ミッチ・アルボムはアメリカのベストセラー作家、およびジャーナリスト、ミュージシャン。作品の売り上げは世界で3500万部以上。97年に発表した自伝的小説『Tuesdays with Morrie』(邦題:『モリー先生との火曜日』)はニューヨークタイムズでベストセラー第1位を獲得、その後も205週間もの間、ベストセラーリストにランクインし続けた。彼はその筆力を活かしてホームレスや貧しい人々の支援をはじめた。ミシガン州デトロイトにはじまり、今では海外にまで対象を広げるアルボム。*「Spare Change News」誌に最新作『The Magic Strings of Frankie Presto』と自らのチャリティー活動について語る。
記事:ジャイソン・グリーノー

*「Spare Change News」は米国・マサチューセッツ州のストリートペーパー。
「ストリートペーパー」とは、ホームレスの人の仕事をつくり自立を応援する事業。雑誌を発行しその販売をホームレス状態の人の独占販売とすることで仕事をつくる。世界に同様のしくみの雑誌が120誌以上あり、日本では『ビッグイシュー日本版』がある。

スポーツ記者からスタート。ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストの常連であり熱心な社会活動家

アメリカの作家ミッチ・アルボムは「人々を助ける」というキャリアを作ってきた。世界中で3500万部以上売り上げた作品(その多くはインスピレーションを与えてくれる人物やテーマを扱う)を通して、また、数々の慈善活動を通じて。

コロンビア大学大学院を卒業後、20代前半にスポーツ記者として人生のスタートを切ったアルボム。スポーツをテーマにした『Fab Five』や『Bo』、名作コラム4編を集めた『Live Albom』などを出版。全米で最も優れたスポーツ記者として選ばれたこともある。

一方でそのキャリアの大半をホームレスや貧しい人々に捧げてきた。支援はミシガン州デトロイト地方だけでなく海外にまで及ぶ。彼はホームレスシェルターを支援するための「A Hole in the Roof Foundation」や、ボランティアを支援現場に派遣する組織「A Time to Help」など、様々な慈善事業を8つ創設。また、社会的弱者を支援する諸慈善団体を統括する組織「S.A.Y. Detroit」を設立した。更には、アメリカで初となる、ホームレス状態の子どもと母親のための無料診療所「S.A.Y Detroit Family Health Clinic」も開設した。

これら長年にわたる偉業の数々を読むと、アルボムはイカれてしまった(何かに憑りつかれておかしくなってしまった)と思うかもしれない。しかし驚くべきことに、ニュージャージー州パセイック出身のこの人物は、ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストの常連であり続けている。

恩師モリ―先生の医療費の支払いのために書いた本が世界中で売れて1400万部

アルボムがベストセラーリストに初めて登場したのは1997年。末期の筋萎縮性側索硬化症病(ALS)を患った大学時代の恩師モリー・シュワルツとのやりとりを自伝的にまとめた本を出版した時のことだ。アルボムがモリーに教わっていたのは、1970年代後半のブランダイス大学時代。この本『モリー先生との火曜日』は、当初モリーの医療費を賄うために執筆された。それが、世界中で1400万部を売り上げ、ニューヨークタイムズのベストセラーリストに205週もの間ランクインし続けるという驚異的な結果を記録した。

「(『モリー先生との火曜日』に至るには、)何というか一連の出来事があったのです。」とアルボムは言う。「それまでに何冊かスポーツ関連の本を書いていましたが、それ以上のことをやっていくつもりはありませんでした。けれどそこで、かつての恩師が筋萎縮性側索硬化症病(ALS)で死につつあるのを目の当たりにしたのです。実を言うと、自分は小説家としてやっていくつもりはありませんでした。ただ、先生の医療費を払うために書いたのです。」

作品の反響について聞くとアルボムは言った。「(ベストセラーにすることを)狙って本を書き始めた訳ではありません。」「それはまったく予期しないものでした。作品を書いたのは37歳の時で、20代の時のように、ニューヨークタイムズでベストセラーリストに載る作家になってやるんだ、という野心もありませんでした。思いもしなかったことが、起こったのです。」。

