フェイはシドニー市の中心部にある人通りの多い交差点で『ビッグイシュー オーストラリア』を販売している。

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Photo:Peter Holcroft

元看護師・助産師の彼女にとって、人生はかなりつらいものだった。両親に続いて兄を亡くした後、うつ病に苦しみ、社会とのつながりも失った。暗い時期を経て、今はビッグイシュー・ファミリーに迎え入れられ、とても感謝していると話す。

 フェイが育ったのはシドニー郊外のウェントワースビル。シドニー港からパラマタ川を西に30キロほどさかのぼった、パラマタ市の隣にある町だ。「私の両親は商売をしていて、よく繁盛していました。当時はまだ、『コールズ』や『ウルワース』といったスーパーマーケットのチェーン店がなかったから。週に7日間働く、とても勤勉な両親でした」

 そんなフェイは、17歳の時から看護師として働き始める。ロイヤル・プリンス・アルフレッド病院で看護のトレーニングを始め、キング・ジョージ5世病院で助産師を目指す研修も受けた。
「正看護師の資格を取るために勉強していた時、眼科学で、州の1番の成績を取ったこともあります。10年間、高齢者福祉施設や王立婦人病院で働き、その後、病気の母の看護をすることになりました」
 実家に戻ったフェイは、家から近いパラマタ病院で助産師の勉強を修了したいと思っていた。しかし、ちょうどその頃、うつ病を発症したのだと言う。
「落ち込む時期が続き、自分が助産師になれるとは、とても思えませんでした。看護の仕事は好きでしたが、自分自身が入退院を繰り返し、十分に回復するまでに、かなりの時間がかかりました」
 フェイが何度か入院している間に、母親は息を引き取った。母に続いて、父も、兄も、みんな日曜日に亡くなった、と彼女は振り返る。
「ある一人の看護師のおかげで、私はそんな暗い時期からようやく抜け出し、社会へ復帰することができました。でも、以前とまったく同じようにはいかないし、今も恐れる気持ちが残っています。だから、フルタイムの仕事に就くことができないのです」
 そんな彼女を見ていた隣人のジムが、昨年4月、パートタイムで働ける仕事として『ビッグイシュー オーストラリア』のことを教えてくれたと言う。
「ビッグイシューのみなさんは、両手を広げて私を迎えてくれました。とても感謝しています。おかげで有意義な時を過ごすことができ、おまけに、雑誌の中の『ストリートセクション』という欄で、自分の意見を述べる機会ももらいました。まだ雑誌はそれほど売れていませんが、自分のいる場所が好きだし、お客さんが立ち寄ってくれるのを楽しみにしています」

 販売拠点は、シドニー市中心部のハリス通りとジョージ通りの角。いつも決まって買ってくれる常連客が何人かいて、彼らとのおしゃべりが楽しみだと言う。「みなさんは仕事へ行く途中だから、長くは話せませんが。なかでもジェニーやメアリーなどは、とってもいい人なんです」
「今は、住宅供給委員会が提供する住宅に住むことができ、とても助かっています。以前は、生活費に困っていましたから。それからフラッフィーという猫を飼っています。超肥満猫で、どうやら私以外の人にも餌をもらっているみたい。それが誰なのか、見つけなければ!」
「私は小説や新聞を読むのが好きです。エンターテインメントも大好きで、料理も好き。編み物や裁縫の趣味もあるし、星占いや聖書を読むのも好きです。でもまだ少しうつ病が残っているので、思うようにこうした趣味を楽しむことができません。以前よりはましになりましたが」
 暗闇から立ち直るのに何年もかかったというフェイ、「今、私は、光の中に出ようとしています」と最後に語った。  

(Sam Clark/The Big Issue Australia, www.INSP.ngo

『ビッグイシュー オーストラリア』
1冊の値段/7オーストラリアドル(約600円)。そのうち3.5ドルが販売者の収入に
販売回数/週刊
販売場所/シドニー、メルボルン、アデレードはじめ、オーストラリア全土の主要都市

*2月15日発売の305号から、毎号各地のビッグイシュー・ストリートペーパーの販売者を紹介している「今月の人」を転載しました。







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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。