56


<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>


住宅支援給付─初の家賃補助制度、支援策としては後退中



2009年10住宅支援給付─初の家賃補助制度、支援策としては後退中2009年10月、世界同時不況の影響で住まいを喪失する人々が急増したのを受け、住宅手当緊急特別措置事業が新設された。

厚生労働省が主管するこの事業は、離職者がハローワークで就労支援を受けることを条件に6ヶ月間(プラス3ヶ月間の延長が可)、家賃の補助を受けることができるという制度で、対象者は住居がないか、住居喪失のおそれがある低所得の離職者とされた。

民間の賃貸住宅入居者への支援策が国レベルで制度化されるのは生活保護以外では初めてであり、将来的には普遍的な家賃補助制度へと発展していくことが期待される制度であった。

しかし、住宅手当の実際の運用が始まると、様々な使い勝手の悪さが露呈した。例えば、この制度にはアパートの初期費用を捻出する仕組みがないため、住まいのない人が住宅手当を活用する場合は別途、社会福祉協議会から貸付を受けなければならない。

ところがこの貸付の審査が厳しいために、結果的に住宅手当も使えない人が続出。貸付を受けられた人も借金を抱えながら新生活をスタートせざるをえなくなった。また、離職者のみを対象としているため、「脱法ハウス」に暮らしているワーキングプアなど、仕事のある人はこの制度を使えない、という欠点も明らかになった。

そのため、2009年10月から2013年1月までの住宅手当の利用実績は13万2754件(延長決定分含む)にとどまっている(2011年度の常用就職率は54・5%)。「第2のセーフティネット」と呼ぶには規模が小さすぎると言わざるをえない。

さらに、2013年度からは「住宅支援給付」と名称変更されたのに伴い、家賃補助を受けられる期間が原則3ヶ月に短縮された。これにより再就職までの一時的な支援という性格がさらに強まり、居住支援としては後退したと言えよう。

政府は2015年度からこの制度を「住居確保給付」という名称で恒久化させる方針である。しかし、現在の仕組みのまま恒久化しても効果は限定的なものにとどまるであろう。(稲葉)



保証人問題と追い出し規制─排除を生む、滞納者のデータベース化



高齢化や家族関係の希薄化などを背景に、賃貸借契約の際に、安定した収入のある親族を連帯保証人として確保できないケースが増加している。

そのため、近年では、連帯保証人を代行し、家賃滞納などが発生した場合に、賃借人に変わって代位弁済をする家賃債務保証会社のサービスを利用した賃貸借契約が普及している。

国土交通省が2010年に事業者や家主を対象に実施した調査によると、賃貸借契約における保証の状況は、「連帯保証人のみ」が6割、「家賃債務保証会社のサービスのみ」が2割、「両方」が2割であった。連帯保証人に加えて、家賃債務保証会社のサービス利用も求めるなど、厳しい契約条件を設定する家主も少なくない。

多くの人々が所得の低下や離職を経験する時代にあって、家賃を継続的に支払うことは容易なことでなくなっている。不動産適正取引推進機構が2013年に実施した調査によると、1か月以上の家賃滞納が管理物件の1割以上で発生している管理業者の割合は12.2%を占める。

2008年の世界金融危機の際には、離職などにより家賃を支払えない人たちが急増し、数か月の家賃滞納により、家賃債務保証会社から強制的に自宅を追い出される被害が続出した。

現在では、このような違法な追い出し行為の事例は少なくなっている。しかし、保証会社による追い出し行為を規制する法制度の整備はいまだなされていない。

また、家賃滞納に関する情報が、家賃債務保証会社によってデータベース化され、運用されることで、信用力の低い人たちが民間賃貸住宅市場から排除される危険性が高まっている。

国土交通省は、近年、高齢者、障害者、外国人、子育て世帯、および母子世帯等の入居を拒まない賃貸住宅の登録や情報提供を行う事業を実施した。また、一部の自治体や財団法人では、公的家賃保証事業(※)を行うなどの先駆的な取り組みを行っている。

しかし、事業規模は極めて小さく、住まいのセーフティネットとして十分に機能するにはいたっていない。(川田)

※・アパートやマンション等の賃貸借契約を締結する際に、保証専門の会社や信販会社等が借主の連帯保証人に近い役割を果たすシステム


<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>
<住宅政策に関する過去の記事は、こちらのページから閲覧できます>