(2012年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第184号より「ともに生きよう!東日本 レポート20」)
日本国政府による犯罪だと痛感した—脱原発世界会議、海外ゲストが見たフクシマ
世界各国の脱原発、核廃絶運動に関心のある人、NPO、専門家など約1万1500人が参加した「脱原発世界会議 2012 YOKOHAMA」が1月14、15の両日、パシフィコ横浜で開催された。
このイベントに先立って、ドイツ、ヨルダン、モンゴル、スイス、ケニア、韓国などの海外ゲスト、ジャーナリスト50人が13日、福島県を訪れ、被災した住民や地元で活動する人々の声を聞き、活発な意見を交わした。海外ゲストが見たフクシマとは。
福島の問題が福島だけの問題になっていることが問題
海外ゲストたちは、まず福島市を訪ね、市民の話を聞いた。
吉野裕之さん(子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク)は〝子どもの疎開と保養事業〟について、丸森あやさん(CRMS市民放射能測定所)は〝福島市内で食品や内部被曝測定を行う活動〟について、佐藤健太さん(まげねど飯舘)は、福島第一原発から30キロ以上離れていながら放射能の高汚染地域「ホットスポット」になった飯舘村について報告した。
福島大学准教授の丹波史紀さんは、「避難した住民は原発爆発から10ヵ月以上経った現在でも、わが家に戻れるのか、あるいは戻れないのか、見通しが立たないため、仕事や日常生活の再建のめどが立たない」現実を報告。「家族がバラバラのままの避難生活、避難していない人も放射能の影響で仕事や日常生活に大きな影響を受けている」ことを説明し、「現在の福島の問題が、福島だけの問題になって忘れ去られてしまうことが問題。福島の現実を少しでも知ってほしい」と訴えた。
一行は次に伊達市へ移動。元酪農家の長谷川健一さんが、スライド写真を見せながら、震災直後から飯舘村で起きた出来事や、放射能汚染で廃業せざるを得なくなったことを説明した。
飯舘村通過で、一斉に鳴り出したガイガーカウンター
この後、バスで海側・浜通りの南相馬市へ移動中、飯舘村を通過した。バスの中から、住人が避難してカーテンを下ろしたままの住宅や、シャッターを閉めた商店、耕されない水田や畑、防護服を着た人が建物の除染作業を行っている様子などが目に飛び込んでくる。原発から20キロ圏に入る国道6号線の検問では、韓国からの参加者が横断幕を手に「非核と脱原発を福島から」と、「ノーモア・フクシマ」を連呼するシュプレヒコールも飛び出した。
この日参加した海外ゲストらは、自国で購入してきたガイガーカウンターなど、放射線の測定器をそれぞれ持参していた。バスが伊達市から飯舘村に入ると、バスの中でも空間放射線量が1マイクロシーベルトから2マイクロシーベルト前後まで、グンと跳ね上がる場面があった。ピーピーピー……ピーピーピー……。バスの前、真ん中、後ろの座席からそれぞれの測定器のアラームが一斉に鳴り出すと、韓国、ドイツの研究者やNPOのメンバーは、持参した測定器が表示した数値をお互いに比較したり、数値をノートに記録していく。
到着した南相馬市では、高橋美加子さん(つながろう南相馬)から、〝市民による除染や住民支援活動〟についての話を聞いた。高橋さんは「放射能は目に見えず、家畜や野菜など汚染されたものに私たちは手出しができない。海外メディアでは南相馬市を『死の街』と報道したと聞いた。小さな子どもを持つ若い人たちは、ここを出て行かざるを得ない」と、放射能の影響で厳しい現実を強いられている様子を述べた。同時に「放射能で汚染された街だが、私たちはここで生きていくため、共同作業でもう一度復活させたい」。そして「福島の大変な状況を、広く世界に伝えてほしい」と訴えた。
また箱崎亮三さん(NPO法人実践まちづくり)ら住民5人は、南相馬市の現状について説明。箱崎さんは、「私たちは原発事故の真実を本当には知らない。心配だけれど、ここに住みたいから除染する。でも実際には除染モデルなどどこにも存在せず、本当に除染できるのだろうかという思いもある」と、住民としてのさまざまな葛藤があることを吐露。その上で「除染モデルを南相馬市から発信することができるのではないか」と、除染に関するデータを集めて分析し、作業や管理について研究してマニュアル化する試みに取り組んでいる様子をレポートした。
混乱、葛藤、解決のない課題に衝撃
(ムナ・マハメラーさん)
ヨルダンの弁護士、ムナ・マハメラーさんは、「福島第一原発事故後、福島県を中心に住民の健康被害や避難など深刻な問題が続いているなか、日本政府は昨年12月、ヨルダン、韓国、ベトナム、ロシアとの原子力協定を国会で承認した。ヨルダンの原発予定地は砂漠で水源が十分になく、情報公開も進まない現状がある」と言う。
また、「本当に福島の現状は残念で、住民の方々は大変な状況に置かれているのを理解した。その状況と闘う住民は素晴らしい方々ばかりだった。改めて、この現状は人権問題で、情報隠しも含めて日本国政府による犯罪だと痛感した。帰国したら福島で起きている深刻な出来事を伝え、ヨルダン政府に脱原発を強く働きかける。全力で取り組んでいく」
ケニアの医師で公衆衛生の専門家ポール・サオケさんは「核兵器廃絶に関してはケニアを含め、アフリカ全体で進んだものの、『原発は別』として、南アフリカに建設され、エジプトでも建設が予定されている。ケニアでも2022年に原発建設がケニア政府によって示され、日本からの建設打診の動きがあるが、今回の福島の厳しい現状はまったくケニア国民には伝えられていない」と問題を指摘する。「福島で撮影した動画をケニアのメディアの人たちに提供して伝え、原発が国民に与える悪影響を具体的に説明して、国内世論を喚起したい」
(アンドレアス・ニデッカーさん)
スイス・バーゼルの開業医で放射線医学の専門家でもある、核戦争防止国際医師会議スイス支部長のアンドレアス・ニデッカーさんはこう話す。「最も印象的だったのは、福島で暮らす人々が非常に大きな精神的なダメージを受けていることだ。避難するかとどまるか、いずれ戻るかという現実的な問題を突きつけられている。また、特に子どもの健康面については、低線量であっても長期的被曝の影響の問題がある」
「とにかく私は医師として、過去20年以上にわたって、核の平和利用はありえないと反対し続けてきた。原発はこれだけの混乱や葛藤を生み、解決策のない課題を残す。政府は補償も含めて責任は取らず、アクシデントが起こったら難しい結果に陥る。スイスに帰ったら仲間やグループとさらに連携して原発をなくす活動をしていきたい。日本でも同じ決断をしてもらうように働きかけたい」
参加者は、福島で見たこと、聞いたこと、感じたことをリアルに発信し、世界各国で活動を展開することを誓い合う。素顔のフクシマ、フクシマの悲劇の教訓が世界中に発信されようとしている。
(文と写真 藍原寛子)