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(2014年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 245号より)



国策に翻弄された人々の生きざま。映画『あいときぼうのまち』

映画『あいときぼうのまち』を観た。脚本は井上淳一、監督は菅乃廣の組み合わせだ。夏樹陽子や勝野洋らの名俳優の演技が光っていた。

興行収益の一部は福島原発事故の被害者救済に役立ててくれる。が、大ヒットはこれから。「映画の存在を世に広げてほしい」と、井上は東京での上映期間中、ほぼ毎日トークショーを行って、訴え続けたという。最終日の前日には井上、元NHK職員の堀潤、元東電社員の蓮池透のトークが、最終日には出演者の多くが舞台に上がりそれぞれ思うところを述べた。おかげでこの作品への理解がずいぶんと深まった。

ある家の4世代70年の物語である。戦時中は陸軍の原爆開発研究(研究の中心人物である仁科芳雄の名前「に」を取って二号研究と名づけられていた)のために、福島県石川町で学徒動員によるウラン採掘が行われた。存命の方から当時の様子を聞いて、場面構成を進めたという。戦争未亡人の母が自殺。採掘作業に動員されていた息子は、60年代の福島原発建設の用地買収に最後まで反対し、村で孤立を深めてついに自殺。

娘は成長し、今や孫がいる。あの大津波で一家は東京の借り上げ住宅に避難。祖母が流されたのは自分の責任と思い、自暴自棄になる孫の生活。福島義援募金で生活する売れない作家との奇妙な関係。

この一家の歴史を縦糸とすれば、横糸には原発被曝労働によるがん死、世話になったからと東電を訴えられない父親と家族の離散、浮気やSNSを通じて中学時代の恋人との再会などなど、社会現象が織りなしていて見応えがある。国策に翻弄された人々の生きざまが見事に描かれていた。

登場人物は架空の人物であるが、背景となっている3・11の津波は地元の人が撮影していた貴重なもの。また、福島第一原発と東京電力は実名で語られているところが脚本家としてのこだわり。東電を実名で出したことで、大手メディアが取り上げてくれないという。しかし、これによって作品は厳しい現実を突きつけ、原子力ムラへの挑戦となっている。



伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)