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こんにちは。ビッグイシューオンライン編集部の佐野未来です。

去る8月27日・28日に実施された「一夜のホームレス体験会」。ビッグイシューとしては初めての、「ホームレス」を前面に打ち出したイベントでした。一般参加者12名とビッグイシュー販売者11名が参加し、大阪市住之江区にある「北加賀屋みんなのうえん」さんの敷地内で野宿体験。私も参加してきたのですが、参加レポートはライターの稗田さんにお任せするとして、このイベント実施までの舞台裏を運営スタッフ(吉田・川上・高野)に聞きました。
「どうせ野宿初日は絶対に寝れないから!」 販売者の言葉が身に沁みた。 さまざまな思いが交錯した、段ボールハウスの夜 ―――「一夜のホームレス体験会」参加レポート : BIG ISSUE ONLINE

簡単にイベントの流れを説明すると、
【1日目】

17時集合、自己紹介の後、4チームに分かれて、寝床をつくるためのダンボールを集めに出発。

18時~ 販売者が先生となり寝床づくりワークショップ。それぞれが寝床を作りました。寝床ができたところで、みんなでおにぎりづくり。

19時半~ 元割烹料理の板前だった販売者のYさん作のけんちんうどん汁とおにぎりをいただき、片付けが終わったら、再度チームに分かれて「人生の語り合い」。

22時 就寝。

【2日目】

6時起床の予定でしたが、販売者をはじめ、5時半ごろにはみなさん起床。

6時 朝食

7時~感想をシェアし、最後に寝床づくりワークショップをリードしてくれた販売者の吉富さんからまとめの言葉をいただき、一本締め。

8時 完全撤収して解散。

お天気にも恵まれ、夜は肌寒いくらいの涼しさで、大量の蚊取り線香の煙幕おかげか蚊もほとんど来ず。星を見上げながらの就寝。結構眠れた人が多かった?と思いきや参加者の皆さん、「眠れなかった!」という声が多数でした。
一夜のホームレス体験会 - Togetterまとめ

一方の販売者の皆さんは「いやー久しぶりによく寝た!」「靴もカバンもほったらかしてでも誰かが見てくれている安心感、よく寝れました」との声。

「野宿つらい!」といいつつも、「次回があればまた参加したい」という声が多く、一本締めの後も参加者同士の談笑が続いていて、一夜を共にした連帯感、とでも言いますか、なんともいえない暖かな空気が流れていたのが印象的でした。

写真㈪
ダンボールハウスが完成してテンションが上がったところで記念撮影

――お疲れ様でした。準備が大変だったと思うんですが、どんな感じだったか教えていただけますか?

吉田(吉):プレのときにはめっちゃ楽しかったから、内容的にはいいという確信はありました。(編集部注:「プレイベント」として事前にビッグイシュー販売者5名とスタッフで実際に会場でダンボールハウスをつくって宿泊するという流れを確認したそうです)

そういうベースの部分、コンテンツという部分では自信はあった。でも、一般の参加者さんがいて人が増えたときの流れが想像できなかったからそこは不安でした。

あとは快適さをどこまで用意するかとか、楽しさアピールをどこまでしていいのかとか悩みました。販売者の皆さんたちが日々おかれてる状況の大変さを少しでも感じて共感してほしい反面、つらい体験だけ、というのもね。イベントやるのに「おもしろくないですよ」とも言えないし。告知のときの表現の仕方にも気をつかいました。

でも、販売者の皆さんと参加者さんの楽しそうな姿を見て販売者の皆さんが120%活きたイベントだったんじゃないかと思う。販売者さんたちが持っている知恵とか体験とかを発揮してもらうんやけど、堅苦しくなく、真面目だけどフラットで自然体というか。

写真㈫吉田
まずは輪になって全員で自己紹介から。吉田より本日の流れの説明中。

高野(高):(今回気をつけたのは)野宿に必要以上に意味をつけないってことかな。意味じゃなく、プラットフォームを用意する。ただ、一緒に野宿する、外に寝るのはこういうこと、という場をつくる。そこからそれぞれが想像してもらえたら嬉しいと。ホームレスというのは「状態」。だからただ「状態」を知ってもらうきっかけをつくる。まあ、(今回のイベントは)本当にリアル、ではないけど。


