こんにちは!ビッグイシューオンラインの小林美穂子です。

今日はアメリカ発「健康とホームレス状態」のインタビュー記事をお届けします。

外で寝ていて健康でいられるわけがない、当たり前のことです。日本の路上生活者も多くの方々がいろんな疾病を抱えています。生活保護という社会生活保障制度はあるものの、そこにつながらない人がたくさんいるのが現状です。社会保障の運用上の問題や、医療側の問題、社会の偏見など、根深い問題がその理由として挙げられるのですが、それはまた別の機会に。

ホームレスの人たちが人間として尊重され、対等な扱いを受け、親密な関係を築きながら治療を受けることができる。そんな当たり前の公平さがアメリカでも日本でも広まったらと願います。

アメリカのホームレス人たちへの保険医療サービス提供がどのように発展してきたか、どうぞご一読ください。

全米ホームレス保健医療評議会は、30年にわたり、米国全土でホームレス状態を経験している人たちに総合的な保健医療サービスを提供してきた。創立者のジョン・ロジアが引退を前に、ホームレスの人たちを対象にした保険医療サービス提供の発展を振り返る。そして、この国で最も弱い立場にいる人々を助けるために、国民皆保険の実現など、今後さらに必要とされることについて考えを述べてくれた。「住まいは保健医療の一環であることを理解する必要があります。国民を健康にしたければ、住環境が整っていなくてはなりません」と彼は言う。――記事:アマンダ・ウォルドロープ/ストリートルーツ–アメリカ

ホームレスの人たちのみで構成される「利用者諮問委員会」の効果

Street roots john lozier headshot april 2016
(写真:ジョン・ロジア)

安全で安定的で手ごろな価格の住宅は、人の健康に必要不可欠な要素であるという認識は、住宅や医療従事者、政策立案者、支援者の間で急速に広がっている。

それはジョン・ロジアが何十年にもわたって持ち続けてきた信念である。

ロジアは全国ホームレス保健医療評議会の創立者で常任理事でもある。この評議会は全国的非営利組織である。会員制となっていて、評議会が自ら立ち上げた診療所、もしくは連携先の初期医療診療所においてホームレスの人たちに総合的な保健医療サービスを提供している。

1986年の創立以来ネットワークは成長を続け、1万人以上の医師、看護師、ソーシャルワーカー、支援者が携わるまでになった。評議会では200以上の公共保健センターや、連邦政府のホームレス保健医療プログラムから補助金を得ている何百もの組織に、支援とトレーニング、指導を行っている。

ホームレス状態の人たちに積極的に保健医療活動に加わるよう促したことが、評議会の最も大きな業績のひとつである。評議会は、かなり初期の頃に利用者諮問委員会を設置した組織だ。この委員会のメンバーはみな、評議会と連携する診療所で受診経験のあるホームレスの人たちで構成されている。評議会スタッフは研修や臨床医との協働の中で、ケース検討と医療従事者間の密な関係性が、効果的な連携と継続的なケアの提供にあたって重要であると強調している。

その手法はホームレスの人たちが人間性を取り戻すのに役立っているとロジアは言う。

「切迫した貧困状態の人たちと医療提供者がとても親密に、愛情をもって共に働くことができるのは、すばらしいことだと思います」と彼は話す。

今年末に引退するロジアは、『ストリートルーツ』紙に対し、ホームレスの人たちへの保険医療サービス提供がどのように発展してきたか、そして、この国で最も弱い立場にいる人々を助けるために、国民皆保険の実現も含め今後さらに必要とされることについて語った。

手ごろで入居可能な住宅の不足が健康被害をもたらし、悪化させている。

アマンダ・ウォルドループ(以下A・W):組織を立ち上げた当時、ホームレスの人たちのみを対象にした保健医療サービスプログラムを作るということは、かなり急進的なアイデアだったのでしょうね。

ジョン・ロジア(以下J・L):重要な構想でした。ロバート・ウッド・ジョンソン財団[アメリカ人の健康と保健医療を向上させるために設立された民間団体]の中で興味を持った人たちがいたことから発展したアプローチです。彼らはモデルケースとなるプログラムいくつか立ち上げ、ホームレスの人たちが初期医療サービスに効果的に関わるようになるという――当時としてはおそらく急進的なアイデアだった――とてもシンプルな仕組みを作ることを目指したのです。

最初、19のプロジェクトから始まり、何万人という人たちに医療を提供することができました。

われわれは最初から、住まいが問題の核であることを理解していました。住まいは、すなわち保健医療なのです。歩道やぎゅうぎゅう詰めのシェルターで寝ていては、健康にはなれません。これまでの活動の中で実現した大きなことの一つは、この考えをさらに洗練させたことです。暴力について考えるときには、トラウマやトラウマインフォームドケア(トラウマを念頭に置いて臨むケア)について考えます。同じように、相手の文化を尊重し、相手の立場から見るということは、ホームレスへの保険医療において重要なアプローチになりつつある。

