BIG ISSUE ONLINE

タグ:暴力

大学生と語る恋愛とDVのグレーゾーン




DVは、特別な男女間のトラブルではない。ケータイの覗き見や強い束縛意識、セックスの強要など…。その種のことはどんな恋愛の中にも潜んでいる。お互いの恋愛経験を話し合って自らの恋愛観を見つけるプロジェクト「恋愛ism」(注)。メンバーの立命館大学産業社会学部の大学生ら5人と、恋愛と暴力の間の微妙なグレーゾーンを語り合う。


DVとびら青

愛情か?束縛か?1日250回のメール、盗み見、アドレス消去の強制…


 
A子さんの元カレは、詮索好きだった。例えば、元カレのメールは、こんな風。「今、何してる?」「家でボッーとしてた」「ボッーとって? 何それ?」。そんなやりとりから始まって、「今日は何時に寝るの?」「明日の授業は何限目から?」「あき時間は?あき時間は一緒にいよう」と続く。常に何かを問われている感じ。どうして、なんでもかんでも私のことが気になるのか?「監視されてる感じだった」


B子さんは、彼氏のケータイが気になってしょうがない時期があった。デート中の彼氏のメール打ち、男性名で登録されている元カノのアドレス…。「ケータイ見せて」と追及して口論になり、黙って盗み見ては怪しいメールに疑心を抱いた。「わざわざヤマシイことばかり探してる」と責められた。


ケータイは、今や恋愛には欠かせない必需品。それゆえ、過度の束縛、喧嘩・トラブルのもととなり、時として相手への支配・コントロールのツールにもなってしまう。特に5人全員が指摘したのは、高校時代のメール。「友達も含めて、メールは30分に1回が普通」「彼氏アリの女の子と親密になって、1日250回やりとりした」「返信しなきゃという強迫観念で、高校の時はヤバかった」


一般的には、相手のケータイを盗み見る、異性のアドレスを消去させるなどの行為は、デートDVに数えられる。嫉妬、支配が行き過ぎると、深刻な暴力へと発展するケースもあるとされる。ケータイが誘発するカップル間の束縛やDVを研究する大学院生のC子さんは、彼女に男性アドレスを消去させたり、行動範囲を制限したり、ありもしない元カレとの関係を詮索して暴力をふるうケースを、よく耳にする。「ケータイはレスの早い人の方が基準になるから、遅い方に対して早い方の怒りや不安を誘発しやすい。ケータイがなければ、行き過ぎた束縛や深刻な事態に至らなかったケースもあるのでは」と考える。


「仕留めた!」男の心理と、つい言ってしまった「それでも男?」



ケータイに限らず、束縛や男女間のすれ違いは、恋愛にはつきもの。D君は、休日にひとりの時間を過ごしたいと彼女に言うと、露骨に暗い顔をされて、「どうして?」と思う。他にも、「異性がいるグループで遊びに行って、彼氏に事後報告したら、別れようと言われた」「大学で女友達と歩いているのを彼女に見られる度に、彼女が『あの子誰?』と周囲に聞いて回った」など、交際していても、相手とずっとべったりいたい人と適度にお互いの時間を持ちたい人とでは、距離のとり方がズレる。特に、つき合い始めやセックスをする親密な関係になった後では、人によって期待するものが違ってくる。これまでの交際最長記録が3ヶ月というE君は、「つき合い始めると、あとはどんどんテンションが下がる」。「楽しいのはつき合うまでのプロセス。うまくいった時は、“仕留めた”という感覚」と言う。恋愛は、基本的に自分ペース。「コミュニケーションとして彼女を普通に叩いたりする」

言葉にしにくいセックスでも、「したくないのに、嫌と言えずにしてしまった女の子の相談はよく受ける」「彼氏に拒まれると、惨めになって、『それでも男?』と暴言を吐いてしまった」など、カップル間でも意外とすれ違いが多いようだ。B子さんは、「基本的に彼氏にひっぱってもらいたいと思っている女の子が、完全にマイペースの男性を好きになると、何でも許してしまうことはあるかも」と言う。また、別れ話の時には、逆上した男性の暴力や女性のリストカット、女性間のトラブルなど、かなり過激になるケースも。

