夏の暑さは誰にとっても厳しいものだが、路上生活者にとっては特に「危険」でもある。
ショッピングモールや図書館など冷房が効いた場所や、食事やシャワーなど生きていく上で必須のものを提供してくれるサービスを利用できないと、なおさらだ。日本だけでなくヨーロッパ各地も猛暑に見舞われるなか、米ワシントンD.C.のストリート紙『Street Sense』では、ホームレスの人々がどう酷暑を乗り切っているかを調査した。

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ワシントンD.C.は、米国の都市の中でもヒートアイランド現象*が激しい街の一つだ。気候科学に関する非営利のニュース組織「クライメート・セントラル」の報告によると、夏場の都市部の気温は、周辺の農村部より摂氏6℃高くなることもある。 そして、熱中症になるリスクが最も高いのは、ホームレスの人々だ。

*郊外に比べ、都市部ほど気温が高くなる現象のこと。

米国では毎年、何百人もの人々が熱中症で命を落としている。 アメリカ国立気象局では、外出を避けて室内で過ごすこと、水分補給を行うこと、屋外での激しい運動は避ける又は制限することを呼びかけているが、「家」と呼べる場所がない人々にとっては、これらは不可能に近い。

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ストリート紙『Street Sense』所属のアーティスト、シェイラ・ホワイトは、酷暑がホームレスの人々にもたらす危険性は見逃されがちと感じている。「凍傷や凍死など冬場の危険性ばかりが懸念され、夏場の危険性についてはあまり考えが至らないのです」

多くのホームレス当事者にとって、暑さにさらされるというのは、避難する場所、薬を服用する場所がないことを意味する。 糖尿病を患っていても、炎天下だとインスリンの品質が劣化するため持ち歩くことができない。薬が溶けて容器にくっついてしまう場合もある。しかし、ホームレス状態にある人が糖尿病を患うリスクは、普通に家がある人の2倍以上。その他、高血圧・心臓病・HIV*・C型肝炎・うつ病など、ありとあらゆる病気への罹患リスクも高い。

*海外では、路上生活者になるとHIV感染リスクが上がりやすい。薬物投与に使う注射針の共用などが主な原因。感染しても治療を受けにくいため、さらに状況を悪化させる。
参照:https://www.nationalhomeless.org/factsheets/HIV.pdf


ホームレスキャンプの「清掃」が強いる、酷暑の中での「激しい運動」

コロンビア特別区では毎週、市内の公共スペースにある「ホームレスキャンプ*1」の清掃を定期的に実施している。この取り組みは、「ホームレスの人々に働きかけを行うことで、一時避難施設や恒久的住居を提供するなどサポートを提供し、生活環境の安定化を促進するためのもの」と議定書*2 には記載されている。

*1 ホームレスの人たちが集団で住まいを設置している居住区。
*2 DISTRICT OF COLUMBIA Protocol for the Disposition of Property Found on Public Space and Outreach to Displaced Personsを指す。


しかし実際のところ、ホームレスの人々にとっては手荷物をまとめて移動を余儀なくされる「エクササイズ」となっている。「 清掃」の度に、居場所としている公共スペースを立ち退かなければならず、気象局からのアドバイスに反して「屋外での激しい運動」をせざるを得ないのだ。

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写真:Will Schick
7月2日、K Street 近くの地下道で「清掃」をおこなう市の職員とホームレスの人々 


気温が32度を超えてくると、この「エクササイズ」は大変骨の折れる作業となる。この夏も街中で行なわれる「清掃」により、ホームレスの人たちが荷物をまとめて転々とする姿を目にすることだろう。

定期的に清掃が行われているノーマ地区のホームレスキャンプで暮らす女性、通称“ママ・ジョイ”は清掃は必要なことだとしつつも、「あれは清掃目的というより、ただ荷物をまとめて移動を繰り返させてるだけ」とぼやく。別の女性マーシェル・トーマスも、この頻度で荷物を移動するのは大変すぎるとこぼす。「健康問題を抱えている人もいることを考えてほしいです」


