『若者政策提案書』
より、これまでの若者政策の遍歴について整理しました。



若者政策とは何か

若者が成人期への歩みを進めることに関与する政策を若者政策とする。私たちは、若者政策の範囲を広く考えている。若者の生活を成り立たせるすべての要素が若者政策の対象になる。とくに、複合的な困難をもつ若者たちは、縦割り行政の下では救済することができない。今、若者たちが遭遇している状況のなかで、若者政策とは相互に関連する要素から成り立つ総合的な政策でなければならない。

このような考え方は、スウェーデンの若者政策によく表れている。スウェーデンの若者に関する行政組織は1980年代以後、余暇活動や健全育成という狭い範囲を若者部門とすることをやめ、分野横断的に広範囲な視野をもつようになった。具体的には、教育、余暇活動、住宅、医療、労働、社会統合、平等政策など、広範な分野を包む政策と考えられている。

若者政策は、若者の生活条件の向上をめざすものであり、若者政策を構成する諸制度のあり方が若者の「成人期への移行」を促し、生活条件の向上をめざすものでなければならない。若者一人ひとりの状況に対する包括的な視点をもち、異なる部門間が協力体制をもって改善に取り組む体制作りが若者政策の発展には必要である。


若者に関する法制

度恒常的で持続性のある若者支援体制を打ち立てるには、若者支援の理念を定めた法律の裏付けが必

要である。これが若者にとってのセーフティネットになる。とくに、複合的なリスク要因を抱えてひとりではどうすることもできない時、問題を解きほぐし適切な社会資源につなぎ、多面的に解決の道筋をつけるサポート体制がいつでもどこにもあるためにはそれを法律で定める必要がある。若者のセーフティネットを整備することに関係する法律や施策は多岐に及んでいるが、とくに重要なものを挙げてみよう。

子ども・若者育成支援推進法

2010年4月に施行された「子ども・若者育成支援推進法」は、2000年代に顕在化した子ども・

若者の問題に対して、国と地方公共団体と民間が連携して取り組むための基本理念を打ち立てた。推進法は、子ども・若者に関わる環境を多方面にわたって整備をしようとしているが、とくに重要なポイントは、これまでばらばらだった行政や民間の諸機関がネットワークとして協働するための

「子ども・若者支援地域協議会」と「子ども・若者総合相談センター」を設置し、関係機関が連携しながら継続的に支援していく体制を構築するよう自治体に求めたことである。その後、体制整備を進める都道府県または基礎自治体は年々増加している。2015年度は、推進法のもとに作られた子ども・若者ビジョンの5年目の改定の年である。5年間の経験を踏まえて、より現実の要請に応える新バージョンを作る必要がある。

子ども・若者総合相談センター(自治体により呼称はちがう)は、地域若者サポートステーションやひきこもり支援センター、ヤングハローワークなどと密接に連携している。ひとつの民間団体が受託しまとめて運営することによって、それぞれの機能の限界を補い、穴のない連結した支援体制を作る例も増えている。今後は、乳幼児期から若者期まで切れ目のない支援体制へと進化させる必要がある。


勤労青少年福祉法から若年労働法(仮称)へ

働く若者の福祉に関する法に勤労青少年福祉法がある。1970年(昭和45年)に制定され、第二条で「すべて勤労青少年は、心身の成長過程において勤労に従事する者であり、かつ、特に将来の産業及び社会をになう者であることにかんがみ、勤労青少年が充実した職業生活を営むとともに、有為な職業人としてすこやかに成育するように配慮されるものとする」という理念がうたわれている。その後5年に一度の見直しがあり、2000年代には、増加する非正規雇用やニートを踏まえた内容へと改定されてきた。しかし、若者を取り巻く環境の大きな変化を踏まえ、若者のための新しい労働法が2015年春には成立する。若者の実態を踏まえてこの法律を充実させることが重要なステップとなるであろう。


生活困窮者自立支援法と子どもの貧困対策法

2015年4月には生活困窮者自立支援法が実施される。本法は、生活保護に至る前の段階の自立支援策の強化を図ることを目的としている。そのために、生活困窮者に対し、自立相談支援事業の実施、住居確保給付金の支給その他の支援を行う措置を講ずる。そのなかに、生活困窮家庭での養育相談や学び直しの機会の提供、学習支援といった「貧困の連鎖」の防止のための取組や中間的就労事業の立ち上げ支援など子どもや若者に関する取り組みが含まれている。

また同じく、子どもの貧困対策法が実施される。本法は、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることがないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備することを目的としている。また、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。子どもの教育支援、保護者と子どもの生活支援、保護者の就労支援等が柱となっている。

これらの法律によって、ようやく子どもの貧困を放置しないという理念は打ち立てられた。しかし、実際の取り組みは地方自治体がそのための体制を組み、どこまで真剣に取り組むかという問題にかかっている。また、財政上の壁は厚く実現の道は険しい。


これらの法律は完全ではない。法律の精神を活かすのは私たちである。実践・検証をしながら5年に一度見直し改良していく必要がある。改良していく不断の取り組みこそ必要なことである。


ドイツの若者政策

ドイツの社会法典(2編)には、若者が社会的・個人的不利を克服し、就労できるよう支援する条項がある。また25歳未満で、就業可能ではあるが職業に就くのが特に難しい若者には法律による支援を拡充することが可能である。

同じく社会法典(8編)には、“社会的な不利の克服や個人的障壁の除去のためにより多くの支援が必要な若者”に対して、学校教育、職業教育、職業への参入の観点からソーシャルワーク支援が提供されなければならないという条項がある。

近年ではジョブセンター(日本のハローワーク)と地方自治体青少年局が協働するようになってきた。ジョブセンターは就労支援に特化し、青少年局は若者が抱える個別問題に対応する。この2つがうまく補完するコンビネーション・モデルはそれなりの成果を収めてきており、将来性を有するといわれている(ベルリン工科大学名誉教授ヨハネス・ミュンダー教授東京講演より。法政大学布川日佐史教授訳)。


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