恋愛は、好きな相手との幸福な時間がある一方で、人格を傷つけ合うような喧嘩や束縛など、ネガティブの面も併せ持つ。そこに深刻なDVにつながる種も潜む。恋愛と暴力の間のグレーゾーンを、どう見極め、相手との距離をどう取るのか。「恋愛ism」を指導する斎藤真緒助教授は言う。「ケータイの覗き見や過度の束縛を、一つひとつDVと言い出すと、恋愛が息苦しくなる。それよりも自分の失敗や恋愛観などをいろいろな人と語り合う中で、自分の恋愛タイプに気づき、異性との距離の取り方を学び、セルフマネージメント力を身につけることが無用な暴力を防ぐことにつながる」

(稗田和博)


(注)取材協力:「恋愛ism」プロジェクト「地域における女性に対する暴力の予防啓発に関する調査研究(内閣府補助事業)」



(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)

DV関連記事


「デートDV」とは何か?—暴力=愛情という理屈がデートDVを生む
人間の暴力性と可能性—「ドメスティック・バイオレンス(DV)」を描く映画たち
[インタビュー] 中原俊監督「これはDV?それとも愛?映画の中で探してもらいたい」
なぜ、妻や彼女を殴ったのか?DV加害男性たちの脱暴力化を追う
[インタビュー] メンズサポートルーム・中村正さんに聞くドメスティック・バイオレンスへの対応策
[インタビュー] 「みずら」事務局長・阿部裕子さんに聞く、DV被害者の現状









過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。


    このエントリーをはてなブックマークに追加

法律の保護は、すべてを捨てて逃げる人だけに 大決心が求められる被害女性



「みずら」(NPO かながわ女のスペースみずら)はドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者などを一時的に保護するシェルターなど、被害女性の自立支援の活動を17年間続けてきた。事務局長の阿部裕子さんに、DV被害者の現状を聞く。

シェルター利用の7割がDVの被害者


洗面所2

「みずら」は、現在、夫などからの暴力、経済的困窮などさまざまな理由で行き場を失った女性や母子のためのシェルター(一時保護施設)を4ヶ所運営していて、神奈川県と協力しながらDV被害者の自立支援を行っている。事務局長の阿部裕子さんによれば、昨年1年間にシェルターを利用した205ケース、延べ399人のうち7割がDVの被害者だった。年齢層は10代から70代まで幅広い。

DV被害者には、10代で優しくしてくれた年上の男性と結婚するも同居後、相手の態度が豹変したという若い女性もいれば、出産直後、子育てに没頭するなかで暴力が始まったというケースもある。長年、夫からの暴力はどうにもならないものとして耐え、刃物を持って襲われたときに初めて、「普通ではない」と感じて逃げ出したという女性もいる。

一般にDVには、殴る、蹴る、物を投げるといった身体的暴力以外にも、罵り、蔑み、罵倒、脅しなどの精神的暴力、レイプまがいのセックスなど性的暴力といったさまざまな暴力が含まれる。みずらのシェルター利用者もまた、複合的な暴力の被害に遭っているという。

嫉妬妄想に陥った夫が、浮気をしていると決めつけて妻を拘束したり、経済的にしめつけながら“誰に食わせてもらっているんだ”という言葉を繰り返し長期間にわたってあびせ、妻の行動をコントロールしているケースもあります。痣や骨折など身体的な暴力の痕跡が見られなくても、DV被害者の多くは精神的に相当まいっています。


シェルターの一番の目的は、安心と安全の提供だ。具体的な支援としては、その上で、あくまでも本人の自己決定と自立を援助すること、と阿部さんは言う。

まず、DVの被害者には、ここにいれば見つかりません、ゆっくり休んでくださいとお伝えします。最初、身体はどこも悪くないと言っていても、3、4日経って緊張が解けると、殴られたところがあちこち痛くなるという方が多いんです。物音がするたびに動悸がしたり、専門医からPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断される方もいます。『みずら』では、それぞれの利用者に必要な治療につなげながら、本人の意向を探りつつ、生活保護の申請や離婚手続きのための弁護士や法律扶助協会についての情報を提供しています。




