リオデジャネイロ(ブラジル)やベイルート(レバノン)では、新型コロナウイルス感染症対策を指揮しているのは過激派組織やテロ組織、ギャングの構成員らだ。政府の後手後手な対応に代わり、ときに独裁的なやり方ながら、外出禁止令など必要な措置を講じているのだという。メリーランド大学政治学博士課程在籍の研究者ジョリ・ブレスワフスキが報告する。

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リオデジャネイロの「ファベーラ」と呼ばれる貧困地域には、小さな建物がひしめきあっている*1。医療サービスなどあってないようなもの、住民は手を洗うためのきれいな水すらも手に入れるのが難しい。

新型コロナウイルスの感染拡大には“絶好”なこの地域に「外出禁止令」を出したのは、ブラジルの中央政府ではなく、この地域を取り仕切っているギャングだった。ギャングのメンバーは車で巡回しながら、住民に向けてアナウンスする*2。「事態を深刻に受け止める者がいない。だから我々が外出禁止を命じる。用もなく通りをぶらつく者は、見せしめのために是正措置をとるからな」

*1 2002年の映画『シティ・オブ・ゴッド』の舞台となったことでも有名。
*2 Gangs call curfews as coronavirus hits Rio favelas


コロナ対策に取り組む世界各地の過激派組織

ギャング、反政府組織、テロ集団たちがパンデミック対策を指揮するという事例が、ファベーラだけでなく世界的に拡がっている。

レバノンでは過激派組織ヒズボラが新型コロナウイルスとの闘いとして、医師1,500人、看護師と救急医3,000人、さらに活動家20,000人を動員*3。「これは戦争そのもの。兵士のような覚悟を持って対決しなくては」ヒズボラの執行評議会委員長サイード・ハシェム・サフィエッディンがロイターの記者に語った。さらにヒズボラは、自前で運営する複数の病院でPCR検査や治療を無償提供しているほか、隔離施設としてホテルの貸し出しも行っている*。

*3 Hezbollah deploys medics, hospitals against coronavirus in Lebanon


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アフガニスタンではタリバンが消毒の大切さについて解説する動画を配信、マスクと石けんを配布するため戦闘員の動員もおこなった。リビアでも外出禁止令(18時から翌朝6時まで)を出したのは反体制派だ。イスラエルのガザ地区を支配するイスラム教集団ハマスは、巨大な隔離施設を2ヵ所建設中*4。イスラム国が配信したニュースレターの最新号*5 には、感染症対策について数々の指示が書かれていた。

*4 Hamas prepares for mass quarantines in Gaza over COVID-19 fears
*5 Islamic State Advice on Coronavirus Pandemic


武装勢力がコロナ対策に積極関与、その思惑とは

「武装勢力の行動」を研究している筆者からすれば、こうした動きは驚きではない。中央政府の権力が弱い又は存在していない地域を、犯罪組織や反政府組織、テロ集団が統治している国は少なくない。中には、医療や教育などの社会事業、さらには基本的な司法制度のような争い事をてきぱき解決する手段を提供している組織もある*。

*政府の司法でも(非公式の)部族公判でも争い事が決着しないとき、タリバンによる迅速な審判が好評でその数が増えている Taliban Justice Gains Favor as Official Afghan Courts Fail

公式政府によるパンデミック対応が鈍いために、武装集団がその正当性を高めるチャンスを手にしているかたちだ。武装集団がその支配下で暮らす市民ならびに国外にいる潜在的支持層からのサポートを得るべく、自らの正当性を向上させる行動をとることはよくある。権力を象徴するものとして旗や通貨をつくる組織もある。今回のコロナウイルスへの対応は、こうした取り組みに沿った戦略と考えることができよう。

正式な権力を得るためでなくても、金銭の徴収やローカル情報を入手するうえで武装勢力が地元住民をあてにしていることはよくある。地元市民が苦しむことになれば、武装組織への支持が弱まる又は消滅してしまうかもしれない。ゆえに武装組織は、“自分たちの利益のために” 市民を守ろうとするのだ。

また、彼らの多くは自分の家族や友人が暮らしているエリアで活動している。だから、そこに暮らす人々の安全や健康を守りたいと思うのは自然なこととも考えられる。

どう機能しているのか

武装集団が支配している地域に「政府の力」は及ばずとも「ウイルス」は十分に届きうる。ウイルスがまん延したあかつきには、そこに暮らす人々を誰が支配しているかなどに関係なく、公平な対処が求められる。多くの命を救うには、宗派や政治的分断を差し置き、感染を阻止できる能力とその意欲がある集団と協力していかなければならない。

「赤十字社」や「国境なき医師団」などの人道支援団体も、住民に支援を届けるにはその地域を支配する武装集団を “なくてはならないパートナー” と考え、長きに渡って連携して活動を行ってきた。他の武装組織と同様、タリバンも人道支援団体の「登録」を公式方針とした上で、タリバンの支配地域内での活動を認めている。

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「万が一、我々の支配地域で感染爆発が起こるようなことがあれば、その地域における停戦も辞さない」先日、タリバンの広報担当はこう述べた。さらにタリバンは、感染者サポートならびに感染拡大阻止にあたる支援団体にはその警備を行うともしている*6。

*6 イスラム国もアルカイダもコロナウイルスは“脅威”としつつ “勢力拡大のチャンス” とみる向きもある Extremists see global chaos from virus as an opportunity

しかし、人道支援団体と武装集団との関係は危険をはらむものでもある。これまでにも、人道支援団体が反政府勢力の領域にアクセスするのを政府が阻止する、戦闘員が支援団体メンバーを保護しない、武装組織が支援物資を略奪するといったことがあった。

課題はあるものの、これほど多くの武装集団が感染症対策に積極関与している事実は、パンデミックの恐ろしさがいかに深刻であるかを物語っているし、政府が “不在”の地域においてはむしろ、政府、人道支援組織、武装集団間の協力が喫緊の課題である。

By Jori Breslawski
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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