写真㈬高野
ダンボールについて語る販売者。右がスタッフの高野。

高:どこまでやっていいんか悩みましたね。自分は虫が超苦手で、それこそムカデとか出たらやばい。蚊帳を準備しようって言ったんやけど、却下された。それはやりすぎやろ、と。ダンボールのハウスがあそこまでしっかり壁をつくれるとは思っていなかったから。結果的にはよかった。

未知の世界やったから。ほかのイベントはいろいろとやってきてるけど、今回は何が起こるか想像できないから不安はありましたね。とにかく無事に終わらせなって緊張してました。真夜中に救急車、は絶対に避けたい。(笑)

(参加者同士の)距離感的なこととか、どこまで快適にすべきか、とか、PRはどうするか、とか。参加者の方の夜の間の安全をどうやって確保するかとか。雨が降らへんか、とか。あとは販売者の皆さんと参加者さんの間にはいってどうコーディネートすればいいかとか、販売者が参加しやすいようにどうパスを出すのかとか、やってる間も「さじかげん」に気をもんでましたね。

川上(川):フラットな、っていうのはそうかも。やってる側も楽しまないとって思ってた。でも終わって僕も正直ホッとした。(笑)参加者にどんな人が来るか興味があったかな。さっき、高野さんが言ってたプラットフォームじゃないけど、僕らはコーディネイトが仕事。ホームレスの人たちが社会の一員として参加し、受け入れられるような場をつくるというか。雑誌販売のサポートもそうやし、基金のスポーツ・文化活動、サッカーとかもそういう場。

ただ、あえていうなら、次回やるとしたら、もう少し企画から販売者の皆さんが入ってもらえたらとも思う。例えばコンテンツを作るところから。司会も販売者がやるとか。

写真㈭川上
作成中のダンボールハウスを確認する川上

吉:それは実施のハードルが上がるなあ。みなさん個性的やから。(笑)でもそれは意義のあることだと思う。

――そもそも、どうしてこのイベントを?

吉:2月と8月って販売者にとって厳しいんです。売り上げが落ち込む。だから、8月中旬に販売者の皆の気分を盛り上げるために売り上げにもつながるイベントができないかと思っていたんです。ワークショップとかトークイベントとかいろいろと考えたんですが、販売者の皆さんたちに参加してもらうとしたら、どうすれば一番、彼らの能力や魅力を活かして、参加者の人にいろんなことを持ち帰ってもらえるかなって考えて。高野さんとか川上さんが野宿体験してたし、前々からホームレス体験のイベントをやりたかったから、いっそのこと夜に皆で食事して野宿、って提案したんですよね。

写真㈮炊き出し
炊き出し中。リーダーは元割烹料理人
写真㈯夕飯のおにぎり
皆で握ったおにぎり
写真㉀けんちん汁うどん
おいしい!と評判だったけんちんうどん汁

――次回もあれば参加したい!という感想がめちゃめちゃ多かったですが、次回について考えていますか?

吉:まだ通常モードに戻ってないんで・・・。
(編集部注:このインタビューはイベント翌日に行いました)

川:吉田さん、まだ疲れが取れてないんちゃいます?最後の3日くらいの追い込みも結構きつかったんじゃ?僕らあんまりお手伝いできなくて。

吉:プレやったとき蚊がものすごかったんですよ。ほんで、前日に「草刈しよう」ってなったりして。1時間くらいで終わるかと思ったけど結構かかった。あれは川上さんが手伝ってくれたから助かった。

あとは参加者証をかわいいのにするとか、直前になって(アイディアが)わいてくる。(笑)

――「ダンボールハウス あれこれ手帳」はめちゃめちゃ好評でしたね。

写真㈷ダンボールハウスあれこれ手帳
参加者のみが手にできる「ダンボールハウスあれこれ手帳」

吉:実物を出そうとしただけで歓声が。(笑) なんか、持って帰ってもらえるものがあるといいなと思っていたんですよね。で、二日前に思いついて販売者の皆さんにヒアリングした。

