<前編<100万円で家を建てる!小笠原昌憲さんに聞くセルフビルド(1/2)>を読む>
そんな小笠原さんの言葉に突き動かされて、家ではないけれど、実際に工房を建ててしまった人がいるというので会ってみたくなった。
全国各地を転々とし、もともとは陶芸家を目指していたという渡辺光則さん。実家に帰るときになって「どうせなら自分の工房をつくりたい」と考えた。そこでさまざまな本を取り上げてみたものの、どうしても自分でできる気がしない。そんなとき、たまたま見つけたのが小笠原さんの本だった。
「宣伝するわけじゃないんですけどね、この本は素人に向けて、一から十まで丁寧に説明がしてあるんですよ。痒いところに手が届くようだったんです」
一番難しかったのは「やるぞ!」と一歩を踏み出すまで。やり始めてしまえば、あとはどうにかなってしまうものだった。実際にやってみなければ「何がわからないのか」さえ、わからないのだ。
「小笠原さんが勧める在来工法は屋根が先にできあがるんです。そうしていったん屋根さえできてしまえば、あとはいくらでも自分のペースでできるんですよ。それこそ土日休みしかない人もできるし、1年放っておいたっていい」
この経験で家づくりに目覚めた渡辺さんは、その後大工に転職してしまったのだから、人生何が起こるか本当にわからない。
「やんなきゃ損ですよ。単に建物が残るっていうだけじゃなくて、自分でやったという達成感がなによりの宝なんです。こんな充実感はない。お金を出したって買えないですよ。こういう自信は人生の他の面でも絶対活きてくるはずなんです」
こんなふうに家づくりが素人にもできてしまう理由の一つは、冒頭のどうして100万円に道具代が含まれていたかの話につながる。
これまではプロの大工でしかできなかった仕事が、カクノミなどの機械を使えば、素人でも簡単にできるようになったのがその秘密だ。
さらに、家づくりが女性でもできることを証明するため、小笠原さんは現在、女性限定の家づくりプロジェクトを進めている。そのなかのあるやりとりがおもしろかった。
えらい正直な女性が一人いてね。『なにが悲しくて私は自分の家を建てなくちゃいけないのよ!』って。だけどそういうふうに考えている人は、結局お金のある相手にぶらさがるしかないんだよ。一人でも家を建てられるような女の人にはたくさん男が寄ってくるんだよって言いたいのをぐっとこらえて、のどまで出かかるんだけど、いつも飲み込んじゃうんだなぁ」
もし100万円の家を建てられたら、きっといろんなものが余ってくるのだろう。お金、時間、そのための労力……。あなたはそれでまたお金を稼ぐ? 小笠原さんの答えはこうだった。
「ボランティアって言葉は好きじゃないんだけど、その余った時間でさ、みんなが助け合えるような社会になれたらいいよねぇ」
家づくりの魅力は、そんなところにもある。
(土田朋水)
photo:高松英昭
写真提供:小笠原昌憲
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「宣伝するわけじゃないんですけどね、この本は素人に向けて、一から十まで丁寧に説明がしてあるんですよ。痒いところに手が届くようだったんです」
一番難しかったのは「やるぞ!」と一歩を踏み出すまで。やり始めてしまえば、あとはどうにかなってしまうものだった。実際にやってみなければ「何がわからないのか」さえ、わからないのだ。
「小笠原さんが勧める在来工法は屋根が先にできあがるんです。そうしていったん屋根さえできてしまえば、あとはいくらでも自分のペースでできるんですよ。それこそ土日休みしかない人もできるし、1年放っておいたっていい」
この経験で家づくりに目覚めた渡辺さんは、その後大工に転職してしまったのだから、人生何が起こるか本当にわからない。
「やんなきゃ損ですよ。単に建物が残るっていうだけじゃなくて、自分でやったという達成感がなによりの宝なんです。こんな充実感はない。お金を出したって買えないですよ。こういう自信は人生の他の面でも絶対活きてくるはずなんです」
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さらに、家づくりが女性でもできることを証明するため、小笠原さんは現在、女性限定の家づくりプロジェクトを進めている。そのなかのあるやりとりがおもしろかった。
えらい正直な女性が一人いてね。『なにが悲しくて私は自分の家を建てなくちゃいけないのよ!』って。だけどそういうふうに考えている人は、結局お金のある相手にぶらさがるしかないんだよ。一人でも家を建てられるような女の人にはたくさん男が寄ってくるんだよって言いたいのをぐっとこらえて、のどまで出かかるんだけど、いつも飲み込んじゃうんだなぁ」
もし100万円の家を建てられたら、きっといろんなものが余ってくるのだろう。お金、時間、そのための労力……。あなたはそれでまたお金を稼ぐ? 小笠原さんの答えはこうだった。
「ボランティアって言葉は好きじゃないんだけど、その余った時間でさ、みんなが助け合えるような社会になれたらいいよねぇ」
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(土田朋水)
photo:高松英昭
写真提供:小笠原昌憲
小笠原昌憲(おがさわら・まさのり)
1953年生まれ。神奈川県で自然食品店を営んだのち、所持金8万円とわずかな工具だけを持って千葉県へ。平飼い養鶏のかたわら、入るお金が少ないのなら出るお金も少なくすればいいと、自給暮らしのための家を建て始める。そこから得たノウハウを『100万円の家づくり』(自然食通信社)にまとめた。
・ウェブサイト
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。