社会の縁にいる非力な人間にとって、英国はどんな風に見えるのでしょうか?

今まで幾度も繰り返されてきたこうした質問に、正直な答えを得られたことはほとんどありませんでした。

今回は、社会の一員となるべく忙しく働きながらも依然として社会の外側に置かれている、ビッグイシュー販売者たち独特の視点を、読者のみなさんにお伝えしたいと思います。英国全土にまたがる販売者たちに、2015年のある日の暮らしぶりを聞き取った、24時間ドキュメントです。

聞き取り:アダム・フォレスト、エイドリアン・ロッブ(英国ビッグイシュー編集部)

05:00
ジェフ・ナイト
イングランド南西部 ブリストル
(販売場所:クリフトン・トライアングル)

俺は朝早くに通りに繰り出すのが好きでね。一晩中路上で過ごしていた頃からの習慣なんだ。今は泊めてもらえる場所があるけど、それでも習慣は抜けないね。朝5時には自分の持ち場で雑誌を売り始めてるよ。早起きさん達を捕まえるのさ。お客さんの笑顔と「おはよう」が嬉しいね。それで一日が始まるんだ。

Jeff Knight

06:30
ジャネット・ボワーズ
イングランド南海岸 ボーンマス
(販売場所:ウェストボーンのマークス&スペンサー)

私は朝6時半に起きるわ。小さい子が3人いるのよ、上から11才、9才と5才。朝ご飯を作って、子ども達のランチボックスにサンドイッチを詰める。そしたら子ども達を学校に送る時間ね。ホームレス状態にあるせいで、子どもたちはこの2年半で3回転校したのよ。そんなことになったのは、2006年に自分たちの公営住宅を他の人に受け渡してしまったから。以後、民間の貸部屋や仮住宅を転々としている。今借りている部屋も、大家さんが売りに出すと言ってきたから、このごろは毎朝、福祉事務所やボーンマス・チャーチズ住宅協会に何本も電話をかけて、次に住めそうな場所を探しているのよ。まぁ、とにかく、子どもたちを学校に送り出した後は自分のいつもの持ち場に向かって雑誌を売るようにしているわ。いろいろと大変な時だからこそ、とても助かってる。

09:30
アーメッド・アブディ
ロンドン
(販売場所:ベーカー・ストリート)

私はベーカー・ストリートの地下鉄の駅でこの雑誌を販売しています。シャーロック・ホームズ美術館が開く朝9時半頃になると、たくさんの観光客がベーカー・ストリート221bへの行き方を尋ねてくるんですよ。美術館はこの道沿いなので、喜んで道案内をして、ひとときの会話を楽しんでいます。

10:00
ピーター P・J コールズ
イングランド北部 ダーリントン
(販売場所:ハイ ロウ)

自分の事業を立ち上げたいと思っているので、今はすごくがんばって働いています。計画しているのは、窓の清掃や雑務を手伝うビジネス。大変な時も、ビッグイシューは夢に向かう僕を励ましてくれるし、困難な時の生計を支えてくれている。今後、自分の事業にとりかかるにしても、週に何日かは両方を掛け持ちしようと思ってるんです。早朝、雑誌を販売して、午前10時には窓の清掃…というように。そこに仕事がある限り、自転車で行ける場所ならどこまででも出向くつもりです。

Peter Cowles

11:00
スチュアート・ドラッカー
ウェールズ カーディフ
(販売場所:チャールズストリート)

僕は午前9時から雑誌を販売していますが、調子が出てくるのは11時です。人通りも多くなり、売れ行きが良くなるんです。今は午前中しか雑誌を販売できないので、常に親切で礼儀正しくお客様に接しています。午後はカウンセリングに通っているんです。「救世軍(国際的キリスト教団体)」に紹介してもらったブリッジプログラムのおかげで薬物をやめることができました。もうけっこうな期間、薬物使用をせずに済んでいます。それも、いつも支えてくれる救世軍とカーディフのビッグイシュースタッフのおかげです。