 

「暴力から逃げたいので保護を」と助けは明確に



DV被害者の女性が、切羽詰まるまで暴力から逃れられないのは、加害男性から逃げることへの脅しがかけられていることもあるが、そのほかの事情を阿部さんはこう説明する。

電話相談などで、何かあったら相談に行っていいですか、とおっしゃる女性がいます。何かあったらというのは今度、夫さんがキレてひどい暴力をふるったら、ということだそうです。そんなに精神的緊張を強いられているなら、何もないうちに堂々と出たらどうですか、情報提供しますから、とお話するんですが、加害者は自分が選んだ人だし、自らも家族を形成することに大きなエネルギーを費やし、地域社会で生活基盤を築いてきておられる。今のDV防止法は『被害者が生活基盤を捨てて逃げるなら保護する』という内容ですから、家を出るために一大決心をしなければならないのです。


また、加害男性の多くは、暴力の合間に、悪かったと謝ったり、優しい態度をとったりすることもあるため、被害者の女性が、「私には本音をさらけ出してくれている」「私は必要とされている」と思いこみ、暴力を愛情と勘違いしてしまうこともある。

過去に、いったんはシェルターに逃げ込みながら、夫の元に戻ることを選択して、その夫から殺害された女性もいる。また、相対的に女性の賃金が低いだけでなく、「繰り返し罵られることで、自己評価が低くなり、自分一人で子供を育てていくことに自信が持てず、奴隷のような精神状態になっている」こともある。

では、「一大決心」をして家を出ることになったら。
大切なもの、子供たちの写真など“替えのきかないかさばらないもの”と通帳、保険証、母子手帳、当面の着替えを信頼できる人にこっそり預かってもらうと安心です。また、夜間や休日など行政の窓口が開いていない場合に警察に相談するときは、漠然と助けてと言うのではなく、暴力の被害を受けていて逃げたいから保護してほしい、と明確に伝えることが必要です。


理解しておいた方がよいのは、加害者となる男性像は一律ではないということ。

社会的地位の高いといわれる人たち、裁判官や医師、国家公務員、警察官もいます。共通しているのは、彼らが暴力によって妻を屈服させようとしていること、無意識に暴力をふるっているわけではなく、妻への暴力を選択していることです。いくらイライラしても、会社で上司を同じように殴るわけではないでしょう。


かえって、外では、いい人、いい夫を演じていることが多い。そのため、DV被害を相談された友人や親族が、不用意に夫との間に入るべきではない、と阿部さんは強調する。

なだめるつもりで友人や親族が介入することは加害者を刺激し、人に知られたくないことをしゃべった妻への怒りを喚起します。ですから、DV被害を知ったら、知人や親族は、まず被害者に対して“大変だね、よくがまんしたね”という、つらさやしんどさへの共感と聞く耳を持ち、本人の希望を聞きながら、専門の相談窓口につなげてください。


DV防止法が成立し、改正法が施行されてなお、パートナーの暴力によって家や居場所を失った女性と子供が経済的にも精神的にも安心して安定した生活を送れる環境はいまだ整っていない。また、直面する現実の厳しさにも大きな変化はないという。

(清水直子)


「みずら」(特定非営利法人 かながわ女のスペース みずら/福原啓子代表)

1990年、女性が直面する問題の解決と自己決定を支援する任意団体として発足、2000年に特定非営利法人取得。電話、来所、同行による国籍、テーマを問わない相談活動(労働組合である、女のユニオン・かながわを併設)、シェルターの運営、学習会や研修活動を行う。

★みずら相談室
TEL045・451・0740
(月〜金14時〜17時・19時〜21時/土14時〜17時)※祝祭日はお休み。

★女性への暴力相談[週末ホットライン]TEL045・451・0740
(土・日・祝日の金17時〜21時)

http://www.mizura.jp/



 

