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有名ブランド企業が社会的企業とタッグを組む




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(井上英之さん)




アメリカでは、有名ブランド企業が社会的企業のアイディアとタッグを組むケースも多い。

その一つが、低所得あるいは非行などの問題を抱えた少年・少女に雇用機会と職業訓練を与えて、社会復帰のスキルを身につけさせる「ジュマベンチャーズ」(サンフランシスコ)だ。ジュマは、全米各地にアイスクリーム店舗を持つ有名ブランド「ベン&ジェリー」とのパートナーシップを実現して、少年・少女が販売するアイスクリーム店舗・売店を経営。また、サンフランシスコ・ジャイアンツやフットボールのフォーティー・ナイナーズの球団も連携して、球場でのアイスクリーム販売も手がける。




「ジュマでは、麻薬や売春、ホームレス状態に陥った少年少女に、働いてお金を稼ぐ居場所を与え、ビジネスのマーケットで生きる尊厳を得て、将来の自分に可能性を感じさせるんです」

また、「パイオニア・ヒューマン・サービス」では、犯罪受刑者や薬物・アルコール依存症者を対象に、ボーイング社と提携した部品組み立て工場やカフェなどを経営。工場はISO9002を認証取得するなど一般企業にも引けをとらず、補助金を一切受けない100%完全自立型NPOとして世界的モデルとなっている。




いずれも今やアメリカの社会的企業の代表格だが、実際に現地を訪れた井上さんは、その社会的ミッションに加えて、「NPOとは思えないおしゃれでカッコいいデザインに驚いた」と話す。
 
「ジュマのオフィスは、壁がすべてオレンジ色の空間。また、他の低所得者支援の社会的企業でも教育プログラムに使う部屋をクリエイティブルーム、コラボレーションルームなどと呼び、呼称一つひとつにアイディアがあり、デザインやアートの力で新しい発想を促そうとする意志が見えた。パイオニアでも、おしゃれなカフェで働く店長が言った『ビジネスらしいビジネス、NPOらしいNPOなんてカッコ悪い』との言葉が印象的で、社会的ミッションの素晴らしさだけでなく、デザインや言葉の力で人の気持ちを引き出し、共感させるビジネスクオリティの高さがあった」

そして、何より出会ってしまった社会問題に、独自の個人発想で挑む彼ら社会的企業家本人たちが魅力的だった、と井上さん。




「世界の常識をひっくり返して社会的インパクトを与える彼らはみんな何かを企んでいる顔をしている。その顔は、仕事が単なる切り売りになってしまったこの社会に、”そんな働き方をしてちゃダメですよ“と警告を発してるようにも見えるんです」

(稗田和博)




いのうえ・ひでゆき

慶應義塾大学総合政策専任講師、NPO法人ETICソーシャルベンチャーセンタープロデユーサー。ビッグイシュー基金理事。02年に日本初のソーシャルベンチャー向けビジネスコンテスト「STYLE」を開催するなど社会起業家の育成に取り組む一方、資金と専門性を社会起業に提供しあう「東京ソーシャルベンチャーズ」を設立。






(2007年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第78号より)