A・W:ホームレスの問題が、たとえば治安などの問題ではなく、保健医療の問題であることは広く認識されているようです。それでも、一晩ぐっすり眠れないことによってどれほどの身体面、精神面、その他の面において害があるかということを役所の職員や一般の人たちが理解するには、長い時間がかかりました。

J・L:そうです。睡眠科学もまた、近年…そうですね、トラウマについて認識がされるようになった更にあとになってからですが、知識量が格段に増えた分野です。(あなたがおっしゃった)ホームレス状態が保険医療の問題であるという主張については、意義を唱えなくてはならないかもしれません。ホームレス問題は主に経済問題なのです。手ごろで適切で入手可能な住宅が不足していることによって健康被害がもたらされています。1987年、全米科学アカデミーの医学研究所が「ホームレス問題、健康、人間のニーズ」という報告書を発表しました。

それによると、ホームレス化と健康の間には三つの関連性があると書いています。一つ目は、健康を害することによってホームレスになるということです。その理由は二つ。第一に経済的な理由です。自己破産のほとんどは高い医療費を払えないことによっての破産ですからね。残る理由は病気の症状のせいで住居から締め出されるというものです。

二つ目の関係は、ホームレス状態になり、シェルターで病気に感染したり、路上で害虫に刺されたり、暴力に遭ったり、風雨にさらされたりして、さらなる健康問題が引き起こされるということです。

三つめの関係は、ホームレス化によって、治療のために必要なあらゆる要素、あらゆることが複雑になるということです。このようなことが積もり積もって、深刻な健康問題になります。

医療保険改革(オバマケア)が完全に施行されても、この国ではいまだに2700万人が無保険のまま

A・W:ホームレスの人たちが直面している健康問題についての理解が深まったというお話でしたが、この理解の深まりはどのようにして進んだと思いますか?

J・L:ひとつには科学の力があります。科学が発展しました。これは軽視できないことです。脳化学、神経学、特にトラウマの影響についての理解は、過去10年間で非常に深まりました。わたしたちにとっては、もっと重要だったことは、ホームレス状態を経験した人たちへの聞き取りを通して、何が問題なのかを明らかにするお手伝いをしたことです。たとえば、われわれが注目した「暴力」について言えば、全国の利用者諮問委員会が全米でホームレス経験のある人たちを対象に調査をし、まとめたことで、新たに明確となったことがありました。路上で生活をしているほぼすべての人が、ホームレス状態の中で暴力を目撃しているのです。

A・W:それだけ多くのホームレスの人たちを巻き込み、彼らの視点や情報、意見を求めるということは、彼らを純粋に人間として扱うことであり、それは彼らの見た目や屋外で暮らしているという理由で判断してしまう多くの人が忘れてしまっている姿勢だとわたしは思います。

J・L:その通りです。われわれはあらゆる活動の場面で患者さんたちを巻き込むべく努力してきました。それはアウトリーチを皮切りに、診察室での人びとの状況に敏感になることから始まります。初期には患者中心の治療やゴール設定について話し合いました。それは患者の満足度の調査、さらに利用者諮問委員会の設置へとつながりました。諮問委員会は合意モデルに基づいて運営されており、彼らの声は他のすべての人の声と同じ重さを持つものとして扱われます。

A・W:評議会の最新のニュースレター『イン・フォーカス』には、ケースマネジメントの重要性と有効性について書かれていますね。良いケースマネジメントが非常に有効なのは、一対一の人間関係を築き、ホームレスの人たちに思いやりと敬意を持って接することができるからとありました。

J・L:まさにそうです。思いやりだけではありません。敬意もです。この2つが一緒になることで、違いが生まれます。

A・W:どのような違いですか?