DV関連記事


「デートDV」とは何か?—暴力=愛情という理屈がデートDVを生む
人間の暴力性と可能性—「ドメスティック・バイオレンス(DV)」を描く映画たち
[インタビュー] 中原俊監督「これはDV?それとも愛?映画の中で探してもらいたい」
なぜ、妻や彼女を殴ったのか?DV加害男性たちの脱暴力化を追う
[インタビュー] メンズサポートルーム・中村正さんに聞くドメスティック・バイオレンスへの対応策

(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)






過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。


    このエントリーをはてなブックマークに追加

「脱力する」生き方が、男の暴力を未然に防ぐ



P17 photo
(メンズサポートルームの中村正さん)

必要な加害男性側の再発防止方策



DVへの対応の一つは、DV防止法の保護命令(退去命令や接近禁止命令)によって、家庭内に介入して加害者と被害者を分離することにある。しかし、分離した後、大きな精神的ダメージを受けた被害者をケアする仕組みが緊急の課題であるのと同じように、加害者の更生指導、再発防止、未然防止への働きかけが重要。

法的に罰せられても、加害男性は自分の暴力を、家事などがきちんとできない妻や彼女への教育であるとか、「自分も悪いが、暴力を引き出した相手にも非がある」と思いがち。駐車違反でキップを切られた時に逆上する人のように、「みんなやってるのに、どうして自分だけが罰せられるんだ」と考えているケースが多い。

メンズサポートルームでは、こうした加害男性に対応するため、京都と大阪でグループワークや語る会を開催し、暴力を男の視点からとらえ、なぜ自分は暴力をふるったのか?脱暴力化するためにはどうしたらいいのか?を考え、気づき、男性が家庭内で暴力なしで生活する方法を学ぶ機会を提供している。




”私“メッセージで、男らしさを脱ぐ



なかでも暴力を乗りこえるためのグループワークは、社会の中で植えつけられてきた過度の”男らしさ“を塗り替える作業が中心になる。多くの男性は、競争社会や家族制度などの中で、「男は強くなければいけない」「勝たなければいけない」といった抑圧的な男性文化の中で育っている。それが、妻や彼女への暴力につながる男性特有の「感情鈍磨」「言語化困難」「攻撃・行動化」を生む土壌になっている。

そうした自分を縛っている”男らしさ“に気づくため、まず安全の保障された男同士のグループワークという世界で、自らの体験や感情を「私」を主語にして語ってもらう。これは、「私メッセージ」というコミュニケーションスキルで、普段、男性が使いがちな「我々」「男というのは…」「社会では…」といった主語を使わないのがポイント。理屈や論理・分析的な言い方も極力抑え、感情語を多く使うことで、暴力や攻撃性と近いところにある”男らしさ“を脱学習していく。同時に、暴力に訴えないセルフマネージメント力、ソーシャルスキルを身につけながら、被害女性に謝罪を行う土壌をつくっていく。

ただ、現在は”男らしさ“から自由になることは、「落ちこぼれ」「負け組」「ダメ男」という負のラベルを貼られることも意味しかねない。今後は、この「脱力する生き方」が、新しい社会の価値観と結びつき、「降りる」ことが進化であるということを示していくことが、加害男性の暴力の未然防止にもつながる。

(稗田和博)




中村 正(なかむら・ただし)
1958年生まれ。NPO法人「きょうとNPOセンター」常務理事、立命館大学大学院教授。家庭内暴力の加害者のためのグループワークを行う「メンズサポートルーム」を主宰。著書に、『「男らしさ」からの自由』(かもがわ出版)ほか。










(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)


DV関連記事


「デートDV」とは何か?—暴力=愛情という理屈がデートDVを生む
人間の暴力性と可能性—「ドメスティック・バイオレンス(DV)」を描く映画たち
[インタビュー] 中原俊監督「これはDV?それとも愛?映画の中で探してもらいたい」
なぜ、妻や彼女を殴ったのか?DV加害男性たちの脱暴力化を追う
[インタビュー] 「みずら」事務局長・阿部裕子さんに聞く、DV被害者の現状





ビッグイシューをいいね!で応援!

https://www.facebook.com/bigissue.jp" data-hide-cover="false" data-show-facepile="true" data-show-posts="false">


