多くの都市で行われる「ホームレス状態をなくす」取り組みは、「ここではないどこかへ」という意図に過ぎず、それでは問題が解決しないことが明らかになっている。ロサンゼルス市の取り組みには他の都市が学ぶべきところがあると「ホームレス状態をなくす運動」のブレンダ・ウィーウェル事務局長が話してくれた。

Alina KuptsovaによるPixabayからの画像
Alina KuptsovaによるPixabayからの画像


2019年9月17日、トランプ大統領がロサンゼルスを訪問し、「ロサンゼルスやサンフランシスコで起きている事態(ホームレス問題)を放置し、都市の荒廃を容認することはできない」と述べた。路上生活者たちの存在が、「すばらしい」ハイウェイや道路、建物 を台無しにしていると*1 。

*1 Trump says homeless people are living in ‘our best highways’ and building entrances and people have told him they want to ‘leave the country’ over it


路上生活者の苦しみよりも、ハイウェイや建物といったハコものを重視するのはいかにもトランプ政権らしく残念極まりないが、ロサンゼルスのホームレス問題に光を当てた点は(理由は違えど)評価できる。

南カリフォルニア大学内「ホームレス問題解消イニシアチブ(Initiative to Eliminate Homelessness)」のディレクターとして私は、ロサンゼルス郡がこれまでに実施してきた数々の対策を研究してきた。効果が見られたもの・そうでもなかったもの色々だが、各地で路上生活者を減らそうと考えている人たちにとって、この街の取り組みから学べることがあるはずだ。

ロサンゼルスは家賃高騰によりホームレス問題が深刻化

米国のホームレス人口は西海岸と北東部に集中しており、その約半数(47%)はカリフォルニア州にいる*2。安価な住宅(アフォーダブル住宅)が不足しており、不動産価格の高騰化が著しい沿岸部は特に深刻だ*3。

*2 例えばロサンゼルス市では人口約400万人に対し、ホームレス状態の人が36,000人超いるとされている。https://www.theguardian.com/us-news/2019/jun/04/los-angeles-homeless-population-city-county 

*3 2019年8月時点で、ロサンゼルス郡アパートの平均家賃は1ベッドルームで1,755ドル(約19万3千円)、2ベッドルームで2,235ドル(約24万6千円)。LA rental prices keep on rising


特にロサンゼルスの家賃上昇ぶりはひどい。世帯収入の半分以上が家賃に消え、厳しい生活を強いられている世帯が増えている。その結果、街のあちらこちらに路上生活者らのテント村が出現。シェルターに入りきらない路上生活者が増え続けている。「ホームレス問題」とは、住まいを失ってしまった当事者に苦しみ・厳しさを与えるだけでなく、その人数が増えることによって地域すべての住民に関係してくる問題でもある*4。

Alexas_FotosによるPixabayからの画像
Alexas_FotosによるPixabayからの画像

*4 路上生活者の入院、緊急治療室、警察の介入、収監、精神病、貧困、ホームレス支援の提供にかかる費用など経済的な負担が増える。

成果が見られなかった “トランプ政権的” 対策

ロサンゼルスが過去に実施してきたホームレス対策の多くは、言うなれば “トランプ政権的”アプローチだった。つまり、路上生活者を厄介者扱いし、一般の人々の生活空間から遠ざけ、なるべく目に入らないようにしてきたのだ。

2005年、市当局はロサンゼルス市内にある米国一のホームレス密集エリア「スキッド・ロウ*5」を対象に「Safer Cities Initiative(より安全な都市づくり)」というプログラムを実施した。信号無視、ゴミのポイ捨てといった軽微な罪にも逐一対応することで、より重い犯罪の撲滅ならびに秩序回復を目指したのだ*6。しかし結果としては、極貧状態や犯罪が減ることはなく、かえって路上生活の犯罪扱いや人種問題を浮き彫りにした。

*5 ダウンタウンの一角、約11.2km²の範囲に約2500人の路上生活者が暮らしている。

*6「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」に基づく対策。建物の窓ガラスを割れたまま放置しておくと、管理者がいないと思われて次々に窓ガラスが割られる。それと同様に、軽犯罪を放置しておくと犯罪が多発し、凶悪犯罪も発生しがちなため、軽犯罪を取り締まることによって凶悪犯罪を減少させることができるとする理論。


2017年にロサンゼルス市議会は、住宅地ならびに学校・公園周辺での車中泊を禁じる決議を可決*7。さらに、路上で横になれる場所に制限を設けることも検討しているが、まだ結論は出ていない。一時は路上生活者のテント村一掃も試みたため、ホームレス支援者らが「所有物撤去」の合憲性をめぐる訴訟を起こす事態へと発展した。

