ホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」のメンバーの古谷さん(59歳)。今は路上生活を脱し、派遣会社の紹介で建築現場で働きながら、月2回のサッカーの練習に足を運んでいます。

なぜ、サッカーを続けているのか、どんな想いをもってダイバーシティカップにのぞむのか意気込みを聞きました。

Tumblr inline npepdiza5l1tury1l 500

(写真提供:葛原信太郎)


あと10分遅かったら、死んでいたかもしれない。体調を崩してホームレスに

自分は川崎で住み込みの仕事をしていたのですが、2009年の5月末の熱疲労で倒れてしまったんです。

病院の先生に言われたのは「あと10分遅かったら、死んでいたかもしれない」という言葉。自分なりに生活をしていこうと頑張っていこうと思っていた矢先だったのでとてもショックでした。

職場の人や会社を紹介してくれた派遣会社の人は良くしてくれたのだけど、高血圧が原因で仕事を続けられなくなってしまい、その後は、住み込みの仕事を転々としました。

そして、2010年頃からから2年間ほど隅田川の河川敷や川崎の駅構内でホームレス生活をしていました。その頃は、本当に生活が不安定で、段ボールや新聞に身を包み冬を過ごし、手配士の人に仕事の紹介をしてもらいなんとか生活をしのいでいました。

自分の転機になったのは、夜回りをしているボランティアの方から、もやいさん、ビッグイシューを紹介してもらったことです。

もやいさんには生活の相談にのってもらい、ビッグイシューには雑誌販売の仕事の機会をもらいました。

自分は代々木駅北口でビッグイシューの販売をしていたのですが、お客さんが雑誌を買ってくれそれがお金になるだけでなく、その時にかけてくれる「あまり無理しないでね」「1人で抱え込みすぎないでね」そんな言葉が、励みになりました。

路上からネットカフェに。そこで出会ったサッカー

Tumblr inline npepht0dl11tury1l 500

(写真提供:葛原信太郎)


ビッグイシューを始めてからは少し生活が安定してきたので、路上でなくネットカフェなどで寝るようになりました。それでテレビ番組だったと思うんですが、サッカー番組でJリーグのゴールキーパーの人を特集した番組をしていたんです。

背が170センチくらいの大きな人でなかったんですけど、ものすごいスーパーセーブをしている様子や、「小さくてもサッカーはできる」……そんなことを言っていたんです。

じつは、自分は定時制の高校を中退してるんですけど、家の事情もあって、給料がもらえて住む場所も安定しているという理由で、自衛隊で9年ほど働いていたんです。その時期に、ミニサッカーのクラブみたいのがあって1年間だけゴールキーパーをしていました。ただ、自分は背が160センチ台で小柄だし、大きい人にはかなわないな、なんて思ってたんです。けど、その番組を見て、「あー。もう一度サッカーしてみたいな」と思って……。

ちょうど、その頃、ビッグイシュー基金のクラブ活動でもホームレスサッカーチームができて「ホームレスワールドカップ出場を目指そう」という話が出ていました。身体も動かしたいし、すっかりおっちゃんになっちゃったけれど、もう一度新しいことにチャレンジしたい、そんな想いで、サッカーの練習に参加するようになりました。


知らない世界、新しい出会いを

Tumblr inline npeplhOrse1tury1l 500

(写真提供:葛原信太郎)


ただ、残念ながら、ホームレスワールドカップの選考大会には落ちてしまい、ワールドカップには行けなかったんです。

でも、ワールドカップに行ってきたチームメイトの話を聞くのは楽しかったです。海外には、女性のホームレスサッカーチームがあるとか、養護施設出身の若い子が来ていたとか、パリの景色はきれいだったとか……。

ホームレスワールドカップには行けなかったけど、サッカーを続けていけば、これからも何か自分の知らない世界や新しい出会いがあるのではないかと思って、今も続けています。

実際、自分は、60歳手前のおっちゃんだけど、コーチに教わって練習していると、少しずつだけど上達している実感はあります。ボールをきちんとトラップできるようになったし、まぐれでもゴール前にいたら見方のボールが身体にあたってゴールに入る。

肉体労働でたくさん汗をかいてきたけど、サッカーをしている時にかく汗はまた違う爽快感がある。練習や試合では、普段生活をしている中では出会わないような人との出会いがあって、話をしたり聞いたり楽しいです。外国の人と試合しても、言葉は分からないけど、サッカーを通じてコミュニケーションができる。


何かを始めるのに遅いことはない

今回のダイバーシティカップには、いろんな人が参加すると聞いています。学校を行っていない人とか、病気を抱えている人とか。

自分は何か偉そうに人に言える立場ではないんですが、学校の決められた範囲の中では評価されない才能をもっている人もいると思います。

だから、こうした大会をきっかけに、自分もいろんな人と自分もいろんな人と出会いたいし、参加者の人にとっても何か良い刺激になったと思っています。

最近、思うんですけど、何かを始めるのに遅いということはなく、何歳だって始められるし、自分なりの成長というのがあるように思います。

ただ、そうは言っても、おっちゃん相手に試合するのだから、対戦チームの人にはお手柔らかにお願いしたいですけど……(笑)

あと、大会の実施に向けて、いろんな人が寄付やボランティアという形で応援してくれていると聞いています。自分は、ホームレスになった時に、お金がないということはご飯が食べられず命に関わることだと身をもって感じました。

寄付という形で応援してくれている人のお金は、その人が汗水かいて稼いだお金の一部を分けてくれることだから、その人の時間や財産、愛をもらうことだと思うんです。

だから、大切に使わなきゃいけない。 自分はもうおっちゃんになっちゃって、できることに限りがあるけど、「あんなじじいでサッカーへたくそだけど、頑張っているやつがいるのか」というのを見てもらって、みんなの刺激になったらそんな風に思っています。

自分が今こう思うのは、「野武士ジャパン」の当時のキャプテンが50歳過ぎても頑張っているのを見ていたから。今は、連絡がつかず会えないけれど、昔のチームメイトや、今のチームメイトに励まされています。大会が楽しみです。

ダイバーシティカップ、今回の大会が1回目ですけど、2回、3回と言わず、10回、100回と続いていって欲しいですね(笑)


ダイバーシティ・フットサルカップの支援はこちらから

スクリーンショット 2015 06 09 8 59 01

ビッグイシュー・オンライン編集部より:「ダイバーシティ・フットサルカップ」、クラウドファンディングを使って開催資金を集めています。プロジェクトページもぜひご覧ください。






ビッグイシューをいいね!で応援!



最新情報をお届けします

無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。