出会い、つながり、共に生きる ビッグイシュー日本版創刊11周年記念・東田直樹、東田美紀講演会レポート

9月6日(土曜日)、大阪でビッグイシュー日本版創刊11周年イベント・東田直樹さん、東田美紀さん講演会が開催されました。

 

このイベントは昨年の10周年同様、大阪のビッグイシュー販売者が企画運営を担当しました。イベントは、半年以上前から準備をはじめていましたが、開催3か月前の会議で販売者さんから、「確かに今回の趣旨は東田直樹さんの講演会。しかし、販売者が主催し、お客様に感謝するイベントでもあるのに、東田さんの講演だけでは、販売者は企画だけで何もしていないと思われないか。それで、主催したことになるのか」と熱い議論が起こり、ただ東田さんの講演をするのではなく「販売者が主催者としてふさわしいイベントにする」「同時に、主役である東田さんと競い合うのではなく、あくまで溶け合い相乗効果を生むようなイベントにしたい」というチャレンジに挑むことになりました。
 

そのチャレンジが最終的には、「ビッグイシュー日本版創刊11周年記念ムービー」と、販売者による前座トークとなりました。


イベント3週間前の8月16日、東田さんと世界的なベストセラー作家デイビット・ミッチェル氏の交流をえがいたNHKの特集番組「君が僕の息子について教えてくれたこと」が放送されると、翌日からビッグイシューの大阪事務所には電話とメールが殺到。今年は強気に300人収容の会場を用意しましたが(前年240人)、8月16日までは100人に満たなかった参加希望が20日までの4日間で300人を突破してしまいました。
それ以降もお電話はなりやまず、スタッフはイベント当日まで毎日お断りと謝罪のメールをすることになりました。

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そんな緊張感と高揚感が交錯する中で迎えた当日。受付は大混雑が予想されましたが、予め、立見席やキャンセル待ちなど、様々な想定をして準備していたこともあり、大きな混乱はなく30分で会場はきっちり満員御礼になりました。


開始時間の13:30ぴったりに司会の販売者石井さんの合図で会場が暗転すると販売者さん25人が出演する11周年記念ムービーが、基金スタッフのタイチ(高野太一)作曲のオリジナルソング「手をかかげる」に乗せて流れます。熱気あふれる会場が静かな感動につつまれるのを感じました。


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販売者トークでは会場は時に笑いに包まれ、時にハンカチを取り出して涙をぬぐう人もありました。トークに出演した販売者さんたちは、ただ自分たちの経験を語ることで、少なからぬ人が心動かされることに、驚かれたそうです。イベント後には嬉しそうに何度もアンケートを読んでおられました。結果的に、主催者としてふさわしくありたいという販売者さんの真摯な熱意がこのイベントを成功に導いたように思います。
 


今回のイベントはTVをご覧になっていらしたお客様が非常に多く、ビッグイシューのイベントとしてははじめて「半数以上(54%)の方が読者ではない」(当日アンケート集計)という中で多くの方がはじめて触れる販売者の話に感動してくださったのはと大変心強く思いました。


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そして、主役の東田直樹さんが登場されると、会場は一転、静けさに包まれ、会場中が直樹さんの言葉の独特のリズムに集中して耳を傾けました。直樹さんは、最初にNHKの放送で大きな反響があったことを話され、自分の言葉が世界に届くということではなく、自分の選択した人生に対して、これで良かったと思えることをずっと夢見てきた気がするとお話しされました。
 

直樹さんは人を困らせていると思われている自分自身がいちばん困っていること、検査結果に落ち込んでいる両親をみては自分などいなくなればいいと思ったこと、また、普通学校時代、まわりの人たちがまぶしすぎて、逃げるようにみんなと別れたのだと幼少期の孤独な日々について語られました。しかし、これまでの人生を、どうして、僕のような人間がこの世界に存在するのか、生きる意味を探すプロセスだったと振り返ります。そして、人は人の中でしか生きられない、だからこそ、共に生きる共生社会とは何か、僕はその答えをこれから探すと、講演を結ばれました。


