(©www.street-papers.org/ダニエール・バティスト/2012年7月9日に掲載された記事を邦訳)

ホームレスはオリンピックに参加するべきだ



ホームレスがオリンピックで公式な出場機会を得たのは史上初だ。本大会に先行し、ロンドンにてイベントが一回行われただけだが、それは重要な政治声明だったと主催者は言う。「ホームレスのニーズではなく、才能を披露するのが目的だ」

文化オリンピアード運営委員会が2012年のロンドン・オリンピックにホームレスをどう参加させるかという疑問に直面したとき、マシュー・ピーコックさんは既に答えを持っていた。ホームレスや元ホームレスの人たちが出演するオペラを主催する会社、「ストリートワイズ・オペラ」の創設者であり代表を務める彼は、音楽や美術が、人々の人生を変えるために、そして、ホームレスに関する先入観をなくすために、大きな力を持っていることを知っていた。

1年後、「ウィズ・ワン・ヴォイス」(2012年ロンドンフェスティバルの舞台にて300人の元ホームレスが出演したイベント)が開催され、今後のオリンピックのお手本となる成功を収めた。

ピーコックさんはストリートワイズ以外にも国内から30組の合唱団やミュージシャン、劇場団体を、ロイヤル・オペラ・ハウスの名門舞台へ集結させたことを誇りに感じている。しかし、リオ・オリンピック2016を踏まえ、彼はさらに先を見据えている。

「これはホームレス状態の人がオリンピックに参加できる、というだけのものではないのです。ホームレスという状態をめぐる様々なストーリーを伝えることでもあるのです。そして、彼らのニーズよりも、才能を披露するのが目的です。私たちは、こういった場を提供することで個々人がそれを実現することを可能にしました。そして、すべてのオリンピックにおいて、このような取り組みが組み入れられるようにしたいと思っています。

IOCとリオ2016の主催者宛に請願書を作成し、署名活動を開始しました。そして、今までの経験と実績をプレゼンする予定です。ロンドンでの今回のイベントのチケットは完売しました。これは多くの人々が賛同しているという証拠です」

*ストリートワイズ・オペラのオンライン署名活動

「ウィズ・ワン・ヴォイス」で出演した300人のなかの4人― ポール、ジェーン、クレア、とアンドリューさんは「VITA NOVA」で詩やスポークン・ワードのパフォーマンスを披露した。イギリスのボーンマスに所在するVITA NOVAは、アルコールや麻薬依存症から回復中の人たちのためにワークショップなどを運営している団体である。

パフォーマンスの開始直前の経験を「良い意味で恐ろしい」とクレアさんは語った。

「こういった機会を与えられるのは本当に素晴らしいことです」。

仲間のパフォーマーのポールさんも、

「パフォーマンスは自信をつけるために本当に役に立ちます。ホームレス状態や依存症の経験をしてきた私たちにとって、ここはまさに自分自身を表現する場なのです」

と語っている。

ライティングのワークショップを通じて、VITA NOVAの参加者たちは自己の経験や気持ちを詩に表現する方法を学ぶ。その内容に含まれる問題などについてより多くの人に知ってもらうために、彼らは刑務所や学校など、あらゆる場所でパフォーマンスを披露してきた。

ジェーンさんは4年半前に麻薬の使用を止めたその日からずっと、VITA NOVAへの関わりを続けている。

「自分がこういった活動に参加するとは思いもしなかったわ。以前の私は常にハイだった。VITA NOVAは新しい家族のような存在を与えてくれた。寂しいときは必ず仲間が側にいてくれるのよ。娘のマリとの連絡は途絶えたままだけど、どうか私の努力がいつか娘にも喜んでもらえたら、と思っている。」

ホームレスの人たちによるパフォーマンスの力強さはイベント開催の夜、ロイヤル・オペラ・ハウスのステージで証明されたる。シンガーソングライターのアダム・オニールさんが暗い過去を弾き語り、亡くなった母に歌を捧げたとき、観客は目に涙を浮かべた。

「天国にいる方がましかもしれない、
彼女もしばらくは僕を愛してくれるかもしれない、
僕の心が瀕死の状態にあるなんて、誰も知らない」

生々しい歌声と言葉が心の奥底から流れ出た。

ジェーンさんが自分の書いたショートストーリー、「Doorways」を朗読すると、針が床に落ちる音が聞こえるほどの静けさが際立った。

「麻薬売人が届けたドラッグ。
玄関口置かれた宣伝用見本のようなパッケージ。
天国のような味がするけど生涯を地獄に変える。
聞こえないふりをした。
探していた蝶々は現れなかった。」

定評のあるストリート・ワイズ・オペラのパフォーマンスとホームレスの人たちによるコーラスグループ「Choir with No Name」の合唱、300人の参加者が一斉に盛大なフィナーレを披露した後、観客はイベントを3語で表現するよう求められた。コメントボードに書かれた文字がこのイベントのすべてを物語っていた―「才能」「勇気」「インスピレーション」。