若者の怒り体験インタビュー
「あなたは、最近、怒りましたか?」 怒りを求め東奔西走
キレる人、怒れない人、ちゃんと怒る人、20〜30代の若者に、
怒り体験を聞いて回りました。怒りを覚えても、そっと心にしまって伝えられない人、
意外と多いようでした。
「今日も、キレてきました」—電車の中で、母に、自分に、テレビにも
約束を守らない友人。口うるさい家族。あるいは電車の中で、車の運転中に。そして、テレビの報道を見て怒る…。他人の行動や言葉に、マナーの悪さに、メラメラと怒りがこみ上げる。
ちょっと不謹慎かもしれないが、「他人の怒り体験」を聞くのは、おもしろい。人が怒りを覚る事柄は、実に多様で、バラエティに富んでいる。
大学生のアヤさん(21歳)は最近、母親の言葉にキレそうになった。4万円ほどするスーパードルフィーという人形を買って帰った時のこと。母親が、『そんな高い人形買って、バカじゃないの?』と言い放ったからだ。「今、大学を休学して、本格的にダンスに取り組んでいる。その生活の中で、人形はとても大切な存在。バイト代で買ったものだし、自分が大切にしているものをけなされるとキレてしまう」
事務職のチホさん(24歳)は、「今日も家族にキレてきた」と言う。だが、怒った理由は定かではない。「何だったかな? 朝ご飯ができていなかったからかな」。家では些細なことで、しょっちゅう怒る。「私は家では何もしない人なのに怒ってます。わがままがスゴイ。私の場合は、逆ギレに近いです」
カズヒロさん(24歳)は、自分に怒る。「会社で、給料の査定に響く試験に寝坊して、自分にカチンときました。人に怒るよりも自分に怒る方が多い。怒りは、自分が何かをする時の原動力になる」と話す。
また、電車の中で、見ず知らずの人に果敢に怒る人もいる。アユさん(20歳)が、特に腹が立つのは、マナーの悪い年輩の人。さすがに、注意することまではしないが、「コイツ!」と心の中で怒りを覚え、マジマジと顔を見たり、睨んだり。「特に、年輩の人のマナーの悪さは質が悪いんです。飲んだ物をそのまま床の上に置きっぱなしにしたり、座席を広く占領したり。今日も睨んでいると、相手がガン飛ばしてきたのでムカつきました」
子育て中の主婦、クミコさん(31歳)も、電車のなかでイラっとすることがある。「優先席で目の前におばあさんが立っているのに席を譲らない人は、男女や職業を問わずいる。私も妊娠中になかなか席を譲ってもらえなかったので、そういうところに気がついて欲しい。だけど、最近は声をかけると何をされるかわからないので、譲ってあげて、と注意することもできないでイライラする」と言う。
怒れない友人や会社 「雰囲気、壊したくない」
喜びや悲しみの感情と同様に、怒りの感情を持たない人はいない。そして、何に対して怒るかは、その人の価値観や置かれている立場、あるいは趣味指向を反映している。今回、本誌が実施した若者へのヒアリングでは、そんな事実が浮かび上がった。だが、心の中で膨らんだ怒りは、みんながみんな、ちゃんと表現しているかというと、そういうわけでもないようだ。ヒアリングした20人のうち半数以上の人は、「怒りを覚えても、相手に伝えないことが多い」と答えた。なぜなのか?
「家ではよく怒るけど、外ではよっぽどのことがない限り怒らない。会社ではいい環境で働きたいし、同僚がいないので、どこまで踏み込んでいいのかわからない。仲のいい友人には、嫌われたくなかったので、やんわりとしか怒れなかったこともある。高校の時は感情を出す方だったけど、社会人になると難しい」(サオリさん/22歳)
「とにかく見なかった、聞かなかったことにして、すべてを誤魔化しちゃいます。平和主義が基本なので、自分の中ですべて解決しちゃいます」(ユリさん/29歳)
ユリさんの場合、約束の時間になっても一向に現れない女友達を3時間近く待った時も、怒れなかった。その友人は、たびたび約束に遅れ、明らかに嘘とわかるような弁解をするのに。
「待っている人の気持ちを考えてほしいって思うんですけどね。でも、その場の雰囲気が気まずくなるのが嫌で…。怒るのって、若さだと思うんです。感情をぶつけられるのは若いうちだけ。歳をとるにつれて怒れる場がなくなる」
怒りを伝えられないのは、「相手との関係が悪くなる」「その場の雰囲気・空気を壊したくない」という意見が大勢を占め、「自分が正しいと確信が持てず、八つ当たりになるのが嫌」という意見も。「相手とタイミングを見て、判断する」という回答は、ごく少数だ。そして、その怒りを表現できない相手は、ほとんどの場合、「友人」や「会社」である。逆に、最も近い家族には、比較的怒りをぶつけやすいようだ。また、ごく少数ながら、男性の中には「ほとんど怒ることがない」という人も。
「基本的に怒らないです。何か気に障っても、自分の中で自然に感情が冷めて、しかたがないと許容してしまう。もし怒るとしても、相手がちゃんとわかってくれる人だけ。最近は、怒りと諦めが同義語のようになっている」(ツヨシさん/会社員、26歳)
「怒りを覚えても、相手は自分より大変な思いをしているのではないかと思って責められない。で、怒りの原因を自分に転嫁してしまって、外には怒りを出さないようにしてしまっている」(ダイスケさん/大学生、21歳)
いずれも普段の人間関係では怒らないが、メディアやメディアが伝える社会悪などには怒りを覚えることがある、と言う。
<後編に続く>
(2006年6月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 52号より)