(次は)同じフォーマットならできますね。でも冬バージョンにするなら、やっぱり雨とか天候に左右されないところでやりたいですね。例えばどこかの企業さんにスポンサーになってもらって駐車場とか。今回はいろんなことが幸運やった。

川:あとは、学生さんには参加費7000円は高いのかなと。参加してほしいけど。クラウドファンディングとかでファンドレイズして学割つくるとかできないかな。場所も公園とかもリアルでいいんやけど、実際にそこで寝てはる人がいるところは迷惑かけることになるから、やっぱり企業さんとかが敷地を使わせてくれるといいですよね、屋上とか駐車場とか。

――事前の告知に対する反響はどうでしたか?

吉:「ホームレス体験会」という名前や内容についてはとくにマイナスの反応はなかったですね。販売者の皆さんと話し合って決めたし、販売者の皆さんたちの普段の生活を貶めたり、あざ笑うようなことは、当然ですけれど、一切しなかった。それでも、プロモーションの部分で面白おかしくならないようにはすごく気を使いました。プレスリリースが遅くなったのが反省点ですね。実施の数日前でした。結果的にはテレビ局1社と新聞1社の方々連絡をくれて良かったんですけど。

――やってみて嬉しかったこととか瞬間とかありました?

吉:最後の感想のシェアでみなさんの感想を聞いた時、かな。参加者の皆さんがあの場を楽しみつつも、もっと深いところまで考えてくれてはったんやなと。僕らが期待していた以上の反応で、やってよかったなと。

今回テレビの取材が入っていたので、取材をしてもらうのはすごく嬉しかったんですけど、カメラが参加者さんの体験を損なわないかとかも実は気になってたんです。でもみなさん、意外と気にせずに(「人生の語り合い」の時間も)いろいろと話をして下った。

写真㉂かたりあい「人生語り合い」中の様子。

高:僕はYさん(販売者)の最後の感想ですね。どういう人か腑に落ちた、というか。(笑)

普段の会話ではああいう言葉はおっしゃらない。たぶん、あれ本音ですよね。人柄に触れた気がした。
(編集部注:日ごろは昔の成功談が多く、話し出したら止まらないYさんですが、この時は簡潔に「とても楽しかったです。僕は両親も死んで親戚もいない、天涯孤独です。でも今日は、親戚がいっぱいできたみたい。とっても嬉しいです。ありがとう」と述べられました。)

川:僕もYさんかな。いつもマイペースで、今回も大丈夫かなって気になってたんですよね。でも女子スペースの仕切りをつくるのとかめちゃ手伝ってたり。僕が「Yさんの寝場所は?」って聞いたら、「俺は空いているところでいいんだ」っていって参加者さんの手伝いをしてて。あとはIさん(販売者)がいじられてたけど、楽しげで。

吉:まだ正式に冬にやるって言っていないのに、「冬も参加します」っていってはったなあ。(笑)

川:うん。そういう販売者の皆さんたちが楽しそうな雰囲気っていうのかな。それがよかった。

吉:メンバーにも恵まれたよね、参加者さんも販売者の皆さんも取材の方も。そういう意味では幸運が重なったと思っています。逆に次の課題は不確定要素をどこまで少なくできるかだと思います。

またやりたいか? さっきも言ったけど、同じ環境であればできますし、いいと思う。でも、(イベントを)作ってみて改めて、ビッグイシューの良さが凝縮されたイベントやったと思っていて、それこそ、佐野さん(代表佐野章二)にもいってもらったんですけど、道端留学(※)みたいに企業の方に(研修みたいに)参加してもらえるものにするとか、スポンサーをつのるとか、場所とか規模とか、もうすこし展開の仕方を考えたいとも思っています。
(※)道端留学:ビッグイシュー日本が提供する体験プログラム。街角で販売するビッグイシュー販売者のもとに「留学」し体験を共有する。 

――ありがとうございました。
 

「人生を見つめなおす 一夜のホームレス体験会」 ・寝床づくりワークショップの動画はこちらから!

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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