手頃な価格で有機栽培の野菜を買えるようになり、地域でお金が回る。そんな一石二鳥のビジネスモデルを実践する農場がオランダにある。地域住民が“コモナー”として農場運営に参加し、グリーンツーリズムで4万人が訪れるという農場を訪ねた。 

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手間暇かかる有機栽培野菜、手頃な値段で販売を実現。
人件費を抑えるコモナー制度


オーガニックの野菜を買いたいとは思っているが、高くて買えない─。近年、日本でも有機栽培コーナーのあるスーパーは増えつつあるが、そう思っている人も少なくないだろう。通常の青果物と有機栽培物の価格差は、日本だけでなく欧米でも悩みの種。これを独自のやり方で解決しようとしている農場が、オランダ東部の村トゥエロ(※1)にある「Hof Van Twello」だ。

※1 人口1.3万人規模の村。特急列車が止まる駅まで自転車で20分。

2003年に創業した同農場では、約0・6haに年間通して45種類ほどの野菜や果物が化学肥料・農薬を使用せず栽培されている。オランダのスーパーで売られているオーガニック野菜は、通常の野菜よりも2~3倍の価格。しかし農場内の直売所では、1・2倍程度に抑えられている。それを可能にしているのは、人件費の削減だ。「有機栽培物が高いのは、雑草抜きなど人の手がかかるからです」と農場主のジャート・ジャンセンは言う。

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収穫作業をする農場主のジャンセン

手頃な値段で有機野菜を買えるようにできないか、と彼が思いついたのは、野菜栽培に興味のある地域住民に“コモナー”と呼ばれる農場参画者になってもらう制度だった。彼らは良質な土壌と有機肥料、知識を無料提供してもらえる代わりに、自分用に借りた農地と同じ面積で農場側が指定した作物を栽培する契約を結ぶ。その作物の収穫量の半分は直売所に提供し、さらにその売上額の半分はコモナーの収入となる仕組みだ。直売所での割引特典も得られる。

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直売所の有機野菜は量り売り。

いわば、市民農場の趣味感覚やボランタリー性を取り込んだビジネスモデル。現在はコモナー25人(取材当時)が、直売所で売られる青果品の約半数を栽培している。ここで2種類のジャガイモを育てるクースは「1㎞離れた自宅にはガーデニングほどの庭はあるけど、野菜を育てるスペースはない。身体を動かすこういう作業が好きなんだ」と話した。

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コモナーの一人、クース 

大企業の搾取、資本主義経済から自立した地域経済の仕組み。
裸足で大地を感じるトレイルも

直売所ではそのほか、苗床や園芸用品、乳製品やソーセージ、乾物、酒類なども売られている。食品のほとんどは、地域にいる35の生産者によるものだ。「地域の人々が、安心して食べられるものを自分たちで作って売る。大規模な経済に影響されず、地域でお金が回る仕組みを、この農場を中心につくりたかったのです」。

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ジャンセンがそう話す背景には、農業大学卒業後に赴いたメキシコでの経験がある。「私は田舎町で農業指導をしていましたが、そこで教えるよう言われたのは、欧米の大手化学メーカーが製造した農薬や肥料に依存した農業でした。彼らはずっとこの商品を買い続けなければ農業ができなくなる。そんな方法が“開発援助”と呼ばれることに違和感を持ちましたし、その町の15㎞先では餓死者が出ているという状況を耳にした時は衝撃でした。こうして私は帰国し、地域のためになる農業を始めようと思い至ったのです」

「地域経済をつくるということは、ヒューマンスケールで持続可能な経済を考えるということ。ここでは大手チェーン小売業者の中間搾取もないですし、設備投資の時は地域の人からお金を貸してもらったので銀行にも頼らなかった。農薬を作る会社など大企業を中心とした資本主義経済からも自立したやり方です」

同農場ではもうひとつの収入源として、グリーンツーリズムも推進。裸足になってぬかるみのある湿地や竹藪の中を歩いたり、突如秘密の畑が現れたりなど、冒険気分で楽しめる2㎞の「ベアフット・トレイル」に年間約4万人が訪れている。大地を直に感じてもらうために自然を利用したアトラクションとして考案され、定期的な手入れを行うのはボランティアの人々だ(※2)。

※2 ボランティアには直売所の割引特典がある。

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ベアフット・トレイルを体験するグループ。

また、客足が減る冬季にも農場を訪れてもらおうと、暖かいビニールハウス内にカフェも敷設した。目の前で収穫された野菜が使われたランチやスイーツを楽しめるようになっている。

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グリーンハウス内にあるカフェ。砂場も敷設。 

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ハーブを摘むカフェ・マネージャーのロレッタ。

中世のヨーロッパには、地域の人(コモナー)で共同管理する土地「コモンズ」が存在した(※3)。

※3 日本にも昔から似たような仕組みがあり、「入会地(いりあいち)」と呼ばれていた。

これを復権させた同農園の仕組みは、言うなれば「ニュー・コモンズ・ファーミング」。「この農場には、中学生でも障害のある人でも、あらゆる人が何らかのかたちで働けるチャンスがあります。それは、能力のない人がクビにされたり、必要のない人間とみなされる今の社会とは対極にある考え。私の実践は、資本主義経済に代わるひとつの答えなのです」とジャンセンは語った。

(文と写真/草間さゆり)

※以上、2019-02-15 発売の『ビッグイシュー日本版』353号より記事転載

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