コロナ対策のさまざまな行動制約は概ね緩和されつつあるが、もはや私たちの生活がコロナ前の “元通り” に戻ることはないだろう。いわゆる「新しい生活様式」といわれるものだが、人々が衛生面を気にするあまり、一度は排除が進んだ「使い捨てプラスチック」が再び使われ出すという、環境保護の観点からはよろしくない流れが起きている。

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Shutterstock 

再利用容器を受け付けなくなり、プラスチックごみが増えたビジネス

2019年半ばのオーストラリア国内で収集したデータに基づく研究からは、使い捨てプラスチックを使わない「プラスチック・フリー」の生活はかなり浸透していたこと、その大きな動機となっていたのは他の人たちが「プラスチックを使わない」を実践していると知ることだったことが明らかとなった。他には、その行動を取ることへの納得度や心地よさ、環境面でのメリット、金銭的コスト、他者がその行動を良しとしてくれるか否か、などが自身の判断材料となっていることが分かった。

しかし、新型コロナウイルスがこの形勢をがらりと変えた。感染症の拡大以降、プラスチックごみが著しく増えているのだ。防護具(マスク、手袋、防護服など)などの医療廃棄物*2、ウェットティッシュや液体せっけんなど衛生用品の消費増加も影響している。感染症拡大によって、再び使い捨てアイテムへの依存度が高まりつつある。

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マスク着用必須がごみ問題を悪化させている Shutterstock 

*1 モナシュ大学(メルボルン)の研究者である筆者らが2020年6月に発表した研究。豪ヴィクトリア州の住民約千人に、4種類の使い捨てプラスチック製品(レジ袋、ストロー、コーヒーカップ、持ち帰り用容器)にまつわる行動と考えを調査した。
Social norms and plastic avoidance: Testing the theory of normative social behaviour on an environmental behaviour

*2 中国・武漢では感染ピーク時、コロナ前の6倍もの医療廃棄物が発生した。
The COVID-19 pandemic is generating tons of medical waste

新型コロナウイルスの「生存時間」を状況別に調査した研究では、エアロゾル(空気中に漂う微細な粒子)や他の素材(ステンレス、銅、段ボール)に比べて、プラスチック素材上でより長く生存することが分かっている*3。多くの業界が「再利用可能な容器」の使用を認めない方針を取り始めているが*4、本当に「使い捨てアイテム」の方が安全性が高いのかについては、まだ十分な証拠が出揃っていないのが現状だ。

*3 参照:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973
*4 英スターバックス社、ロンドン・ノース・イースタン鉄道、グレート・ウェスタン・レールウェイなど。日本のスターバックス社もタンブラーでのドリンクを一時休止している(参照)。



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衛生の観点からマグカップやタンブラーでの提供を中止するカフェも Shutterstock 

政府が「使い捨てプラスチック禁止」に関する法律の施行を延期する、「レジ袋禁止令」を撤回する*などの動きはオーストラリア以外でも起きており、消費者が使い捨てプラスチックを使いたくないと思っても、以前のようにはいかない状況もある。
*Single-use plastic ban delayed to reduce coronavirus risk at restaurants and cafes

テイクアウトでも自宅でも、プラスチックを減らす行動を

今必要なのは、クリエイティブな発想を持ってできるところから始めること。買い物時にエコバッグを使う、家で淹れたコーヒーを水筒で持ち運ぶ、何度も使えるストローを持ち歩く。毎回洗うことだけは忘れずに。

レストラン料理の宅配サービスを展開しているデリベロー社は、再利用可能容器の利用を推進しているリターナー社と提携、注文の際に「再利用可能な容器」を選べるようにしている*5。廃棄物の削減・リサイクルに取り組むNPO「ブーメラン連盟(Boomerang Alliance)」は、コロナ禍で料理をテイクアウトする際の新たなガイドラインを設け*6、接触せずに料理を受け渡しするコツなども盛り込まれている。

*5 Deliveroo(オーストラリア) https://foodscene.deliveroo.com.au
Returnr(メルボルン拠点)https://returnr.org
*6 COVID-19 Sustainable Takeaway Packaging Guides


家庭内でも数多くのプラスチックが使い捨てされている。食品ラップ、コーヒーカプセル、シャンプーやリンス、液体せっけんのボトル容器、剃刀、等々。しかしこれらの多くは、再利用できる代替品に代えていくことができる。食品ラップにはシリコン製のラップ、再利用できるコーヒーカプセル、固形のシャンプー・リンス・せっけん、何度も使える剃刀、といった具合に。洗剤等も大容量タイプを買えば、プラスチック容器を減らすことになる。残り少なくなったら、使い捨てではないプラスチック容器に移し替えるなどすればよい。

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使い捨てラップの代わりに再利用可能なラップを使うのもよい Shutterstock 

生活のあり方が大きく変化している今だが、プラスチックごみ対策の手を緩めてはならない。コロナ禍ではすべてを自分の意思だけで決められるわけではない。でも、できる範囲でこれまでのやり方を見つめ直し、他により良い方法はないかを問うてみよう。新しい生活様式を環境に優しいものに変えていけるか、私たちの行動が問われている。

著者
Kim Borg
Research Fellow at BehaviourWorks Australia, Monash Sustainable Development Institute, Monash University

Jim Curtis
Research Fellow in Behaviour Change, Monash University

Jo Lindsay
Professor of sociology, Monash University

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年6月24日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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