。そういう意味でダイバーシティーカップというのは、スタートとしてものすごくいいと僕は思っています。


part.6に続く




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(BIJ 東京 長崎)
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