最新情報をお届けします

無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。

    このエントリーをはてなブックマークに追加

P16 台所

加害男性たちの脱暴力化を追う



加害男性たちは、なぜ一番大事なはずの妻や彼女を殴り続けたのか?
そして、自らの暴力を乗り越えることはできるのか?
過去のあやまちを償いながら、暴力をふるった自分を見つめ直す「男たちの脱暴力化」を追った。



続きを読む
    このエントリーをはてなブックマークに追加

(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)

DVか?愛か?映画の中で探してもらいたい



モンスターに出会ってしまった不幸な女の話にだけはしたくなかった。
男女の恋愛、性愛を撮り続けてきた中原俊監督は語る。
男女両方の視点から描かれた映画『DV ドメスティック・バイオレンス』。


P1415 p1
(中原俊監督)


夫の暴力、妻の復讐 男女両方の視点から描く



結婚3年目のある日、それまでやさしかった夫が突然変わり始めた——銀行口座を解約し、家計を管理しようとする、妻の仕事を辞めさせるため、実力行使に出る、味付けが気に入らないと調味料を投げつける、テーブルをひっくり返す、殴る、蹴る、レイプ同然のセックスを強要する……暴力はどんどんエスカレートし、妻は命の危険まで感じるようになっていく。夫の豹変ぶりと激しい暴力、そして最後に妻が取った究極の復讐……そのすべてがあまりにリアルで恐ろしく、背筋が寒くなってしまう。

「男にとっても女にとってもゾッとする作品だったかもしれません。モンスターに出会ってしまった不幸な女の話にだけはしたくなかったので、男女両方の視点で描くよう工夫しました」と話すのは、映画『DV—ドメスティック・バイオレンス』の中原俊監督。

当初、監督の元に持ち込まれた脚本は、どちらかと言えば男の立場から書かれたものだった。そこで2チームに分かれ、殴る男性の心理、殴られる女性の心理を洗い出していき、それを脚本に反映させていったのだという。

「その作業だけで約半年はかかったんですよ。また、DVについて知るきっかけになればと思い、あえて典型的なDVのパターンを散りばめるようにしました。映画の中に、『これはDVですか? 愛ですか?』という問いかけが出てきますが、DVを受けている本人が、被害者であることを自覚できない場合が非常に多い。その答えを映画の中で探してもらいたいという意図もありましたね。さらにDVを語る上で非常に重要でありながら、表に出されることのない性の問題も、しっかり取り上げるようにしました」


映画の設定はDV法施行後。夫の暴力から逃れるため、妻は公的相談所を訪ね、警察に助けを求める——しかし、公的相談所は気休めしか言わず、警察では夫婦喧嘩不介入と追い払われてしまう。病院に行って傷を見せると、暴力も愛情のうちとさえ言われる……。

「これらの場面は、公的機関に携わる人たちへのメッセージを込めてつくりました。実際は観てもらえてないようですが、ははは。どんなに立派な法律でも、それを運用する人たちがしっかりしてくれなければ、何の意味もありません。これまでは、夫婦の問題だから自分たちで解決しなさいと言ってきたのが、逃げなさいというメッセージに変わった、それ自体はいいことです。けれど根本にあるのは、人間の問題、男対女の問題なんですから、法律ができたから、即解決するということではないんですよ」





恋愛過剰主義—DVはそのツケか?



中原監督は、映画監督としてデビューした日活ロマンポルノの時代から、男女の恋愛、性愛を撮り続けてきた。

「僕は人間の一つの恋愛、性愛のかたちとしてDVの問題を撮りたかったんです。愛し合っていたはずの男女が、ちょっとしたことからとんでもないことになっていく。それはDVというかたちもあるでしょうし、セックスレスというかたちで現れることもある。DVもセックスレスも根本は違わないと思うんです」


最近これらの問題がクローズアップされる背景について、中原監督は、“恋愛過剰主義”を指摘する。

「ビビッときて一目で恋に落ちたという話をよく聞きます。とってもロマンチックに聞こえるけれど、それは多くの危険をはらんでいることでもあるんですよ。最初の印象がいいほど、その後の落胆は激しくなるもの。女性も男性も相手に求める要求が過剰になっているのではないでしょうか? 恋人も夫婦も、所詮は他人同士なんだから、100パーセント理解しあうのは無理だと悟るべきです」


