オハイオ州コロンバスに住むキンバリー・トンプソンさんは43歳のシングルマザーだ。時給1200円ほどの製品箱詰めの仕事に就き、15歳の娘と、トレーラーを改造した家で暮らしていた。

2013年5月、キンバリーさんは子宮全摘手術を受けたが、身体が衰弱して以前の仕事ができなくなり、州政府から医療補助や食費援助など、月額7万6千円ほどの福祉給付を受け始めた。

不幸なことにその1ヵ月後、手術に起因する感染症から内臓が機能しなくなり、人工肛門を形成しなくてはならなかった。さらに1ヵ月間の昏睡状態に陥り、足の指7本を切断した。また、軽度の認知障害も残った。

ところが、キンバリーさんが入院中に、州政府は福祉給付を打ち切った。援助を受ける人に義務づけられている求職クラスに、彼女が昏睡中に出席しなかったのが、その理由だ。

福祉給付を受ける条件は年々厳しくなり、求職活動が要求される。だが、昏睡中の人が、どうやってクラスに出られるだろう。

退院後も障害があるキンバリーさんは、福祉事務所の出頭要請に応じられず、支給は無情にも打ち切られた。

彼女は家を失い、数軒の親戚宅を転々とし、人工肛門を抱える身にもかかわらず、ソファの上で寝ている。娘は、父親が引き取った。

あまりにひどいということで、州政府は福祉給付を再開し、打ち切り分もさかのぼって支払った。だが、給付は将来減額されそうだ。

理由は、キンバリーさんがホームレスになり、娘と一緒に住めなくなったからだ。扶養家族がいないとされ、福祉給付額がカットされる。障害のあるキンバリーさんに、10代の娘を育てていく負担は重いのに。

英語の辞書で「福祉」を調べると、「健康・幸福・満足できるレベルの生活状態・困窮する者への財政的援助」などの意味が出てくる。

翻って、オハイオ州のキンバリーさんに対する仕打ちは、元の福祉の意味するところの正反対だ。

なぜ福祉制度が、福祉を否定するものに換骨奪胎されたのか。受給者への疑いと蔑みの目や、課される厳しい条件にこそ、疑いの目が向けられるべきだ。





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