デザイナーや伝統工芸の職人、市議会議員、公務員、コミュニティナース、NPO職員、お寺の参事…など、実に多様な生き方、働き方をしている人が一堂に会するイベントが開かれた。その名も「生き方見本市KOBE」。

2018年12月9日、デザイン・クリエイティブセンター(KIITO)にスタッフや関係者含め総勢約250人が集まったこのイベント内のセッション「NPOで働きながら社会と関わる」に、NPO法人ビッグイシュー基金の川上翔が登壇。当日の様子をレポートする。


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「生き方見本市」と聞いただけで、「特に目当てのものがあるというより、なんだか面白そうだった」とやって来た人、「これからを考える参考になれば」と参加した学生など、イベント名に惹かれて訪れた人は少なくない。参加者の年齢層が幅広かったのも“職業”の枠を越えた“生き方”を冠したイベント名故だろうか。参加者の一人はこう語る。「私は就職して10年になります。職場に満足しているし、転職したいと思っている訳ではないけれど、いろんな方の話を聞いてみたくて…」。

 この見本市では、さまざまな分野でチャレンジをしている26人のゲストが、「まち×編集×公務員」「地方でつくる生業とくらし」「福祉と自分をつなげて生きる」などのテーマごとに2~3人のグループに分かれて語り合い、参加者は興味のあるテーマを聞きに行く。その一つ「NPOで働きながら社会と関わる」について、ビッグイシュー基金の川上翔が、NPO法人ミラツクの武田尚子さん、NPO法人Co.to.hanaの丸毛幸太郎さんと一緒に話をした。

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左からミラツクの武田尚子さん、Co.to.hanaの丸毛幸太郎さん、ビッグイシュー基金の川上翔、進行役の大野真さん(写真:黒田寛子)

NPOは稼いでもいい!?

 「そもそもNPOは“稼いじゃだめ”ではないんです」。開口一番、会場はどよめいた。「NPOの日本語訳である“非営利団体”という名前から利益をあげてはいけないと思われがちなんですけど…やれることは一般企業と“ほぼ同じ”なんです」と、進行役の大野真さん(NPO法人HELLOlife)は意表をつく。一般企業にはないNPOの特徴を挙げるとすれば、利益を個人に配分するのではなく、新たな事業に運用したり、寄付金に税金がかからなかったりする点だと指摘した。

そして、サービスを受けたくても金銭面などでそれが叶わない人に対して、NPOは寄付金など支援者の力を借りて事業を起こし、サービスを届ける手段なのだと付け加えた。またビッグイシュー基金がホームレス状態にある個人を対象とする一方、ミラツクはNPOそのものに働きかける中間支援に位置し、Co.to.hanaはその両方を視野に入れるなど、“誰に対してどのようなサービスを提供していくのか”はNPOで異なってくる。

「NPOと私」関わりはじめたきっかけは三者三様

NPOを始めたり、関わるようになったりするきっかけは人それぞれで、 “私という人間の生き方”とも深く関係している。「自分が困っていることは、もしかしたら他の人も困っていることなんじゃないか」と、立ち止まって考えた武田さんは、世の中には様々な社会課題があることを知る。そして、多くの人が取り組んできたにも関わらずその課題が解決されないのはなぜなのかという疑問を抱くようになる。この経験が、社会課題の調査・研究や、NPOに的をしぼった中間支援へと向かわせた。

「NPOだからというよりも、そもそもやりたいことがここ(Co.to.hana)にあったから」と、力強く話す丸毛さん。自身は人と人との新しいつながりをつくるコミュニティデザイナーとして場づくりなどの活動をする傍ら、ある時は造り酒屋を手伝い、またある時はシェアハウスを運営するなど、その生き方は一様ではない。二人に共通するのは、転身した結果、NPOにたどり着いたという経歴だ。