さらに“男性的な男性”は、それが暴力に変わっていく可能性があるということを知っておく必要があると中原監督は言う。

「女性は男性的な人に憧れる傾向が強いですよね。例えば二人で歩いていたら向こうからチンピラがやってきて、道を開けろと言う。そんな時、おずおずと引き下がる男性よりもチンピラとやりあう男性のほうがかっこいいと多くの女性が思うでしょう。でもその強さが暴力に変化することだってある。もちろん、みんながそうではないけれど、そういう危険がゼロではないということを知っておく必要があるんですよ」


そして簡単ではないけれど、男性も女性も、自分の思いや考えを相手にはっきりと伝えること——それもDV防止に役立つそうだ。

「この映画、ぜひ夫婦やカップルで観てほしいですね。最後まで問題なく見るか、途中で飽きてしまったら(笑)、DVの危険度は低いでしょう。逆に『男の気持ちが全然わかってない』と男性が言うようなら、要注意。二人のセルフチェックに役立ててもらえたら何よりです」


(飯島裕子)
Photo:浅野一哉





中原俊(なかはら・しゅん)監督
1951年、鹿児島県生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業後、76年日活入社。日活ロマンポルノ『犯され願望』でデビュー。日活退社後、『櫻の園』、『12人の優しい日本人』を監督。最近では『コンセント』、『でらしね』、ドラマ『スカイハイ』(一部)の監督など、幅広く活躍している。次回作は青森でカーリングに励む人々を描いた、吹石一恵主演『素敵な夜ボクにください』。






DV関連記事


「デートDV」とは何か?—暴力=愛情という理屈がデートDVを生む
人間の暴力性と可能性—「ドメスティック・バイオレンス(DV)」を描く映画たち
なぜ、妻や彼女を殴ったのか?DV加害男性たちの脱暴力化を追う
[インタビュー] メンズサポートルーム・中村正さんに聞くドメスティック・バイオレンスへの対応策
[インタビュー] 「みずら」事務局長・阿部裕子さんに聞く、DV被害者の現状






ビッグイシューをいいね!で応援!

https://www.facebook.com/bigissue.jp" data-hide-cover="false" data-show-facepile="true" data-show-posts="false">


最新情報をお届けします

無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。

    このエントリーをはてなブックマークに追加



人間の暴力性と可能性 ドメスティック・バイオレンスを描く映画



相手を思っての「愛」と勘違い、コンプレックスと背中合わせの歪んだ暴力、煩悩とともに生き右往左往する人間。人間の暴力性と可能性を問い直す映画たちのご紹介。



続きを読む
    このエントリーをはてなブックマークに追加

 

(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)

暴力=愛情という理屈がデートDVを生む


DVというと夫婦だけの問題と考えられがちだが、結婚していない若いカップルの間でも「デートDV」と呼ばれる暴力行為が行われている。2002年に「アウェア」(aware)を設立し、加害者の男性が自分のDV行動に気づき、暴力を克服する再教育プログラムを実施している山口のり子さんに話を聞いた。

 

P13 DV1k

(山口のり子さん)

デートDVとは何か?


「力と支配によって相手を思い通りに動かすという目的も、やっている行為も基本的にはDVと同じ。肉体への暴力、言葉による暴力、性的暴力のほかに、いつもおごらせる、売春させてお金を巻き上げる、借りたお金を返さないといった経済的暴力まであります。どんな行為であれ、彼女が怖がって彼の顔色ばかり窺い、自分のことを自分で決められなくなっていれば、それはすべてデートDVです」


デートDV自体は以前から存在していたが、近頃は低年齢化の傾向にある、と山口さんは指摘する。

「デートDVは男性がセックスを機に”彼女は俺のもの”と思い込むことから始まる場合が多いので、セックスの低年齢化がDVの低年齢化に結びついているのです」


内閣府が4月に発表した『男女間における暴力に関する調査』によれば、若い頃に交際相手から暴力をふるわれたことがある人は7人に1人。これを20代に絞ると5人に1人以上に増える。

