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U2 18




「僕には二つの顔がある」



G8に対する抗議コンサートをともに開催したドイツのロックスター、ヘルベルト・グリューネマイヤーは、政治家と一緒に写真を撮られることを拒んだ。ポップ・ミュージックと政治との境界線をどこに引くべきか、二人の間で言い争いにはならないのだろうか。

「それはないね。彼の考え方は尊重してる。今のところ彼は、ショービジネスの中の政治的な部分に力を入れるつもりはないというだけのことさ。そういう見方をするなら、変わっているのは僕の方かもしれないね」とボノは語る。

「僕には二つの顔がある。どんな顔かって? 音楽をやっているときの僕は、理性のかけらもなく、なりふり構わない状態。でももう一つ、分析的な側面があるんだ。政治のプロセスというのも理解できるようになってきた。そういう意味では、僕はポップスターとして異質な存在かもしれないね」




こういう資質を身につけたのは、長年にわたってアフリカとかかわってきたからだ、と語るボノ。最初のころは、まったくもって世間知らずだったと言う。8年前、クリントン大統領が貧困国の債務帳消しに同意した時は、自分がすごいことをやってのけたと思ったが、実際のところ、それは出発地点にすぎなかった、と語る。その後1年かけて国中を回ってほとんどすべての下院議員に会い、合衆国議会を説得しなくてはならなかったのだ。

「その過程で気づいたのは、政治家は世間の人たちが思っているよりも一所懸命働いているということ。それにもう一つ、僕のように稼いでる政治家はほとんどいないということもはっきりした。彼らの多くは、ビジネスで財を成すことができたにもかかわらず、思うところあって、つまり物事をよい方向に変えたくて、政治の世界に足を踏み入れたというわけなんだ。でも悲しいことに、やがて多くの政治家の中でその思いは薄れ、決まり文句を並べるばかりとなった彼らの言葉は、もはやあなたや僕の耳には届かない。でも政府指導者と会話をする中で、そのうわべに隠れた理想主義を発見することがよくあるんだ。何とかしてそれをもう一度引っ張り出したいね」





U2 3加工






アイルランド音楽の起源の一つ、北アフリカの音楽




長年アフリカを旅し、人々や文化、そしてその大陸の美しさを賞賛してきたボノ。その体験がU2の音楽に影響を与えなかったのはなぜなのだろう。

「どんなにU2を忌み嫌っている人でも、ダブリン出身の4人の白人男が黒人の物まねをしていないということだけはわかるはずだ。U2がブルースにのめりこんだことがないのは、僕らの故郷ダブリンでいつもお粗末なブルースが流れていたことと関係があるのかもしれないね。後になって、キース・リチャーズがロバート・ジョンソンやハウリン・ウルフのレコードをかけてくれたとき、僕は初めて黒人音楽の力を知ったよ。でも、僕の声はグルーヴ系の音楽とあまり相性が良くないんだ、グルーヴこそアフリカ音楽の土台なのに」




でも、と続ける。

「今その質問が出たというのはおもしろいね、というのも、最近僕らは北アフリカの音楽、特にマスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ(モロッコの伝統音楽集団)をよく聴いてるんだ。明日フェズに向かうよ、彼らと演奏するためにね。僕らはこの驚くべき音楽に魅了されているところさ。アイルランドのメロディーの多くは、北アフリカにその起源を発しているんだ」






初めてエチオピアを訪れたのが22年前。現地の難民キャンプで働いていたとき、一人の父親が小さな息子をボノに差し出そうとした。そうすれば生き残れるだろうからと。ボノはそれを断ったが、その後その少年はどうしているのだろう。

「今その質問をされるのは不思議なめぐり合わせだな。つい最近、当時撮った写真の新しいプリントを注文したばかりでね。キッチンのテーブルでそれに目を通していたら、現地にも同行した妻のアリが突然こう言ったんだ、『ねえ、これあのときの男の子よ』。僕は彼の写真を撮ったことをすっかり忘れていた。名前も忘れていたんだ。ショックだったよ、名前すら覚えていないなんて! その名もなき子供が生き延びてくれたことを切に願ってる」

「孤児院で働いている最中に生まれたもう一人の子供については聞いたよ。生まれたときの大きさはわずか6センチ。看護師がその赤ん坊を僕の手の中に置いたんだ。『この子は生きられる?』と聞いた僕に、彼女はこう答えた、『彼なら大丈夫』。1年後、彼女はその子が元気でやっていると教えてくれた、もうすっかり大きくなったころさ。そんな瞬間に思い知らされるのが、命のはかなさであり、生き延びようとする意志の驚くべき強さでもある。特にアフリカではね」

(Martin Scholz/編集部)





U2
アイルランド、ダブリンで78年に結成されたロック・バンド。ボノ(ボーカル、ギター)、ジ・エッジ(ギター、コーラス、ピアノ)、アダム・クレイトン(ベース)、ラリー・マレン(ドラム)の4人から成る。2000年に発売された『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』は、七つのグラミー賞を獲得し、世界中で1050万枚を売り上げた。社会的な歌詞と安定したサウンドに定評がある。ボノはアフリカや、深刻化する世界の飢餓問題に取り組む活動家でもある。昨年にはこれまでの軌跡をたどったアルバム『U218 Singles』が発売された。