オランダでは、ツイッターを駆使するホームレスや元ホームレスの人たちが続々と出現している。そして新たに人と交流したり、ホームレスにまつわるサービス情報を入手したり、また路上生活についてフォロワーに語ったり。彼らをつなぐのが、@straatvogels (路上の鳥たち)というアカウントだ。


Written by  Petra Hunsche

(Z magazine - Netherlands, (c)www.street-papers.org/)

【Photos: Sander Heezen】

翻訳:長島咲織 編集:ビッグイシューオンライン編集部

Tweet luc
「(ツイッターは)バーチャルな世界ではあるけど、確実に現実の生活に影響を及ぼしています」 「人々が抱える問題というのは、彼らの物語の半分でしかありません」 ――路上の牧師、ルーク・タニヤ(@LucTanja)
 

モデルは米国のツイッターグループ。2012年、学生有志が始動させた

フランス・フーベルマンは現在路上暮らしだが、それによって創造性が失われることはほとんどない。彼はアムステルダムのホームレスの人々によるライティンググループ“Kantlijn (「末端」の意)”のメンバーであり、ツイートをするのも大好きだ。

「昔はデジタル機器恐怖症だったけど、次第にデジファイルを使うようになり、今ではすっかりデジタルマニアだよ」とフランス。彼には、現在1000人以上のフォロワーがいる。

フランスは「ストラートフォーゲルズ(「路上の鳥たち」の意)」のアカウントから投稿している。プロジェクトのモデルになったのは、米国のツイッタ―グループ、「Underheard(「声の届かない人たち」の意) 」。ニューヨークのホームレスの人々が、自分たちの状況に少しでも目を向けてもらおうと結成したものだ。

2012年、有志の学生たちが、オランダのKPN社とTechreturns社から5つのスマートフォンを借り受け、アムステルダムからプロジェクトを始動させた。次第に人気は広がり、2014年にはナイメーヘンやアイントホーフェン、フローニンゲンの街でも展開されるようになった。

他の都市でアカウントをつくる場合には、「ストラートボーゲルズ」の後ろに地域の市外局番をつければいい。たとえば、ナイメーヘンで始める場合は@Straatvogels024となる。


オープンさは大切。よい面だけ見せるのではなく、自由に発言してもらう

「(ツイッターは)バーチャルな世界ではあるけど、確実に現実の生活に影響を及ぼしています。ホームレスの人にとって貴重な連絡先や情報、そして善意を得られますから」と語るのは、路上で活動する牧師、ルーク・タニヤだ。彼はアカウント(@straatvogels)の立ち上げに貢献したリーダー的人物でもある。

「私が教会での務めを通して感じたのは、人々が抱える問題というのは、彼らの物語の半分でしかないということでした。希望や喜び、そして創造性というものは、人それぞれに異なっていて、一概に括ることはできません」

ツイッタ―のプロジェクトは、その考えを後押しする好例となった。彼は牧師として個人のアカウント@LucTanjaからツイートするとともに、アムステルダムのすべての“路上の鳥たち”をつなぐ@straatvogelsのアカウントからも投稿している。

「ツイッタ―はまさに新たなメディアで、直接的に働きかけ、個人的な交流を可能にしてくれます。でも効果的に活用するにはオープンさが必要で、支援団体の多くは、そのことにとても不安を感じています。彼らはよい面だけを見せようとしますが、社会ではソーシャルメディアの透明性を求める声が高まっているんです」

「もし何か問題が起きれば、対策を考えることは必要ですが、みんなが好き勝手にツイートしている中で、ホームレスの人々だけプライバシーを含め表現を抑圧されるのは、得策ではないはず。他のことでは既に自分の裁量で決断しているのだから、ツイッターでも自由に発言してもらう方が有益じゃないかと私は思います」

ストラートボーゲルズは、リツイートした人やホームレス同士で支え合おうとする人たちで構成されている。「しかし、まだ支援は必要です。皆弱い立場に置かれている人たちなので、私は牧師としての責任を果たす必要があります」

更にタニヤは熱く語った。「ぜひ知ってほしいのは、ホームレスである彼らが、町にとって大事なものを提供しているということです。人々は彼らの路上生活の話を聞くことで、自分の感性を豊かにしているのです」


マルグリートという女性と素敵な時間を過ごしたんだ
―イド・ケンプ(@kemphaan050)

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「僕と連絡を取りたいという人たちもいるんだ。これはいいことだと思うよ」と語るのはイド・ケンプ(@kemphaan050)だ。彼は元ホームレスで、少し戸惑いながらも最近スマートフォンを手に入れた。現在では300人以上のフォロワーがいる。

「僕はオープンホフという宗教施設でよくコーヒーを飲んでいるんだけど、そこでStraatvogels 050に参加しないかと誘われたんだ。何かお礼をしたいと思っていたから承諾したよ。この間はマルグリートという女性素敵な時間を過ごすことができた。彼女は僕をフォローしてくれて、リツイートも頻繁にしてくれてたから、次第にやりとりするようになってね。一緒にコーヒーを飲みに行って、僕の家に一度来たこともある」