デートDVがここまで増えた背景には、「世の中に溢れる誤ったジェンダー(社会的・文化的につくられた性別)の刷り込みがある」と山口さんは言う。

「今の若い人は、男の子はたくましくて行動的、女の子は素直で思いやりがあるといったイメージをドラマや映画、漫画などによって幼い頃から植えつけられています。つまり彼らが12〜13歳になる頃には、デートDVの加害者・被害者になる準備がすっかり整っているのです」


さらに、山口さんがデートDVの大きな要因として挙げるのが暴力の容認だ。暴力で教えることが深い愛情だというとんでもない理屈が、映画やTVドラマの中にはびこっている。また、悪いことをしたときに親からたたかれた経験を持つ子も多い。「どこかで暴力をインプットされた子供が、思い通りにならない場面に直面したときに解決手段として暴力を使うんです。暴力=愛情という考え方は、たとえ親子の間でも間違っています」

 

恋人同士の台詞でグループワークも


このような誤った暴力の連鎖に、加害者自身が気づくことはできるのだろうか。

「夫婦だと妻に離婚を突きつけられて気づく男性が多いのですが、若いカップルの場合は、彼女が出ていっても次の女性を探せばいいやと男性が思えば、ずっと同じことを繰り返してしまいます」


しかし少数ではあるが、暴力が原因で彼女にふられたことを機に「アウェア」のDV行動変革プログラムを受けて、暴力を克服した男性もいるという。

「あるデートDVの加害者男性は、『自分の気持ちを言葉で伝えて、彼女が決めたことを尊重する姿勢が大切だとわかりました』と言って卒業しました。彼はしばらくして別の女性と結婚。赤ちゃんも生まれましたが、妻子には一切暴力をふるっていないと報告に来てくれました」


約1年間に及ぶプログラムへの参加者は現在30人ほど。DVをテーマにしたオープンな話し合いの中で自己や他者の批判をし、それを受け入れる練習をする。

「初めは自分の暴力と向き合えず、『新たに好きな人ができて毎日が楽しい』などと発言する人もいます。すると仲間から、『あなたはDVというメリーゴーランドの上で、馬を乗り換えようとしているだけなんですよ』なんて批判される。暴力をふるう本人が自分を変える決意をし、プログラムと仲間という助けを得て、努力していく以外に方法はないんです」


「アウェア」ではこのほかにも、学校へ出張してDVについての授業を行うデートDV防止プログラムを実施している。

「プログラムには、恋人同士の台詞劇を読んで問題点を発表してもらうグループワークを採り入れています。最後に配るアンケート用紙には、『僕は、昨日やったことがDVだと気づきました』といった感想が書かれていることもあります」


社会によって生み出されるDVは、私たち一人ひとりにかかわりのある問題なのだと認識すること。これこそが、DV根絶への一番の近道だ。

(香月真理子)
Photo:高松英昭


山口のり子(やまぐち・のりこ)
家族とともに通算15年の海外生活を送る。シンガポールでは電話相談員としてセクシャルハラスメントやDVなどの被害者女性を支援。ロサンゼルスでは大学院で臨床心理を学び、カリフォルニア州認定のDV加害者プログラムのファシリテーター向けトレーニング等を受ける。帰国後、2002年4月にNPOの「アウェア」(aware)を設立、DV加害者男性のための再教育プログラムを始める。



DV関連記事


人間の暴力性と可能性—「ドメスティック・バイオレンス(DV)」を描く映画たち
[インタビュー] 中原俊監督「これはDV?それとも愛?映画の中で探してもらいたい」
なぜ、妻や彼女を殴ったのか?DV加害男性たちの脱暴力化を追う
[インタビュー] メンズサポートルーム・中村正さんに聞くドメスティック・バイオレンスへの対応策
[インタビュー] 「みずら」事務局長・阿部裕子さんに聞く、DV被害者の現状





ビッグイシューをいいね!で応援!

https://www.facebook.com/bigissue.jp" data-hide-cover="false" data-show-facepile="true" data-show-posts="false">


最新情報をお届けします

無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。

    このエントリーをはてなブックマークに追加

このページのトップヘ