12:30
アンドリュー・マクギャリー
(販売場所:イングランド中部 タウセスター)
この時間はね、いつもならお昼休みにして何本か電話をかけなくちゃいけないんだ。タウセスターのガラクタ市や教会のダンスパーティー、コンサートなんかのチャリティーイベントを色々と主催しているからね。地元の教会グループやノーザンプトンにある「ホープセンター」というホームレス支援センターに寄付が集まるよう、手伝っているんだよ。最初にこの街に来た時、ここのみんなが色々と援助してくれたんだ。羽布団やベッドの横に置ける小型テレビなんかをくれたりして助けてくれた。だからその恩返しに他の人の為に何か出来る事が無いだろうかと思って。今ではちょっとした地元の有名人さ。

13:00
ジョン・ミラー
スコットランド エディンバラ
(販売場所:マーケットストリート)

1時頃になったら道を渡ったところにあるカフェでコーヒーブレイクにします。そこは「シティ・アート・センター・カフェ」というカフェで、ボクには無料でラテをごちそうしてくれるんですよ。とっても親切な店員ばかりのカフェでね、ありがたいですよ。

14:00
オーリー・ベイン
イングランド北部 バーミンガム
(販売場所:リビング・ウォール)

自分は通常2時頃に一旦終わりにするよ。朝からずっとお客さんとしゃべり通しだからね。お客さんといい関係を築くのはとても重要な事だよ。サッカーとかいろんな雑談をして、冗談を言い合うのは楽しい。2時頃になったら、イート・フォー・レスっていう安い店で99ペンスのツナコーンのバゲットを買って、それを食べながらその日の売り上げを計算するんだ。バーミンガム大聖堂の隣にあるピジョン公園という可愛らしい公園は、座って在庫調べをするのにもってこい。売り上げが十分ありそうな時はその日の販売は終わりにして、そうでなければ販売を続ける。この頃は生活費の帳尻を合わせるのは難しいよね。

14:30
ロバート・ブラウンリッジ
スコットランド グラスゴウ
(販売場所:セントラル駅)

この時間は自分の売り場の隣にある「ゴードン・ストリート・コーヒー」でコーヒーブレイクにします。オーナーとそこの店員を知っていて、一日一杯コーヒーを無料で淹れてくれるので。いい人たちだよ。自分は足が悪いから、テラス席に5~10分程でも座れるのはありがたいよ。

15:00
エミィ・スティーブンズ
ロンドン
(販売場所:ユーストン駅)

私はユーストン駅の構内で雑誌を販売しています。鉄道会社と取り決めた場所が私の持ち場。午後3時頃になると、やっと客足が少し落ち着くんです。ユーストン駅が一番静かになる時間帯ということですね、なので休憩を取る事にしています。スーパーマーケットのセインズベリーでサンドイッチを買って、ラッセル・スクエアか、もう少し小さい別の広場で座って食べます。この時間は自分だけのホッとするひとときです。その後は夕方遅くまで続くラッシュアワーに向けてユーストン駅の構内に戻って販売を続けます。

Amy Stevens

16:00
ビル・ウェブ
ボーンマス
(販売場所:アベニューロードの駐車場)

雑誌の販売を終わらせたら、今俺が住んでいるボーンマウス郊外のボスコムに帰るんだ。ちょっと素敵な午後の締めくくり方としては、ボスコムのチャップリンズ・セラー・バーに出向くこと。バーにはいろんな客がいてアーティストタイプも多い。俺はボーンマウス・エマージング・アーツ・フリンジ・フェスティバルの運営に携わらせてもらっていて、一緒にやっている運営チームの仲間も大抵このバーに集まっているんだ。フェスティバルが始まる10月中旬までに打ち合わせしきゃあならないことが山積みだからさ。5時半か6時になったら家に帰る時間。飲みに行くというよりも社交のために行っているんだ。