最近では地元の新聞に彼のインタビューが掲載されたため、更にフォロワーが増えたという。彼はかつて薬物依存症だったことがあり、克服するまでの数年間を路上で暮らしていた。その時に自分を哀れな目で見る人たちに対し、ものすごい苛立ちを感じたという。「みんなが必死で普通に接しようとしてるのがわかった。そして僕を連れて街中をあちこち案内し、最後は食料品店で食べ物を買い与えてくれた。でも僕をジャンキー扱いしていて、お金を渡すのが嫌なんだってわかったよ」


時代に乗り遅れないこと。特に政治は大事だよ
―ケネス・ドーデル(@straatvogels040)

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「おはよう、路上の鳥のみんな。今日はモザイクの仕事をしているよ」。6月5日、ケネス・ドーデルはアイントホーフェンにいる仲間に向け、写真と一緒にこうつぶやいた。彼は以前ソーシャルワーカーだったが、介護をしていた母が最近亡くなり、ホームレスになった。母の治療費がかさんで払えなくなり、家を失ってしまったのだ。

ツイートを始めてから3ヵ月、今では42人のフォロワーができた。彼はこのプロジェクトを継続させることが重要だと考えている。「時代に乗り遅れず、自分の周囲に常に目を向けること。特に政治は大事だよ」と60歳の彼は語る。「変化には慎重を期し、チーム一体となって先を予測しなきゃならない。それが補助金のためにも重要だ。私たちホームレスは組合みたいなものだからね。信頼できるネットワークを持つのはとてもいいことだ」

ケネスは1日に2~3回投稿することを心がけ、たくさん写真を撮っている。このインタビュー中も、自分のスマートフォンでインタビュアーとカメラマンの写真を撮り、すぐにホームレスの仲間たちにツイートしていた。


まるでジャーナリスト。最高の機会を与えられたと思った―ドーティ(@struinvOgel024)

ドーティ(@struinvOgel024)は、ナインメーヘンで若いホームレスを収容する施設に連れて来られ、携帯を手にした。「まるで自分がいっぱしのジャーナリストになったようで、最高の機会を与えられたと思った」と彼女は言う。

まず彼女は施設への不満をツイッタ―に投稿。特に再加熱された食事のひどさについては何度も批判した。「私は糖尿病なんだけど、滞在した1年間でHbA1cの糖値が7から13まで上がってしまった」と彼女は言う。しかし彼女が書くのはそれだけではない。詩もたくさんつくっており、また現在は小説に取り組んでいるという。

「今は自分の部屋を見つけたから、厳密にはもうホームレスではないの。だから卒業すべきかもしれない。でも本当に居心地のいい小さなグループで、みんながおはようと声を掛け合ってた」


今日は誰のキャンドルに火を灯そうか?
ージェラルド(@goudenengel76)

Tweet gerard

「ゴールデンエンジェル」の名を持つジェラルド(@goudenengel76)は、オランダの13都市を放浪し、ようやくナイメーヘンを囲む森林のキャンプ場に居場所を見つけた。37歳の彼は現在地元のホームレス施設の清掃を行いながら、Straatvogels024とつながっている。

「誇り高き#パパ/愛する/正直/率直/優しい/双子/素晴らしい未来へ/#信頼#信念/こりごり#路上生活~彼のプロフィールより~」――ジェラルドは、この自分のツイッタ―名を誇りに思っているようだ。

彼は1日平均20回ツイートを行い、ビジネスマンから神父まで1300人以上のフォロワーがいるという。時に「今日は誰のキャンドルに火を灯そうか?」とつぶやくと、たくさん返信が届くのだそうだ。

彼の住まいの前には頑丈でピカピカの自転車が停めてあった。話を聞くと、ロッテルダムに住むフォロワーから譲り受けたのだと言う。彼が自転車を取りに来られるようにとフォロワーが同封してくれた電車の切符も見せてくれた。自分の誕生日のために、写真入りのポストカードを送ってほしいとメッセージを発したところ、大量のポストカードが届いたそうだ。

最近では、ナイメーヘンで開催される世界最大のウォーキングイベント、「4日間歩け歩け大会」について熱心にツイートしていたジェラルド。現在のところ、収入は、ホームレスの人に支給される給付金だけである。しかし彼は忍耐強い男だ。いつか自分にもツキが回ってくると信じている。それまでは、キャンプ場からナイメーヘンの職場まで、アップダウンのある100キロの道のりを自転車で通い、路上のゴミ拾いをする日々だ。そして世界中のユーザーと同じように、ツイッタ―のネットワークを駆使し、地元のイベントから国際的なニュースまで、あらゆる情報を得ている。





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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。