ビッグイシュー本誌連動企画として、金融機関として異例の脱原発宣言を行い、地域に根ざした信用金庫として城南信用金庫の理事長である守田正夫さんと前理事長で現在は相談役の吉原毅さんにお話をお伺いしました。

原発について、現在の経済社会について、信用金庫として社会に果たしていきたい役割について、非常に盛りだくさんのお話をお聞きしたので、2回に分けて連載を行っていきます。

「世のため人のため」が信用金庫の原点

編集部:まず、一般的な銀行と信用金庫の違いを教えて下さい。

守田:信用金庫は、銀行よりも規模が小さい金融機関だと思われていることが多いですが、銀行と信用金庫は法人組織のあり方が根本的に異なります。まず、簡潔に説明すれば、銀行は株式会社組織の営利法人であり、私たち信金は会員の出資による協同組合組織の非営利法人なのです。

信用金庫の原点は、産業革命で近代化が進む一方で貧富の格差などの社会問題が顕在化していた 19世紀半ばのイギリスにあります。格差の広がりによって生きていくことに危機感を持つようになった労働者が、お互いに助け合って、みんなが豊かで安定した生活を営めるよう共同出資で世界で初めて設立した生活協同組合が信用金庫の原点です。そこから、この思想が欧米諸国にも広がり、日本にも伝わってきました。

1900年に産業組合法として日本にも成立し「産業組合」「生活協同組合」「農業共同組合」が設立されました。これらは相互扶助の精神のもと格差の下にいる厳しい生活をしている人と一緒に生活をよくしていくための制度であり、城南信用金庫の前身である入新井信用組合は 1902年に加納久宜子爵によって設立されました。この加納久宜子爵は産業組合運動に尽力した人物ですが、「世のため人のため」「一にも公益事業、二にも公益事業、ただ公益事業に尽くせ」という言葉を遺しました。この精神を私たちも引き継いで経営を行っています。

編集部:東日本大震災が2011年3月に起こったあと、4月には脱原発宣言をされました。

守田:「世のため人のため」に事業を行っているので、社会にとって大きすぎるリスクがあるものを受け入れることはできません。東日本大震災で福島の原発事故が起こったとき、脱原発の決断は人として、公益事業を行うものとして当然の選択でした。これまで私たちは東京でたまたま原発の恩恵だけを享受してきましたが、被害を受けた人はもう元の生活に戻ることができません。福島第一原発事故は収束していないし廃棄物の問題などがまだまだ山積みな状態、そんな状況の中で原子力発電を進めていくことは間違っています。今だけのことではなく、しっかりと将来的なことを考えて、再生可能エネルギーなどの将来に投資をしていくべきだと思います。

編集部:それでも電気料金の値上げもありますし、日本経済が落ち込んでいる状態で原発を止めることは、日本経済にとってあまりよくないのではないかという意見も多くありますが。

守田:電気料金が値上がりする問題は、今のことしか考えていないから問題なのであって、長期的に考えると原子力の平和活用などいいますが、これからも継続的に研究を行ったとしても大きなリスクはなくならないですし原子力に将来性はないと思います。将来的なリスクやコストなども計算に入れると割りに合わない。それだったら他の選択肢を考えることが自然な結論だと思います。

世論調査でも反対の意見が多いですし、社会的に影響力のある人や組織がもっと発言できるといいですね。個人的に思っていても、それを組織の人として発信することは難しいのだと思います。

ゼロベースで考えると脱原発は当然のこと

編集部:なぜ、多くの社会的に影響力のある人が発信することができないのでしょうか?

