(2010年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 157号より)




淀川は遊び場。曲がったものを組み合わせるおもしろさ



河川敷のゴミや漂流物が魚になって息を吹き返す。
屋外の展示は、出会いもハプニングもすべてがアート







Profiel
(アートユニット、淀川テクニックの柴田英昭さん、松永和也さん)




魚型自転車にシャチホコのキックボード。すべての組み合わせが廃棄物





「これ、タチウオを作るのにいいんとちゃう?」

何層にも巻かれている細長いアルミを見つけ、アートユニット「淀川テクニック」の柴田英昭さんは、相方の松永和也さんにそう声をかけた。

彼らのアート活動の拠点は、大阪市を流れる一級河川・淀川の河川敷。この場所で川や草のにおいに包まれながら作品をつくり、そこで展示もしてしまう。材料となるのは、河川敷に捨てられたゴミや、川岸に流れ着いた漂流物。




「引き潮の時だと普段は足を延ばせない所にまで探しに行けるので、珍しいものが見つかる確率が高いです。でも、潮が満ちてくる前に岸に戻らないといけないのでハラハラしますけどね(笑)」と柴田さん。ハンガーやカセットテープ、タイヤや仏壇まで、本当にいろんなものが見つかるという。

「どれも現役時代は役に立っていたはずなのに、持ち主にいらないと思われたからそこにある。そう考えると、とても切ない気持ちになるんですけど、それがアート作品の材料となることで、息を吹き返していくんです。曲がったり壊れたりしたゴミを組み合わせてつくる作品は、完成するまでどんな形になるかわからない。想定外のものができあがるおもしろさ、それが醍醐味です」と松永さんは話す。





取材日、柴田さんは金色の空き缶を貼り合わせて作った金のシャチホコを持ってきてくれた。キックボードにもなっていて、名古屋の街をこれに乗って駆け抜けたそうだ。松永さんは、真っ黒の魚型自転車にまたがって登場。傘や帽子、破れたカバン、ビデオテープ……と黒いゴミだけを選んで組み合わせて作ったもの。どちらも遠目で見ると「シャチホコ」と「魚」だが、近くで見るとまぎれもなく廃棄物の組み合わせ。配色や配置に工夫をし、それぞれに特徴をうまく表現しているのはさすがだ。




屋外での制作・展示には、独特のエピソードも満載。河川敷に生えている木の枝にボールをいくつもぶら下げた「オン・ザ・宇宙」は、春や夏には葉がボールを覆っていたが、落葉の季節になって初めてボールが姿を現した。しかしその後、木は整備事業によって切り倒されてしまう。

淀テク オン ザ 宇宙

「オン・ザ・宇宙」 © courtesy of the artist and YUKARI ART CONTEMPORARY





また、淀川で釣れる魚といえばチヌ(クロダイ)が有名。そこでゴミで巨大なチヌを作り、それを川の中へ。半分ほどが水中に浸かったそのチヌが釣り人の針に引っ掛かったという設定で写真作品を制作した。撮影後は陸に引き上げ、河川敷で展示していたが、ある日放火に遭って「焼き魚になってしまった」。

草むらの中に展示していた、黒のワイヤーをグルグルと渦状にして作った「ブラックホール」は、数日後に見に行くと中心部に傘が突き刺さっていたという「ブラックホールだけに吸い込んでしまったんでしょう」と、屋外展示ならではのハプニングや展開さえも、楽しんで受け入れている二人。もはや、そこまで含めてのアートなのだ。




「ゴミニケーション」で広がる制作。子どもたちとのワークショップも



淀川河川敷には、スポーツをしている人や散歩をしている人、ホームレスの人など、さまざまな出会いがある。

「僕らがゴソゴソと制作活動をしていると、『何やってんの?』とよく声をかけられます。会話が生まれて、仲良くなって、『これで何かを作ってみたら』とアイディアを提案してくださる方もいるんです。淀川で出会った方との交流を、僕らは『ゴミニケーション』と呼んでいます。コミュニケーションの中で制作につながるヒントをいただくことはとても多いですね」




ワークショップを開けば、子どもたちが制作に夢中になり、十分に用意していたはずのゴミが足りなくなってしまって、みんなで河川敷へとゴミ拾いに行ったこともあるほど。特に強くエコを意識しているわけではないが、結果的に河川敷からゴミが減り、廃棄物のリサイクルにもつながることはうれしい産物だと話す。

「僕らにとって淀川は遊び場」という二人。「他の地域で活動することも増えてきましたが、やはり淀川がホームグラウンド。今日は何が見つかり、誰と出会えてどんな話ができるのか。来るたびに非常にわくわくします。これからも人と交流しながらの公開制作を続け、多くの人と楽しさを共有していきたいと思います」




(松岡理絵)
Photo:福本美樹




淀川テクニック(よどがわてくにっく)
柴田英昭:1976年、岡山県出身。松永和也:1977年、熊本県出身。ともに98年大阪文化服装学院卒業。03年にユニット結成。「アートフェア東京2010」「瀬戸内国際芸術祭2010」ほか、個展、グループ展多数。09年「第12回岡本太郎現代芸術賞」入選、09年度「咲くやこの花賞」受賞。サイクリングやピクニックなど淀川を舞台にした各種イベントも不定期開催中。

http://www.yukariart-contemporary.com/

http://yodogawa-technique.cocolog-nifty.com/





「宇野のチヌ」© courtesy of the artist and YUKARI ART
「オン・ザ・宇宙」 © courtesy of the artist and YUKARI ART CONTEMPORARY