Free-PhotosによるPixabayからの画像
Free-PhotosによるPixabayからの画像

*7 L.A.には1万6千人以上の車上生活者がいる。ホームレス支援者らは「残酷すぎる」と抗議の声を上げているが...。 L.A. City Council Votes Unanimously to Cite the Homeless for Sleeping in Their Vehicles

成果が見られたのはホームレス問題の根本に着目した対策

その一方で、ホームレス問題の根本に着目し、研究者たちから評価されている施策もある。

その一つが、2010年から始まった「連携エントリーシステム(Coordinated Entry System)*8」という取り組み。自治体・NPO・一般市民が協働で路上生活者のデータベースを構築し、一人ひとりの支援サービス利用状況を記録。100以上のサービス提供者と提携し、命の危険もあるなど最も弱い立場にある人々を優先しつつ、各人のニーズに合った支援を効果的にマッチングしていくことを目指している。パイロット段階としてスキッド・ロウで生活する5,000人以上を対象とし、その後、ロサンゼルス郡の他地域にも展開していった。このシステムを利用した多くの地域で、2017〜18年にかけて路上生活者の数が大幅に減少する効果が見られた*9。

Karolina GrabowskaによるPixabayからの画像
Karolina GrabowskaによるPixabayからの画像

*8 Coordinated Entry System
*9 A 2018 Snapshot of Homelessness in Los Angeles County


いったんホームレス状態に陥ってしまった人を支援するより、その状態に陥らないようにすることの方がコスト的にはるかに安くつくため、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やシカゴ大学と協働で、どういう人がホームレス状態に陥る可能性が高いのかを予測する統計モデルの構築も進められている。
LA County turns to big data to solve homelessness

テント村と協力し、シェルターへの斡旋から恒久住宅へとつなげる取り組み「A Bridge Home*10」もおこなわれている。

*10 A Bridge Home

2017年3月には、「ホームレス対策の資金を生み出す」ことを目的とした売上税増をおこなう施策「Measure H」が決まった。この税収増加により1年間に3億5500万ドル(約391億円)の資金を集められ、5年以内に4万5千のホームレス世帯や個人をホームレス状態から救い出せると予測されている*11。

*11 LA County’s sales tax increases Sunday to help the homeless. Here’s how much

Measure H 開始から15ヶ月で1万世帯や個人を恒久住居に入居することができた。

さらに、アフォーダブル住宅(安価な住宅)を建設する不動産ディベロッパーにインセンティブを提供する施策も取り入れられている(参照)。
*建築密度(容積率)の割り増し(Density Bonus)
*建設に関する手続きの優先度アップ(Expedited Processing)
*諸経費の免除(Fee Waivers)
*駐車スペース基準の緩和(Parking Reduction)
*税金の減額(Tax Abatement)

calculator-385506_1280
Steve BuissinneによるPixabayからの画像 

またロサンゼルス市は家賃高騰*11 の対策として「Proposition HHH Supportive Housing Loan Program」のもと12億ドルを支出し、慢性的にホームレス状態にある人や低所得層の住まいとして、1万戸の新しい住居(一軒家、アパートを含む)の建設を発表した。しかしその進捗は「イライラするほど遅く」、方針発表から約3年を経た2020年1月にようやく60戸のオープンが発表された。市長は2020年から対応をスピードアップさせられる、年末までに900戸オープン予定と述べているが...市内で新たにホームレス状態に陥る人のペースには到底追いついていない。

また、人種や構造的格差の問題にも取り組むことも決定された。ロサンゼルス市内における人口比率9%に過ぎないアフリカ系アメリカ人が路上生活者の4割を占めている原因について、コミュニティ・学者・行政関係者が共同で本格調査をすすめている。

ロサンゼルスにおけるホームレス問題は依然深刻ではあるものの、単に問題を見えなくするのではなく、効果のあった実践例に基づいて、具体的な対策を講じ始めている。


By Brenda Wiewel (南カリフォルニア大学 Initiative to Eliminate Homelessness ディレクター )
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

参考
The State of Homelessness in America (September 2019)


Measure H hits progress milestones from Los Angeles County Newsroom on Vimeo.


*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて 


米国のホームレス関連記事

ホームレス増加で非常事態宣言、ハワイ、ポートランド、ロサンゼルスで。

ホームレス問題に向き合うことで医療コストを大幅削減:「レスパイトケア」を路上生活者に適用する米国の大きな成果

貧しい地域を「肥溜め」呼ばわりするトランプ米大統領。ホームレス問題に「重要な対策」を講じると宣言する真意とは

『ビッグイシュー日本版』の関連特集

THE BIG ISSUE JAPAN364号
ホームレス支援をアップデートする――稲葉剛ゲスト編集長
354号SNS用横長画像
https://www.bigissue.jp/backnumber/364/







過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。