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「最後の夏の甲子園を目指す地方大会という時に、腰を痛めて野球ができなくなってしまったんですね。“もう野球なんかやってられるかい”って」。小・中・高10年間打ち込んできた野球から距離をおいた川上は、当時を振り返る。この経験が大きな分岐点となり、大学で海外のスラム街に家を建てるボランティア活動に打ち込んだ。その最中、「インドのデリーで活動していた時に3.11の地震が起きたんです」。急きょ帰国し、陸前高田や女川町で瓦礫撤去のボランティア活動に従事。大阪に帰ってふとした疑問がよぎる。「あれ、途上国や震災でもないのに、家がなくて困っている人がいる…。そこからホームレス状態の人がすごく気になり始めたんです」。

現在所属するビッグイシュー基金と関わり始めるのもこの頃で、ホームレスの人たちとサッカーを通じて交流する活動(※1)にも参加するようになった。その後、新卒採用で同法人に就職したという経緯から次のような質問が会場より挙がった。

※1:サッカーを通じてホームレス状態の人たちと交流する活動。その対象は今や、若年無業者、うつ病、依存症、難民といった社会的に孤立しやすい人たちへと広がりをみせる。詳しくは、ダイバーシティカップについての記事をご覧ください。http://bigissue-online.jp/archives/1073454144.html


NPOに新卒採用はない!?

「NPO法人って新卒採用で入るイメージがないんです…。NPOで働く上では、何か特別なキャリアがいるのでは?」。これに対して川上は、“新卒はスキルがないから一般企業で3年ぐらい下積みが必要”といったイメージを否定した上で、「NPOに興味があるということ自体がスキル」だと言い切った。とはいえ、自身も在学中の2年間をビッグイシュー基金でインターンをし、知力を蓄えた経験から「興味を持ったのであれば、その瞬間から動きだしてほしい」と補足した。

また、武田さんは採用の視点から次のように話してくれた。「実際の現場で“初めて”のことが起こるのはみんな同じ。その時に『ここがわからないので、助けてください』と能動的に学んでいく姿勢や柔軟さが求められるんです。それは今までで自分をどれだけ知ることができているかといったこととつながります」。

生き方の中にNPOを組み合わせる

行きついた先が現在のNPOだったという三者の話からは、NPOをあくまで一つの手段として選択し、自身の生き方と上手く組み合わせている様子が伺える。「“お金”とか“自分のため”を追求すると全然上手く回らないんですよね。それなら会社で事業としてやった方がいい。(NPOの仕事は)基本、共感ベースなんで」。そう語る丸毛さんは、「想いのある方と話をしながらその想いをどう届けていくのかという場面で、すごくわくわくドキドキする」のだと語る。そして、その想いに共感して集まってくる人たちと一緒に、仕事へ展開していく喜びは、新しい出会いを常に求めている自身の生き方ともつながっている。  

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武田さんの生き方もNPOを手段として選択した興味深い事例だ。彼女はミラツクの他にも別のNPOに所属し、週末にイベントを開くなど、ひとところにとどまらない。「ここでできなかったことを違う畑でやってみてはどうか……と、いろいろ企てている時に“あっ!いい人みつけた!”」と、企てがどんどん進んでいくことがある。ここに生きがいを感じるのだと言う。

未来の種を今日もまく

「まさにライス(・・・)ワークなんです」。こう言う川上は、休日、兵庫県篠山市で自身が食べる程の米と野菜を育てている。一方、現場でもいろいろな種をまいている。「当事者の人が立ち上がろうとする瞬間を応援するのが僕たちビッグイシュー基金の仕事です」。“支援”という言葉を使わず、“応援”と言うのには、当事者の意思を最優先に尊重する姿勢がよく表れている。夜回りなどでは、名前を覚えたり、声をかけたりと種をまき、関わりを深めていく中で、当事者自ら声をかけてくる瞬間がある。そんな時、「めっちゃドキドキするけど、わくわくするんです」と熱く語った。

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売り上げの一部(定価350円の内、180円が販売者の収入になる)を資金にホームレス状態からの自立を応援する雑誌『ビッグイシュー日本版』(※2)もその種の一つだ。ふだんは路上でのみ販売するこの雑誌を、今回の会場内でも販売。「生き方見本市」と聞いて何だかワクワクしたという人なら、この雑誌の中にも様々な生き方が詰まっているからきっと気に入るはずだと川上は考えたからだ。