J・L:誰かを気の毒に思う行為は思いやりを示す1つの方法ですが、ただ言い方は悪いですが、見下しているようにも受け取れます。しかし誰かに敬意を払うのは、公平さの表れです。理解の表れです。当たり前の対等の関係性を相手に与えます。

われわれが重視しているのは慈善ではありません。正当さ、公平さです。いずれそれが、まだ十分とは言えない保健医療改革への理解にもつながっていきます。改革は普遍的でなくてはなりません。医療保険改革(オバマケア)が完全に施行されても、この国ではいまだに2700万人が無保険のままです。その多くがホームレスの人たちで、何らかの事情で条件を満たしていなかったり、登録されていなかったりするのです。われわれが掲げている国民皆保険と質の高い保険医療の提供というゴールは、まだ達成されていないのです。

アメリカが国民皆保険を実現するために必要なものは

A・W:あなたは住まいが保健医療に欠かせないものであると長年主張してこられましたが、住宅と保健医療の資金は完全に区別されています。病院やメディケイド(アメリカの公的医療保険制度の一つ。民間の医療保険に加入できない低所得者・身体障害者に対して用意された公的医療制度)のような保健医療プログラムが行政の助成金の一部を使って、患者が手ごろな値段の住宅に住めるようにするには、どうすれば良いと思いますか。

J・L:まだ十分とはいえませんが、住まいが保健医療に関わるものであり、患者に適切な住まいを確保するのが賢明な保健医療投資であるという認識が広がる兆しが見え始めています。管理医療法人の中には住まいに費用を捻出したり、そこまではいかなくても同じように重要なショートステイ保護のような介入を行ったりしています。ニューヨーク州はメディケイドの予算から一部支出するようになりました。問題は、連邦政府の業務の流れの中で、社会的ニーズと健康のニーズがばらばらになってしまったことです。HUD(住宅都市開発省)とHHS(保健社会福祉省)はまったく違うことに予算を使っています。多くの人が地方レベルでこれを統合しようと努力してきました。われわれは、住まいは保健医療であること、国民を健康にしたければ十分な住まいを整備すべきだということを理解する必要があります。

A・W:良質で効果的な保健医療を提供することには、少なくとも2つの相反する価値観を持たなくてはなりません。1つは、先ほど話にあった相手を尊重した手法でサービスを提供することです。しかし医療制度改革をきっかけに、「エビデンスに基づく」、あるいは「目に見える成果」をもたらし有効性を数字で測ることができるような保健医療プログラムについての議論が活発に行われました。医療保険を成果優先で議論すると、抜け落ちてしまうことがあると思いますか?

J・L:あります。サービスの質こそが問題になってくるのです。ACA(負担可能な医療)は多くの場合、メディカルホームと呼ばれる患者を中心としたチーム医療に焦点を当てています。われわれがこれまで30年間やってきたことです。われわれは、どこからも締め出されてしまった人たちのために、心の通ったケアができるメディカルホームを作ってきました。私たちは常に、患者自身の持っている要素の中で実現可能な治療方法を見つけようとします。患者を他の医療機関につなぐときには、それまでのケースマネジメントを完全に把握し、他所へつないだことによってより良い結果が出るようにします。それは、患者がつなぎ先へと温かく迎えられ、慎重な医療の引き継ぎが行われ、退院の計画まで及びます。それを把握した上で患者は次へと移れるのです。

A・W:アメリカが国民皆保険を実現するためには、この国を社会的、政治的にどう変える必要があると思いますか?

J・L:保険会社と営利目的の医療提供者の政治力です。実態は、誰が見ても明らかでシンプルだと思います。彼らはアメリカ経済の17~18%程度を支配しています。利益のおよそ20~30%が株主の利益と、その他の無駄な管理費に消えています。健康保険会社の重役たちはアメリカの最富裕層です。彼らは富を握り利権を守ろうとする「1%の人たち」なのです。

A・W:ポートランドの空き家率は、西海岸の他の都市と同様に2%未満です。賃貸市場は信じられないほど供給不足で、家主が賃料を上げています。住宅は、生きのびるために誰もが必要なものなのに、資本主義で動いています。

J・L:その通りです。資本主義の暴走です。われわれの経済は住まいや保健医療を商品として、利益目的に売買できるものとみなしており、基本的人権として扱っていません。住まいも保健医療も、生きるための必需品です。基本的なものなのです。心理学者アブラハム・マズローが主張した人間の欲求のピラミッドのことを紹介しましょう。衣食住はピラミッドの一番下にあり、経済的、心理的欲求を満たすのは次の段階に定義されています。この基礎となるニーズを、資本主義は進んで満たそうとしていないのです。

マッキニー・ヴェント法[ホームレスの子どもと若者に速やかな学校入学と安定した教育を確保するための連邦法]が1987年に議会を通過したのは、ミッチ・スナイダーが(ワシントンDCで)ハンガーストライキを行ったからです。レーガン大統領がHUDの予算を75%削減し、ホームレスが急増したことに対し、多くの人が怒りを表していました。現在のわれわれに足りないのは、あの時のようなパワフルな草の根運動です。住いの問題をもっと政治の場で問題にしていかなくてはならないのです。

INSP.ngoの厚意により





ビッグイシューをいいね!で応援!



最新情報をお届けします

無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。