part.3を読む

日本の学士号の種類は679個



川原:ミスマッチがなぜ起きるかという点で、みなさんに質問があります。今は大学の数、学部学科の種類も増えています。なんとかデザイン学部、環境なんとか学部が出来ていると思った方もいると思います。今、日本に学士号の種類、何種類くらいあるかご存知の方いらっしゃいますか?

679種類です。しかも、2011年の調査です。そして、その約6割が1つの大学にしかないオンリーワンの学士です。学生募集のためにオンリーワンの学部ですよ、とアピールしているわけですね。高校生が進学において重視する項目は「学びたい学部学科コースがある」が75.6%。でも、本当に選べているのでしょうか。

高校の進路指導の現場は「心理学に興味があります」「お前の成績ならA大学の心理学科は狙えるぞ」「がんばります」、以上、という流れです。

実際には「それはいいな。人の心を学んで将来はそれをどう使いたいんだ?」という教師からの問いかけなどで深く会話をすることが大切です。

心理学部に行きたいと語る学生が「人の心理を勉強して新しい商品を作りたい」というなら、マーケティングを学ぶべきかもしれません。「うつ病に悩む人を助けたい」なら、医学部の精神医学かもしれません。「子どもたちの心理を学んで教育に活かしたい」のなら教育心理学かもしれません。こういったことを指導していないのが大学選びの現状だと思っています。

バラ色の学生生活を見せる大学広報



大手の予備校の調査だと、大学に入学して、ミスマッチを感じ、一度中退し、別に大学に再入学する人は年間に3万8000人います(参考:朝日新聞デジタル:大学入学後の「再受験」急増 9年で60倍、予備校調査)。

「ちゃんと選べよ」と高校生に言ったところで、大学のパンフレットにはだいたい同じことが書いてありますよね。就職率が良い、資格が取れる、教養を大事にしています、英語力がつきます、などなど。

オープンキャンパスの4大がっかりは、「入試と就職の話しか聞けない」「パンフレット以上のことは分からない」「模擬授業を見ても他大学との違いが分からない」「普段の雰囲気とはまったく違う」です。
大学関係者に怒られそうですが、オープンキャンパスはバラ色の大学生活を見せて「楽しそうな大学だな」という印象を抱かせてしまう、ただの「お祭り」じゃないか、という問題意識を感じています。

そういった情報しか与えられないので、たくさん資格が取れる、パンフレットがきれい、偏差値が高い、オープンキャンパスが活気ある、学部名がかっこいい、といった表面的な理由で大学を選択してしまうのが現状です。

やるべきこととして、自分の進路について考えるきっかけを高校生に提供したい、そして各大学学部の内容を深く理解し、マッチングを図ろうとしています。

もっと深く大学を選べる「WEEKDAY CAMPUS VISIT


私たちのプログラムについてもご紹介していきます。NEWVERYは、高・大接続以外にも大学向け事業をやっています。1つは中退予防のコンサルティングです。次に大学の教員向けの研修もやっています。中退の対策に加えて、授業そのものを良くしていかないとね、ということです。

そして、WEEKDAY CAMPUS VISITという大学選びのプログラム、直近では大学生向けの学生寮もオープンしようとしています。教養を育むのは大学で、人間性を育むのは学生寮だと思っているんです。

大学選びの部分に着目しているWEEKDAY CAMPUS VISITについてお話します。オープンキャンパスでは分からない大学の雰囲気や大学の選び方を学んでほしいな、ということでこのプログラムをやっています。これについては、去年の11月にNHKでも特集していただきました。

WEEKDAY CAMPUS VISITは、高校生が無料で参加できます。特徴としては「普段の大学の授業を受けてもらう」という点になります。高校生のために用意された模擬授業は高校生向けに身近なテーマになっていたりして、入学後とは違うんですね。高校生が、普段大学生がどういう様子で授業を受けているかを見られる、というのも重要です。

もうひとつの特徴は、高校生向けにガイダンスと振り返りのワークをやります。表面的な見方ではなく、自分は今日はどんなポイントを見るのか、先輩たちの様子を見てどんな気付きがあったのかを話すグループワークを前後にやっています。

「東京の大学で、資格が取れて、英語に力を入れている偏差値55の大学」と、「少人数授業で、キャンパスが充実した地方の偏差値50の大学」があったときに、偏差値だけで決めるのではなく、自分のモノサシで大学を選ぶようになってほしいと考えています。

これは就職活動においても同じことだと思います。大企業が良い、上場企業がいい、中小がいい、これもモノサシの話です。大学選びの時点でモノサシがあれば、就職時にもうまく選んでいけるのかな、と思っています。

参加した大学生の声としては、「少人数の授業を見て大学のイメージと違って驚きました」「自分の努力やふるまいによって大学生活の充実度は変動すると実感した」「同じように授業を受けていると、あまり身に付かないと感じた」などの声があります。

このプログラムは2013年度に本格展開を始めました。去年は21校。来年度は100大学を目標にしています。全国の大学で実施していきます。

WEEKDAY CAMPUS VISITは、場を提供する大学さん、プログラムを開発する私たち、そして前後のフォローをしていただく高校の先生方、そういったネットワークとして機能しています。

最終的には全国で展開していって、今のようなブランドや知名度や偏差値ではなく、教育や研究の中身で大学が競い評価される時代をつくります。それなくしては、本当に教育をやっている大学が生き残れない状況になってしまいます。適切な市場原理が働くようにしていきたいと思っています。

岩切:WEEKDAY CAMPUS VISITは、同じようなことを普通に大学独自でやっていてもおかしくないと思ったんですが、大学自身でこれまでやらなかった理由はあるんでしょうか?

川原:大学独自ではやっているところはありました。が、ほとんどは授業を公開するだけで、前後のプログラムがなかったんです。あとは、どんな大学でも不真面目な学生はいるので、表面的なネガティブな印象を持って帰ってしまってうまくいかなかったというのが現状だと思います。

岩切:ありがとうございます。ここで5分ほど休憩を取ったあと、ディスカッションに入りたいと思います。

<part.5を読む>