ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。
今回の訪問先は岡山県の男女共同参画推進センター(ウィズセンター)。

“社会的包摂”をテーマにした企画講座としてビッグイシュー日本のスタッフである長崎が40名の市民の方にお話させていただきました。



写真9
当日は岡山でビッグイシューの販売をしている丸本さんと、ビッグイシューの販売サポーターである「特定非営利活動法人岡山・ホームレス支援きずな」のスタッフも参加

日本のホームレス問題やビッグイシューの取り組みについて説明したのち、女性のホームレス、女性の貧困について解説しました。

**

ビッグイシューの販売者に女性が少ないのはなぜ?

ビッグイシューの販売者は、現在全国に約120人いますが、そのうち女性の販売者は1名のみです。 「何で、女性の販売者はいないんですか?」と聞かれることが多いのですが、まずそもそも女性で路上生活をしている方が少ないのです。
夜回りでも、お会いすることがとても少ないです。

slide01


厚生労働省の調査結果を見ても、4977人中、女性が177人。「不明」とされている人が全員女性だったとしても370人で、1割にも満たない。男女比に大きな偏りがあります。

私(長崎)がビッグイシューに勤め始めて8年あまりになりますが、その間に東京事務所で新しく販売者に登録されたのが約200人でした。そのうち、女性の相談者・販売者は約5%となる9人。その多くが病気や障害をお持ちの方、DVの問題や家族との関係が非常にこじれたことなどから、他の人との関わり方にも影響が出ていると感じられる方でした。

単身女性の貧困は、社会デザインで考慮されていない

2017年の厚生労働省の「労働白書」によると、非正規雇用率が社会全体で37%です。

m01

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/all.pdf

そのうち、女性の非正規雇用率が5割以上です。

m02


「家計の大部分を稼ぐ男性がいる世帯の女性のパート労働のことでしょう?」と思う人がいるかもしれませんが、そうばかりではありません。
(詳しくは『ビッグイシュー日本版』348号の特集「間違いだらけの貧困イメージ」をご覧ください)

さらに、正規、非正規の賃金格差だけじゃなくて、男女の賃金格差も大きいです。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、非正規雇用の人の平均の年収は172万円。うち男性の平均は227万円ですが、女性は148万円。男女で80万円ぐらい違います。

m03

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2016/pdf/001.pdf

「相対的貧困」の考え方における日本の貧困ラインが122万円ですので、女性の非正規雇用者の平均年収と比較すると26万、月に2万円ほどしか違わない。それぐらい女性の非正規雇用の方の処遇は厳しい状況です。
また、賃金格差は、年金などの社会保障や企業の福利厚生における格差にもつながります。

写真1


さらに、社会デザイン自体も実態に即してはいません。税や社会保障の給付・負担を試算する際には、「4人世帯、主に男性は働き、女性は専業主婦、子どもが2人」という世帯が標準世帯とされています。
1974年にはそんな世帯が世帯構成の1位を占めていましたが、いまは全体の4.6%に過ぎません。現状とかけ離れた世帯をモデルに社会設計がなされているのです。

m04

出典:https://www.dir.co.jp/report/column/20180710_010074.html

男女で賃金差、保障に差があり、女性はかなり厳しい状況にあるにもかかわらず、「無業・有業の一人世帯」の女性というものが社会デザインの元となっていません。

そのため、もし女性が家を出て利用できる公的な施設は、18歳未満の子どもを養育する女性の場合は児童福祉法を根拠法とする母子生活支援施設、そうでなければ売春防止法を根拠法とする婦人保護施設、と限られています。(DV被害や生活困窮、その他困難を抱える女性も婦人保護施設を利用できます。)社会の仕組みとして、単身の女性が家族から独立した生活を営むということが設計の土台に十分に考慮されていない中で、そこをどうサポートしていくかが課題です。

貧困でも路上に出るに出られない女性

女性は体力もなく、1人でいれば危ない目にあうことも多く、路上に出た場合のリスクがとても高い。そのため、性産業など屋内に住めてはいても安心できる状態にはないとか、誰かの家を転々とするというような状態で過ごすという人もいます。