18:00
コリン・デービイ
イングランド南海岸 ドーバー
(販売場所:ビギン・ストリート)

午後6時に雑誌の販売を終えた後は、友達と合流してローマン・キーかザ・ダッチェズのパブにビリヤードをしに行く。とっても寛げるんだ。自分で言うのもなんだけど、腕は悪くない。この何年かの間に幾つかパブのチームが誘ってくれたけど、自分は純粋に楽しむ為にビリヤードをするのが好きなんだ。ビリヤード対戦も8時頃には終わりにする。もういい年だからそれ以上遅くまで遊んでいられなくなっちゃったんだよね。

20:00
ジャック・リチャードソン
ブリストル
(販売場所:パーク・ストリート)

僕を家に泊めてくれる素敵な女性とクリスマスから一緒に住んでいるんです。だから夜は彼女と一緒に過ごすか、大学(Open University:通信教育を行う公立大学)の単位を取るべく、社会学と心理学の勉強をしています。夜8時頃には資料を読んで研究をします。今僕は、社会的に疎外された人々が公的サービス受ける際に直面する障壁について研究しています。
こんなに頭を使うのは随分久しぶりのことですよ。卒業を果たすまでの間、なんとか自分の収入で生活し続けられるように、ビッグイシューの売り上げを伸ばすそうとがんばっています。

Jack Richardson

21:00
アラン・マッセイ
イングランド中部 ウスター
(販売場所:ザ・クロス)

夜9時までには自分のテントに戻ります。安全なうちにね。ここ2年間はウスターから歩いて15分の所にあるテントで寝泊まりしてるのよ。静かな場所だから誰にも邪魔されないの。私は読書が大好きで電池式の照明を持っているから夜は読書ができるんです。私、スティーヴン・キングの大ファンでね、今、ちょうどミスター・メルセデスというスリラー小説を読み始めたところなの。ガスの火でお茶を沸かして眠りにつくまで本を読む。テントの頭上約30フィートのところには道路が通っていて、離れたところを通る車の音が聞こえます。それも11時頃にはだいぶ静かになるから、たいてい朝6時頃までの間、ゆっくり眠れるのよ。

23:30
サミー・レア
スコットランド中部 ダンディー
(販売場所:キラー・センター)

僕は、生活再建のためのサポートがあるホステルの小さな部屋をもう一人の人と共同で使っている。ありがたいことにすんなり仲良くなれたんだ。僕の日常は、「グラウンドホッグ・デー」(ビル・マーリィ主演のアメリカ映画。田舎町の退屈な祭事の日を際限なく繰り返すことになった男性の話。邦題:恋はデジャ・ブ)みたいなものさ。夜10時までにはたいてい自分の部屋に戻っているよ。
僕の部屋は狭いんだ。ベッドとテレビ、洗面道具などを置いた棚と洋服だんすがあるだけさ。11時半には眠りに落ちているかな。僕はここには8ヶ月間住んでいるんだけど、ホステルの人たちは僕が普通のアパート生活に移れるように取り計らってくれているんだ。その日が来るのは来週かもしれないし、来月、来年かもしれない、どれくらい時間がかかるか分からないけど。とにかくその日を待っているよ。 

03:00
キース・ドノホー
ロンドン
(販売場所:コベント・ガーデン)

俺はロンドンの南東にあるテムズ川からそう離れていない公園で野宿している。以前は部屋に住んでいたけれど家賃が高すぎてね。息子に会えるようロンドンにいる必要があるんだ。ロンドンの公園のベンチで眠るのは辛いことだよ。寝袋は2つ持っている、1つは下に敷いて、もう1つは自分が中に入る。それでも夜は寒くなってきたから、たいてい午前3時頃から5時頃までの間の数時間しか眠れない。夜中は少し何か読み物をする。公園の中は結構明るいから、新聞なんかを読んでいるうちに疲れて眠りに落ちる。あっという間に起きる時間になって、また一日が始まるんだ。





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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。