Genpatsu

(2012年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 198号より)




原発パブリックコメント、8万9000件




福島原発事故後のエネルギーのあり方を問うパブリックコメントが8月12日に締め切られた。2030年までに原子力発電の割合をどの程度にするのが望ましいか、選択肢が提示されていた。具体的には、原発ゼロシナリオ、15パーセント程度まで減らす15シナリオ、そして20〜25パーセント程度に維持するシナリオの3択だ。これらはいずれも達成可能なものである。

原子力資料情報室も積極的に応募しようと、ホームページをはじめ機会を見つけては呼びかけた。7月末に苗場で開催されたフジロックフェスティバルのNGOビレッジでも、よい反応が得られていた。どれくらいの応募があったのだろうかと公表を心待ちにしていたところ、17日の報道で8万9000件を超えたことがわかった。原子力関連の分野では過去最高の件数だ。

応募意見は、エネルギー・環境会議のホームページで順次公開されるが、23日の時点ではうち2万件分が公開されている。中には選択肢への回答と言えないものもわずかにあるが、大部分はきちんと意見が出されているようだ。そして、原発ゼロを選択する意見が9割を超えているようだ。

パブリックコメント以外にも全国11ヵ所で意見聴取会が開催された。政府の担当者を招いて自主的な会合を主催した市民グループもあった。傍聴や発言希望者は約7割がゼロシナリオを支持していた。また、討論型世論調査も東京で開催されたが、結果はゼロシナリオが多数を占めた。

エネルギー・環境会議はこれらに加えてマスコミなどの世論調査も参考にするという。これらも、やはりゼロシナリオが過半数を占めているようだ。

しかし、日本経済団体連合会(経団連)はゼロシナリオに強く反対している。経済成長をいっそう促し、国民総生産を増やすためには、原発が不可欠だというものだ。原発の安全対策を強化すれば事故など起きないと考えているようだ。

とはいえ、国の将来に脱原発を考える経営者たちが福島事故後にネットワークを立ち上げた。経済界も一枚岩ではなくなっている。

8月6日に野田首相は広島で行った記者会見の席上、原発依存度をゼロにする場合の課題の整理を関係閣僚に指示すると発言した。政府の結論は9月にずれ込むとのことだ。国会は解散風が強くなってきているが、せっかくの流れが水泡に帰すことは避けたいものだ。








伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)