「私たちは、世界中でこの恐ろしい兵器の生産と実験のために被害を受けた人と連帯しています」。昨年12月12日、ICAN(アイキャン/核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞授賞式で行われたカナダ在住の広島の被爆者、サーロー節子さんの演説は、世界中で核の被害に遭っている「グローバル・ヒバクシャ」たちを勇気づけた。


ウラン鉱山開発で放射性物質含む砂ぼこり飛散
風下地域に健康影響が続出

このグローバル・ヒバクシャの一人、米国の弁護士、ジューン・ロレンゾさんが12月5、6日の2日間、福島県を訪れ、東電福島原発事故の被災地を視察し、地元の人たちと交流を深めた。

ロレンゾさんは米国ニューメキシコ州のラグナ・プエブロ先住民で、先住民保留地(先住民による自治地域)内のポワティ村に住んでいる。自然が豊かな土地だったが、すぐ隣の地域に、冷戦中の1952年、「ジャックパイルウラン鉱山」が開発され、採掘が始まった。当時、世界最大の露天掘りウラン鉱山で、放射性物質を含んだ砂ぼこりが風下のポワティ村に吹き、時間が経つにつれて、鉱山労働者や住民の中に呼吸器系やすい臓のがんにかかる人が現れ始め、現在も病気で苦しんでいる人がいる。この鉱山は82年に閉山したが、現在もウランなどの汚染レベルが高いため、米連邦政府は、有害物質による汚染がひどい場所として信託基金により土地を除染する「スーパーファンドサイト」に認定した(※1)。

2007年にラグナ・プエブロ先住民は「自分たちの保留地内ではウラン開発をやらない」と他の先住民と決めたが、隣のスペイン系入植民コミュニティなども支持する日本企業が出資する合弁会社「ロカ・ホンダ鉱山」が、先住民の聖地であるテーラー山周辺の183エーカー(74ヘクタール/東京ドーム16個分)に開発を計画。土地の保全のため、ラグナ・プエブロ先住民たちは実に5年間にわたり、国連や州政府に計画中止を働きかけ、14年にテーラー山の文化財認定を実現させた。年々、家族や親族、友人らが健康を害するなか、ロレンゾさんは、合衆国被曝者補償法などで先住民たちの人権や健康を守る活動に奔走している。

核燃料サイクルの最前部と最後部、苦しむ人々が連帯

ロレンゾさんは、飯舘村の「いいたてふぁーむ」(※2)と、いわき市の「いわき放射能市民測定室たらちね」(※3)を訪問。いいたてふぁーむではミニ学習会が開かれ、管理人の伊藤延由さんが測定活動の様子や、まだ1割弱しか住民が帰還していない村の生活の様子を話した。ある女性参加者は、「過去の放射能汚染の歴史に学び、汚染の実態を知り、証拠として残しておこうと測定を続けている。子どもたちは学校で、ホールボディカウンターを使って内部被曝量を測定しているが、行政には続けていってほしい」と、子どもの健康への影響を心配する。

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いいたてふぁーむを訪れたロレンゾさん。左は伊藤さん、右は研究者で通訳の玉山ともよさん

ロレンゾさんは真剣な表情で話を聞き、「私たちの地域の多くでは、放射能の測定はされておらず、住民はどのぐらいの線量なのかを知らないままだった。つい最近、実際の放射能の線量と致死率についてようやく研究が始まったばかり」と話した。
たらちねでは、食品などのガンマ線、ベータ線測定活動の様子を視察。17年に開設されたばかりの診療所では、甲状腺の超音波検査の様子や子どもたちの健康影響について説明を受けた。

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たらちねクリニックの藤田操医師(右)から話を聞くロレンゾさん

ロレンゾさんは「ウランは、腎臓疾患を起こすということが科学的に確認されている。ナバホ先住民の母子調査で、胎盤やへその緒を通じてウランが乳児に移行したという研究結果が発表されており、健康管理や健康診断・調査を継続していくことは重要。このように市民が協力して取り組んでいるのは素晴らしい」と語った。
ウラン鉱山開発という、核燃料サイクルの最前部で苦しむラグナ・プエブロの人々。そして原発事故という最後部の福島の人々。国境を越えた「グローバル・ヒバクシャ」の被害体験から、核開発や原発の問題を捉え直す市民のネットワークが広がっている。


(あいはら ひろこ)

※1 1980年、土壌汚染対策のために制定されたスーパーファンド法により、汚染責任者が特定されるまでの間、石油税などで創設した信託基金(スーパーファンド)から浄化費用が支出される
※2 農業体験を通して心の教育をする目的で、2010年春に開設された農業研修施設
※3 福島原発事故後、住民の健康を守るために地域住民により設立。食品や水、土壌ほかの放射能量の測定や、内科・小児科の診療、甲状腺の検診、保養相談などを行っている



あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2018年1月15日発売の327号より「被災地から」を転載しました。

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