所持品はすべてまとめて「どこか別の場所」に移動するように言われる。何かを残そうものなら、すべてゴミとして廃棄される。さらに、区がホームレスキャンプの住人たちに移動を強いる頻度は増えている。 2015年の夏に実施した清掃は計7キャンプだったのが、2019年度は今月だけで5つのキャンプで清掃が実施されている。

「夏の間は、救急医療サービスの要請が圧倒的に増えます」と消防救急局のコミュニケーション担当官ダグ・ブキャナンは言い、 5月以降、市内で200件近くの熱中症事例が報告されているとのデータを示した。しかしワシントンD.C.では、通報があったケースを「人口統計」ではなく「住所」で記録しているため、その内のどれだけがホームレスの人々であるかは分かっていない。

市としては、気温が35度以上になると「高温注意報」を発表する。7月18日には、午後の体感温度が43〜46度に達する可能性ありとの警報が市内全域に発令され、予定されていた3つの「清掃」が中止となった。

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涼める場所としてはショッピングモール・公共プール・図書館などがあるが、「猛暑緊急対策2019」には「公共図書館など一部の施設では、手荷物の制限が設けられることもある」とあり、路上生活者に影響を与えるであろう。

ホワイトいわく、数年前、酷暑の中ですべての所持品を持って移動していた女性が意識を失っているのを見たことがあるという。その女性は、冷房が効いている場所に向かっているところだったそうだ。

熱中症対策:「サービスにつなぐ」と「涼める場所の情報共有」

「天候」はホームレスの人たちが直面する諸問題の一つにすぎず、「熱中症」への意識は決して高いとは言えない。

コロンビアハイツ地区のホームレス支援団体「Thrive D.C.」でコミュニケーション・コーディネーターを務めるマライア・カウサーは、夏場は日焼け止めや飲み水を多めに持ち歩き、他の人にもそうするよう勧めているという。「いつも、この地域の人たちの様子をチェックしています」

しかし当団体の最高責任者アリシア・ホートンは、最善の方法はホームレスの人たちを「各種サービスにつなげること」だと言う。彼女いわく、“ホームレス”であることは、フルタイムの仕事をしているようなもの。「どこで食事にありつこうか、どこでシャワーを浴びようか、どこで眠ろうか、どこで洗濯をしようか、どこで仕事を見つけようか、、、etc. 一日中やらなければならないことだらけですから」

当団体ではそういった悩みを軽減すべく、 シャワー、洗濯施設、薬の処方支援、眼鏡づくり、フードパントリー*、就労支援、薬物依存症回復プログラム、炊き出しなどをおこなっている。「しかし熱中症の問題は手遅れになるまでわからないことが多いのです」とホートンは言う。

*困窮者のための食料貯蔵庫。

『Street Sense』所属のアーティスト、ヴィンス・ワッツも、ホートンと同じで、ホームレスの人々をサービスにつなぐことが大切と考えている。 彼いわく、街に慣れていてサポートの利用方法が分かっている人にとってはそんなに問題にならないかもしれないが、「携帯電話を持っていない人もいれば、どこでサポートを得られるのかを知らないという人もいます。街中で利用できるサポートについて情報共有することは、とても大切です」

「ミリアムズ・キッチン」の支援により、朝食・夕食ならびにその他の支援サービスを利用できたホームレスキャンプ住人も多い。 この団体でも、食事の提供だけでなく、ホームレスの人々をさまざまなサービスとつなげる活動を展開している。おかげで多くの人が“命拾い”できているが、毎日営業しているわけではない。

両団体ともに週末は食事提供を行なっていないため、ホームレスの人々にとって週末をどう生き抜くかが難しい。公共図書館など平日はオープンしている場所も、週末はクローズまたは短縮営業のことも多い。 無料の食事も手に入れにくい。

ウェブ上には、ホームレスキャンプの住人たちが暑さを凌げる場所の位置情報と詳細をまとめた地図が提供されている。また『Street Sense』のサイトには、支援団体を検索できるページもある。 すべてが網羅されているわけではないが、ホームレスの人々がどこでサポートを受けられるのか有用な情報となるだろう。

By Will Schick
Courtesy of Street Sense / INSP.ngo



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