(2009年1月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 110号より)


「あなたはどの自然保護団体にお入りですか?」が挨拶になる日

安部真理子さんが熊森協会に出合ったのは大学1年生の時。半年後には環境教育部長として、子どもたちに自然保護について伝える活動をスタートした。大学を卒業し就職してからも、熱心に活動を続ける。

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紙芝居、人形劇も。 年間30回の授業、 子どもたちに自信と希望を

「休日は、ほぼ熊森協会の活動に捧げていますね」と笑う安部真理子さん。大学1年生の時に同級生に誘われて例会に参加し、海外の自然保護運動を例に日本の自然保護の進め方について真剣に話し合う会員たちの姿を見て驚いた。

もともと環境問題に関心があった安部さん。「この団体は本気だ」と感じ、入会して半年後には、「環境教育部長」に就任。以来、社会人3年目の現在も、子どもたちに自然保護の必要性を伝える活動に情熱を注いでいる。

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そんな安部さんが見せてくれたのは、両手を広げたほどの大きさのある大紙芝居だ。「日本の動物や森の危機的状況を、実話をもとにした紙芝居や人形劇で伝えています」。絶対音感のあるメンバーが効果音をつけた。これを5人で演じると、子どもも大人も夢中になって聞いてくれるという。

「クマが猟銃で撃たれるシーンに涙を流したり、なんとかしなきゃと真剣な目をしたり、子どもたちの反応はさまざま。後日、子どもたちは『おなかをすかせたクマのために』とドングリを集めて送ってくれます。それらがまた私たちのパワーになります」

環境教育部のメンバーは大学生を含む約10人。スケジュールを調整しながら年間35回もの授業を行っている。小学校や幼稚園、最近ではNPOや市民グループからの依頼も増えているという。毎年訪れる小学校では、1年生から6年生まで学年ごとに異なるプログラムを用意している。また、森の状況は刻一刻と変化しているため、毎年教材を見直すことも欠かせない。

「準備は大変ですが、充実感も大きいです。虫嫌いだったメンバーがこの活動に参加することで、虫に触れるようになったり、思わぬ効用もあります」と笑う。

「環境教育は人間教育。子どもたちには、生き物に思いやりの心をもつこと、行動することの大切さを知ってほしい。授業の終わりには、みんなにできることは何だろうと、必ず問いを投げかけます。山に木を植えに行くことも、ドングリを集めることも、この授業で知ったことを身近な人に知らせることも、クマと森を救うためにみんなができることなんだよと話すと、子どもたちは自分も何かしようと、自信や希望をもってくれます」

本気で何かに取り組むと、 感受性が豊かになる

ボランティアとして気軽に参加するつもりが、10代で環境教育部長という責任のある役職を担うことになり、それが大きなプレッシャーとなり悩んだ時期もあったという。このまま活動を続けるのかと何度も考えた安部さん。しかし、自身のアレルギー体験もあり、「将来、子どもを産みたい。子どもたちが生きていける環境を残したい」という自分の原点に立ち返って決心した。

大学卒業後は、公務員試験に合格し市役所に勤務。熊森協会での経験を通して、市民活動の重要性やその社会的な役割を実感し、そのような活動を支援する仕事をしたいと考えたからだ。社会人となってからは、時間の制約も増えたが、森山会長がよく口にする「心に誓いしことをどこまでも」という思いに安部さんも続く。

「二足のわらじを履くのは簡単なことではないですが、仕事が忙しくても、未来の子どもたちにそんな理由は通用しないですからね。それに自然保護は継続しないと意味がない」と思っている。

安部さんが目指すのは、『あなたはどの自然保護団体にお入りですか?』というのが挨拶になるくらい、一人ひとりが自然保護にかかわることが当たり前の世の中。

「私が大学1年生の頃は、『自然保護』というと真面目だとか難しいというイメージがありましたが、今ではエコという概念が浸透し、多くの人が環境問題に関心を抱くようになりました。でも、本当に自然を守ろうと思ったら、もっとそのために行動する人が必要だと思います。熊森協会が自然保護活動をしたいという人たちの受け皿となり、さらに大きな運動にしていきたい」

本気で何かに取り組むと感受性が豊かになるような気がすると言う、安部さん。まだ20代だが、自分たちの後に続く熊森協会の後継者づくりも考えている。「私が会に参加する多様な大人の人たちに育てられたように、ここで若い人たちに育ってもらいたいです」

(松岡理絵) Photo:中西真誠

安部真理子

1982年東京都生まれ。神戸大学発達科学部卒。01年、大学1年の時に日本熊森協会入会。以来、実のなる広葉樹の植樹などの活動体験をもとに各地で環境教育を実施。絵を描くのが得意で、リーフレットや紙芝居のイラストも一部手掛けている。現在も市役所に勤務しながら熊森環境教育部を率いる。