その言葉は、以前の講演よりも更に力強く、生きづらいこの社会を共有するすべての人々に届いたように感じました。


そして、質疑応答を開始しようとしたとき、突然、直樹さんが司会をさえぎって、文字版を指しながら、一文字ずつ「さ、き、ほ、ど、の」と言葉を紡ぎだしました。「先ほどの」「ビッグイシュー販売者の方たちの講演に感動しました。」「僕はこれからもずっとビッグイシューを応援していきます。おわり!」その瞬間、会場は販売者・ビッグイシュースタッフ・お客様、会場全員の拍手に包まれました。

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直樹さんへの質疑応答では、特に自閉症のご家族を持つ方から、「うちの子はどうしてこういうことをするのでしょうか?」「何を思っているのでしょうか」といったご質問が相次ぎました。直樹さんは、他の自閉症の方の気持ちをできるだけ代弁しようとしながら、かつ、誠実に答えようとされていました。

食べることの意味を忘れてしまったのではないでしょうか?専門家に相談されるべきです
頭のにおいをかぐのは、それが安心するからではないでしょうか?
家族が笑ってくれるのがうれしいからだと思います
というように、ある意味、相手が望むことを答えるのではなく、自分の意見を述べる直樹さんだからこそ説得力のある答えであったと思います。

また、東田美紀さんの講演は、短い時間になってしまいましたが、子育てをしているすべての人の心に響く内容でした。


美紀さんは、「わが子の可能性を信じる子育て」というタイトルで講演され、直樹さんが望む生き方をさせてあげたいと直樹さんの気持ちや考えを一番大切にしながら子育てをしてきたことをお話しされました。直樹さんの本当の学力は知能検査や発達検査でははかれないと信じて普通科の高校受験をサポートしたこと、直樹さんに才能があるのなら必ず認められる日がくると毎年童話のコンクールに応募したことなど、あたたかく見守り支えてきた日々をお聞きして、わが子を信じ続ける子育てから広がる可能性の大きさを感じました。


また、質疑応答の時間が大変短くなってしまい、おひとりの質問しか受けられなかったのですが、自閉症の家族を持つ方の悩みに対して、「つらいことは当然ありますが、まずは、家族が楽になることを考えた方がよいと思う。一つの団体に相談してダメでも、たまたまその団体と合わなかっただけかもしれない。複数の団体に相談してみることが大切」とアドバイスされていました。

 講演が終わってからも、時間ギリギリまで、多くの方が美紀さんの前に並んでいました。


今回の講演は、会場キャパシティの問題で、結果的にたくさんの方の参加をお断りせざるをえなくなってしまいました。東田直樹さん・美紀さんと、「またの機会を作りましょう」とお約束していますので、どうぞ、またの機会にご期待頂ければと思います。


(ビッグイシュー日本 大阪 服部)

*写真:中西真誠

東田直樹さんについて:http://naoki-higashida.jp/


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BIG ISSUEからも東田直樹さんの本が2冊出ています。
BOOKS
社会の中で居場所をつくる 自閉症の僕が生きていく風景(対話編・往復書簡)
東田直樹・山登敬之 著
作家であり重度の自閉症者の東田直樹さんと、精神科医・山登敬之さんの立場をこえた率直な往復書簡。「記憶」「自閉症者の秘めた理性」「純粋さ」「嘘」「自己愛」「自分らしさ」など、根源的な問いが交わされる。
2015 年12 月発売
定価1600 円(税込)
B5判変型
(800 円が販売者の収入になります)
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風になる  自閉症の僕が生きていく風景(増補版)
東田直樹 著
発話できない著者が文字盤で思いを伝えられるようになるまでの日常や、ありのままの自分を率直に語る。連載エッセイ74 編、宮本亜門さんとの対談も収録の増補版。路上で一万冊突破。
2015 年9月発売
定価1600 円(税込)
四六判
(800 円が販売者の収入になります)

2016/10/14よりクレジット決済が可能になりました。

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。