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「男性片働きモデル」から「夫婦共働きモデル」へ 



以前、「東京で暮らす25~34歳の未婚女性が結婚相手に求める年収は?との問いに、70%が400万円以上と答えた」という調査結果を見た。同年代でその水準にある男性は、所定内給与(いわゆる基本給)で見ると1割にすぎない。

25~34歳男性の正規雇用率は、それでも85%あるので、非正規はいうまでもなく、「正規でも低賃金」の人が少なくないことがわかる。残業代等を含めた実収入で5割だ。日本の被雇用者は残業代で稼ぐ。男性は残業して、女性の経済的要求水準を満たしている状態だ。

それにしても、基本給で1割、実収入でも5割というのは厳しい数字だ。その結果、男性の未婚率は30代前半でほぼ5割に達し、34歳までの男性は、未婚のほうが「ふつう」になりつつある(女性は3人に1人)。




「女性が贅沢だ」と感じる人もいるかもしれないが、そういう話でもない。日本の女性は、出産の際「仕事か出産か」の選択を迫られ、辞めざるを得ない人が多い。子どもが小学校にあがるころ再び働きだす人もいるが、多くはパート労働。つまり、女性の人生には、無収入と低賃金の時期が織り込まれてしまっている。現実的に考えれば考えるほど、「好きなら収入が低くてもいい」とは言いにくい。

問題は、「男は一家全員分の生活費を稼ぐべきで、それができない男は甲斐性なし」という昔の規範が変わらぬまま、実際には賃金が低下し続けている点にある。昔の規範を維持すべきなら、賃金は上げないといけない。賃金を下げるなら、昔の規範は放棄しないといけない。しかしそのどちらにもいっていないのが現状だ。結果として未婚男女が増え続け、子どもが減り続けている。また、この昔の規範と低賃金が若者をホームレスに追いやる遠因ともなっている。





男が一家全員分の生活費を稼ぐ考え方を「男性片働きモデル」という。これを支えていたのが「終身雇用、年功型賃金、企業内組合」の「日本型雇用」。このモデルでは、50歳前後に賃金がピークになる。20 代後半で結婚し、30 代前半で子どもをつくると、このころ、子どもは一番金がかかる年頃になる。賃金(収入)もピークになるが、教育費などの生活費(支出)もピークに達するという「高収入・高支出」構造だ。それが、この十数年で壊れた。

高収入が中・低収入になるなら、高支出も中・低支出にならないと、家計は回らない。だから、家計支出の大部分を占める子育て・教育・住宅費用は、今より安くすべきだ。目指すべきは、夫婦共働きで年間250万円ずつ稼げれば、子ども2人を育て、大学にも行かせられる支出構造だ。夢のような話に聞こえるかもしれないが、結婚や出産が夢になってしまうくらいなら、追求する価値はある、と私は思う。




男性一人が死ぬほど働いて年間700万円を稼ぎ、その代わり子育て・教育・住宅費用がやたら高くつく世の中と、夫婦共働きで 250万円ずつ稼ぎ、子どもを人並みに育てられるような支出構造の世の中と、みなさんはどちらがいいだろうか。そのみなさんの価値観と選択が、みなさんの働き方、社会のあり方を決めていく。




湯浅 誠(反貧困ネットワーク事務局長)




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