Genpatsu

(2011年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第174号より)




当たり前と考えていることがまったく通用しないことがある。アメリカでは、人間は神様が土からつくったのだと教える学校があるという。しかもそう教えることが義務となっている州があるというのだ。そのアメリカは科学技術を駆使して66年前に原爆を作った。
核がさく裂した時の悲惨さは広島や長崎の体験が教えている。世代を超えて被害がなお続いている。核廃絶を願う何千万もの署名にもかかわらず、現実には米ソで核兵器の開発競争が繰り広げられてきた。現在に至っても核軍縮の歩みはあまりにものろい。それどころか、核の悲劇を二度と繰り返さないとの思いは色あせてきたのではないか。

政府は、平和を愛するより、国を愛する心が大事と教育基本法を「改悪」した。広島・長崎を訪れる平和教育の取り組みもめっきり少なくなったという。核兵器を持てば核攻撃されない、という幻想が若い世代にも染まりつつあるようだ。「歴史は繰り返す」の名言は核戦争には当たってほしくない。

毎年8月6日と9日に広島と長崎で行われる平和記念式典で、核廃絶へ向けた宣言が繰り返されるが、今年は特別な内容が盛り込まれた。被爆を体験した日本だからこそ核の平和利用を進めるのだ、という考えがやっと変わった。

松井一實広島市長は政府に「エネルギー政策を見直し、具体的な対策を講じるべき」と注文をつけ、菅直人内閣総理大臣も「原発に依存しない社会を目指す」と持論を展開した。田上富久長崎市長は平和宣言を福島原発事故から語り始め「『ノーモア・ヒバクシャ』を訴えてきた被爆国の私たちがどうして再び放射線の恐怖に脅えることになってしまったのか」と問いかけ、「原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要」と訴えた。長崎会場では大きな拍手が起きたという。列席者の琴線に触れたのだ。 

広島ではもっと踏み込むべきだとの意見を聞いたが、原発問題に触れたことは初めてで画期的だったと受け止めたい。来年にはさらに進んだ発言を引き出すよう楽しみができた。







伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)