「ビッグイシューをよろしくお願いします」。JR六甲道の販売者・小川武志さんは呼びかける。「中身がどんなものかわからなくって……」と、これまで少し遠まきに見ていたと言う人も会場内であれば、興味を持って近づいてくる。これも、小さいながら一つの“種”。

ちなみに小川さんは、『ビッグイシュー』の「今月の人」というコーナーで紹介されたことがある。

何度か売り場を変え、またもやビッグイシューを離れたこともあった。が、今年6月から立ち始めた六甲道の売り場では、これまでとは違った覚悟があったという。 「ビッグイシューの夏はきついぞ!とずっと言われてきて、実は今まで一度も夏を越えたことはなかったのですが、今回はステップハウスに入るという目標があったからこの夏は乗り越えようと決めていました」。(本誌347号「今月の人」より抜粋)

何度か挫折を繰り返した後の小川さんの覚悟は強く、9月にはステップハウス(※3)の入居を果たした。そして、“アパートに入って正社員になる”という次の目標もできた。

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写真:黒田寛子 

※2:雑誌は有限会社ビッグイシュー日本が作成。販売者を含むホームレス当事者の医療や住宅確保のサポート、行政への手続きの補助、政策提案などをNPO法人ビッグイシュー基金が担当する。

※3:連携団体や、一般の家主の方から提供される空き物件を基金が借り受け、ビッグイシュー販売者をはじめとするホームレス状態の人に、低廉な利用料(15000円~)で提供する事業。利用料の一部が積立金となり、アパートへの入居や就職活動など、次の「ステップ」として活用できる。

出会いによって生まれた「可能性への期待」が会場を包み込む

「自分で自分の働き方を考えて、それを実現させてみたい」。三人の話を聞いてさらに気持ちが強まったというNPOに憧れる学生。「帰ったら早速、同級生と連絡をとって自分に何かできることはないかと尋ねてみる」。他者との関わりを避けてきた今までを変えようとする男性。「仕事中に好きなことをする時間があるんです。それが仕事にも活きてきます」。まさに“趣味が転じて仕事にしている”会社で働く人や、伝統工芸を守るだけにとどまらず、どんどん攻めの姿勢で社会に発信する人もいた。

会場のあちらこちらで対話がなされ、出会いが可能性に繋がっていく。この日のために地元神戸の野菜や食材を使って丹精込めて作られた料理が会話に花を添えている。神戸で食と向き合う料理家の方々が作った料理に「綺麗」「美味しい」と歓声があがった。

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26人のゲストだけでなく、集まった250名の生き方でにぎわう見本市

話の最後に川上は、会場にこう投げかけた。「ホームレスである状態の人は社会の外に生きているのではありません。働けないとか住む家がない状態の人も含めた社会に、みんな生きているのではないでしょうか」。ホームレス状態になるまでも、ホームレス状態から自立していく過程も人それぞれであるが、それは決して社会の外で起こっている話ではないと川上は強調する。季節を問わず雑誌『ビッグイシュー』を路上で販売する人、それを買ってくれる人、そこから生まれる対話や交流、社会との関わりが生き方、社会をつくっている。

どう働くのか、どう社会と関わるのか。それはどう生きていくのかにつながっていく。この生き方見本市には、集まった250名もの生き方であふれていた。

写真:其田有輝也/文:黒田寛子


次回の「生き方見本市KOBE」の開催も決定しています。ご興味のある方は是非ご参加ください。次回はビッグイシュー日本の編集スタッフもゲストとして登壇予定です。

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生き方見本市2019KOBE 〜響きあう、あなたとわたしの「生き方」〜

■日時
2019年2月24日(日)14:00~17:30

■場所
ON PAPER|神戸・旧居留地のコミュニティ型ワーキングスペース(兵庫県神戸市中央区江戸町85-1 ベイ・ウイング神戸ビル10F)

■参加費
一般:2,000円
学生:1,500円(大学生以下、学生証提示)
障害のある方:手帳提示で1,000円割引(同伴者無料)

■お申し込み
下記チケットリンクよりお申し込みください。
https://peatix.com/event/589817

■イベントの詳細
https://www.facebook.com/events/52








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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。