守田:利権や色々なところからの圧力もあるのでしょうね。それから、電力業界や政府としてはこれまでかけてきたコストを考えるとそれを全部なげうって、脱原発に踏み切ることができないということがあるように思います。

しかし、脱原発のような大きなことを考えるときに大切なことはゼロベースでものを考えることです。今ある利害関係などを考慮せずにゼロから原発について考えたら、原発をやめる選択をすることは当然に思えます。

今の原発の捉え方の一つの問題として、原発はこれからも電力を供給しうる「資産」として考えられていることです。これは、発電を続けるのであれば原発は「資産」になるけど、廃炉を行うとしたらゴミとなり、負債になってしまうということ。このことが原発をやめられない一つの要因だと思います。もう一つ申し上げておきたいのが、「原発の電気は安い」というカラクリの問題です。万が一もう一度事故が起きてしまったら莫大なコストがまたかかりますし、事故が幸い起きなかったとしても核廃棄物の問題は解決されていません。そして、そのことは原発のコスト計算には含まれていないのです。

原発をゼロにすることに日本にリスクは一つもない、むしろメリットばかり

編集部:信用金庫として「世のため人のため」を考えると脱原発宣言は当然の選択だったとのお話がありましたが、多くの企業がこのような宣言をすることができない中で脱原発宣言をするときの葛藤は?

吉原:「脱原発宣言」を行ったのは、私の中では常識的な行動でした。あれだけ大きな事故を起こしているので、当たり前に考えてこの行動しか選択肢としてありませんでした。

ただ、信用金庫もお客様がいて成り立つものなので、お客様にとって今回の選択はいいものなのかということは考えました。が、私たちの取るべき方向は変わりませんでしたし、多くのお客様は私たちの決断に賛同してくれました。

編集部:原発はリスクが多いので無くしたいというのは私たち一般市民誰もが本当は思っていることだと思いますが、化石燃料の輸入が増えて貿易赤字になっているなどといわれると迷う人もいると思います。本当に原発ゼロで日本はやっていけるのでしょうか?

吉原:まず、原発を止めて化石燃料の輸入が増えていることで、貿易赤字になっていることは経済学的に考えれば全く問題ないことであり、これまでの日本経済の状況を考えると改悪ではなく改善なんです。日本の不況の大きな原因は、貿易収支が黒字になっていることでした、貿易黒字だからこそ円高になり円高不況に日本は陥っていたのです。今は、円高が是正されているので、自動車産業などの輸出は増えて、七割の上場企業は増収増益となり、その影響が中小企業にも回り始めている状態です。

これは、もともとアダム・スミスも「重商主義の罠」と言っており、輸出ばかりを行い貿易黒字を続けていくことは、自国にお金を貯めることにはなるが、全体の経済が停滞してしまうことに繋がると警鐘を鳴らしています。

エネルギーが足りないということも嘘です。石炭・石油・シェールガスがどんどん余っていて値段が下がっている状態です。石炭は、夕張炭田など日本にもある資源であり、世界的にはまだ1000年分あるといわれているとても安いエネルギーです。水から水素を取り出す技術なども進んでいます。

また、電気が足りないというのは大きな嘘です。本当は、日本のどこかの地域で電力が不足してしまっても、ロスが少ない高電圧線で日本全国どこでも電力を送ることが可能ですし、日本全体で電気を融通しあうことは可能です。また、今も原発ゼロで日本の電力は十分に足りています。

他にも原発に関する数字は色々とごまかされています。例えば、先ほど守田からもお話をしましたが、原発によって生み出す電力のコストは、火力・水力などと比べて安いとよく言われていますが、これには核廃棄物の処理にかかる費用は計上されていない。なぜなら、これから必要になるコストを正確に算出することができないからです。つまり、一見安く見える原発により生み出す電力は、将来的なかかるコストの多くが見えなくさせられているのです。

そのため、電力が足りていない、原発以外の電力は高い、原発ゼロで日本経済はダメになる、というのはすべて真っ赤なウソなのです。そして、原発ゼロにして、化石燃料の輸入を増やすことは日本の貿易収支を正常にし、円高を是正することなので、日本経済を考えるとむしろ大きなメリットがあることです。

 

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本当の意味でのいい仕事を作っていく! 城南信用金庫インタビュー(後編)



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