ベストセラーを生み続け、遂には若き日に諦めた夢を実現

アルボムの成功はそこで終わらない。2003年の『The Five People You Meet In Heaven』(邦題:『天国の五人』)は出版後たちまち人気を博し、ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストに95週留まった。さらには、2006年に『For One More Day』(邦題:『もう一日』)を、2009年に『Have a Little Faith』(邦題:『ささやかながら信じる心があれば』)、2012年に『The Time Keeper』(邦題:『時の番人』)を、そして2013年には『The First Phone Call From Heaven』(邦題:『天国からの電話』)を出版。直近では『The Magic Strings of Frankie Presto』(未訳)を出版したが、この作品はロックンロールのサウンドトラック付きだ。

最新作の主人公、音楽家フランキー・プレストは天与の才に恵まれたギタリスト。彼の卓越した演奏技術は、人生や仕事で出会う多くの人々の人生に影響を与える。 この小説はアルボム自身がごく若いころから抱き続けたミュージシャンへの夢にインスパイアされている。

「自分がアルバムを出すなんて、ましてや、本のサウンドトラックを出すなんて、信じられません。」とアルボムは言う。「ずっと夢でした。若い頃の私は駆け出しのミュージシャンで、音楽の世界での成功を望んでいました。しかし、それに見切りをつけて物書きの世界に入ってからは、アルバムを出したいなどという考えは捨てました。ですから、「それから35年後、ようやくアルバムを出せました!」と言えるものができたのはとても嬉しいです」。

作品に流れるテーマは、死、運命、信仰

『モリー先生との火曜日』以来、全アルボム作品が扱ってきた話題、それは、多くの人がおそらく無意識のうちに日々考えていることだろう。つまり、死や死後の世界について、偶然の出会いについて、最愛の故人との会話の可能性について、などだ。しかしながら、アルボムが最重視するテーマの一つ、それは、著書『ささやかながら信じる心があれば』に見られる。幼少期のアルボムとユダヤ教のラビとの対話を収録したこの作品で、二人は信仰について語る。同時に、デトロイトの恵まれない人々やホームレスを支援する活動も描かれている。

この『ささやかながら信じる心があれば』を執筆中に、アルボムはデトロイトのある教会と出会う。その教会は町の多くのホームレスにとってのシェルターであったが、大改修が必要な状態に陥っていた。そこでアルボムは、「A Hole in the Roof Foundation (訳:屋根の穴財団)」の設立を決意する。

心に刻まれた恩師の言葉「自分の生きる地域や社会に責任を持て」

「その教会であった理由はただ一つ。私が既にホームレス支援をしていたからです。」とアルボム。「チャリティー精神もある意味、モリー先生から教わったといえますね。先生から、自分の生きる地域や社会に責任を持てと叱咤されました。君には発信力がある。その力を自分の名声のためにだけ使うのではなく、他のことにも使う必要があるのだと。この先生の言葉があって初めて、私はチャリティー活動を始める決意したのでした。それ以前に(ホームレス支援)について考えたことはおそらくありませんでした。そのころの私は、自分のキャリアや野心に集中し過ぎていましたからね。」

モリー先生教授の助言をきっかけに、始めたチャリティー活動だが、その後アルボムは自身独自のチャリティー組織を設立し。ホームレス支援に取り組む諸団体をサポートしている。

足元の支援、そして遠くで困っている人たちへの支援

「私の支援活動のアプローチは、大きく二つに分けられます。」と彼は言う。その一つは地元デトロイトでの支援である。「私が思うには、人はまず自分が住む地域を支援します。それは、実際にあなたはそこに住んでいて、支援活動にも参加しやすいからです。私は「S.A.Y. Detroit」というチャリティー組織を設立しましたが、これは9つの慈善団体を支援の対象にしています。その9つの団体の活動の多くはホームレス問題に関連しています。

アメリカ初の、ホームレスの子ども達のための診療所も作りました。この診療所はホームレスの子どもとその母親のためのものです。というのも、ホームレスの子ども達が学校にきちんと行けないという深刻な問題があります。病院にかかれないために、風邪ひとつでも長引き、丸3週間の病欠になってしまうこともあるのです。

「ホームレス状態の人々が自分の子どもを救急病院に連れて行きたがらないのは、もしホームレス用のシェルターに住んでいることが病院に分かってしまうと、児童相談所に子どもを連れていかれてしまうからです。そうなると子どもを取り戻すためには戦わなければなりません。」

