(2012年1月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第183号より)
原発などないほうがいいと考えている市民は多い。消費者グループや労働組合、そして宗教者のグループなど多くの団体が脱原発を決めている。これを実現する方法は二つあるといえよう。
一つめは、定期検査で止まった原発を動かさないこと。地元自治体の長が首を縦に振らなければ再稼働できない。原発の安全だけでなく住民の安心が不可欠だと政府も言っている。牧之原市議会は安全・安心のために浜岡原発の永久停止を決定した。同市は隣接する自治体なので、この決議がある限り、運転再開はできない。
もう一つは政策を変えることだ。今、この国のエネルギーのあり方が大きく変わろうとしている。原発を柱にしてつくってきた政策が、福島の原発10基が廃炉になる事態を受けて見直さざるを得ないわけだ。野田内閣総理大臣は「原子力発電への依存度をできるかぎり低減すること」を基本的方向としている。経済産業省の審議会では脱原発と原発維持、それぞれの主張が激突している。
福島原発事故に関する報道が続いている。収束宣言が出されたが、実感は、むしろこれから始まる。廃炉には40年ほどかかる遠い道のりだ。膨大な廃棄物をどう処分するかも定まっていない。原発のコストはこれまで以上に高いことも報道された。新たに示された8・9円/kWhは今の時点の最低の値で、損害賠償に関する保険も高くなるだろうし、除染費用もかさんでいけばその分が上乗せされていく。
除染費用でいえば、被曝限度を定めた現行の法令に基づいて、ようやく基準と費用負担のルールが示された。これで各自治体も除染に取り組みやすくなった。待たれていた対応だ。
除染より避難をすべきとの声もある。避難したい人は多くいることから、これへの対応も非常に重要だが、なおざりにされている。課題はまだまだ多い。
審議会の議論を経て、今年春頃にはエネルギーの選択肢が政府から提案されて「国民的議論」に入る予定だ。そうして夏頃に新しいエネルギー政策が決まる。どのようなかたちで国民的議論が行われるのか明らかでないが、インターネットを通してだけでなく、全国各地で討論会をするべきだと、審議会の中で訴えている。新しい政策は一人ひとりの参加のもとに決めていこう。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)