厚生労働省の調査では、ホームレス状態を「野宿状態」と捉えていますけれども、安定した住まいを持たない状態と広く捉えれば、ホームレス状態の女性は数多くいて、安定した生活を営むサポートのための策を講じる必要があります。

**

講義の後の質疑応答では、社会的包摂に関わるそれぞれの立場からいくつか質問をいただきました。

Q:「なぜ、社会の中で協力し合える関係が作れないのか?」

A:東京で開催したビッグイシュー15周年のイベントで、ある登壇者の方が、「困った人に対して政府が助ける責任がない」という意見の割合が日本は39%という諸外国に比べて極めて高いという結果を紹介されていました。こうした社会土壌は1年や2年でできあがったものではないと思いますが、この先、協力しあえる関係づくりは、困っている人がいたら手を差し伸べるというような日常生活の中での一人ひとりの地道な種まきも大事だと思っています。

Q:「ビッグイシューに相談に行く人は、どうやってその存在を知る?」

A:大きく4つあります。
1.「路上脱出・生活SOSガイド」で知る
路上生活を脱出するための情報、路上生活に至る前に利用できる支援などの情報をまとめた冊子を「ビッグイシュー基金」が制作・配布をしています。ご連絡いただければ無料でお送りしていて、図書館にも置いていただいています。図書館のトイレの近くの目立たない箇所に置いて、手に取っていただくことも多いようです。

2.「夜回り」
ビッグイシューのスタッフが月に1-2回、夜回りをしたり、炊き出しの現場でビッグイシューのチラシを配らせてもらったりしていますので、そのチラシをご覧になっていらっしゃる方もいます。

3.「販売者を見て」
販売者が路上でビッグイシューを売る姿を見て来る方もいます。

4.「Webサイト経由」
ネットでご覧になる方も増えています。いま、日雇いや派遣の仕事って携帯がないと就けないことが多いので、お金がなくても携帯だけは手放さないっていう方が結構います。それで「ビッグイシュー」と検索される方も多いようです。

**
質疑応答ののち、格差の是正、社会的包摂に関心のある方々向けに「今日からできること」についても解説させていただき、出張講義を終えました。

参考:あなたにできること
https://www.bigissue.jp/how_to_support/

**

講義後のアンケートでは「とても参考になった」「一部参考になった」という方が7割以上。 満足度

自由記述の感想欄には、
「ホームレス」の問題も、コミュニティの問題も、根っこは同じ、居場所や周りとの関係づくりがポイントになるかと感じました。ほっといていい=解決すると思っているよりは、自分からひとこと発せられるようになりたいと思います。
自分はたまたまホームレス状態ではありませんが、無職、中年、女性としてこの先のことを考え、生きにくさ、不安を感じ悩んでいる日々です。「生きる」ということは何かについて整理できたよい機会でした。今年について考える幅が広がりました。
など、一人ひとりのこれからのアクションの種となったと感じられる声が複数寄せられました。

参考図書

ルポ 貧困女子』(飯島裕子著/岩波書店)
女性ホームレスとして生きる 貧困と排除の社会学』(丸山里美著/世界思想社)

ビッグイシュー日本版の「女性」「貧困」関連バックナンバー

THE BIG ISSUE JAPAN299号
特集「ガールズサポートのいま」
 
若年無業女性のための「ガールズ支援事業」、当事者や経験者が集う「ひきこもり女子会」、働く女性に寄り添う「非正規シングルたちのための集い」、10代20代の女性を応援する「BONDプロジェクト」、24時間年中無休で電話相談を行う「よりそいホットラインの女性専門ライン」といった、女性のサポート・居場所の現場を特集。
https://www.bigissue.jp/backnumber/299/

THE BIG ISSUE JAPAN348号
特集「間違いだらけの貧困イメージ」
348
「ふたり親世帯の子ども」「三世代世帯の子ども」の貧困、中高年の単身女性の貧困、非正規・単身・アラフォー女性たちの貧困などを特集。
https://www.bigissue.jp/backnumber/348/


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 







過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。