彼は続ける。「だから、私たちは独自の医療施設を開設しました。もうすぐ9年目に入ろうとしています。私たちは多くのシェルタープログラムにも出資しています。男性用、退役軍人用、高齢者用のものもあります。また、就職活動中だったり、薬物中毒の治療を終了した母親たちが子どもを預けられる保育サービスにも出資しています。」

「もう一方はと言えば、例えば、「A Hole in the Roof Foundation」です。これは『ささやかながら信じる心があれば』の出版後に設立され、全米中の活動に出資しています。カリフォルニアを拠点とする活動や、東海岸のどこか…、自分が住んでいない、行きもしないようなところの活動をサポートしています。ハイチには孤児院を設立しました。「ホームレス」という言葉が大したことないと感じるほどに、ハイチの人々の暮らしは悲惨なままですがね。」

法を犯してしまった人々の背景にあるのは、失業や、家族・居場所がないこと

話は慢性化するホームレス問題におよび、60年代後半と70年代後半にデトロイトを吹き荒れたコカイン大流行についてもアルボムは触れる。

「現在起きているヘロインの蔓延は前代未聞というわけではありません。かつて別の薬物で起こったことと同じです。ただ、最悪なのはコカインがデトロイト市に大変な影響を及ぼしたことです。コカインはデトロイトを荒廃させました。比較的安価でドラッグが手に入る時はいつも・・・社会が、とりわけ貧困地域でボロボロになっていくのが分かります。犯罪が増え、生活が崩壊していくのが分かります。」。

アルボムはその慈善活動を長年続けてきて多くを支援してきたが、中央政府にいる政治家たちがもっと、住宅政策と雇用創出面で努力すべきだと感じている。また、彼らがチャリティー団体と協力して、全国のホームレスコミュニティや貧困層の支援に取り組むべきと考える。

「政府は充分な対策を打っていないと思います。でも、政府が何らかの対策をしたとしても、そのやり方が適切でないといつも感じます。」と彼は言う。「悲しい事実ですが、ホームレス問題に対処しているのは信仰に基づいた組織や団体です。それらの団体は政府ではないのですが、政府の資金が民間や団体の資金として付与されています。しかし、私は政府がホームレス問題に適切に対応できるものとは思っていません。政府は住宅政策、雇用の分野に力を入れることで、ホームレス問題にもっと貢献できると思います。

「(先ほど話した)コカイン依存やヘロイン依存のことは申し上げましたが、ホームレス問題の最重要課題とは、仕事がないこと、機会が不足していることです。法を犯してしまった人々の背景には、失業や、家族の規範が壊されてしまっていて居場所がないことなどがあります。私は、家族が全員同じ地域に住んでいるのにも関わらず、トラブルメーカーとみなされて引き取りを拒まれる人たちに会ったことがあります。社会の大きな問題は、政府がその問題の根源となる部分に取り組まない限り、解決しないと思います。つまり、貧困や家族問題の土台となる問題にです。しかし、現状の政府によるホームレス対策を見る限り、成功しているとは言えません。」

人はみな、誰かに影響を与えている

人々を助けるというキャリアを築いてきたアルボム。チャリティー活動と並行して、人々が感情と向き合うことを助ける、これはアルボム作品の中心的テーマだ。

「いつも、最初により大きなテーマに触発されます。その後、テーマに沿った筋書きや登場人物を探します。」とアルボム。「最新作の『The Magic Strings of Frankie Presto』では、人は皆、自覚してようがいまいが、その天与の才能によって誰かに影響を与える、ということがテーマとなっています。Frankie Prestoに関して言えば、彼は魔法のギターを持っていて、それをとても上手に弾くことができます。そして、そのギターで人々の人生を実際に変えることができます。誰かの人生を変える度に、ギターの弦は青色に変化します。

「とてもお伽話的な手法で、人は皆誰かに影響を与えることができることを伝えようとしています。また、私たちは皆「青色の弦」を持っているということです。心の中にね。」

『The Magic Strings of Frankie Presto』 ーサウンドトラックCD付き書籍。 サウンドトラックはイングリッド・マイケルソン、KISS、リトル・リチャード、トニー・ベネット、ミッチ・アルボムらの曲で構成ー現在発売中。
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https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-02-9781847442277
(日本では翻訳版は未発売)

ミッチ・アルボム:作品一覧

INSPニュースサービスの厚意により/ Spare Change News.





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