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今、すれ違った若者はホームレスかもしれない


リーマンショックによる派遣切り等で職を失い、その後、仕事を得られず、住居を維持できなくなって路上に……ということは想像に難くない。しかし、若く働き盛りの、20代、30代の若者がなぜホームレス状態にまでなってしまうのか、疑問に思う人も少なくないだろう。
ここでは2008年~10年に実施した「若者ホームレス50人聞き取り調査」を参照しながら、「彼らはどこにいるのか?」「彼らはなぜ実家に帰らないのか?」「彼らはなぜ働かないのか?」という3つの疑問について考えていきたい。

彼らはどこにいるのか?――不可視化された若者ホームレス



そもそも路上で若者ホームレスを見かけたことがないという人もいるのではないだろうか? 彼らはどこにいるのか? 

ホームレス=路上生活者と思われがちだが、彼らは常に路上で過ごしているわけではない。これは中高年にも当てはまるが、特に若者の場合、路上よりネットカフェなどの終夜営業店舗で過ごすことを選ぶ傾向にある。

「どこで寝るかは懐次第。ネットカフェに泊まれなくなると、ファーストフード店、それも無理ならコンビニをハシゴして明け方までやり過ごす」(29 歳男性)という具合だ。

路上で寝るのは怖いと歩き続け、街をさまよった末、極度の過労と睡眠不足で道路に倒れ、救急車で運ばれた人もいた。野宿をする際も人目を避け、他のホームレスがいない場所を選ぶ。「ホームレスと思われたくない」と炊き出しの列に並ばない人もいる。

その結果、路上で生活するために必要な情報が得られず、危険に巻き込まれたり、孤独感を募らせていく人も少なくない。中には抑うつ傾向にある人、自殺を考える人もいた。

また彼らは見た目を非常に気にするため、外見でホームレスとわかることは、ほとんどない。ネットカフェで荷物を盗まれたことをきっかけに路上生活を余儀なくされた31歳の男性は、「10日間水だけで過ごし、手元にあった小銭はシャワーと替えの下着代に使った。服が汚れることだけは許せなかった」と話す。

野宿をせず、外見はごく普通の若者と変わらないため、彼らは可視化されにくい。今日、街ですれ違った若者や隣に座っていた若者が、孤独を募らせながら街をさまよう若者ホームレスという可能性は十分にあるのだ。

彼らはなぜ実家に帰らないのか?――若者ホームレスと家族


 
過酷な路上暮らしを続けるくらいなら、実家に帰ればいいのではないか? という疑問をもつ人もいるだろう。20代、30代の若さなら、頼れる身内が生きている可能性は高い。しかし、彼らの多くがすでに頼れる家族を失っていることが明らかになった。

養護施設で育った人、両親と死別している人の他、父親のDVから逃れて家を出たため帰れない人など、さまざまな事情がある。父親の事業が倒産し、多額の借金があるなど、実家が経済的に困窮しているため帰れない人もいた。

リストラされて実家に帰ったんですが、両親が生活保護を受けていたんです。自分が実家に住むと生活保護を切られかねないので、家を出るしかありませんでした。(37歳男性)


こうした状況からも、彼らが過酷な家庭環境で育ってきたことが垣間見える。「聞き取り調査」では、両親の元で育った人は半数に留まり、3割が一人親に、1割が養護施設で育てられたことが明らかになった。

家族に恵まれないとホームレスになると言っているわけではない。しかし、いざという時、頼れる家族がないと、次の仕事がスムーズに決まらない、バイトや派遣など不安定な仕事しか見つからないなど、ちょっとしたつまずきによって住居を失い、路上へと投げ出されかねないのだ。

一方、家族は健在だが、両親に勘当された、兄弟と折り合いが悪くなり家を飛び出したなど、家族関係の悪化により頼れないという人もかなりの割合でいた。

正社員の仕事を失った後、必死に就職活動したんですが、短期のアルバイトしか見つかりませんでした。バイトがない時は、部屋にこもって、いわゆるニート状態。『いつまでそんなことしてるんだ』って親が切れて、それ以来実家には帰っていません。(29歳)


家族関係の悪化には、フリーター / ニート状態を繰り返すような、不安定雇用が影響している。現在、不安定な雇用状況にある若者は少なくなく、家族による包摂が崩れれば、彼らはホームレス状態になる可能性も出てくる。若者ホームレスは、日本の家族が抱える問題を浮き彫りにしていると同時に、誰にとっても他人事ではない存在なのだ。

彼らはなぜ働かないのか?――働かない、働けない若者ホームレス 

 

彼らは全員就業経験があり、大半は正社員の経験があることもわかった。中には体や心を壊すまで働き、燃え尽きてしまった人もいる。また転職を5回以上した人が半数以上に及ぶなど、不安定な仕事を繰り返してきたことも明らかになってきた。

専門学校卒業後、大手自動車メーカーの下請け会社に正社員として入社した 32 歳の男性は、親会社がリコール問題を出したことをきっかけに仕事を失う。その後、短期契約の仕事しか見つからず、正社員→期間工→製造業派遣→日雇い派遣→飯場労働者、と就業条件はどんどん悪化していく。仕事が不安定になると同時に住まいも、派遣の寮→ウィークリーマンション→飯場の寮→ネットカフェ……というように不安定になっていった。

彼のように、製造業派遣の解禁に影響を受けている人は多く、若者ホームレスの2人に1人が製造業派遣で働いた経験があることも明らかになった。

いずれにせよ、就業経験があり年齢も若い彼らは、就職活動をすれば仕事を得られそうに思われる。しかし、実際にハローワークに通うなど具体的に就職活動をしている人は少数に留まっている。それはなぜか?

ホームレス状態にある(=住所がない)ことが、就職を困難にさせていることが挙げられる。固定の連絡先をもたない彼らにとって、携帯電話がないことも致命的だ。

また、過去に仕事で受けたトラウマがもとになり、“働きたくても働けない”状態に陥っている人もいた。かつてSEとして働いていた27歳の若者は、前職で受けたイジメをきっかけにうつになり、仕事を退職した。「ホームレス状態でいることはもちろんイヤ。でもそれと同じくらいの恐怖が働くことにある」という。

彼らは中高年ホームレスの人たちに比べ、就職が決まる確率も高い一方、長続きせずに辞めてしまう確率もまた高い。

苦労して探した仕事だったのに「職場へ行く交通費が足りないから」と断念してしまったり、慣れない介護の仕事に戸惑い3日で辞めてしまった人もいた。普通なら交通費の前借りを頼むとか、仕事のやり方を上司に相談したりするだろう。しかし自己肯定感に乏しい彼らは極端に自信がなく、そうするのが難しいのだ。

若者ホームレスの問題は、雇用問題に端を発してはいるが、それだけに留まらない、さまざまな問題が複合的に絡み合った問題であるということができるだろう。

若者をホームレスにさせないためには、セーフティネットの完備、雇用の創出など具体的援助が欠かせない。同時に仕事に対するトラウマを抱え、自信を失っている彼らに寄り添い、励まし続ける存在も重要だ。

地縁血縁を超えた新しい関係性が紡がれていく時、彼らは本当の意味で“ホームレス”を抜け出すことができるのではないだろうか。

飯島 裕子(ノンフィクションライター)





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