広島高等裁判所は1月17日に四国電力・伊方原発3号機(愛媛県)の運転を差し止める仮処分を決定した。差し止めの理由は原子力規制委員会の審査で活断層問題と火山問題で審査されていない点がそれぞれにあり、四電もこれに対して納得できる説明ができなかったというものだ。活断層と火山、その二つの面で違法性を指摘したのは画期的だ。







燃料棒落下、全電源喪失……立て続けに4件のトラブル。
四国電力は不服申し立てを断念

差し止めの期間は、山口地方裁判所で係争中の裁判の判断が出るまで。こちらの裁判は伊方3号機の運転差し止めを求め、山口県の住民たちが2017年12月に山口地裁岩国支部へ訴えたもの。結審まではなお時間がかかりそうな状況だ。そのため、同年7月に仮処分を申し立てたが、19年3月に却下されたことで、住民側が高裁に即時抗告していた。そして、今回の決定が出た。

四電は今回の決定に不服を申し立てる方針だったが、「今は申し立てができる状況ではない」と当面見送るコメントを発表(1月27日)。昨年12月末から定期検査に入って1ヵ月の間に、燃料棒落下や全電源喪失など、立て続けに4件のトラブルを起こしたからだ。今、原因究明と再発防止策に取り組んでいるが、これらのトラブルには組織体制に深刻な問題が潜んでいると推察される。

伊方3号機の運転をめぐっては、地元愛媛県をはじめ、隣接する山口県、広島県、大分県の市民団体がそれぞれの地裁に運転差し止めを求めて提訴、かつ仮処分申し立てが行なわれている。

このうち、広島地裁への仮処分申し立てについては、同高裁で17年12月13日に運転差し止めを決定。阿蘇火山の破局的な噴火により、伊方3号機に火砕流が到達する可能性を認めたからだ。期間は18年9月30日まで。しかし、四電が不服を申し立てた結果、停止期間満了直前の9月25日にその決定はくつがえされた。
四電は16年、18年に伊方原発1、2号機を廃炉にした。3号機は福島原発事故後の11年4月29日から定期検査に入り、原子力規制委員会の許可を得て、16年8月12日から運転を再開。そして17年の広島高裁での決定を受けて停止、18年10月30日に再稼働、19年12月26日から定期検査に入り、現在に至る。

沖合2㎞以内に活断層の可能性。
最新見解では「否定できず」

 九州から四国の伊方原発沖を通り本州を縦断する中央構造線に沿って大断層があり、伊方原発沖の部分も活断層と認定されている。今回の争点は、複数ある活断層の一つが沖合2㎞以内にあるか否かだ。四電は「そこには調査に基づき活断層がない」と主張し、規制委員会もこれを認めて規制基準に合格させていた。

 しかし、高裁決定では、地震調査研究推進本部(文部科学省の特別機関)が発表した最新の見解である「中央構造線断層帯長期評価(第二版)」を基に、「活断層がある可能性が否定できず、従って、四電は震源が極めて近い場合の地震動評価をする必要があるのに実施していない。規制委員会も四電を追認しているので、同委の判断に過ちあるいは見落とし(過誤・欠落)があるといわざるを得ない」と判断した。

 火山に関する17年の決定では、火砕流が到達する可能性のある場所は立地不適だとしていた規制委員会の火山評価ガイドを根拠に、巨大噴火が起きれば、伊方原発に火砕流が到達する可能性を認めて運転を差し止めた。

 それに抗して規制委員会は18年に、火山評価ガイドの考え方を根本的に変えた。従来の考え方(巨大噴火の可能性が「十分に小さい」と評価できなければ立地不適)を、「科学的に合理性のある具体的な根拠が確認できたら立地不適」と180度も変更したのだ。同時に、巨大噴火によるリスクは社会通念上容認される水準だともした。この考え方を認めると、立地不適となる原発は事実上なくなる。火山評価ガイドの骨抜きともいえる暴挙だった。

 今回の決定では、火砕流が到達するような破局噴火レベル以下であっても、降下火山灰の量が四電の主張より3~5倍多くなる可能性があり、規制委員会がこれを認めないのは過誤・欠落であると判断した。
 これらの指摘を真摯に受け止めるなら、もはや伊方原発の再稼働はできないはずだ。四電は廃炉を決断するべきだ。
(伴 英幸)

Genpatsu

(2020年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 378号より)
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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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